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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
獣人領編

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草原

村の人はだいぶ遅くまで騒いでいたようだが、真紀と千春は旅の疲れからか一通り宴会を楽しんだ後はすぐ眠くなってしまった。残念ではあったが肉はたくさん食べて満足したので、途中で抜けさせてもらうことにした。


「聖女さま、寝ちゃうの?」

「もう?」

「おまつりなのに?」


立ち上がった真紀と千春を子どもたちが取り囲む。もちろん、いつもなら寝ている時間だが、お祭りみたいなものだから子どもたちも特別に起きていてよいことになっていたのだ。


「すごく楽しいんだけど、遠くから来たから疲れちゃって」

「このまま寝てしまいそうだから、もう休むんだよ」


真紀も千春も腰のあたりにまとわりついている子どもたちをぎゅっぎゅっと抱きしめながら、残念そうにそう言った。本当に観光に来ているならともかく、明日にはダンジョンに着いて、なんならその日のうちに仕事があるかもしれないからだ。


「暖かいから、ここで寝ててもいいんだよ」

「寒かったらお父さんやお母さんが温めてくれるんだよ」

「ふわふわだよ」


おそらく第三形態になって温めてくれるということだろう。真紀と千春はザイナスとオーサと一緒に寝た時のことを思い出した。やわらかい腹毛に寄り添われてぐっすり眠った日。幸せ。


犬の毛も良いけれど、猫の毛は本当に滑らかでつやつやで、触るとほんの少しひんやりしているのにくっついていると暖かい。子どもたちの誘惑に一瞬ふらっとしたのはどちらかというと猫派の千春だったが、そこはぐっとこらえた。たとえ獣型になったとしても、相手は普通の見知らぬ大人だ。知っていたとしてもおばばやアリッサでもまだ気恥ずかしいし、ケアルやイリアスならまして無理である。


でも、と千春はちょっと思った。子どもたちなら、いいんじゃないかな、と。


「ははは、子どもたちは無理だぞ」


と声をかけてきたのはザイナスだ。


「え、私声に出してた?」

「チハールの考えていることはわかりやすいからな。子どもたちがかわいくてたまらないんだろう?」

「そう。かわいい」

「聖女様、また顔がへーん」


遠慮なく甘えてくる子供たちのかわいらしさときたら。顔が変だっていいのである。


「獣人はな、この姿が基本だから、獣型になるには逆に訓練がいるのだよ。幼いこの者らでは、できるものもいればまだできぬものもいる」

「おれ、できるよ!」

「わたしはまだむりなの。でももうちょっとよってお母さんが言うの」


子どもたちがそれぞれ自己申告してくれる。


「そうなの、偉いね」

「もうちょっとなのねえ」


などと真紀も千春も溶けてしまいそうだ。


「さ、子どもたち、聖女を寝かせてやってくれ。明日も移動だからな」

「はーい」

「またきてね」


そうして子どもたちは去ってしまい、真紀と千春はおとなしく休んだのだった。


次の日は朝早くに村の人に見張ってもらって温泉に入ると、真紀も千春もしゃっきりと旅立ちの準備もできた。村の人たちも昨日は遅くまで騒いでいたにもかかわらず、大勢見送りに来てくれた。


「こんな急ぎ足ではなく、今度はゆっくり来ておくれ」

「はい。必ず」


真紀も千春もおばばとしっかり手を握り合った。次期長のケアルも奥さんのアリッサもにこやかに頷く中、子どもたちがわあっと走ってきた。


「聖女さま、またきてね」

「お友だちもつれてきてね」

「人族、もっと見てみたい」

「俺もあっちこっち行ってみたい」


こんなふうに大騒ぎだ。


「これはこれは」

「落ち着いたら本当に、聖女ツーリストを立ち上げねばなりませんなあ」


真紀と千春はにやりとした。こんな風に子どものうちにいろいろな種族が交流したらどんなに素晴らしいことだろう。子どものうちなら体格差もそれほどないし、獣人は、ドワーフは、エルフはなどと言う偏見も減るのではないだろうか。


でもそれはあくまで落ち着いたらだ。今はまず出発しよう。真紀と千春はザイナスとオーサと共に箱に乗り込んだ。


「それではまた!」


挨拶と共に鳥人が静かに飛び上がる。手を振る猫人も、山間の村も、あっという間に小さくなっていく。


「どうだった、猫人の村は」


眼下の景色を楽しむ真紀と千春に、ザイナスが尋ねた。


「うーん、すごく、その」


千春は言葉を選ぶのに迷う。


「体格のせいかもしれないけれど、なんというか、人族に近いものを感じたの。獣人で初めて、小さい子からお年寄りを見たせいかもしれないけれど」

「なるほどなあ。わざわざ他の領地には、幼いものや年寄りは行かぬもの。普通の獣人の暮らしを人族は知らぬということか」

「そうかも」


頷く千春に、真紀が、


「そういう難しいこともあるけれど、温泉はよかったね」


と言った。


「そうだね、また行きたいところが一つ増えたよ」


千春が笑う。


「そんな二人には、ちょっとご褒美だぞ。本当はダンジョンの仕事が終わってからでいいかと思ったんだが、サウロたちに頼んで、ほんの少し遠回りしてもらった」

「「遠回り?」」


ザイナスの言葉に二人の声が重なる。そう言えば遠くにそびえる闇界との境目の山脈は、さっきから一向に近付いてはいなかった。


「大雑把に言うと、犬族の領地だ。ほら、下を見てごらん」


そう言われて下を見ると、いつの間にか森を抜けて、広々とした草原が一面に広がっていた。時折小さな森のような場所があるほかは、おそらく丈の高い草が一面に生えているのだろう。風が動くと草原が色を変える。ふと山脈と反対のほうを見れば、遠くにはかすかにきらめく海が見える。ただひたすらに雄大だった。


「そろそろサウロが少しだけ低く飛んでくれるから、地面をよく見てごらん」


空と飛ぶ鳥人と大きい影に驚いたのか、大きな鹿の群れが跳ねながら移動する。


「ここは我らの食料となる草食動物がたくさん繁殖しているのだよ」


なんと! この鹿たちは食料だった。


「人のようにわざわざ家畜を飼わずとも、広い領地に獣人が満足するだけの食べ物があるからな」


そうだ。結局人も獣人も食べなくては生きてはいけないのだ。驚いた自分を少しだけ恥ずかしいと思う真紀と千春だった。


「だが、大きいものをわざわざ狩ろうとは思わないので、大きい生き物とは友好関係を築いているのだよ。ほら、あそこを見てごらん。森のそばだ」

「わあ、象だ!」

「あれが乗せると約束した象だ。あれらも天敵がおらず、のんびり暮らしているから頼めば喜んで乗せてくれるぞ」

「やった!」


そうして象を見た後、一行は静かに高度を上げつつ、山脈のほうに向かった。途中少し平たい所で休憩を入れつつ、一気に山脈を目指す。山が近づいてくると、千春は思わず両手で自分の腕をこすった。


「どうした、チハール」

「うん、なんだろう」


はっきりとは言えない気持ち悪さがある。代わりに真紀が千春に確かめるようにぽそりと口に出した。


「千春、瘴気が濃い」

「うん」


ザイナスとオーサは今気が付いたかのようにきょろきょろした。


「確かに。いや、マキとチハールのそばにいるから気が付かなかったのか」

「ほんとだよ。気持ち悪いほど瘴気が濃い。ダンジョンの中よりもだ」


そうだ、鳥肌が立つほど勢いよく瘴気が体に流れ込んでくる。魔物を浄化するときよりも勢いよく。


「ダンジョンを立ったのはたった三日前だぞ。その時だって瘴気はこんなに濃くはなかった。いったい何があった」


つぶやくザイナスに答えられるものはいなかった。




水曜日以外は、「転生幼女はあきらめない」を更新しています。今週はほのぼの(たぶん)回。よちよち幼児がはらはらワクワクです。


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