66.帰路
「アルベルト王子はどういったお方なのか、お父様はご存じですか?」
無事にとは言えないものの顔合わせが終わり、今日は屋敷に戻ることになった。その馬車の中でお父様にアルベルト王子について尋ねてみる。知っていたとして私に伝えていなかったと言うことは、何かしら理由があるのかもしれないのだけれど、今後顔を合わせる中で変に地雷を踏み抜かないためにも聞いておいた方が良いようにおもったのだ。
お父様は私の言葉を聞いて少し動きを止めたかと思うと、鋭い視線を向けてきた。
「どうしてそれが知りたい?」
「アルベルト王子が余りにも年相応に見えたからです。王族であればすでにある程度教育をされていると思います。だとしたら、いくら私の噂を知っていたといってもあのような行動にはでないのではないでしょうか。そこに何かしらの理由があったのではないかと思いまして」
ティアンのことは贔屓目だとしても、アルベルト王子は王族としてみるにはあまりにも教育が行き届いていないと思う。王族である以上、今後自由がなくなるために一定の年齢になるまではあまり教育はせずにのびのび成長してもらうスタイルかもしれないから、そうだった場合にはまた話が別だけれど、そういう方針だということを知っていればアルベルト王子との関わり方のヒントにはなるだろう。
「理由か……そうだな。こうなってしまった以上、話しておいた方がいいだろう。アルベルト殿下は王妃殿下の子供ではない」
「それは一体……?」
いや言葉の意味はわかるけれど、今日あった陛下が不倫をするようには見えなかったので、驚いてしまった。メイドに手を出して……とかは、確かに物語にはあるかもしれない。そんな下世話なことを考えてしまっていると、お父様が続ける。
「アルベルト殿下は側室――亡くなった第二王妃の子になる」
「第二王妃殿下……お亡くなりになったのですか……」
「ああ、元々身体が強くはなかったのだが、殿下を出産なされてから体調を崩されそのまま……だな」
「それは……何と言っていいのか」
思ったよりも重たい理由に言葉を失ってしまう。そうだとしたら、あの態度も仕方がないのかなと思う。生まれて長くても数年で母親を亡くしているのだから。しかも父親である陛下が、どれほどアルベルト殿下に構ってあげることができたのかもわからない。
父親なのだから……と考えてしまうのは前世の記憶があるからで、第二王妃の子であるアルベルト王子にばかり構ってしまうと正室はよく思わないだろうし、王位継承権について周りに邪推されかねない。
「だが決して悪い境遇だったとは言い難い。正室と側室それぞれの殿下は仲が良いことで有名だったからな。正室は友人の忘れ形見として、アルベルト殿下を気にかけているらしい。あとはアルベルト殿下の心しだいといった状況だな」
「わかりました。お答えいただきありがとうございます」
ここまでくると複雑すぎて、私が何かすることもはばかられる。むしろ好感度がマイナスの私が王子に何かいったところで、逆効果にしかならないだろう。お父様としてはこの話をすることで、私がアルベルト王子に変に同情することを避けたかったのかもしれない。
ただ悪い見方をすれば、そんな複雑な家庭環境に私を巻き込んだのだから、私が何かを配慮するというのはどうだろうか、という考え方もできる。何にしても大切なのは優先順位。私は王子よりもリンドロースの方が大切だし、その次に私の命が大事。
王子のことを考えるのはその次。そのために私がやるべきことは、まずは様子をうかがうこと。王妃殿下とアルベルト王子がどのような関係なのか、王妃様が実際にはどう思っているのか、何かするにしてもそれを知ってからで、そのまま何もしないかもしれない。
ひとまず指針ができたので、お父様に話を聞いて良かったと思う。途中勝手な想像をしてしまった陛下には申し訳なく、心の中で何度でも謝るけれど。でも第二王妃や第二夫人を考えられない国にいたのだから許してほしい。
「一つ言っておく」
「何でしょうか?」
「今回の件は、あまり他言しないように」
「承知いたしました」
「それでもいつかは広まってしまうだろうが、何か尋ねられても変に隠さずある程度は事実を話してもかまわない」
ある程度広まる想定だから話してもいいということだろうか? いつまでも隠し通せるタイプの話ではないし、私の身を守るうえでもむやみに話さないようにしたいと思う。
それから二人の王妃殿下がどれくらい仲が良かったのかとか聞きたくはあったけれど、馬車が屋敷についたので話はここで中断せざるを得なかった。





