第35話 熟練度アップやで
いつも本当に温かい感想ありがとうございます。執筆する上でとても大きな力になっています。
感想には出来るだけ返信をするように心掛けているのですが、最近は出来ずにいてすみません。
もちろん全ての感想には目を通しています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
しかし返信が遅れているため、この場を借りて一言先に言わせて頂きました。これからも少しでも皆様に面白いお話をお届けできるように日々精進してまいります。
浦和レッドドラゴンズ 執務室
部屋にノックの音が響き、監督が入室を許可する。
「遅くなってすいませんっす!」
「本田やっと来たか。お前も座れ」
「うっす!」
この文末に”っす”を付けているのが浦和ジュニア六年生、本田カズヤ先輩。近々U12に選ばれるのではないかと噂されている一人だ。
通称カズ先輩で通っている。
努力した天才を具現化させたような人物。それでいて偉ぶったりせず、絡みやすく低姿勢な愛されキャラ。
いつもきっちり3mmの坊主で皆に頭をジョリジョリと触られている。
「ちょ、お前ら止めろって」と言いながらも少し嬉しそうにしているのは皆んなにバレバレだ。
また文末に”っす”使いを始めたら癖になって使い分けが出来ず、誰に対してもその喋り方をしている不器用な所もある。
そして肝心なサッカーだがカズ先輩は”上手い”。突出した身体能力や技術はないものの、サッカーIQが高く、完成度の高い試合展開を作り出す。
ポジションはMFで攻守に渡りゲーム展開をコントロールしている舵取り屋さんだ。攻守のバランス感覚は特に優れている。
中央を固める非常に重要な役割を担っており、浦和ジュニアの心臓だ。
何よりサッカーに対して並々ならぬ愛情を見せるツワモノでもある。
俺のサッカー愛にはまだまだ及ばないがな。
「朗報だ。本田、喜べ。お前も今年からナショトレだ」
「...おぉぉー!!まじっすか!」
「俺が嘘をつくか。本当だ。おめでとう本田」
「やっと、やっとここまできたっす!」
あまりのビッグニュースに一瞬唖然とするが次には歓喜の声を上げ、滝のように涙を流すカズ先輩。
アニメでしか見たことない涙に頬を掻きながら苦笑いしてしまう。
....坊主で滝みたく涙を流すってどこかのアニメキャラで居たような。
くっ、出てこない。
ちなみに俺らが新人戦で予選を勝ち上がっている最中、六年生は山籠りをしていた。
学校があるためそこまでの日数を割くことはできないが高頻度で6年生は合宿を行なっている。
その理由は標高が高い場所にて低酸素状態でサッカーをさせ心肺能力を鍛えるためだ。
中々ストイックで別名”地獄のキャンプ”とも呼ばれているとか。
おっと、話が逸れたな。
熱血カズ先輩と共に監督から色々と日程や保護者用の資料を貰い一通り説明を受けた。
「親御さんの承諾とサインを貰ったら提出してくれ。期限は来週までだからな。絶対遅れるなよ。話は以上だ」
監督の言葉に返事をしてカズ先輩と一緒に執務室を出ようとしたところで監督に呼び止められる。
「おっと、忘れてた、忘れてた。二宮、最近アルバロ監督の娘さんとイチャコラしているらしいじゃないか」
「.......」
冷や汗をかきながら後ろに振り返るとニヤリ顔をした監督がこちらに顔を向けていた。
「まあ、厳しいことは言わん。だがここはみんなが使う場所だ。ほどほどにしろよ」
「は、はい!」
最後には釘を刺され、背筋を伸ばしてしっかり返事をする。これに関しては完全にこちらに非があるのでな。
もちろん会うのを止める訳ではない!
監督に別れを告げ、カズ先輩と一緒に執務室を後にした。部屋を出るとカズ先輩が口を開く。
「ケイ君は本当にすごいっす!四年生でナショトレに選ばれるなんて!正直羨まし過ぎて鼻血が出そうっすよ!でも同時に君なら納得っす!」
「はははは。カズ先輩ありがとうございます。正直僕も驚いてますよ。良くても都道府県トレセンだと思っていましたから」
「それでも十分にえぐいっすけど....」
その後ビルを出るまで先輩に褒め倒しにされ別々の練習場へと別れた。六年生とは練習する所がそもそも違うからだ。
「ナショトレにも選ばれたし、練習にもっと励まなくては。練習あるのみ!頑張るぞー!」
む、声に出ていたみたいだな。周りの大人に白い目で見られながら早歩きで目的地に向かう。
午後の練習だが、チームメイトに混ざらずにコーチと二軍選手達とするつもりだ。
すでに数ある練習施設の一角を予約しており、コーチと二軍選手数名と合流してそこへ向かう。
これには理由がある。何故なら今日は一か月に一回の恒例行事、そう【ゾーン】を使い現在の身体能力とプレイスタイルの限界を体験するからだ。
全国大会まで使わないで、そのままにしとけばいいじゃないかと脳裏に悪い考えがよぎるが、それは勿体無いのでしない。
30日毎に10分、年に12回、最大2時間しか使えない【ゾーン】。
可能な限り使わないのは選手生命が短いサッカー選手にとって致命的だ。なんせサッカー選手は平均26歳で引退する。
この数字は怪我での引退も含めているのでサッカー選手の寿命を表したものではない。
しかしそれでも多くの者がこの平均値に近いところで志半ばサッカー界を去っていく。
そのため制限が解除された日には必ず使い切るようにしている。
使用後はひたすら鍛錬に没頭。【最先端サッカー学】から引っ張り出した難度の高い技やプレイを再現するためだ。
今回は一対多数を想定した状況での【スキル】使用。
協力して下さる皆さんはすでに配置に就いており、いつでも始めろと言わんばかりの表情をしている。
これから10分間、思考を絶やさず自分の現状限界値のパフォーマンスを繰り出す。
「ふう....【ゾーン】発動」
サッカーに必要な感覚だけ鋭くなり、その他不必要な情報がシャットアウトされた状態に入る。
極限にまで研ぎ澄まされた自分のキレと集中力が新しく、意外性溢れる動きで自分のプレイスタイルを一段階上のレベルに上げてくれる。
どんどん階段を駆け上がるようにして自分のレベルが上がる。
「はっはは!もっとだ!」
しかしそのボーナスタイムもすぐ終わってしまう。
「っ!はぁはぁ...はぁはぁ」
【スキル】の効果が切れて一気に酷使した体が悲鳴をあげ、ピッチに大の字で倒れて呼吸を整える。
「はぁはぁ....毎回くそ疲れるな」
「それにしても坊主、お前信じられない速度で上手くなっていくな」
「コーチ...はあはあ...あり....がとうございます」
「本当に良くやるよ。とりあえず少し休憩しよう」
少し回復したら先ほどのパフォーマンスを【ゾーン】なしで再現できるようになるまで修練。
カメラで録画した動きを【空間把握】を使い自己動作を把握しつつ、【精密操作】で再現するのだ。
それが上手くゆき、完成度が高くなったら実践で試して完成させる。
それにしても今日は特に疲れたな。
「.....ががあ゛あ!がはっ!」
ん?ぐっ...この感覚は【スキル】の熟練度が上がった時に起こる激痛。今回は【理解】の時と同じ頭痛か。
あまり声を出すな....異変に気づかれてしまう。唇を噛み、痛みに堪える。
頭痛発生に合わせて体も硬直。本当にこれが試合中に起こらないことを願うばかりだ。
10秒くらい経っただろうか。ゆっくり指先から熱が戻り、硬直が解かれていく。
サッカーの累計時間が一万時間に到達した時なんて特に酷かったな、と思い出しながら頭を揉んで痛みを和らげる。
あの時は【スキル】開放特典ではなく、進化特典で【気配察知】が【空間把握】に進化した。
未だに【努力★】がどのような基準で進化か【スキル】開放を特典として決めているのかは分からない。
しかし、あの時は進化の方であり、一気に1から5まである熟練度を駆け上がったと思われる。
なぜなら痛みが激痛を通り超して、拷問とも言えるレベルだったからだ。あまりの痛みにこっそり吐いたくらい辛いのだ。
個人的には進化特典はもう欲しくない。あまりにも過酷すぎる。
【激痛耐性】とか獲得したら話は別になるが。どうやったら【努力★】に表示されるだろうか。
激痛を耐える訓練とかやばそうなのしか思い浮かばないな。試すのはやめよう。
「.....ふう。やっと収まったな」
《熟練度が上がりました。【ゾーン】の熟練度が上がりました》
おっと、こういった形で通知されるのは初めてだな。これも【理解】の熟練度が上がったからだろうか。
さて【スキル】の効果に変化はあるのかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
新人戦 全国大会前夜
携帯のブルーライトが眩しく一瞬目を細める。パスワードを入力しロックを解除。
監督から明日の集合時間について遅刻厳禁という主旨の連絡がグループラインに入り、スタンプを押して返信。
メンバーが続々とスタンプを送り、最終的には有名漫画の名台詞が飛び交うまでに。くすりと笑い携帯を閉じて明日の準備を始める。
まずは念入りにストレッチを行い座禅の準備に取り掛かる。お父さんの宗派で良く行われる座禅の方法だ。
ストレッチは体をリラックスさせ、より深く座禅に打ち込めるようにすると言われているらしい。
その後は白湯、温かい水を飲み一服。
準備が終わり次第タオルを膝と脚全体に巻き、座禅を開始。
自分の呼吸に集中してどんどん落ちていく感覚を体験するだろう。
そしてある境目に到達すると雲の上にいるのではというほど意識は自分に向けられており、外には全く意識が向かわない。
ここまでのレベルになって一人前らしいがまだまだその境地には達していない。本当に奥が深いな。
今日は40分ほどで切り上げてベッドに腰を下ろす。
精神統一をして身体と心を落ち着かせたはずなのに明日のことを考えただけで闘志が溢れ、燃え上がるな。
「必ず勝ち上がって優勝してやる」
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