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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
獣人領編

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熱はない

 昨日は獣人領にたどりついてさっそく仕事だったし、夕方から千春が倒れてしまうしで、真紀が軽食をとっただけで二人ともちゃんとしたご飯は食べていない。


 病み上がりと言うことで、朝食は特別に部屋に運んできてもらった。


 オーサの運んできてくれたのは、大きなお盆に乗せられた湯気の立った朝食だった。


「うわあ」

「なんでしょう。とてもおいしそうなんですが」


 真紀など思わず敬語になってしまっている。


「父さんからさ、肉の巻いてある料理を食べたがってるって聞いてさ。まあ、たいていは昼か夜に食べるんだけど、昨日の奴をちょっと残しておいてもらったんだよ」


 盆の上には、まず真ん中の大きい皿に薄切りの肉が山盛りに乗っている。その周りを小鉢がぐるりと囲んでいて、


「それから豆の煮たやつに、オイリアの実の漬物、生野菜だろ、ハム、果物、そしてパン」


 その説明の最後に出されたのは、ナンに似た平たいパンだった。


「そのまま食べてもいいんだけど、このパンに乗せて食べるとおいしいよ。飲み物はお茶ね」


 お茶はポットごと用意されていて、オーサが眉を上げて入れるかいと尋ねたので、二人はうんうんと頷いた。厚みのある白いカップにそそがれたのは紅茶だ。


「リョクチャはあんまり好まれないのさ。ここら辺のお茶もおいしいから飲んでごらん」


 そうして始まった朝ご飯は、病み上がりの千春には重いかと思われたが、実においしいものだった。薄切りの肉には何のたれもかかっていないのに、ピリッとした香辛料で香りづけされたうえに、薄い塩味がついていて、驚くほどあっさりしていた。


「それは羊だね」

「羊はドワーフ領でもよく食べたよ! でも味付けが違う……」

「ドワーフ領は煮込みが多くなかったかい?」

「そう! スープにもゴロゴロ入ってた」


 そう答える千春をオーサは優しく眺めた。


「獣人領の海に近い地方は三領の中でもことさら温かくて、香辛料が多く産出されるのさ」

「でも獣人は鼻がいいから、香辛料は嫌なんじゃないの」


 真紀はラッシュを思い出していた。


「鼻がいいから、香辛料のよしあしがよくわかるんじゃないか、おかしな子だね。もちろん、たくさん使ったら嫌な臭いにはなるけど、その肉、どうだい?」

「うん、ほんの少しピリッとしているけれど、いくつかの香辛料が複雑にまじりあって不思議な味になってる」


 千春がそう答えると、オーサは満足そうに頷いた.


「少し飽きたらさ、その豆とオイリオの実もパンに一緒にのせて、そう」

「わ、味が変わった!」

「私こっちのほうが食べやすいかも」


 わいわい食べる二人が、最後に残しておいたのは果物だった。


「多分スイカだと思うんだけど」

「おや、よくわかったね」


 赤い果肉と、緑の果肉に緑の皮。日本のものに近いものは、そう言えば日本風の名前に自動翻訳されるんだったなあと千春は思い出した。


 小さく三角にカットされたスイカのとがったところを一口かじる。


「うん、おいし!」

「みずみずしい!」


 大喜びの二人だった。


「まだ夏の終わりだからね。結構遅くまで食べられるんだよ、スイカは」

「日本だと夏だけだったのにね」

「そうなのかい。夏の初めから秋まで食べられる、獣人領ではどこでもとれる果物なんだよ」


 それならまだ食べられるなと、スイカが大好きな千春は喜んだ。


 たくさんあった朝食を、昨日の夜の分を取り返す勢いで食べた千春の頭痛はいつの間にか収まっていた。オーサが申し訳なさそうに声をかけた。


「マキ、チハール」

「うん」

「軽く汗を流したらすぐ洞窟の前に向かうよ」


 そう答える二人にオーサはしっかりと頷いた。


「では、バルコニーの前で待っているよ」


 窓から出て来いと言われて、まだ部屋のドアから外に出たことがないことに気づき真紀は苦笑した。ちょっと悪い人みたい。


 二人で急いでシャワーを浴び、両開きのドアから外に出ると、そこにはオーサだけでなく、鳥人が待っていた。


「サウロ。昨日は運んでくれたんだってね。ありがとう」

「チハール。熱は下がったのか」


 サウロはそう言うと千春を子どものように縦に抱き上げた。そうするとサウロが千春を見上げる形になる。


「さ、サウロ」


 千春の目が焦って泳いでいる。それに構わず、サウロは千春の額を自分の額に押し付けた。


「冷たい」

「それは兄の体温が人族より高いだけだろう」


 サイカニアがあきれてサウロから千春を取り戻し、そっと立たせた。千春の顔が真っ赤だ。


「おや、むしろ熱が出たか」

「違うよ!」


 千春は手を顔の前でぶんぶんと振った。真紀は真紀で呆気にとられた後笑い転げている。


「さ、サウロってさ」


 真紀が笑いすぎて浮かんだ涙をふき取って、赤くなっている千春の代わりに説明をしてあげた。


「イケメンなのに無自覚なんだよね」

「イケメンとはなんだ」

「人族の目から見てかっこいいということだね」

「ほう」


 サウロは少し目を見開くと、隣でニコニコしているサイカニアに問いかけた。


「妹よ」

「なんだ、兄よ」

「俺はかっこいいか」

「そういう目で見たことがないからわからない」

「俺もわからぬ」


 はてなを飛ばしている二人に、これも笑いながらオーサが説明してくれた。


「鳥人の魅力の基準は羽や飛ぶ力、それに行動力だからね。顔はあんまり関係ないかな」

「ええ? じゃあ犬人は?」

「もちろん、どれだけリーダーシップが取れるかだよ」

「ええ、人族とはずいぶん違うんだねえ」


 オーサはふふっと笑った。


「そういう意味で言えば父さんはちょっとずれてるのさ。一人で好き勝手するのが好きな人だからねえ」

「全然そんなふうには見えないのに」


 真紀はいつだって頼りがいのあるザイナスを思い浮かべた。


「頼りがいがあって、かっこいいけどな」

「ああ、魅力的なのと好きになるとは違うだろ、マキだって、チハールだって。サウロの顔がかっこいいからって、魅力的だと思っても好きになるわけじゃないのと一緒だよ」

「なるほど」

「おい」


 かっこいいと言われてちょっと浮かれていたサウロが思わず突っ込んだ。


「こんなところで時間を食っている場合じゃないよ。さあ、洞窟の前に行かなければ」

「そうだね。そういえばゲイザーの気配が静かだ」


 千春が胸に手を当てた。真紀も慌てて洞窟の気配を探る。


「ああ、かすかに心配な気持ち。千春が調子を戻すまで我慢してくれてるんだよ。急ごう!」

「うん!」


 雛扱いだろうとなんだろうと、心配してくれる人がたくさんいる。そのことが二人の心を温かくする。


 でもちょっと、働かされすぎなんじゃないかなあとも思うのだった。






少し更新遅れました(´∀`*)

ちなみに筆者はお話の最初からサウロ推しです。

明日は転生幼女を更新します。

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