謁見
5月10日、2巻発売です! バイトあり、人魚あり、誘拐ありの、ダンジョン編です!
五人はそのままエアリスの部屋を出ると、エアリスとアーロンに導かれて城の謁見の間に向かった。
「謁見の間って仰々しいよね」
と真紀が首をひねる。
「だってさ、ミッドランドでもローランドでも用事は王の執務室だったでしょ? そこそこ広かったけどさ」
千春も頷く。
「思い返してみよ。ドワーフの城ではどうだったかを」
「あー、うん」
確かに正装のうえエスコート付きでの謁見でした。エアリスの言葉に真紀は思い出した。
「エルフ領に聖女が来るのは初めてではないか。おそらくそれなりに歓迎しようとしていたはずだが」
「蓋を開けてみたら聖女は極秘任務ということでいなかったと」
エアリスの言葉にアーロンが答えた。それは申し訳なかったとは思う真紀と千春だった。
「だが大丈夫だ。お前らのお披露目の時、アーサーは各国に、聖女は目立つのが嫌いだから、静かに扱うように言ってあるらしい」
「アーサーが。そか、ありがたいね」
アーロンの言葉に真紀はほっとした。そうだ、エアリスは王子であろうとエルフは大して興味を持たないと言っていたし、実際先ほどの王女たちも、聖女としての真紀と千春には全く興味がないようだった。ライバルとしてさえ見ていないようではあったが、大丈夫だろう。隣の少し硬い表情の千春を見ながらそう考えた。
「うお、やっぱり入り口には衛兵さんがいるよ」
はしゃぐ真紀とは対照的に、
「まずいな」
「だな」
とエアリスとアーロンは渋い顔だ。重い扉が静かに開くと、そこにはちょっと遠くにある玉座まで赤いじゅうたんがまっすぐに伸びていた。そしてその両側には。
「わお」
と真紀がつぶやくほどに、エルフの人たちが詰めかけていたのだった。真紀と千春の登場に静かにざわめきが走る。エルフの人の正装はわからないが、みなきれいな模様の入った光沢のある服を着ている。真紀がざっと観察している横で、千春は微動だにせず顔をあげて立っている。
王の元へと進むように指示があり、真紀をアーロンが、千春をエドウィをがエスコートし、後ろにエアリスを従えてゆっくりと進み始める。真紀も千春も、自分たちの額に視線が集中するのがよくわかった。
三段ほど高いところにある玉座には、エルフでは初めて見る老人が座っていた。エアリスと同じ、白銀の髪とひげをゆったりと長く伸ばしているその人は、
「サンタさん」
「ちょ、千春」
お腹は出ていなかったけれどよい子にプレゼントをくれるあの人に似ていて、真紀と千春の緊張は一気に解けた。玉座の隣には、アーロンと同じ年頃に見える、どこか王に似た面差しの人が静かに立っていた。
王はゆったりと立ち上がると、隣に立った人に支えられ階段をゆっくり下りてきて、真紀と千春の前に立った。
「そなたたちが今代の聖女か」
「真紀と申します」
「千春と申します」
「私はバートフォンという。現国王である。そしてこちらが次期国王のトールである」
そう言うと真紀と千春の手をそれぞれ両手でそっと握った。謁見は仰々しくて驚いたが、貴族っぽくないのはアーサーと同じで真紀も千春もほっとしたのだった。
「降臨の話を聞いてからすぐに瘴気は薄れ始めてはいた。しかし昨日あたりから瘴気の薄くなる速度が速まり、まして先ほどからのこの瘴気の消える勢い、まことに聖女の力とはこのようなものかと皆感銘を受けてな。視界が一気に晴れるような心持ちだ」
王は気さくにそう笑った。
「仰々しくするつもりはなかったのだが、それで聖女を一目見ようとこのように城のものが集まってしまったのだ。驚いたとは思うが、皆もその額の印を見てだいぶ落ち着いたことだろう。エルフ領への訪れ、感謝する」
そう言うと隣にも目を向け、
「アーロン、そしてエドウィか、本当に人の子の育つのは早いものだ。このように立派になって」
とおじいちゃんのようなことを言う。エドウィは嬉しそうなそうでもないような微妙な顔になったが、挨拶はきちんと行っていた。
「遅れてしまい申し訳ありません。込み入った事情がありまして」
「ああ。よいよい。ドワーフ領での活躍は聞いておる。ミッドランドには聖女を守る役割があることもわかっているので、気にすることはない」
王は首を振ると、トールのほうをみた。トールは頷くと、
「エアリス、母上がまた迷惑をかけたそうだな。すまない」
と少し顔をしかめた。
「よいのだ。母といえど恋愛は自由だからな。応えられなくて申し訳ないが」
エアリスも穏やかに答えた。母上だって! 真紀と千春は顔を見合わせた。つまり、この人はあの寝室にいたお姫様の子ども? 長寿の国のなんとわかりにくいことか!
「そなたたちも居合わせたのだったな。幼子にはさぞ刺激が強かっただろう」
そう苦笑するとトールはエアリスのように手をほほに伸ばしてきた。それをエアリスが止める。
「幼子ではない。人族ではもう成人している。むやみに触れるでない」
そう言うエアリスの腕は千春の腰に回っていて、何の説得力もなかった。
「なんと、エアリスよ、噂は本当だったとは! しかし成人しているのか」
トールの目が一瞬千春の胸を見たような気がするが、定かではない。しかしまことに失礼ではあった。
「ところでこの後すぐ仕事の話がある。エアリス、エドウィ、アーロンは別室へ」
「仕事だと? 私はマキやチハールにエルフ領を案内する予定で」
「そんな場合ではないのだ」
「マキとチハールは」
「聖女は魔物のそばには行かせないという話であったが」
「……ダンジョンか」
「そうだ」
ダンジョンで何かあったらしい。
「マキ、チハール、すまない。話を聞いてくるので」
エアリスが申し訳なさそうに言うが、真紀と千春は大丈夫と首を振った。それを見て王は、
「うむ、聖女方は姫に案内させよう。年頃から言って五の姫がよいだろう。リーア!」
と呼びかけた。一瞬何の動きもなかったが、玉座に近い人ごみの中から、先ほど見かけた美しいエルフの若いほうの女性が渋々と出てきた。
「リーアはな、わしの末の娘だ。穏やかでやさしいから、案内にはぴったりだろうて」
親バカはどこにでもいるらしい。
「リーアだけでは不安でしょう。私も参りますわ」
「おお、アイラも行ってくれるか。心強い」
「母上……」
一の姫は優雅に表れると、トールを見上げてほほ笑んだ。
「なんだ、トール、眉間にしわが寄っているぞ」
「誰のせいだと思っているのですか」
「ははは。古株である私のほうが案内にはよいだろう」
「いえ、姉さま、私も参ります!」
五の姫と一の姫の間に火花が散った。
「どうする、これ」
「私たち、関係なくない?」
真紀と千春はこそこそと話した。
「わしの娘は本当にいくつになってもかわいらしい。聖女方、滞在を楽しむがよい」
王はそう言うと、心配そうな残りの面々を連れてどこかに行ってしまった。途端に真紀と千春の周りにエルフたちが集まってくる。大柄なエルフに囲まれて見下ろされるのもなかなかに威圧感がある。そんな中素直に興味を持って自分たちを楽しそうに見上げる真紀と、背伸びしてつんと顔をあげている千春は、瘴気の浄化という体に感じる成果もあって、エルフの興味を一気に引いてしまったのだった。
「何がエルフはたいして関心を持たないからだよ」
「興味しんしんじゃない」
こっそりつぶやいた二人の言葉は、エルフたちのざわめきの中に消えた。
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作画は文月路亜さま、原画は鏑家エンタ様、真紀や千春が表情豊かに、そしてイケメンがよりイケメンに! 漫画ならではの工夫や表現もあり、すごく面白いです。
◆3/5配信開始(web版雑誌売り:有料)
B's-LOG COMICS Vol.62
◆1話を4分割で毎週木曜日12時配信(作品毎:無料)
3/8第1回配信開始、現在第5話まで
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