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聖女二人の異世界ぶらり旅  作者: カヤ
エルフ領編

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観光か、観光されるのか

そのようすを見て、荷を運んでいたエルフの人が急いでやってきた。


「何があったんですか。生産者のみなさんがはしゃいでいるようだが」


その人はエルフにしても背が大きめで、森のように深い緑色の目をしている。


「おい、ヨール、どうなっている。我らには生産者の考えはわからぬ。よもや敵対することはないとは思うが、この数、一体何が起きている」

「何がって、ハウ、聞きたいのはこっちの方ですよ。勤勉な生産者の皆さんが突然仕事を放り出して大挙して移動を始めたのですから」

「ということはやはり」


ハウは胡乱げに真紀と千春を眺めた。


「聖女のおふたりが原因か」


まあ、そうだろうと思うのだが、


「いや、でも人間領でもドワーフ領でもこんなにいろいろ集まってきたことはないからね?」


真紀は一応主張した。


「エルフ領だけだよ。こんなに生き物が寄ってきたのは」

「ふむ」


ふむじゃないよ、ふむじゃ。真紀がハウに言い訳している間に、千春はいつの間にかミツバチに囲まれていた。


「わ、千春。まったくもう」


真紀はもう驚いたとか、怖いとかどうでもよくなってミツバチをかき分けた。


「はい、ごめんなさいよ、はい」


何をする、あ、聖女だ。こっちも聖女だ。


「こっちも聖女だじゃないよ、もう」


伝わってきたミツバチの気持ちにがっくりする真紀だった。


小さいな、なあ、聖女小さいな。そう言っているミツバチが大きいのだと思うが、その大きいミツバチの羽から来る風は涼しく、羽音は思ったより静かだ。


ちょっとお母様に言ってこい、聖女が小さいって。わかった。


「いや、ちょっと待って、小さいって女王様に言ってどうするの、ねえ」


ミツバチの話し合いの結果、一部が分かれて森に向かった。


「まさか女王蜂が出てきたりしないよね」


お母様か、子育てに忙しいから出てこないぞ、子育ては大事だぞ。


「それはそうだよね」


まるで真紀の独り言だが、向こう側でヨールがミツバチの言葉を通訳している。


お前たちはなぜ育っていない。人間、ちゃんと育ててくれたか。


向こうでアーロンがプッと吹き出している。


「いや、もともと小さめの種族なの。十分大人だからね」


ほう。ほう。これで。大人。ミツバチはぶんぶん真紀と千春の周りを回った。


「もう。観光しに来たのに、観光されてしまってるよ」

「真紀ちゃん、ナイスだよ」


千春が突っ込んだ。その千春は、ミツバチを左肩に1匹、頭に1匹のせて、すっかり馴染んだようすだ。あきれる真紀の肩にも、1匹のミツバチが止まった。肩に足を、頭に手を載せているようだ。


では、そちらの方向にすすむがいい。


「ミツバチナビがついたよ!」


思わずそう言う真紀の声に、


「では、最初の予定通り、生産者さんの巣に向かいましょう」


冷静に指示を出す五の姫はある意味肝が据わっている。一の姫は? 千春にくっついていいるミツバチに触ろうとして、きゃっきゃっとはしゃいでいる。ああ。うん。みんな目をそっとそらした。


それから一行は最初の予定通り、馬車に乗って森に向かう。大きなミツバチは近くで見ると、細かい毛でびっしりと覆われており、日を弾く複眼と、お腹のしましまの模様がとても綺麗だ。


いつの間にか肩だけでなく、膝にも乗っているし、なんなら真面目な顔をしたアーロンの肩にも乗っているし、


「私は警備があるので、遠慮する」


と真面目に断っているハウの他は、ミツバチまみれの一行であった。やがて馬車一台しか通れない道をしばらく行くと、ひときわ大きな木の前に出た。人が10人手を回しても手が届かないほど太い木は見上げてもてっぺんが見えない高さで、ところどころに、人がぎりぎり入れるほどの穴が空いていた。


ここがおうちだよ、と自慢げな声と共にミツバチが一斉に飛び上がった。


中を見せてあげたい。小さな赤ちゃんがたくさんいるんだ。けど、人が入るには中は暑すぎるらしいから、外だけね。


「蜜の受け渡しを行うのに、作業する人が入るのですが、ごく少数なので、すみません」


ヨールという人がそう説明してくれた。


「ぜんぜん大丈夫です。それにしても大きい木だなあ。ここが全部巣なの?」


真紀の質問に、そうだ、そうだという声があちこちから聞こえる。


「この木はまだ生きていまして、中にできた空洞をミツバチが上手に使っているのですよ」


ヨールが誇らしげにそう言った。


その時、入口から一人のエルフがするりと出てきた。手に小さな木でできたバケツのようなものを持っている。


女王様からのお土産だ、お土産だ。ミツバチが興奮して羽音が大きくなった。


「これを持っていくようにと」


そのエルフの人は、少し震える手でバケツを差し出した。バケツの中には、乳白色のもったりした液体が入っていた。


「毎日、少しずつ舐めるようにと。そうすればちゃんと成長するからと」

「いや、成長しているから。むしろ成長するとしたら、横にだけだから!」


真紀の叫びをよそに、そのバケツにエルフの人たちが群がった。


「これは貴重な……」

「ローヤルゼリーだぞ」


その時、一回り大きなミツバチが木からぶうん、と出てきた。


姉様、姉様だ。そんな囁きが聞こえる。


なるほど、なるほど。そのハチは真紀と千春の周りをくるりと回ると、こう言った。


お母様の言う通り。お前達には、この世界で生きるのにまだ足りないものがある。この世界で飲み、食べしているうちに満ちるものだが、この特別な蜜にはそれがたくさん入っている。寒くなり多くの葉が散るまでの間、欠かさずそれを食べなさい。


そしてぶうん、と木に戻って行った。


「おおう、うん。ありがとうございまーす」

「ありがとう!」


真紀と千春は驚いたが、失礼にならないくらいに大きな声でお礼を叫んだ。


それから巣の周りを見せてもらい、おそらくその巣の全部のハチが代わる代わる真紀と千春を見て満足したところで、


「では思ったより時間がかかりましたが、生産者さんに挨拶が終わりましたので、これから瓶詰め工場にまいりまーす」


と、五の姫の声がかかった。


「やった! その後蜂蜜酒だ!」

「蜂蜜酒!」

「蜂蜜酒!」

「姉様までもう。仕方がありませんわねえ」


送るよ、そこまで送るよ、というミツバチたちと共に、やっと事務所まで戻ってきた一行であった。

いよいよ明日、「聖女二人の異世界ぶらり旅」2巻発売です!

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