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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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作戦開始

たいていの者が眠りについたころ、真紀と千春はザイナスたちの野営場所に潜んでいた。夜の初めに移動したので、闇に紛れて移動自体はばれていないはずだ。それから少し仮眠をとり、合図を待っている。


作戦はこうだ。


どうやら湖のそばの洞窟で、ドワーフたちは採掘に従事しているらしい。まだ試掘の段階なのだが、最近大きな空間を掘り当て、そこからゲイザーが涌いてくるようになったと、そういうわけだった。


夜中も働くことはあるが、それほど厳しく働かせられているわけではないらしい。何日かようすをうかがっていたザイナスが、直接ドワーフの集落を訪れて、話を聞いてきたという。


いずれもドワーフ領には帰れぬ事情の者ばかり。最初は警戒していたが、三領の仲間、それにグルドと親しいということで少しずつ心を開いてくれたらしい。


ドワーフ領でも内陸は差別の多い国だと噂されていたが、この湖の町はそういうこともない。あえて言うなら、離宮で働いているものには見下されているような気がするが、それでもつらいというほどではない。


ただし、最近の試掘では時折魔物が涌くので、必ず兵の護衛付きの行動になる。魔物そのものも怖いし、護衛に見張られているようで疲れると笑っていたという。


そのドワーフに、洞窟のそばで騒ぎを起こしてもらうように頼んであるそうだ。魔物が涌いたと騒ぎ、兵を引きつけてもらう。実際、洞窟の外まで魔物が出てきた事件が起きたばかりで、兵が過敏になっているらしい。


その話を聞いて真紀と千春は苦笑した。おそらく、昨日のあれだ。そして思わず遠い目をしてしまった。まだ昨日のことなのかと。


真紀と千春の耳には聞こえないが、第三形態になっている犬人達の耳がピクリと動いた。


「始まったぞ」


離宮のほうで動きがあったらしい。作戦開始だ。


真紀と千春、それにエドウィとアーロンは、鳥人たちにその場で抱えられ、ふわっと舞い上がった。犬人たちは木立の間を縫って離宮の湖側へと走る。


一方、真紀たちは湖を挟んで離宮の対岸の崖の上に降ろされた。


「ここからなら長の部屋が見える。窓の外の護衛が洞窟方面に移動したら、こちらもすぐに移動だ」


クリオが静かに予定を話す。対岸までは見えない真紀たちに、そのまま対岸のようすを伝えてくれる。


「まず湖の上の兵が動いた。船が洞窟側に寄って行っているぞ。よし、部屋の護衛も呼ばれて、いや、まて、湖が変だ」

「変? どういうことです」


エドウィが尋ねた。湖で何かが起こることは計画にはない。


「水面が波立っている。あれは、あいつら、人魚だ」


その波立ちは真紀と千春にも見えた。灯りをかざしていた船が洞窟側に移動してできた暗い水面に、たくさんの魚が群がっているように見えた。しかしよく見るとそれは一つ一つが人魚の頭で、静かに湖の岸辺に移動しているところだった。


「ねえ、エドウィ、このまま人魚に助けてもらうわけにはいかないの?」


千春の問いに、エドウィは首を横に振った。


「それはまずいです。人魚の長を『救出』に来たとなると、人魚と内陸の対立という構造になる。長が自ら遊びに来て自ら帰った、人魚はその迎えという形にしないと。アーロン!」

「わかってる。人魚より先に長のところへ行き、解放する。鳥人よ、頼む」


人族の四人は鳥人に抱えられた。この高い崖から向こう岸まで、一気に滑空する。舞い上がる経験ならいくらでもある。しかし、下りる一方となると……。千春は天に祈った。この恐怖に耐えられますようにと。


「あっという間だぞ。さあ」


ああああ! と千春は心の中だけで叫ぶ。急激な下降感、そして水面ギリギリの飛行、目を閉じることもできない千春の横を人魚の驚きの顔が通り過ぎる。そして確かに、あっという間に長の部屋の前に着いた。


とん、と最後だけは静かに着地する。崩れ落ちなかったのは夕方の訓練の結果だろうか。救いは慣れないアーロンも確かに青い顔をしていたことだ。それにしてもエドウィと真紀ちゃんはどれだけの体力があるんだろう。いけない、今は救出が先だ。目立たないところに下がる鳥人を目で確認すると、エドウィが室内をのぞきこみ、手で来いと合図する。


バルコニーのドアを大きく開けて、静かに室内に潜入する。長はどこだ。いた! 昼間会った時のまま、横になって尾びれをソファにリズミカルに打ち付けている。


「アミア!」

「愛し子よ、よく来た」

「よく来たじゃないよ!」


そののんきな言い草に千春は言い返すと、アミアをさっと眺めた。二メートルの魚、湖に運ぶのは大変だが、四人いれば何とかなるだろう。頭と尾びれ、どちらが重いか。頭が重い、だけど尾びれが持ちにくい。となると、


「真紀ちゃんとエドウィは頭ね! 私とアーロンは尾びれを!」


千春はそう指示を出して、尾びれを思い切って抱えた。お、重い。向かいでは真紀が、アミアのわきに手を入れて、抱え起こそうとしていた。


「エドウィ、アーロン、早くしないと!」

「そうだよ、私たちだけでは重すぎる!」


千春と真紀は助けを求め、エドウィとアーロンに声をかけるが返事がない。そちらを見ると、二人ともため息をついて何やら斜めの方角を見ていた。


「エドウィ?」

「アーロン」


もう一度呼びかけると、


「長殿」


アーロンがあきれた声でそう言い、


「アミア、いい加減にしてください」


エドウィが少し怒ったようにそう言った。真紀と千春が思わずアミアを抱えていた力を抜き、手を離すと、


「もう終わりか。つまらぬ」


アミアはそう言って、身じろいだ。その瞬間、真紀と千春に感じられたのは、何かのエネルギーがアミアのそばで渦巻いたということだけだ。風のような、しかし温度のない何かが。


アミアはさりげなく布を巻きなおすと、ソファからすっと起き上がった。


「え?」

「立った?」


戸惑う真紀と千春に、エドウィがため息をつく。


「チハールは長に運ばれたことがあるでしょう。むしろどうして逆に運ぼうと思ったのか」

「だって尾びれでは歩けないでしょ。あれ。尾びれは?」


千春は傍らに立つアミアの足元を見て驚いた。


「犬人と同じです。変化は自在、そうですよね、アミア」

「うむ」


そう頷くアミアの手は、真紀と千春の背中に回ってさりげなく二人を自分に引き寄せていた。


「だったらどうして歩いて湖に帰らなかったの?」


千春は思わず聞いてしまった。アミアは少し微妙な顔をした。


「最初は面倒だったから、最後はマキとチハールに助けてもらうのが楽しかったから、そうですよね、アミア」


そう言うエドウィにアミアは答えず、


「さ、それでは湖に行こうか」


そう言うと真紀と千春の背中を押してすたすたと歩き始めた。


「え? 面倒だった? それだけ?」

「こんなにみんなを巻き込んで? ほんとに?」


千春と真紀のつぶやきとともに、


「都合の悪いことは聞かない、だんだんわかってきました。孤高、高貴、自由、いろいろ言われていますが、ただのわがままな生き物、これですね」


と言うエドウィのつぶやきも、孤高だと噂される生き物には黙殺されるだけだった。まあ、部屋を出ないことには仕方がないので、全員長に従って部屋を出た。しかし。


「アミア様は平気なの!」

「長殿は大丈夫だろうな!」


ばん、と部屋のドアが開いて入ってきたのはシュゼとノーフェだった。






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