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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
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092 連続爆発

 魔蓄石の小型化を目指すのに際し、俺はまず魔法を込めた石を、「どこまで小さくしたら魔法が消失するのか」の実験を行った。


 普通の考えであれば、魔蓄石を割った時点で効力を失う。“壊れた”のだから使えないのは当然だ。


 しかし、砕いた魔蓄石に【解析】をかけてみたところ面白いことがわかった。


 例えば【発打】を込めたとして、それが半分になろうと、四分の一になろうと、粉々になろうとも、小石サイズまでだったら魔法が込められたままの状態にあったのだ。


 もちろん、これは魔蓄石の発動時に砕けてしまった場合は別だ。魔法を放出してしまった衝撃で砕けるから、その場合は魔法が失われてしまうわけで、【接合】と【調整】で元の形に戻すことで再利用……魔法を込め直すことができる。


 だから、発動していない状態なら、魔法を入れたものが欠片になったとしても、その破片ひとつひとつに【発打】が込められているというわけだ。


 そして、これがまた魔法の不思議なところで、仮に石が半分になったとしても魔法としての効力そのものは損なわれない。砕く前の大きな魔蓄石でも、欠片となった小さくなった魔蓄石でも、魔法の効果は同一なのだ。


 これは魔力によって、魔法の強さ変化が生じたりしないことを知っていればさほど驚く点ではない。


 魔法の種類によっては例外もあるが、基本的に魔力の大小は魔法の効果に直結しない。


 俺が【発打】を使うのと、魔女時のジュエルが仮に【発打】を使えたとして、魔力量には相当な差はあるが、【発打】の威力そのものは変わらない。ドアをノックする程度の力という結果自体には変化はない。


 威力を変化させるのは魔力ではなく、当人の魔法理解度が増して使い方に変化を生じさせるか、または【倍加】を使う他ない。


 だからこそ、俺は“魔力そのものを攻撃手段”とする方法を模索していたのだ。


 さて、話を元に戻すと、ひとつの魔蓄石も砕いた魔蓄石も魔法効果が変わらないのであれば、【大火球】の入った魔蓄石を砕いて、欠片にすれば量産可能じゃないかと思うのだが、そこはそうは上手くいかないのだ。


 というのは、魔法を発せず砕けた魔蓄石は、“発動条件を満たせなくなる”という制限が掛かるようなのだ。


 魔蓄石の発動条件がなにかと言えば、それはずばり魔力だ。


 魔蓄石を魔力を与える刺激で、込められた魔法が発動される。


 だから、魔法について知識がないと使えないというのは、“魔力を扱うセンス”のことを言っているのである。


 そして、魔法のセンスにかけては抜群の俺でも、この“発動条件”を満たす方法が思いつかないでいたんだが──




──




 俺は魔蓄石の欠片の入った瓶を手に握り込む。


「ライゲイス。もう一度、『(バースト)』を使え」


 訝しそうにしていたライゲイスだったが、俺が確信めいた顔で言うと何も聞かずに頷く。


 もしただ聖技を使っても、ドラゴンは再び反撃に土石流を浴びせてくるだろう。


 ライゲイスもフェルトマンもまだ魔力には余裕があるが、ドラゴンは滞空中に魔力が回復する。


 こちらは活動しつつ魔力を回復することなどない。体力と同じでちゃんと休息しなければ魔力は回復しない。


 さっきの速度を考えると、こちらは馬車を一台失った状態で、かつ逃げ切るのは難しい。


 逃げている最中に後ろから魔力圧縮砲でも撃たれたら……


 ん? そういや、そもそも、なんでこのドラゴンは襲ってきたんだ?


 何が目的なんだ?


 もし本能的に俺たちを襲って来たのなら、どうしてわざわざ姿を現してから圧縮砲を放った?


 どう考えても、不意打ちでやればいいじゃないか……?


「オイ! やるぞ!! いいんだな!?」


「あ、ああ」


 なんだ。俺は何かを見落としている気がする。


 だが、時間は待ってはくれない。


 ライゲイスがさっきのように走り出し、聖騎士たちが弓に矢をつがえる。

 

 俺の耳にロリーの声が聞こえた気がした。【集音】は……あのドラゴンがいる限り使えんな。


 ドラゴンは動かない。さっき痛手を喰らった技を放とうとしているのに、普通に空を漂うだけだ。


 セイラー以上に、ヤツの表情は読み取れない。生物として違いすぎるし、もしかしたら俺たちとはまったく違う精神構造をしているのかも知れない。


 考えるだけ無駄か……


「ドラゴン!! さっきはよくもやってくれたな! お返しだ!! ここでライゲイス・シルバが討ち取ってやるぜ!! 聖技(ルク)(バースト)』!」


 ライゲイスに合わせ、聖騎士たちが矢を放ち、俺も瓶を放り投げる。


「【発打・倍】!」


 俺は杖先から魔法を放つ。


 瓶底を目掛け、割れるちょうどよい角度を狙う。


 やはり俺が予想していたように、ライゲイスの放った聖技を目掛け、矢と魔蓄石の破片といった投擲物は引き寄せられるように翔んでいく。


 そして、弓も破片も光りを放ちながら爆発する!


 だが、先程と違うのは破片が爆発する規模だ。


 まるで絨毯爆撃でも仕掛けたような連続爆発が次から次へと巻き起こる。


 ドラゴンは悲鳴を上げることもできず、爆風に煽られて右往左往していた。


 その爆発のあまりの衝撃に、ライゲイスが仰向けにひっくり返り、聖騎士たちは呆気にとられている。


「な、なんだこりゃ!?」


「やはりな。“強制的に爆発をもたらす”って効果なのね。ランク5にそんな魔法があったような……聖技と聖撃は興味深い研究対象になりそうだな」


 これで確信した。聖技や聖撃は間違いなく魔法だ。他者に魔法効果を貸与させるってものに間違いない。


「オイ! こりゃどういうことだ!? 手前が投げたもンは一体なンなンだ!?」


「うん? ああ、魔蓄石の破片だよ。【極炎球】の失敗作を砕いたものさ」


「アァン? そンな魔法は聞いたこともねぇが…。だが、失敗作なのにこの威力なのか?」


「いや、威力はかなり減衰しているね。俺が考えていたんだと、ドラゴンは跡形もなく吹っ飛ぶはずだったんだが…」

 

 ライゲイスは眼を丸くする。


 魔蓄石に込められた魔法の効果は変わらないが、複合魔法だけは違う。


 しかし、発動した魔法の連携で威力を高めているわけだから、魔蓄石に込めた魔法の発動するタイミングがズレるだけでも大幅に威力が弱まる。


 ましてや爆発させるという無理やりな発動方法だったわけだ。


 【極炎球】自体は爆発するって魔法じゃないし、爆発を後押しする温度と圧力を増す力はあっても、相乗効果としてはイマイチなんだろう。


「手前……いったいどンだけの隠し玉があんだよ?」


「隠し玉ってほどじゃないよ。俺自身だけじゃ使いようがなかったものだし…」


 それに勝利は確定したわけじゃない。


 深手は与えたが、これで退いてくれなければ次の手を考え…



「カダベル様! 人ですッ!!」



 爆音に掻き消されていたロリーの声が、突如として俺の耳に飛び込んで来た。


「人…?」


 空中でのたうち回るドラゴンの頭から、何かが飛び降りて来た。


「ライゲイスッ!」


「わーってる!」


 敵であることは間違いない。ライゲイスは迎撃のために槍斧を構えるが──



「ファーンッ!!!」



 ドラゴンの眼が光り、衝撃波のようなものがライゲイスを襲う。


「オ…オオッ?!」


「ライゲイスッ!!」


 こんなものに怯むライゲイスではない。だが、ほんの一瞬だけ揺らいだ。


 飛び降りて来た真っ白な衣服を纏った人物が、なぜかその手にした大鎌のようなものを何もないところで振る。


「はァ?! 舐めンじゃねぇぞ!! 聖撃『天護突穿(ヘブンズ・パース)』!」


 ライゲイスはすぐに立て直すと、すぐさま聖撃を放つ!


 彼の身体が金色に輝き、突き出した槍斧までが眩く発光する。


 そして一直線に敵に向かって突進する。おそらく、防御を強化しつつ最大の一撃をお見舞いするという技なんだろう。


 しかし、飛び降りて来た人物に焦った様子はない。大鎌を片肩に掛けたまま、白い手袋を前に突き出したかと思うとパチンと指を弾く。


「……『祝福喪失ブレッシング・ロスト』」


 それだけで、ライゲイスの纏っていた光が消失してしまう。


「なに!? “加護”が…消えただとォ?」


 ライゲイスは眼を見開いて驚く。


「て、手前ッ…!?」


 再度、体勢を立て直そうとしたライゲイスだったが、いつの間にか大鎌の刃は彼の首筋に当てられていて……



 次の瞬間、ライゲイスの頭が宙を舞った。



 白服は地面に静かに着地すると、跳ねるようにしてライゲイスの胴体から距離を取った。

 

 頭部を失ったライゲイスの胴体はゆっくり前のめりに倒れ、血飛沫の飛散する中、しゃがんでいる白服が、口元を覆ったマスク越しにもわかる笑みを浮かべていた。


「……アーハハッ。ザンネンでした」


 そいつは俺を見据えたまま、甲高い声でそう呟いてみせたのだった。

 

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