洞窟の外へ、広い世界へ
洞窟の前に急ぐと、そこには付近の獣人がすべて集まっているように見えた。
ザイナスやレイアだけでなく、ミラガイアなど鳥人に、猫人。それはほとんど人族で言えば冒険者に当たる人たちだ。それに、数は少ないが剣を腰に差した人間の冒険者も見える。
逆に、獣人はほとんど武器を持っていない。それは自分の体で戦うということが楽しいかららしい。洞窟の前に勢ぞろいした人たちに少し怯みながらも、堂々と歩くサウロやサイカニアに引っ張られるようにして真紀と千春はレイアの前に来た。
「マキ、チハール、特にチハールは昨日倒れたばかりなのに、すぐの仕事で申し訳ない」
レイアは千春の顔色を心配そうに確かめた。朝ご飯をしっかり食べたせいか、顔色はよい。ザイナスも心配そうに顔を覗き込んでいるが、少し安心したようだ。
「洞窟の中が窮屈で、何もしないから、洞窟の外に出たいと魔物が言っているという話だが」
「はい」
二人はレイアに頷いた。レイアは疲れたようにフッと笑った。レイアの目の下にも隈ができているような気がする。
「いろいろと紛糾したが、やってみなくては始まるまいということになった。このまま冒険者だけで対応するのは不可能、しかし、聖女だけに頼ったら聖女が倒れてしまう」
「それは」
千春は慌ててそれは疲れただけだと言おうとしたが、レイアはかすかに首を振り、真紀のほうをちらりと見た。つまり、そう思わせておいた方が二人に負担がかからないというわけである。真紀も頷き返し、千春の腕をそっと押さえた。
「魔物が遠くに行かないか確認するため、鳥人は広範囲に散開!」
そのレイアの声に、ミラガイアが手を上げる。と同時に、白と茶色の羽が一斉に飛び立った。
「残りは広場で待機。さあ!」
その声に、千春が胸をそっと押さえ、目をつぶると魔物に語り始める。
「外に出てもいいよ。でも人に近寄らないこと。遠くにいかないこと」
やっとかという気持ちがまず伝わってきて、千春も真紀も思わず苦笑しそうになった。その後は、広い所に出られるという歓喜だ。
ブーン、という、いつの間にか聞きなれたハチのうなるような音が大きくなっていく。皆が注目する中、洞窟の入り口ではなく、さらに上の割れ目の中から、ふい、とゲイザーが出てきた。
「あんなところから……」
「どうりで洞窟を見張っていても気づかなかったはずだ……」
なぜ昨日あれほど森から魔物が集まってきたのかという疑問が解消された瞬間だった。一体が出た後は、洞窟の入り口からも、それから他の洞窟の隙間からもどんどんとゲイザーが出てくる。やがて四つ足の魔物ものそりのそりと入り口から出てきた。この時は一瞬緊張が走り、獣人の中には爪を出した第二形態に変わるものもいたが、四つ足の魔物はある程度洞窟から離れると、座り込んで動かなくなった。
ゲイザーはと言えば、もう少し自由にあちこちをうろうろしているようだ。森のほうにふらふら行きそうになっているものには、鳥人が威嚇をしている。
「こうしてみると、魔物にも性格があって、ゲイザーのほうが自由な気がするね」
「どこの町でも集まってきたのはゲイザーだけだしねえ」
特に比較的小さいゲイザーは活発に動いている。魔物が相手に何もしないという、今までに経験したことのない状況に置かれて、獣人たちはほとんど動けないでいる。
そんな中、小さいゲイザーが何かやらかしそうだと判断した真紀と千春は、ゲイザーを呼びよせる。喜んでやってきたゲイザーは、恐らく生まれたばかりではしゃいでいるような状態だ。確か内陸でもこんなゲイザーばかりだったよなと千春も真紀もおかしくなる。
「はしゃいで落ち着かないようだったら、一つにまとまったら?」
にこやかにゲイザーに話しかけている聖女を見て、信じられないという顔をする獣人もいる。昨日あれだけ魔物を魔石に還しているところを見せたのにと真紀はちょっとあきれた気持ちになった。
一方でゲイザーは、その手があったかというように、二つが一つに、それがまた一つにと次々とまとまっていく。
「大きくなりすぎても邪魔だからねー、ほどほどにねー」
声をかける真紀に従うようにある程度まとまっては、落ち着いたようすでどこかに漂っていく。
「別に私たちの前で一つにまとまらなくてもいいのにね」
まるで小さい子が見て見てというようにまとまっていくのが面白い。
そのうち、獣人たちがそわそわしだした。特に猫人だ。何人かがレイアのところに何かを話しに来ている。レイアは首を振っていたが、やがて困った顔をして真紀と千春のほうにやってきた。
「その、なんだ」
なんだろう。真紀と千春は首を傾げた。
「マキとチハールには心が痛むかもしれないのだが、その、あれだけの魔物がいるのを見ると、倒したくてうずうずするものが現れてな。特に猫人は、目の前をゲイザーが横切るのが何とも歯がゆいらしく」
レイアはとても言いにくそうにそう言った。そうやって周りを見渡してみると、さっきまで呆然と立ち尽くして魔物を目で追っていただけの獣人たちが、まるで獲物を見るような目で魔物を見ていた。思わず体を動かしそうな人たちもいる。
正直なところ、真紀も千春もゲイザーが剣で斬られるところを見るのは嫌いだ。意思が通じるものを傷つけて楽しいわけがない。だが、自分たちのやっていることも、切り裂かないというだけで冒険者と同じなのだ。そのことは自覚はしていた。
「待って、ゲイザーに聞いてみる」
こんな時は最近は千春が率先してやってくれる。真紀もゲイザーの声に耳を傾けながら、千春のことも見守る。
「ええ? うん、うん」
千春が思わず声を上げている横で、真紀もぷはっと噴き出している。
「どうしたのだ、二人は」
「何か面白いことをゲイザーたちが言っているんでしょうよ、かあさん」
レイアとオーサの母子が話しているところから少し離れたところで、ザイナスも腕組みをしてゲイザーを見上げている。いつもより口角が上がっているうえ、しっぽがぶんぶん振られているために、何やら愉快な気持ちでいることがわかる。
「父さん……」
「ザイナスのそんな少年のようなところが素敵なのよね……」
「母さん……」
両親とも指導者の立場なのに、共にちょっと変わり者であるのがオーサの悩みの種であった。
「おや、話が終わったみたいだぞ」
レイアもザイナスばかり見ていたわけではないらしい。真紀と千春は楽しそうに、でもちょっと困った顔でレイアのそばにやってきた。
「あの、魔物なんですけど」
千春が口を開いた。
「まず、四つ足の魔物は面倒だから、その気になったら聖女に魔石に還してもらうって」
「ぷはっ」
今日の真紀はよく笑う。
「それで、ゲイザーなんですけど」
空を飛ぶゲイザーがどう言っているのか。レイアとオーサはかたずをのんで次の発言を待った。いつの間にかザイナスもそばに来ている。
「私たちにならいつでも魔石に還されてもいいけど、冒険者たちに簡単に斬られるのは癪に障るって」
「癪に障る……ゲイザーがか?」
「切りたかったら切ってもいいが、簡単にやられるとは思うなよって」
そう言うと千春は困った顔をした。自分たちには優しいかわいいゲイザーだが、万人にそうと言うわけでもとは思いもしなかったからだ。一方真紀はやっぱり笑い転げている。落ち着いたところでこう言った。
「一方的じゃなくてかえっていいんじゃないの? さあ、レイア、やるならやってもいいけど、反撃ありだと、みんなに伝えたらいいよ!」
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そして明日は「転生幼女」更新です。




