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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
獣人領編

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ダンジョン前にて

何とも言えない気持ち悪さを抱えながらも、どうしても先に進まねばならない。闇界との狭間の山脈がどんどん近づいてくる。


「見えた!」


ザイナスの声に、真紀と千春は窓から下を覗き込んだ。ドワーフ領のダンジョンを思わせる切り立った山の手前に、大きな空き地があり、そこにたくさんの人が集まっているように見える。


「ダンジョンにも入らず、ダンジョンの入り口でいったい何をやっているのだ!」

「あ、母さんだ」


珍しく苛立つザイナスに、オーサがかぶせるようにそう言った。


「レイアが? いったい何を」


ザイナスは食い入るように下を見ているが、そこに向かって箱はゆっくりと下降し始めた。本当はサウロもサイカニアも早く下りたいところなのだろうが、そこはちゃんと真紀と千春に気を使ってくれているところがありがたかった。


そしてできれば端っこの目立たないところに降りてほしいという真紀と千春の願いはかなわず、人の集まっているちょうど真ん中に箱はしずしずと下りて行った。


かたん、と、軽い音を立てて箱は地面に着いた。降りてしまえばザイナスの苛立ちも収まったようで、真紀と千春を真剣な目でじっと見た。


「どうやら何かで対立しているらしい。真紀たちから向かって左側に犬人族、白い鳥人族がおり、右側に茶色い鳥人族がいる。何が起こっているかはわからないが、箱にいても仕方がない。思い切って外に出る。よいか」


よいかと言われてもそれこそ仕方がない。外を見れば人々が見えるが、箱の一番近い所にサウロとサイカニアがしっかり立ってくれている。ザイナスの合図に、サウロが外側から箱の扉を開けてくれた。まず、ザイナスとオーサが外に出て、周りをぐっとにらみつける。そうして差し出されて手を取り、まず真紀、そして千春がすっと箱から姿を現す。


ザイナスが現れても消えなかったざわめきが、そこで止まった。


「あれが今代の聖女か」

「確かに漆黒のお姿よ」

「小さいな」

「小さい」


小さい小さい言い過ぎだろうと千春は少し苛立った。猫人は千春とそう変わらない大きさだったではないか。


しかしそんな小さいことでイライラしている場合ではない。真紀と千春が降り立った広場からまっすぐ向こう側にダンジョンの入り口があるのに、獣人たちはそちらを見ようともしていない。


「レイア、聖女をお連れした。が、いったい何が起きている」


ザイナスはダンジョンに向かって左側に腕を組んで立つ金色の髪の犬人にそう話しかけた。これがザイナスの奥さん。真紀と千春は嬉しくなってその人を眺めた。


「ザイナス、何が起きているもなにも」


レイアと呼ばれた人の声は女の人にしては少し低く、苛立ちが乗っていても心地よく響いた。


「鳥人族が朝からまったくいうことを聞かぬ。働かぬだけならよい。しかし、魔物の討伐を邪魔までする始末。ダンジョンが溢れたらいったいどうする気なのだ」

「レイア、鳥人とひとくくりにしないでくれ」


そう言ったのは白い鳥人だ。この声は。


「ミラガイア!」


真紀が大きな声を出した。サウロにそのまま年を取らせ、髪を長くして優しげにしたらそれが鳥人の現長、ミラガイアだ。


「おお、マキよ。そしてチハールよ、よく来てくださった」


ミラガイアは二人を見て駆け寄らんばかりに喜んでいる。


「ちっ、長の聖女びいきが!」


右のほうから舌打ちと共にそんな声がした。


「ひいきではない。この世界を浄化してくださる聖女に敬意を払うことは当然だろう」


言い返すミラガイアだったが、千春がそちらを見ると、ミラガイアと同世代に見える茶色い羽の鳥人が、腕を組んでミラガイアをにらみつけている。昨日、ぶしつけに風呂を覗かれるまでは、内陸で共に作戦を遂行した好印象しかなかった茶色の羽。人を見かけで判断してはいけないのだが、しかし、昨日のことが頭をよぎり、今は嫌悪感が先に立つ。


その茶色の羽の鳥人がくるりとこちらに振り向いた。本来、虹彩の大きいきれいな茶色の瞳が暗くよどんでいるように見えて千春は思わず一歩下がった。


「これはこれは」


こんなねっとりした言い方は聞いたことがない。


「私の息子たちが謹慎になった原因がこちらか」


あの失礼な鳥人たちのこれが父親か! いつものように千春をかばおうとする真紀を押さえて、千春は下がった足を一歩前に出した。


「あなたの息子たちが謹慎になったのは、私たちが風呂に入っているのをぶしつけに覗き、出て行けと言っても出て行かなかったからです。原因は私たちではなく、あなたの息子たちそのものにある」

「なっ」


反論されるとは思わなかったのか、茶色の鳥人はとっさに何も言えないようだった。


千春はたいていのことは許せたが、しては駄目だということを平気でやってしまうことは嫌いだ。


だから普段の鳥人のわがままは許せても、昨日の覗きをした鳥人は許せなかった。しかもそれを千春たちのせいにしようとするなんて。そんな千春が握りしめた手を、真紀が上から軽く握った。大丈夫だと。


「危機的な状況にあるから来てほしいと言われてきましたが、どうやら余裕のあるようす。私たちが必要ないというのであれば戻りますが、どうするおつもりですか!」


真紀の凛とした声が響く。緊張状態にあった二つのグループはその声に緊張を緩め、どうするのか互いをちらちらと横目で見ている。そこにレイアがふうと大きな息を吐いた。


「聖女を招いておきながらこの体たらく。申し訳ない。言い訳をするようだが普段はこんなことで言い争ったりはしないのだよ」


そう言って何かを振り払うかのように頭を左右に振っている。無理もない。上空から感じていた瘴気はここではさらに濃く、まるで人々を取り巻くかのように漂っているのだから。


「しばらく前からからダンジョンの魔物が好戦的になり、上へ上へと向かおうとする勢いが止まらず、やむなくこうしてダンジョンの外で魔物を待ち、出てきたところを倒しているのだが」


レイアはダンジョンのほうを見た。


「この通り大きい入り口で、上の方から出てきたゲイザーは鳥人に始末してもらわねばならぬ。それなのに朝から鳥人同士で対立している始末。残念だが、いくらか里のほうにすでに魔物が逃れてしまっている」


千春はダンジョンの入り口からレイアの視線をたどってダンジョンと反対側のほうを見た。そしてそっと胸を押さえ、目を閉じた。それを見て獣人たちがいぶかし気にささやき合う。


真紀は千春の肩にそっと手を当てた。


「千春」

「まだ近くにいる」

「そうだね。でもそれよりダンジョンの魔物が騒いでいるよ」

「大丈夫。ダンジョンの魔物にはもう少し待ってとお願いしたから」


真紀も隣で目をつぶり、魔物の気持ちを確かめる。


「うん、ずっと待ってたって。もう少しくらい待てるって言ってる」

「では先に外に出た魔物を。ザイナス!」

「おう!」


ザイナスはそんな二人を見守っていたが、即座に返事を返すと指示を出そうとし、慌ててレイアに向き直った。


「レイア、指示を。今から聖女が魔物を呼ぶ。お二人の前を大きく開けてくれるようにと」

「ザイナス、遠慮することはないんだよ。この非常事態、どっちが上ということもないんだし」

「わかってはいるが」


こんな時だというのに甘い雰囲気が漂う。


「いいよ。私の仕事だしね。さあ、これより聖女が魔物の浄化を行う!お二人の前を広く開けよ! 下がれ!」


レイアの張りのある大きな声が響いた。さあ、お仕事だ。









水曜日以外は、「転生幼女はあきらめない」という小説を更新しています。力をつけてきた幼児。相変わらずよちよちしております。

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