挿話⑤ 屍従王と世界渡りの占い師(中)
画面が暗転して切り替わり、初期の村『ショチュウ』とやらに配置される。
簡単な説明があって、ここがリザードマンのスタート地点だそうだ。
いきなり、長老だか族長だか、なんだかよくわからないリザードマンに、『帰還石』なる物を無理やり渡され、勇者だなんだの褒めそやされ、雀の涙ほどの支度金を頂く。
そんなに持ち上げるのならもっと寄越せ…なんて言うのは無粋か。
リザードマンの未来が云々言っていたが、正直、リザードマンになったばかりの俺には「はあ、そいつは大変ですね」くらいしか感想はない。
村はスタート地点なだけあって、宿屋や道具屋などの最低限の設備しかない。
NPCも数える程だし、きっと初心者が何をやるか迷わない様な設計になっているんだろう。
情報もたいしたことないな。装備はちゃんとしろとか、鎌を持ったモンスターには近づくなとか…あとは中央都市ダージールとかいうのがあるらしい。そこが色々な冒険者が集まる、中間目標といった場所なのだろう。
「まあ、所持金の半分で薬草を買うは基本だよな。装備は…魔法の杖とシャツか」
魔法使いってより、この格好だと浮浪者っぽいな。
「せめてローブくらいは欲しい。仕方ない。周りで魔物でもブッ叩くか」
いきなり魔法で戦えるわけでもない。まずは少しレベルアップすることだ。
この辺はリザードマンが過ごしやすい湿地帯らしい。
主な出現モンスターはスライムだが、別に湿原だから出現するというわけでもないだろう。最初の村だからこそだ。
「さて、操作方法も少しわかってきたし。さくさく金も稼いで、レベルアップして、次の街へ…」
「おーい!」
ん? なんだイベントか?
文字チャットが流れてきたけれど…
「おーい!」
画面を回転させると、誰かがこっちに走って来るのが見えた。
NPCじゃない? PC?
初期の街でいきなり話しかけられると思わなかった。
えーっと……
「doumo」
やべ。久しぶりにチャットなんてやったもんだから、ローマ字からの変換ができてねぇ。
マウスで言語バーかパレット…あ、ゲーム画面に出てきてねぇぞ!
あー、もう! キーボードだけで変換切り替えってどうするんだっけ?
ゲームパッドもったり、キーボードになったり忙しい…定型文をたぶんパッドに入れて省略したりできるんだろうけど、そこまで出来ないってーの。
「お兄さん、〈エタリリ〉始めたばかりでしょ?」
「ee.soudesu」
あー、煩わしい!
おお。しかし、なんか人間種の子供ばかり集まってきたぞ…?
全員、耳が長い…エルフってヤツか?
なんか良い装備持っているな。光る剣や鎧や弓…みんなお揃いっぽい。パーティなのかな?
「このゲーム、初心者に優しくないからさ。ソロプレイで先に進むの結構大変なのよ」
「sounandesuka?」
「うん。冒険が本格的に始まるダージールに辿り着くまで、レベル50は必要だから。普通にやってたら何ヶ月もかかるんだ」
マジかよ。でもオンラインゲームってだいたいそうだよな。
レベル上がるにつれて、必要経験値が目玉飛び出るぐらいになるヤツもある。
だから、キャラのレベル上げ代行なんて仕事も出てくるんだって前に聞いた。
「そんなもんで、途中でイヤになって止めちゃう人も多いんだ。せっかく〈エタリリ〉の世界に来たのにもったいないよね〜」
うーん。いまいち誰が喋っているのかわからない。5人だと思うんだが、俺の周りをチョロチョロしすぎだ。チャットの文字を追うのが必死で、アバターの顔までは追えない。
「それでね。新規さんが来た時に、そうならないように、俺たちみたいなベテラン勢が支援してるんだ」
へえ。このゲーム、そんな親切な人がいるんだねぇ。
「で、そういうわけだから、お兄さんのレベル上げ手伝ってあげるよ♡」
「e」
「いいからいいから。俺たちも楽しくてやっているから。遠慮しないで」
うーん。親切な人たちだ。でも、なんか悪い気がするなぁ。
ステータスを見るとレベルは60台。
名前はなんか長いアルファベッドと数字の羅列で、とても一瞬じゃ覚えられない。
何かしらの意味があるのかしら?
なんだか“medaka14”って名前が浮いて見えるぞ。
あと、なんかレベルが1桁の人もいるけれど…
「この人も、medaka14さんと同じだよ。レベル上げしようとしている途中なの」
なるほど。俺だけじゃないってことなのか。
ううん。なら、せっかくだし、甘えてしまおうかな。
誰かに頼ってゲームするってのは俺の趣味じゃないけど、仕事から帰って少しゲームやるのに、延々とつまらない作業をするのはできるだけ勘弁願いたい部分ではある。
ダルいのは仕事だけで充分だ。下手をしたら楽しいところまで行く前段階で、ゲームをプレイしなくなるかも知れない。
「naraonegaisitemo?」
「そうこなくちゃ!」
「demooreihananimo」
「なんだって?」
「orei」
「ああ、お礼? いーから、いーから…ずーっと、このゲームを楽しくプレイしてくれればさ。そいつが何よりもの報酬だよ」
おお、素晴らしい。ちょっと感動してしまった。
あのCPU長老リザードマンの白々しい「行け! 未来の勇者よ!」という台詞よりもズシンと心に響く。
「じゃ、俺たちに付いてきて。最高の狩場へと案内するからさぁー」
──
案内されるまま、湿地帯を抜けて、なんか洞窟のダンジョンみたいな所へ入って行く。
出てくるモンスターを見る限り、低レベルでやって来ていい場所ではない。
しかし、彼らがレベル60なのは伊達じゃない。ほぼ一撃で、どんなモンスターも倒せてしまっている。それも俺に近寄る前に、だ。
護衛されているのはありがたいが、彼らがモンスターを倒しても俺のレベルは1つも上がらないんだが…。
「ano」
「あ。レベル上がらないの気になった?」
「ee」
そりゃ気になるでしょ。レベル上げ手伝ってくれるって話だったんだし…。
「これ仕様なんだよね。レベル差が30以上あると、パーティ組めないんだよ」
「sounandesuka?」
へー、ゲームプレイに差が出過ぎてしまうからかな?
でもそれならレベル上げ手伝うなんて出来ないんじゃ…
「でも抜け道があるんだ。裏技ってやつ。今からそれをやるために、ある場所に行く」
「皆、これ知らないんだよね。お兄さん、私たちに会えてラッキーだったよ」
なるほどね。でも、なんで俺のことを“お兄さん”なんて呼ぶのかな。
「ゲームあんまりやらない人でしょ? 昔やってたけど、今は…って感じじゃない?」
「? nandewakaruno?」
「そりゃぁねぇ〜」
エルフの少年はニヤッと笑う。
こういうアバターの表情変化は凄い。
「〈エタリリ〉のキャラメイクかなりイジれるからさ。体型しか変えてないのとかって、逆に珍しいんだよね〜」
あー。なるほどね。“いかにもゲーム不慣れなオッサンが選びそうなアバター”ってことか。
そこは否定できないな。キャラメイクとか苦手だし。ステータスに関係ないなら飾りでしょ…みたいに思っちゃうし。
作れるのなら、美少女にした方が楽しいのはわかっているんだけどね。
「俺たち、そういうのに“理解”ある方だから」
そういや、彼らも非個性的だな。画一的というか…テンプレのエルフって感じだ。
全員が似たような感じの顔しているから、俺には現段階で見分けがついていない。
話し言葉から俺より若いプレイヤーだとばかりに思い込んでいたけれど、もしかしたら同世代とか年上だったりして。
ならオッサンゲーマー同士、支え合う的な…?
えー、ってか、オッサン差別がされるようオンラインゲームなのかしら? 肩身が狭いわー。
「着いたよ」
気付いたら、長い階段を降りてきていて、ダンジョンの中間地点らしき所だった。
どうやらここは、敵が湧いて来ない安全地帯らしい。
「『帰還石』見てみて」
帰還石?
あー、あの偉そうな族長に渡されたアイテムか。
「この場所が記録されてるから」
あー。『ショチュウの村』以外に、なんか確かに地点がひとつ増えてる。
「最初の村と、この地点…2つになったでしょ? それでここからが重要だよ。言われた通りにやってね」
「『帰還石』に登録した地点は、任意で削除できるんだ。ただし登録場所が最低2つ必要。2つ以上ないと消せない仕組みになっている」
「でも、かといってダンジョンだけ残すってのは普通はできない。敵にやられて再スタートするのがダンジョン内じゃ、そこで詰んじゃうからね」
「けれども、ここだけは例外なの」
??? どういうことだ?
「いわゆるバグだよ。このダンジョンの中間地点が登録されると、最初にいた村の登録を消すことができるの」
「このダンジョンだけでしか使えない裏技」
「さ、やってみて」
うーん、よくわからんが…。
それに最初から登録してある村を消す意味はなんなんだろう?
「ホームタウン設定が『帰還石』に指定されてて、死んだ場合はそこに飛ばされるの。そこで、あえてホームタウンを消すことで、プレイヤーを帰還できない様にするわけ」
「そうなると、誰かに蘇生してもらうまで待たなきゃいけないんだけど、パーティ設定してないと本来はダメ。一定時間蘇生しないと、ホームタウンに送られることになる」
「でも、ダンジョンのみが帰還石に記録された状態だと、ずっとホームタウンに戻れないから、一定時間経過すると、アバターが言わば“半死半生のゾンビ”みたいな扱いになる」
「生きている間はパーティ組めないけど、その状態なら何故かレベル差を無視してパーティ編成することができるんだ。
そこから蘇生すると、レベル制限を無視して高レベルのパーティに組み込めるんだよ」
「そこの彼も、これやってパーティに入れたの」
レベル1桁のエルフが頷いて見せる。本当に喋らん人だな…。俺と同じ初心者だからか?
「わかった? さあ、やってやって」
でも、それが裏技なのか…。
まあ、それなら言われた通りにしてみるか。
「…どう? できた?」
「hai.kesimasita」
「ふーん」
「sorede」
“それでどこへ行くのか?”と訪ねようとした瞬間、目の前に居たエルフたちが浮かぶ。
???
そしてエルフたちは、そのままサーッと消え去ってしまった。
「are?」
ひとりだけ残ったのは、レベルが俺と同じ1桁台のプレイヤーだけで…
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…」
オオッ? なんだなんだ?
チャット画面が、勢いよく下へと流れていくんですけれど。
これってコピペ?
なにやってんのこれ?
「バーカ! バーカ!! 騙されてやんの! キモトカゲ野郎!!」
うおッ! 喋った!
ってか、顔は可愛いのに、スッゲー口悪い!
「下調べもしねぇトーシローのオッサンが! 〈エタリリ〉舐めてんじゃねぇっつーの! チャットぐらいまともにできるようになってから来やがれ! ボケェカスーー!!」
そこまで言って、彼もどこかへ飛んで行ってしまう…。
えーっと、これは…なんか騙された感じ?
初っ端から?
え? こんなことあるの…?
レベル1で初期装備のまま、いま手持ちのアイテムは……薬草と帰還石だけ。
このダンジョンは、レベル1の実力じゃ到底戻れない。
死ねば元の村に…いや、違う。
バグとホームタウンが本当の話だとしたら、この中間地点で復活するか、下手をしたら死んだままになる。
「うそ。詰んだの? いきなり…」
あ。なんか変換できた…。
でも、周りには誰もいないから意味がない。
…リセットして最初からやり直す?
ヤバい。心が折れそう。
大して時間もかからず、チュートリアルは終えられるだろう。
でも、またキャラメイクから……オープニング見て、族長の話を聞いて…小1時間はかかる。
そう考えると面倒だ。
ああ、心底面倒すぎる。
そもそも、そこまで時間を掛ける価値があるのか?
いや、それ以前に今まで掛けた数時間はなんだったんだ…
ほとんどディフォルトのままだけれど、このリザードマンだって、俺なりにそこそこ考えて作ったんだ……
それにプレイヤーの悪意ってものを初っ端から見せつけられてしまった。
正直、あんな嫌がらせをしてくるような輩がいるゲームなんて、楽しんでプレイできるわけがない。
もう止めよう。
電源を切って、無かったことに…
「大丈夫ですか?」
声を掛けられ、俺は思わず身構えてしまう。
階段を降りてきたのは、エルフだ。エルフの少年だ。
さっきのヤツらか? まだ俺に何かを…
でも、名前が違うな。こんな名前じゃなかったと思う。
「え? レベル1? このダンジョンで…」
俺のステータスを見て驚いているらしい。
「さっき側に居たのは仲間じゃ?」
「あ。いえ…」
「まさか無理やり連れて来られたんですか?」
「……たぶん」
「初心者狩りにあったとか?」
「…初心者狩り?」
「ええ。たまにあるんです。初めての人をダンジョンの奥に連れて放置したり、レベルの見合ってない街に連れてきて、ゲームの進行を妨害したりってことが…」
「なんでそんなことを?」
「詳しくは知らないけど、そういう動画を撮ってネタにする人もいるとか」
なんだそりゃ。
そんなつまらない遊びをする輩がいるのか…。
「ログは見れない? もし名前が判るなら運営に言って…」
「いや、会話ログを流されてしまいまして…。恐らくは、BANされても大丈夫な用に作ったダミーか何かだったんでしょう」
レベル1桁だから、消されても向こうは痛くも痒くもない…みたいな。
でも、アカウントごと消されたら……いや、きっと何か抜け道みたいなのがあるんだろう。ここまで用意周到な嫌がらせしてきたくらいなんだからな。
「…運営なら多分、消えたログを遡るか、パーティ履歴も調べることもできますよ」
どうやら、目の前のエルフは違う人みたいだな。本当に俺のことを心配してくれているみたいだし。
「ありがとうございます。しかし、パーティじゃなかったんですよ。レベル差がありすぎるとパーティを組めないらしくて…」
「? そんなハズないですよ。俺もレベル低い人と一緒のパーティ組んだことありますから」
そうか。ならパーティを組まない様にするために付いた嘘か…。まんまと騙されたな。
「あの、もし、良ければ…」
「あ、いえ! ちょっとやって、つまらなかったらもう止めようと思っていた程度なんで…」
運営に報告…きっと色々、あった出来事を事細かに伝えなきゃいけない。面倒だし、その時間がもったいない。
きっと、そういった通報しないような、泣き寝入りしそうな人物を選んで嫌がらせしているんだろう。それなら俺はまさに狙い通りのターゲットだな。
「……いまネットで調べたら似たような被害があるみたいですね。それでも、やはり通報した方がいいと思いますよ」
「そうですね…。わかりました。そうします」
最初から不純な動機でプレイしようとした俺はどうでもいいが、心からワクワクして楽しもうとしているプレイヤーがこんな目に遭うのは間違っているとは思う。
正義感からじゃないが、それでもメールの1通くらいは送ろう。それはゲームを始めた者として最低限の責任だろうし。
…あー、楽しいゲームのハズが、なんでこんな不快な気持ちにならにゃいかんのだ。
もういいや。終わりにして眠ろう。
「…では、ログアウトしますんで」
「あ! 待って下さい」
「…まだ何か?」
「…あー。うーん」
なんか悩んでいるように顎に手を当てている。
しかし、このゲーム、こういった仕草がリアルだな。
最低画質のせいでテクスチャーがかなり粗いが、このエルフの少年がかなり整った顔だってわかる。
ゲームを落とせばいいのに、どうしてか俺はその少年が話す続きの言葉が気になって待ってしまった。
「……えっと、もしかしたら、占いとか…興味ありません?」
──
エルフの少年にパーティ申請され、そのまま連れられてダンジョンの中から引き返そうとしていた。
細身のリザードマンとはいえ背が高いんで、戦士職であるエルフの少年より見た目は強そうに見えるが、実際の実力差は天と地ほど開きがある。
彼のレベルは80台。今はソロプレイ中らしいが、この辺のダンジョンの攻略レベルは30程度らしいので、弓による通常攻撃で軽々とモンスターを撃破していく。
彼の名前はメルロンというらしい。
なんか北海道にいそうな、美味そうな感じのする名前だ。
「……で、これからどこに行くんですか?」
「近隣にある街、ウィスクという所です。そこを今は拠点にしていまして」
「そうなんですか…」
「ええ。ある人と来ていて…俺は護衛としてなんですが」
「…もしかして、その人が件の“占い師”?」
「ええ。そうです」
うん。話が見えてこない。サッパリだ。
そもそもゲームで占いなんてしてどうなると言うのか。
なんとなく興味を惹かれて、どうせやることもないからと、流されるままに付いて来てしまったが…。
知っているゲームじゃ、占いの結果でバフ効果がランダムで付いて戦闘が有利になるとかいうものもあったが…。
このメルロンさんの話だと、その占い師とやらは“本当に占い”をするらしい。
「俺には蘇生魔法は使えないので、くれぐれもHP管理には気を付けて下さい」
メルロンさんがモンスターを倒した。何もやっていない俺のレベルが上がる。
それでもこの辺のモンスターに殴られれば、今の俺の最大HPの状態でも一発KOされる。
そのことを知らないわけではないだろうから、彼は気を遣ってそう言ったのだろう。
「…しかし、メルロンさんはなんでまたこのダンジョンに?」
彼のレベル帯でいえば、このダンジョンに旨味はないハズだ。
「ちょっとイベントでしか取れないアイテムがあって…今日はその下見に…」
「下見? あ。もしかして私のせいで街に戻ろうとしてますか? いや、気にしないでそのままアイテムを手に…」
「いえ、いずれにせよ中間地点まで行くだけで、街には戻るつもりだったんです」
そんなに慎重にならないと取れないアイテムなのか?
このダンジョンがどれだけ深いか知らないけど……
あ。それって……
「ソロじゃ取れないアイテム…とか?」
「え? まあ、そうですね。そんなところです」
「なら、戦闘じゃお役に立てない私が言うのもなんですが…このまま潜ってアイテムを手に入れた方が手っ取り早いのでは?」
「いえ、それじゃ意味ないんです」
? どういうことだ?
「…それは実は譲渡不可のアクセサリーでして。本人がそこに行かないと得られないアイテムなんです」
「…ということは、もしかしてその占い師さんに?」
メルロンさんが押し黙る。
その占い師とやらは、彼にとって特別な存在なのかな?
「…でも、medaka14さんのお陰で、守りながら進む予行練習が出来たんで」
「それが私を助けてくれた理由ですか」
「いえ、困っている人を助けるのが“勇者”でしょう」
“勇者”…そうか。
冒険者はそういう設定なんだっけか。なかなか的を射た、面白い返しだ。
「…なるほど。それで、助ける方法が“占い”なんですか?」
少し卑屈になって、意地悪でそう尋ねてみると、メルロンさんがこちらに振り返る。
「…占いと言うより…そうですね。何と言えばいいか」
メルロンさんは少し考える素振りを見せる。
「…何気ない誰かの一言が、救いになることもあると思います」
「…なるほど」
「俺とたまたま会ったのも縁ですし。…なにがキッカケになるかまではわからないのでは?」
悔しいけど、それには何も言い返せないな。少し期待している自分もいるし。
「…それで、メルロンさんは実際に救われたので?」
「救われたかはわかりませんが…でも、そのお陰でまだこのゲームをやれています」
そう言って、メルロンさんは索敵した敵が近づいてくる前に一瞬で葬った。
「さあ、ダンジョンを出ますよ」
メルロンさんが指差す方向には、入口から明るい光が差し込んでいたのだった……。




