表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ルルとララの恋物語

作者: 織花かおり
掲載日:2020/04/23

これは、以前入っていた童話のサークルで、「紙飛行機」というお題の時に書いた作品です。もう戻れない場所。そんな切ない思いもこの物語にのせました。ハッピーエンドと読むか切ないと読むか、その時の気持ちによって最後の余韻は変化します。

「あれ?こうちゃんはどこだ?」

紙飛行機は、地面の方を見て、こうちゃんがいないことに気づきました。

「しまった。風に乗るのが気持ち良すぎて、遠くに来すぎた」

紙飛行機の脳裏に2歳のこうちゃんのぷっくりした笑い顔が浮かびました。

そのこうちゃんを喜ばせようと、ママが持ってきた色紙でパパが紙飛行機を折ったのです。こうちゃんは紙飛行機をひどく喜んで、何度も何度もぶーんと腕をふりまわしていました。

「よーし、こうた。パパが外でとばしてあげよう。それっ」

その時のこうちゃんの嬉しそうな顔といったら。

『もっとこうちゃんを喜ばせたくて、調子にのりすぎた』

紙飛行機は、後悔しました。

「こうちゃん。もう戻れないよ、どうしよう」

まだ若い紙飛行機は、途方にくれました。


紙飛行機がどんどん風に流されて、ミカン畑の上を通ったときです。

「怖い。あの茶色いのは何なの?怖い……。どうしたらいいの」

突然風がやんで、か細い声が聞こえてきました。

紙飛行機は、声のする方へうまく着地しました。

見上げると、ミカンの葉に米粒より小さい黒い生き物がいます。

「君。ねぇ、君。何を泣いているの?」

紙飛行機は、小さな黒い生き物に尋ねました。

「さっき、私のそばを何か早いものが横切ったの。怖くて……」

「それは、たぶん鳥だよ。僕も鳥くらい飛べたら、帰れるのにな」

「あなたは、同じようなのにぜんぜん怖くないわ。ねぇ、あなた。帰れないのなら、私の傍にいて。一人じゃ心細いの」

「でも、ぼく……」

小さな黒い生き物は、声も体も震えていました。

紙飛行機は、再び吹いてきた風をつかまえて、ふわっとミカンの葉にのりました。

そして、あらためて小さな黒い生き物の顔をまじまじと見つめました。丸いつぶらな目が、こうちゃんととても良く似ています。

紙飛行機は、なんとなくここにいたくなりました。

『こうちゃんのところへは、もう戻れないし……。なんだかほっとけない』

「うん、いいよ」

紙飛行機は、思わず答えていました。


一緒にいるようになって、2人は、ルル、ララと呼び合うようになりました。

ララがルルが乗る風の音が歌みたいに聞こえると言ったのが、きっかけでした。

ルルは、そんなことを話すララをかわいいと思いました。

「ララ。どうだい!空を飛ぶのは気持ちよいだろう」

「ルル、本当ね。お日様までいけそうだわ」

ルルはミカンの木からうまく風をつかまえて、時々ララを乗せて、空を飛びます。ルルル、ラララ。ルルのまわりの風は、優しい音色でうたっています。ララは、ルルが優しいから、風も優しいんだと思っています。そのルルをびゅんと風をきる鳥たちがからかってきました。

「お~い。ノロマ。ノロマな青いやつが、いっちょまえに飛んでるぜ!!」

「ほんとだ!!ほんとだ!!」

すると、ルルはすましていうのです。

「そうだね。僕はノロマさ。でも、いいんだ。君たちみたいな飛び方では、大切な人は乗せられないだろうからね」

「ははっ。負け惜しみもはなはだしいぜ!!」

鳥たちは、言いたいことを言い終えると、さっさっと行ってしまいます。

「ルル、平気?」

「あはは。ララ、大丈夫だよ。この青い翼はララを乗せるためにある!!な~んてね」

そのルルの青い翼が、太陽に照らされて、美しく輝いています。

『まぶしくてきれい』

ララは、その度に優しいルルを好きになります。

そして、2人で色々な話をします。

かわいいこうちゃんのこと。

器用で優しいパパとママのこと。

ルルは無邪気に話してくれます。


そんな時、ララは怖くなります。

『ルルは、本当は帰りたいんじゃないのかしら?』

だから、ララは良くこう言いました。

「ねぇ、ルル。私って黒くて醜くて、何も知らなくて、一緒にいてつまらないでしょう」

ララは自分に自信がありませんでした。

「僕は、君との暮らしが楽しくて仕方がないよ」

「本当に?」

「うん。だってララったら、何もかも初めて見るもので、一緒にいて僕も楽しくなっちゃうんだもん」

そう言って、ララをみかんの木に戻します。

「ララは純粋で、大好きだったこうちゃんにそっくりだ。ちっとも退屈しないよ」

ララは、その言葉を聞いて少し安心するのでした。


雨の日も風の日も、2人はミカンの木に寄り添って、2人でやり過ごしました。

そんな中、ララは脱皮して、いも虫になりました。

体も大きくなって、食欲も前の数倍。

ミカンの葉は、あっという間になくなっていきます。

ララは、そんな自分を恥じていました。もう大好きなルルの背にも乗れません。

「ルルは何も食べないで平気なのに。ルル、私を嫌いになっていいのよ」

「何をいうのさ、ララ。どんなララだってララはララ。僕は大好きだよ」

そう言って、ルルはララをそっとその青い羽で抱きしめるのでした。


ある日のこと。

ミカンの葉が大量に食べられているのを、人間が見つけました。

人間は、ミカンの木を守るために、消毒液をかけることにしました。

シュッシュッ。鼻をつく嫌な匂いが2人に迫ってきました。

何も分からない2人も、ただ事でないことに気づいていました。

「ルル。私の事はよいから、逃げて」

その言葉を聞いても聞かなくても、ルルは決意していました。

「何としてもララを守る!!」

ララを無理やり葉の裏に隠れさせると、その上にルルが覆いかぶさりました。

シュッシュッシュシュシュー。ルルの体に消毒液がかけられました。

「ううっ」

ルルは思わず声をあげました。雨とは違って、毒が体の中にしみこんでくるのが分かります。

「ルルっ」

ララは、悲痛な声をあげました。

ルルはあっという間に気を失ってしまいました。


その後、雨が数日続きました。みかんの木を滴り落ちる強い雨に打たれて、ルルは意識を取り戻しました。

体はずっしりと重く、息をするのも辛い状態でした。

「ララっ。ララっ。大丈夫?!」

目を覚まして最初に気になったのは、ララのことでした。

ララの声はどこからもしません。

雨音だけがルルの耳に聞こえました。

見上げると、ララの大きさの立ったままのぶったいがありました。

「ララ。ララなの?お願い!!返事をしてよ!!」

ルルは悲しくて辛くて、声のかぎり叫び続けました。

「ララ。ララ。ララ……」

しかし、相も変わらず、雨音だけがルルを包んでいたのでした。


それから、しばらくの時が過ぎて、ルルの声はもうとうに嗄れて、立ち尽くしたララにも届かなくなりました。

でも、ルルは、一瞬たりともララから目を離しませんでした。

夜も昼もララを見つめ続けました。

ララが一生動かなくても、ルルは傍にいるつもりでした。

「ララ。僕たちはずっと一緒だよ」


2週間目の夜明けが近づいてきました。

東の空がだんだん金色に染まっていきます。

その時でした。

ララの体が金色に輝きだしたのです。

ルルは息を飲みました。

ゆっくりと、でも確実に、ララは、さなぎをやぶって、その黄金の羽を太陽のもとにさらけだします。

そして、羽が完全に広がった時……。

「ララ……」

ララは、それはそれは美しいアゲハ蝶になっていました。

ルルはただただ見とれていました。

ララは、太陽よりも輝いていました。


「ルル、ありがとう。私、あなたのおかげで蝶になれたわ。」

ララは、ひらひらと、ルルの下に舞い降りました。

「ルル、今度は私の番。私があなたをこうちゃんの元へ運んでいくわ」

「ララ……。あぁ、ララ、僕は……」

声にならない声をしぼりだして、ルルは泣きました。

ララは、前にルルがしたように、そっとその黄金の羽でルルを抱きしめました。

「ありがとう、ルル。本当にあなたを愛しているわ」


そう言うと、「待ってて」と、ララは空に舞い上がって、仲間を呼びました。

何匹ものアゲハ蝶が、優しくルルの体を空へと持ち上げます。

「あぁ、久しぶりだ。空を飛ぶって、やっぱり気持ちいい」

みかん畑を超え、菜の花畑をこえ、こうちゃんの家の赤い屋根が見えてきました。

「ララ、あれが、僕の生まれた家だ」

ルルは嬉しそうにララに報告しました。

「でも、もう僕のことは忘れているだろう」

「ルル……」

「いいんだ。僕はこうちゃんの家に帰れただけで満足だし、それに……」

ルルはララを見つめて言いました。

「いっしょにいたい人は、もうそばにいる」


「きゃはははは」

その時、子供の声がしました。こうちゃんです。手には赤い紙飛行機を持っています。

「こうた。外で飛ばさないの?」

「うん、家の中だけにする」

「まだ、青い紙飛行機のこと、気にしているの?」

「……」

「大丈夫よ。きっとお友達ができて、楽しくやっているわよ」

「ほんとう?」

「そうよ。お外にはちょうちょうや鳥がたくさんいるでしょう」

それを聞いて、ルルはララに笑いかけました。

赤い屋根の裏庭の花畑の上で、蝶たちはルルを下しました。

そして、ひときわ美しい一匹の蝶が、裏庭に住むようになりました。

ルルは思いました。

『もしかしたら、紙飛行機としては僕はもう飛べないかもしれない。だけど……、「ルル」としては、本当に誰よりも幸せなんだ』と。

今日も、ルルとララ、2人の笑い声が裏庭から聞こえてきます。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

感想や批評など、感じたことがございましたら、お教えいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 2歳の紙飛行機を大事に思うこうちゃんが可愛いと思いました。人生って思いがけない出会いがあって、それがルルとララだと思いました。ミカン畑って日本の各地にあり、それを原風景に抱いている人は多い…
[良い点] とても柔らかい文体がすっと心に入ってきました。 童話というジャンルを小説家になろうでは初めて読みましたが、とても素敵でした。 最後まで読んで自然と涙が出ました。 悲しいだけではなく、だけ…
[良い点] 時々、子供の頃に飛ばした紙飛行機を思い出したり、時々、紙飛行機をおっていたりします。紙飛行機は、今もそばにある気がします。。こちらも何気ない日常、どこかへ行ってしまった紙飛行機さんは、実は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ