第34話 ワワちゃんとむふふふな時間
「だーかーらーしませんよ!」
図星を突かれてムキになってしまったが昼休憩は俺が浦和で一番好きな時間なんだ。
誰にからかわれても、俺は止まらない!
なんたって今日はワワちゃんの手料理が食べられる。好きな子が自分の為に作ってくれる料理。俺は幸せ者だ。
前世の俺よ、君が成せなかったことを9歳ですでに達成しているぞ。
「ふふふふふ。はっはははははー!」
「ケイーうるさいぞー」
「今日もあの金髪美女とイチャイチャするんだろー羨ましいぜ」
「目で、目で人をコロセレバ」
ヤジを完全に聞き流せるほど今の俺は気分が良い。今なら鼻歌しながら全国大会優勝できる気がするぜ。
ワワちゃんに会うため”シトラス超爽快メンズ用汗拭きシート”でしっかり身だしなみを整える。
スポーツする者にとってこれは必需品だ。汗臭い姿で女性に会いに行くなど言語道断。
『ケイ君臭いよ』なんて言われた日には心がポッキリ折れてしまうだろう。絶対に回避しなくてはならない。
今日は少し練習が長引いてしまったので遅刻気味だ。いつもの場所に急いで向かう。べ、別に待ちきれないとかじゃないからな。本当だぞ?
目的地に着くと彼女はすでに若々しい芝生の上にレジャーシートを敷いて待っていた。
麦わら帽子を被り本を読んでいる彼女。
綺麗に日焼けしたシミ一つない褐色の長い足が折りたたまれており、一枚の絵のようにそこだけ特別な空間が広がっていた。
ラテン系美女大国スペインが作り上げた美の集大成と言って良いだろう。街中を歩けば十人中十人が惚れるレベルだ。断言しよう。
俺に気づいた彼女は笑顔で手を振りこっちだよと伝えてくる。
はあ、と感嘆してしまう。
だがすぐに待たせてしまった事を思い出し咄嗟に謝罪の言葉が出てきた。
『本当にごめん!練習が長引いて』
『ううん。大丈夫だよ。練習はどうだった?』
『んーいつも通りかな?全国大会に向けての調整だったよ』
『そっかー、キャプテンとして頑張ってるね』
『まあね。ありがとう』
『ふふふ、さてさてー、お待ちかねのランチです!今日はサンドイッチを作ってみましたー』
『おおーー!凄く美味しそうだね。いつもありがとう!』
パチパチパチパチと拍手もどきをしながらサンドイッチの登場を見守る。
色鮮やかな野菜が沢山のボリューミーなサンドイッチ。早速頂きますと言い実食。
しゃき、しゃきっと音を立てる新鮮な野菜が本当に美味しい。これは絶品だ。
特に少し茶色に焼いてあるチーズとマヨネーズが食欲を刺激する。一瞬で食べ終わってしまった。
あまりの食いっぷりに引かせてしまったかと恐る恐るワワちゃんの方に視線を向ける。
彼女は全く気にしておらず、逆に嬉しそうにニコニコしながら俺の頬についたマヨネーズを拭いてくれた。
『ケイ君ほっぺにマヨネーズ付いてるよーはい、取れたよ』
本当に幸せだなと思うと同時に天狗様が言ったことがフラッシュバックしてどうしても少し放心してしまう。
くっ女々しいな俺は。
『どうしたの?』
首を可愛く傾げて質問して綺麗なサラサラとした髪が揺れる。
『ワワちゃん、心配かけてごめん。大丈夫だよ』
『ううん。気にしないで。お父さんのことで悩んでる?』
神秘的な青色の目に影が差すのを見て慌てて否定する。本当に優しい子だ。
『違うんだ。ただただ凄く悲しくて、整理つかないことがあるんだ』
『そっか...んーそういう日は誰にでもあるものよね。えい!』
ふむふむと小動物みたいに頷く彼女。そして掛け声と共に彼女は俺の頭を太ももに置く。
されるがまま膝枕を堪能。マイファースト膝枕。
『な、なんで』
『エヘヘヘヘ。少しは元気でたー?お母さんが教えてくれたんだー』
ぐはっ。あまりの可愛いさと優しさになんで悩んでいたのか一瞬で消し飛んでしまった。
グッジョブ!ワワちゃんまま、あなたのアドバイスは最高です。
まだ正式に付き合ったとかではないが、俺は彼女のことが好きだ。
本当に大好きなんだと、こういう時に気付かされる。この二人きりの時間が癒しでしかない。
『ワワちゃん。好きだよ』
『ふふふふふ。ケイ君私のこと好きなんだー。私はどうだろーな』
『え!もしかして片思いだったの!』
『かもねー』
『そんなー、じゃあ前言撤回』
『むー。.....わ、私も好きだよ』
『『................』』
お互い顔を真っ赤に染めているだろうが、あまりにも恥ずかしすぎて直視できない。
嬉しさと緊張が1対1で混ざり合っており、自分の鼓動がはっきりと聞こえてしまう。
自然と手が重なり俺の心臓はドクン、ドクンッと更に音を大きく響かせる。二人とも喋ろうとはせず無言が続く。
だが彼女の瞳はとても潤んでおり、バカでも分かる合図を発していた。太陽の光でキラキラと光るサファイア色の目が揺れる。
ゆっくりと目が閉じて...
「「ヒュー!今日も熱々で羨ましいことで!」」
「ぐはっ」
本日2度目のぐはっが出てしまった。くそーーー!お前らー!
せっかく一歩勇気を踏み出そうと思ってたのに。完全にムードもくそも何もなくなってしまった。
「お前らく・う・き!読めよ!」
立ち上がり少し離れたところから邪魔してきたジュニア生の連中に抗議の声を上げる。
「ニシシ!練習始まんぞー!キャプテン」
「ケイ君!ここはサッカーをする所だからね!ふ、不純だ!」
「ニシシシ。ジュンお前ウブだな」
「み、南先輩?僕にも経験の一つや二つ!」
連中はまだ盛り上がっているみたいだが、無視してワワちゃんに声をかけた。
『はあ。ワワちゃんごめんね、チームメイトがうるさくて』
『ふふふふ。仲良しでいいじゃない』
こういう時だけお姉さんの余裕を見せるんだよなぁ。
『そろそろ練習に戻るよ。また明日ね』
『うん。続きは今度にしようね』
小悪魔的な笑顔を見せるワワちゃんに顔がまたもやカッと赤くなってしまう。
ゴクリと唾を飲み込みどもりながら返事。
『う、うん。じゃあ!』
後ろから小さな笑い声を聞かなかったことにしてその場から逃げ出す。
なんか手玉に取られてる気がして如何しようも無い。
俺にもう少し経験があれば....。
ピコンっ、
もしかしてまたワワちゃんからのスナチャかなと思いスマホの画面を見てみると、監督からのラインが来ていた。
今すぐ執務室に来るようにと書かれていた。
なんだろう。毎回先生とかに呼び出されると悪いことを想像してしまう。それと同じ感覚でなんだか嫌だな。はあ。
今すぐ行きますと返事して携帯を閉じる。
少し歩くと何回来ても浦和の財力でビンタされた気分になる綺麗なエントランスが出迎えてくれた。
監督の執務室にはすでに行ったことがあるので滞りなく到着。
コンコン、
「二宮です。失礼します」
中に入ると監督がいつも通り眉間にシワを寄せて資料とにらめっこしていた。この人は一体いつになったら隈が取れるのだろうか。
しっかり休んでいるのか質問したい。なぜなら日ましに隈が深くなっている気がするからだ。
「二宮、休憩なのに悪いな。ふう。何か飲むか?」
「いえ、結構です。今さっき水分補給したので」
「そうか。ところで最近マスコミがかなり騒いでいるようだが私生活はどうだ?」
「連日つけ回されて慣れましたね。その他では特に変化はありません。強いて言うならフットサルを練習メニューに入れて皆喜んでいますよ」
「なら良かった。では本題に入ろう。実はお前ともう一人にナショナルトレセンU12の招待が来ているのだが参加するか?」
「え!」
「ふははは。そのリアクションが見たくてわざわざ呼んだんだ。悪くないな。まあ、二宮が驚くのも無理はない。4年生で招待されるのはかなり珍しいからな。異例中の異例だ」
まさか俺がナショナルトレセンに選ばれるなんて。ナショナルトレセンと言えばトレセンの最高峰。
そしてトレセンとはトレーニングセンター制度の略称である。目的は「個の育成」。
ようは選ばれた才能の原石達を優秀な施設にぶち込み短期間で鍛え、世界を目指せるような選手を発掘、
育成する制度だ。
優秀な個に良い環境、良い指導を提供することによってレベルの高い選手同士でお互いに刺激させ合い、各々の個としての能力を一段階上げる。
もちろんトレセンにもレベルがあり、地区、47都道府県、9地域、ナショナルトレセンと参加条件の難度が上昇。
冒険者ギルドで例えるなら:地区トレセン=C rank、47都道府県トレセン=B rank、9地域トレセン=A rank、ナショナルトレセン=S rank
と言う感じだろうか。
無論、与えられる待遇も上に行けば行くほど良くなり、上のトレセンになるほど参加できる人数はピラミッドのように少数になる。
俺が選ばれたのは4年生としては異例のナショナルトレセン。少ない枠を四年生に使うとは思いもしなかった。
本来なら地区、都道府県と階段のように選手達が年二回開催される選考会にて査定され上がっていくシステムだ。
監督が言うには俺は公式戦にてスカウトの目に止まり一気にナショナルトレセンに招待されたらしい。
少年サッカー30万人の頂点を集めたナショナルトレセン。エリート中のエリートだ。
笑いが止まらない。
外資系で言うと一番の出世コースであるアメリカ、ニューヨーク勤務が決まったぐらいの大事だ。
「それでどうだ。参加するか?」
「是非!」
「だと思っていたよ。分かった。ちなみにトレセン参加は全国大会後になる。期間は短いが日本中から選ばれたU12の選手達と刺激し合って、良いところを吸収してこい」
「はい!」
「まあ、お前なら逆に選手達の手本となる存在になるかもな。あまり刺激しすぎるなよ」
「は、はあ。わかりました」
「ちなみにもう一人ナショトレに選ばれた奴がいるが...遅いな。ん?噂をすれば何とやらだ。入れ」
部屋にノックの音が響き、監督が入室を許可。
「遅くなってすいませんっす!」
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