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屍従王  作者: シギ
第二章 ギアナードの魔女編
47/113

045 火磔刑の魔女

 全部計算通りだ…そう言えたらどんなにいいか。


 元々、最底辺の魔法しか使えない魔法研究者が戦うだなんてこと自体が間違いだったんだ。


 これはただ単に運が良かっただけ。少しボタンを掛け違えただけで全てが終わってしまう、いわゆるギャンブルみたいなものだ。


 そして、俺がここまでやれたのには運以外にもうひとつ。


 そう。常に、このクシエ姉弟が関わっていた……


 諦めよう。もういい。


 そう思う度、俺の眼の先には、ロリーやジョシュアの顔があった。


 今もまた、恐怖が張り付いたジョシュアの顔が俺の横にある。


 消し飛んだ俺の腕を見やって、何か言いたそうな…いや、何を言っていいかわからないといった顔をしている。


「…俺に近づくな。離れていろ。ジョシュア」


 たぶん、聞こえていただろうとは思う。


 ジョシュアを気づかってやりたかったが、俺は渦巻く巨大な力の方から意識を離せないでいた。

 

「黙って聞いていりゃ、ザコザコ魔法士がッ! …誰が無能だッ!!! 調子乗ってっとブチ殺すぞ!!!」


 怒り。


 それはそうだろう。こんなことを想定して組み立てるタイプには見えない。


 俺がプロトやマクセラルを撃退し、ルフェルニと接触したことですら、彼女には些末な事のようにしか思えなかった。


 そんなツケが、今になって全部自分にと返ってくることになる……


 きっと自ら課したルールに縛られ、親指の爪でも噛みながら、事の成り行きをずっと“見ていた”に違いない。


 自慢のプロトをどうしてか使えず、そして王、将軍、聖騎士たち…自分の意図せぬ動きをする駒…


 ああ、こんな“自分がコントロールできないゲーム”ほど面白くないものもない。


 それを俺に無能と馬鹿にされ、子供のような癇癪を引き起こすだろう…


 俺もあえて意図していたわけではない。とっさの思いつきに過ぎなかった。


 だが、結果的に魔女はそれに引きずりだされることになる。


 もし彼女が辛抱できる性格ならば…


 もし彼女が用心深い性格ならば…


 俺なんて最初から、相手にするような敵にはなりえなかった……


「あれれ? この“ゲーム”はさ、魔女は直接手を下さない。魔女はプロトを使って勝つって、そういう約束じゃなかったかな?」


 俺は無くなった手を見せて言う。


「そんな約束してないし! なんなんだよ! キミ! すごいムカつく!!」


 そしてジュエルは聖騎士たちの方を見下ろす。


 魔力測定機はさっきから動かしているが…メーターの上昇が止まらないな。7,000は軽く越えているけど。下手をしたら10,000とかになるのかな。さすが魔女様だ。


「無能なのはコイツら! 屍従王を倒せるって自信満々にアタシに言ったんだ! なのに! なぜいつまで経っても倒せていない!? いいように…ほ、ほん…えっと、ほんら‥違う! ほん…」


「翻弄されて、だろ」

 

「う、ウルサイ!!」


 衝撃波が飛ぶ! 城が大きく揺れ、大回廊にいる全員が縁に掴まって耐えた。


 ただの癇癪でこんなかよ。たまらんなぁ。


「魔女ジュエル! 屍従王を倒すのは我々に一任するという話だったろう!」


 サトゥーザが声を張り上げる。


 従属しているわけじゃない…ってことか。やはり利害が一致したから共闘…いや、ただ余計な手出しをさせなかったという話かね。


「ならいつまでとグダグダやってんじゃない! さっさと殺せッ! ソイツはもういらない! そんな不快なヤツは、アタシの眼の前から消せ!」


「貴様に命令される筋合いはない!」


「なんだとッ!!」


 あー、素晴らしい。


 なるほどなるほど。魔女と団長の仲がよろしいようで!


 そうだな。なら試す価値はあるかな。


「なあ、魔女様よ」


「黙れ! 今はキミと話してない!」


「……そう言うなよ。“火磔刑の魔女”」


「……あ?」


 表情を失った。


 よし、当たりだ。いいぞ。


 サトゥーザもこっちを見た。知ってたか知ってなかったか…微妙だな。


「マクセラル、ヴァイス、カナル……こいつらニルヴァ魔法兵団は、南方シャンガラリアの秘密結社なんだってな」


 これが吉と出るか、凶と出るか…


 憶測に過ぎないが、魔女は自分の存在を隠している。


 たぶんこれが魔女の持つルールの1つなんだろう。


 歴史的な影響に対する配慮かな?


 なんだっていい。魔女の弱味を突くことで、何かの反応を引き出し、上手く聖騎士どもとぶつけられれば……


「“あの女”とアタシを間違えるんじゃねぇよッ!」


「あの女…?」

 

 マズイ。なんか雰囲気が変わった。


 藪の中の蛇を突いた…もしくは虎の尾を踏んだ感じだ。


 ヤベエ。間違えた。

 

 ジュエルが着地した瞬間、ズドンという衝撃が城全体に響き渡る!


 魔女が何かしらの魔法を使ったのだ。


「そうだ。魔力値は……う、ウソだろ」 


 測定結果を見た俺は開いた口が塞がらなかった。


 そしてビキビキというような何かが割れる音が周囲からして……



 城が崩れ落ちた──



 壁も柱も窓も…一瞬で砂状と化する!


 俺たちは足場を失い、そのまま垂直に落下した!


「【軽化・倍】、【浮揚・倍】! 」


 とっさにジョシュアに魔法をかける。


「ジョシュア! そのまま泳げ! 泳いで上昇し続けろ!」

 

 このまま砂と共に落ちたら、埋もれて窒息死する可能性がある。


「む、無…理ッ!」


「男の子なんだから泣き言いうんじゃありません!」


 だが、そりゃそうだ!


 俺は息してないから平気だけど、普通に落ちてくる砂圧で呑み込まれる!


「【空圧・倍】【球形・倍】【射準】!」


 ジョシュアの顔の上ら辺を目掛けて、魔法を放つ。


 圧縮させた空気を球形にまとめることで気流の球を作ったのだ。

 それがジョシュアの顔の回りの砂を弾き飛ばす。魔法が終われば、わずかでも呼吸することができるはずだ。


「く、クノヤロー!」


 その間も俺も落ち続けている! 


 あー、もう片手しかないのは不便だ!


「【集束・倍】!」


 俺は自身の足元に魔法を使う。さすがにすべての砂が…とはいかないが、周囲の砂が集まろうとしている。

 そして、俺の下に砂が集まることで、若干俺の落下速度が落ちた。

 これは魔法による副次効果みたいなもので、物理法則よりも魔法の効果の方が優先されるからだ。


「もう少し! 頑張れ、俺!」

 

 思いつく限りの魔法を使う。こういう時、回数制限ないのはありがたいと本当に思う。


 そうして、砂山の上に、半ば埋もれるように着地した。

 これでもし真下まで落ちてたら砂の重みで這い上がることは難しかっただろう。


 しかし何よりも役立ったのは【浮揚】だ。これは本人の周囲の空気に対して効果が発揮すると思い込んでいたが、どうやら本人の周囲の環境…今回は砂の中だったが、それに対して【浮揚】を与えるらしい。つまり砂の上に浮かぼうとするわけだ。

 流れる砂相手だとそこまで効果はなかったかもだが、そこは俺自身の体重も軽いことも幸いしたかも知れない。


「ジョシュアは…」


 どうやら無事のようだ。俺と同じく半ば埋もれてしまっているが、息をしているならいい。砂がクッションとなったのも良かった。


 サトゥーザたちも無事だ。落ちる直前に一気に聖技で逃げたんだろう。正しい判断だな。


 そして城の人たち…砂化したのは上からだった。震動があってから、全部が崩れるまでには多少の間があったから、気づいて逃げ出せたとは思うが。


 あー、そうだ。俺が酩酊かけたのや、グルグル巻きにしたのもいたわ。


 クソ。埋もれていたとしたら早く救いださないと窒息するな。


「…【抽出】じゃ…無理か」


 生物を引き上げることは…いや、【倍加】したらどうなるんだ?


「…【集音・倍】、【調整】」


 城跡地全体に【集音】の範囲を拡げる。

 魔力の検知だけじゃない、本来は周囲の音を集める効果がある。それを強めれば、呻き声、藻掻く音などを拾い集められる。

 【調整】を使ったのは、近くの音と遠くの音の差違を無くすためだ。


「たぶん…できる。【解析・倍】」


 何を【解析】するのか…それは“音”だ。それが何の音なのか、どの辺りから聞こえているのか、【倍加】によって検出する。


 頭の奥が悲鳴を上げてる気がする。魔力がかなり減っている(値0のはずなのに不思議だ)。

 だが、俺の予想通りに砂の中に埋もれている何人かを見つけた。


「【抽出・倍】!」


 いま俺のやろうとしていることは、実に無茶苦茶なことだ。

 

 対象は“砂以外”…俺の認識範囲は拡げているので、俺が聞こえる範囲に【抽出】自体の効果はかかる。

 基本的にこの魔法は対生物用じゃない。服、装飾品…なんでもいい。人間ごと【抽出】してくれ!


「【倍加】!」


 すでに【倍加】させた魔法に、さらに【倍加】をかける。


 複合魔法ならば、間違いなく効果があった。    

 しかし、単一の魔法に連続してそんなことが可能なのかどうかは知らない。


 今までやったこともない。


 意識が拡大し、引き起こしたい出来事を鮮明にイメージする。


 感覚的に、俺の中で何かが物凄く失われていっている気がする。


 今まで感じたことがない魔力の損耗だ。


 しかし、同時に“できる”という感覚も生じる。


 そうだ。細かな部分は【調整】に任せてしまえばいい。


 そして多くの埋もれていた人々の頭が、砂中から飛び出した。


 俺が【酩酊】させたのも含め、逃げ遅れた人たちだ。


「…カダベル」


 涙目になったジョシュアが、信じられないものでも見るかのような顔をしていた。


「…この国の騎士たちが来る。協力して彼らを救うんだ。弱きを助けるのが聖騎士ってもんだろ」


「お、お前は…」


「まだやることがある」


 俺はヨロヨロと立ち上がる。


 そして中空に浮かび、ゆっくりと降りてくる魔女と星型の城を見やった。



「…何をしたの?」


「なに、しょぼい魔法で人助けさ」


「ふざけてんの? そんな魔法は見たことも聞いたこともないわ」


「俺は死者を甦らせる魔法士だぞ。魔女が使えない魔法だって使えるとは思わないか?」


 まだ興味を惹けるかと思ったが、そうは上手くいかないな。ジュエルの反応は薄い。


 城を壊したことで覚悟が決まったんだろう。


 “俺を処分する”…ってな。


「…もうオシマイ。消えろ」


「あいにくと、“はい。そうですか”…とはいかないね」


「もう話さない。死ね!」


 真正面からの攻撃…って、特攻してくんのかよ!


「【魔剣生成】!」


 突如として、魔女の手に禍々しい剣が現出する。


 魔力の剣? いや、何かしらの物質を瞬時に剣の形に構築しただけか。


「キミみたいなのには魔法を使わせない! 直接叩く!」


 ああ、少しは考えているのか。それはまあ間違いでもないな。


「だけど、俺も接近戦は不得手じゃないんだよね!」


 片腕だが、それでもジュエルの一撃を受け止める!

 ぶつかる瞬間に、【軽化】や【倍加】を使ったバフ・デバフも使ってだ。だいぶ練習したんで上手くいかないはずもない。


「生意気だよ!」


 魔女は剣が得意ってありかよ…とは思うが、正直、聖騎士団長クラスではない。俺とどっこいどっこいといったところだ。


「なんで対応できるんだよッ!?」


 空中移動による遠心力を利用した一撃。普通の剣士なら対応は難しいかも知れない。


 ああ、イグニストとの訓練がかなり役立っている……




──




「なかなか上達しない!」


 訓練の最中、俺はイグニストに向かってそう叫んだ。


「そうかね?」


「そうだとも!」


 元々筋肉なんてないんだ。こんなことをやって何になるんだという思いがあった。


「フム。ムッシュは自分の強さの利点についてまだ気付いていないようだ。それは右…」


「右? うおッ!?」


 いきなりイグニストに左下から斬り上げられて、俺は慌ててそれを受け止める。


「危ねぇじゃないか! 何するだぁ!?」


「…今のは死角から斬り込んだつもりだったのだがね」


 イグニストはヒゲを撫でて笑う。

 確かに右と言われて振り向いてしまい、その隙を狙って、左下から(・・・・)斬り掛かられたのだ。


「ムッシュはまず視野が広い。対峙した感じでは、軽く200度以上…それも盲点がなく、中心視も周辺視も同じように視えているのでは?」


 イグニストが剣先をゆっくり動かす。


 俺はつい目線を動かして剣先を追っているつもりになるが、別にそんな必要もなく、目の端の方になっても形がハッキリと視える。

 常にワイドビジョンで周りを観ている感じに近い。


「…動体視力と空間認知もズバ抜けていて、何よりも“まばたき”をする必要がない」


 イグニストは足元にあった小石を剣先で弾き飛ばしてくるが、俺は容易くそれを避ける。


「……この時点で、並の剣士を遥かに凌駕しているのだよ。それに、つけ加え!!」


 イグニストが電光石火のように切り込んでくる!


 突き、斬り、払い。ありとあらゆる攻撃を、俺は必死で受け止める。


 かなりの時間応酬を続け、ようやくの事で、イグニストは髪を掻き上げつつ、口から熱い息をブフーッと吐き出す。


「…ヴァンパイアだけでなく、ヒューマンであっても、今ので通常は息切れするはずだ。ムッシュにはそれがない」 


「…なるほど」

 

 確かに俺は疲労とは無縁だ。呼吸による新陳代謝はないし、乳酸菌も溜まることはない。筋肉疲労なんてしないのだ。


「いまの連撃は本気だった。そに完璧に反応するとは、明らかに神経伝達速度を越えた動きだよ。…これで弱いとは言わせられんねぇ」


 俺の動作は神経や筋肉によるものじゃない。イグニストの言う通りだ。


「ムッシュは“人間として動く癖”があるようだ。それを除く訓練…それだけで充分に強くなれるのだよ。

 剣士や戦士になるわけではないのだから、優れた技術や動作は必要ないものなのさ。フフン」




──



 

 俺が騎士として訓練してきたジョシュアや、あのサトゥーザの攻撃を何とか避け続けて来られたのは、間違いなく師匠(イグニスト)のお陰だ。


「ムカつく! ムカつく!! ムカつく!!!」


 力任せの一撃なんて、幾らでも受け流せる。


 【対魔法】でも使われるならともかく、こっちの魔法に抵抗する様でもない。


 しかし剣と杖で殴り合いの応酬を繰り広げるって、どう考えても魔女と魔法士(正確には魔法研究者だが)の戦いには見えないわな。


「【牽引・倍】!」


 残った柱や壁を利用して飛び回る。


 魔女の魔法による破壊は、城の真ん中を中心とした場所に限定されていた。周囲の塔の幾つかは生き残っている。


「…だけど、同じような規模の魔法を連発できるって考えてた方がいいよな」


 今はなんとかやり合えている…そういう風に見えるだけだ。


 実際はそうじゃない。


 勝ち目はまずない。


 勝つためのビジョンがまったく視えて来ない。


 俺は腰の魔力測定機をチラリと見やる。


 もしかしたら測定結果の見間違えだったのではないかということを期待して…


 しかし、測った数値に変化はまるでなかった。


「……はぁ。魔力値“1,200,000”ってなんなんだよ。異次元すぎんだろ。チートすぎんよ、魔女。どうすんだよ、こんなの」




──




「俺の城が…消えた」


 城が一瞬にして倒壊した。  


 まだ戦争ができる…そんな風に喜び勇んで戻ってきた国王ゼロサムは、あんぐりと口を開く。


「バックドロッパー!」


「わ、私にも何が起きたのか…」


「これも屍従王の仕業だと言うのか!!」


「それは違います!」


 馬で近づくヴァンパイアの一団を見て、ゼロサムは眼を細める。


「ディカッター卿…なぜ?」


 ゼロサムは少し警戒の色を示す。ジュエルからは一部の貴族には用心するように言われていたからだ。

 …もちろんゼロサムにそんな器用な真似はできない。だから全貴族に用心していた。


「コウモリから王都の危機を知り、遅ればせながら馳せ参じた次第です」


「しかし、貴卿のコウモリらが、屍従王に使役されておるのを…」


 バックドロッパーがそう言いかけるのを、ゼロサムは手刀を落して止める。


「そんな話は今はいい! 城を崩したのは屍従王の仕業ではない…さっきそう言ったのか? ルフェルニ」


「はい。ゼロサム王。あんなことができるのはひとりだけ…それは何よりも王が知っておられる存在のはず」


「…魔女か」


 ゼロサムは頭が良くない。それでも魔女の強大な力だけは理解していた。

 自分がまだ王子であった頃から、すでに魔女はこの国の裏側にいたのだ。そしてそれが当たり前の事と思っていた。


「魔女ジュエルと屍従王カダベルが争っています。この双方は間違いなく、この王国にとって仇為す存在…」


「卿。失礼は承知で質問しても良いか?」


「構いません。バックドロッパー卿」


「いったい貴卿はどういう立ち位置なのだ? 屍従王に従う…いや、従わされておったのではないのか?」


 サリミュリュークを含む貴族の領地の一部が屍従王に懐柔された…そんな噂話をバックドロッパーも聞いていたのである。


「……屍従王を焚きつけたのは、他でもならぬ私です」


「なッ!! そ、それは叛逆ではないかッ!!」


「…毒を制するには毒を以てということです」


「わかりやすく言え! 小難しく言うな!」


 ゼロサムが激高する。


「つまり、屍従王を利用すれば、あの魔女を倒せるとそう思ったのです」


「なるほど!」


 王が即答したのに、バックドロッパーは頭を抱えた。


「私だけではありません。ラモウット、チャンバレー、ポッティも私兵を集め、王都救援に向かっている最中です」


「は? 勝手にそんなことを…。貴卿は何を言って…」


「これは魔女と屍従王をすべからく討つためにです!」


「…なんだと?」


「そうか! わかった!」


 ゼロサムが思慮することもなく頷いたのを見て、ルフェルニは少し意外そうにした。


「王! まさか魔女を敵に…」


 バックドロッパーの顔が真っ青になる。


「どんな事情があるにせよ、城を破壊したのは大罪だろう! 罪には罰を! それが我が国の在り方だ!!」


 ゼロサムは迷いなくそう告げる。


「魔女も屍従王も討つ! それでいいのか!? 間違いないか!? ルフェルニ!」


「は、はい」

 

 こう上手くいくとは思っていなかったルフェルニは震える手を握りしめる。


 屍従王を悪役に据える話は、貴族間で口裏を合わせる予定だった。


 しかし、あの魔女を敵だとまで認識させるのは難しいと考えていたのだ。

 せめて魔女の影響力を弱体化できればいい…王に疑念を懐かせるだけでも意味はあるとルフェルニは消極的に考えていた。


 だが、カダベルは「いくら馬鹿でも、国を思う王なら、尻に火がつきゃ考えるんじゃね」と言っていたのである。


(カダベル殿はそこまで考えて…)


 勝てる算段はあると言っていた。しかし、魔女相手にどうするのか…ルフェルニはそこまで聞かせてもらってはいない。


「城の者たちの救助を優先しつつ、魔女と屍従王を同時に攻撃する!!」


「ほ、本当に良いのですか…王?」


「降伏するなら受け入れる! そうでないなら倒す! 魔女ジュエルが味方ならば、倒すのは屍従王だけだ!!」


 ゼロサムの態度が、割り切りが良いのとは違うような気がしてルフェルニは眉を寄せる。

 

「…陛下は魔女を信頼していたのでは?」


「信頼? そんなものはないぞ!」


「では…」


「父王が言っていたからだ。魔女は“ことわり”であると…」


「理? それは…」


「知らん! だが、これはギアナードに秩序をもたらすものではない!」


 ゼロサムは剣を城跡の中へと向ける。そこでは魔法の光が激しくぶつかり合っているのが見えた。


「し、しかし、王…」


「バックドロッパー! 見ろ! あれがギアナードの栄えある未来なのか!?」


「は? い、いえ…」


「ここで決断しろ! バックドロッパー将軍! お前は誰の下に付くのだ!? 俺か!? 魔女か!?」


 バックドロッパーは唇を噛み、その場に膝を付く。


「ギアナード王! 私めは、ゼロサム・ウィンガルム陛下の配下であります!」


「そうだ! それでいい!」


 ゼロサムがルフェルニを見やって、ニヤリと笑う。


「全軍突入! ギアナードに仇なす者を誅す! それが王国騎士団の勤めだ!!」


 ルフェルニもバックドロッパーも、そして全兵士たちが、その王の命令に従い呼応したのであった……。

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[一言] フリーザ様みたいなインフレしてるぅ 王都ごと吹き飛ばせるんじゃないのこいつ…
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