第五十話 ミッドウェーを巡る戦い(6)
ミッドウェー基地航空隊が山本艦隊を襲撃し、その帰路についた頃、南雲機動部隊から飛び立ったミッドウェー攻撃隊がミッドウェー上空へと到達していた。
攻撃総隊長である淵田を乗せた誘導兼指揮官機の彩雲1機、それに付随するのは烈風24機、彗星12機、流星44機、零戦40機、九九艦爆24機、九七艦攻84機、計229機にも及ぶ攻撃隊はインド洋海戦における航空隊に近い戦力を誇る。
赤城、加賀、蒼龍、飛龍という主力空母4隻を失ったにも関わらず、その戦力の喪失を慶鳳と寧鳳は埋めるに近い能力を発揮していた。
敵艦隊ではなく飛行場の破壊が主目標であるこの攻撃隊は爆装した艦攻を主力に編成されており、水平爆撃にて滑走路や航空基地能力を破壊するために編成されていた。
ミッドウェーまで残り40kmほどまで接近した所で上空待機していた偵察の彩雲が攻撃隊とすれ違う。
「敵は戦闘機を30機ほど残しています。離脱する際に離陸する敵機が見えました。現在直掩のため上空待機していると考えられます。」
「承知した。」
無線通信による連絡、道中撃墜したもののPBYと遭遇しており直掩が待機していることは容易に想像できていた。
既にミッドウェーが見え始めている、だが直掩までは視認できていなかった。
「烈風隊は高度5,000まで上昇、零戦隊は攻撃隊の護衛に努めよ。」
攻撃隊の高度は4,000m、烈風は淵田の命令を受け高度を上げ始める。
エンジン出力を上げながら上昇する烈風隊は攻撃隊の巡航に遅れること無く高度を上げきってしまった。
「敵直掩を発見、同高度。こちらへ向かってきています。」
高度を上げた烈風から報告が入る、それは第一航空戦隊へと異動となった岩本隊からのものであった。
つまり精鋭集団で編成される第一航空戦隊の烈風のうち、今回攻撃隊に編成されている慶鳳所属の烈風12機は岩本徹三が率いる、大日本帝国海軍どころか、文字通り世界最強の戦闘機部隊であった。
「烈風は敵直掩部隊と戦闘!本隊はこのままミッドウェーへ直行する!」
無線で攻撃隊全体に命令を下す。
「了解、烈風隊増速します。」
淵田は上を向くと、烈風が速度を上げていた。
一瞬で攻撃隊を置いてきぼりにしていく。
双眼鏡越しに眺めていると、烈風らは増槽を投下し、ロール、そして急降下を始めた。
それに対してF2Aは回避機動を行い対応をする。
腐っても単発戦闘機、近代化されたあとの機体であり20機のF2Aで数機は落とし、数分は持ちこたえるかもしれないと淵田すら考えていた。
だがそれは搭乗員、そして烈風を過剰に低く評価していることの表れとなって完結する。
「な・・・!」
言葉すら出ない淵田、同じく操縦手も言葉を失っている。
虐殺と表すことすらできる一幕、高速で突っ込んだ烈風は回避するF2Aに容易に喰らいつき、一度の一撃離脱で半数以上を落としていた
高速域でも強制的にロールを行える烈風は容易に照準を合わせ、二号銃4丁の圧倒的な火力は射線に捉えただけで機体を粉砕した。
そして烈風は一撃離脱後ある程度の距離を取ると反転し、更に一撃離脱を繰り出す。
それに対応する術を一切持たないF2Aは烈風を一機も落とすことなく、わずか3分ほどの戦闘で全滅していた。
攻撃隊が戦闘空域を通り過ぎたころには、F2Aの姿は無く、パラシュートを開いたアメリカ兵だけがそこには居た。
なんの障害もなく進むことが出来た攻撃隊の周りにはミッドウェーの高射砲からの対空砲火があがるも、精度も悪い、数も少ないそんなものは大した脅威ではなかった。
「艦攻隊飛行場上空へ到達、全機投弾準備完了。」
「各機目標へ爆弾投下!戦闘機隊は帰還してくる敵攻撃隊を警戒しろ!攻撃終了機から順次撤退!」
流星を操る艦攻隊隊長の村田の報告を受け淵田は部隊に指示を出す、その後次々と流星、九七艦攻から大量の爆弾が投下され始めた。
主目標は飛行場のあるイースタン島であった、攻撃隊の主力である雷撃機128機は滑走路や格納庫、燃料タンクなど航空基地本体に爆弾をばらまき、急降下爆撃機36機は高射砲や沿岸砲台、戦車などを目標に突撃していく。
これほどまでに一方的な攻撃は真珠湾攻撃以来だろうか、あの時と同じように島は抵抗する力をほとんど持たず、ただ一方的に攻撃されるばかりである。
一瞬にしてイースタン島全域が黒煙に包まれ、滑走路は破壊されつくす。
即座に攻撃を終了した部隊は引き返し、艦隊へと進路を取った。
「我々はどうしますか?まだ燃料には余裕がありますが。」
零戦隊から無線が入る、増槽を捨てたばかりの零戦はまだ機体のタンクに一杯のガソリンを残していた。
滑走路の状況を眺める限り到底発着を行えるものではなく、復旧には相当な時間が必要であることは明らかであった。
それでも少しの修復で無理やりにでも飛ばそうとすれば再び攻撃を仕掛けられる可能性も十二分にある、だが淵田は少し悩んだ末に戦闘機隊も撤退させることを選んだ。
「いや、必要ないだろう。偵察情報から逆算すると戦闘機の主力は山本艦隊の攻撃へ参加していたと思われるし、どのみち二度と飛び立てない相手と戦闘する利点が無い。・・・なんだか嫌な予感がするし、一応皆で帰ろう。」
「はっ!」
淵田機も攻撃結果を撮影し終えると攻撃隊に合流し、帰路へと就く。
淵田は先の予感が何かを考えていた、思い出したのはインド洋海戦の時であった。
存在しないと思っていた空母部隊の奇襲によって赤城、加賀を大破させられ、蒼龍と飛龍を失った。
あの時と同じく、今回ももし自分たちが気付いていない部隊が存在していたとしたら?
淵田は万が一にもということを考え、やはり戦闘機を帰還させた方が良いだろうと思った。
そしてその予感は的中することとなる。
※同時刻 ミッドウェー島
日本軍による攻撃は止んだ。
一方的な攻撃を受けているときというのは無限にも長く感じるものかと思っていたが、あまりにも一瞬の出来事であった。
司令部の地下壕に避難していたハルゼーは他の士官らと共に地上へと上がると、そこは地獄絵図・・・という訳でもなかった。
確かに滑走路はことごとく破壊され、格納庫などもほとんどすべてが破壊されてしまった。
日本軍が来るまでに航空基地として再建することは不可能に近いだろう。
だが以外にも塹壕や地下壕に退避していた地上部隊は無傷に近く、高射砲陣地等にいた人員に死傷者が出ていたもののこれだけの空襲を受けていたと考えると人的被害は軽度と言えるものであった。
それでも航空基地としての機能を喪失したミッドウェーは最早防衛拠点としての価値を失い、ハルゼーもここまでかとつぶやいた。
「攻撃隊は最悪海岸部へ着水させても良い、どのみちこんな滑走路では着陸できないだろう。」
ハルゼーと共に地上に上がったシマ―ドは返事をした。
「分かりました。」
ハルゼーは消火作業に当たる兵士を見ながら、爆風で吹き飛ばされたテントの下から書類などを拾い集める。
「ああそうだ、通信が復旧したらフレッチャーに連絡したい。航空機輸送は中止だ。ミッドウェーがこうなってしまってはもう航空機を輸送する価値もない。クソ、あと3日遅ければあの戦力も使えたんだがな。」
「はっ、すぐに復旧作業をさせます。」
フランク・J・フレッチャー少将が指揮する第17任務部隊にはヨークタウン、ホーネットが所属しており、それぞれF6F、SB2C、TBFを満載してミッドウェーに輸送任務の為向かってきていた。
ハワイから出発し、既におおよその中間地点である東700kmほどの地点まで来ているはずであったが、最早必要のない戦力であった。
通信はすぐに復旧し、無線機の隣でフレッチャーとの通信を待つハルゼーであったが、復旧後フレッチャーからもたらされた報告はハルゼーの度肝を抜くものであった。
「なんだと!貴様独断で攻撃隊を発進させたのか?!」
ハルゼーが受けた報告、それはフレッチャーが輸送用として運んでいた艦載機を攻撃隊として南雲機動部隊に向けて放ったというものであった。
ミッドウェーまで700kmほど、通り越して西の南雲機動部隊に向かえば片道1,500km程、第17任務部隊は反転し真珠湾へ撤退しているところであり、航続距離的にも到底部隊が帰還できる作戦ではなかった。
「ミッドウェーが空襲を受けそうであるという情報を頂いた際、私の方でパイロットらに撤退することになるだろうと伝えました。ところがパイロットらは片道切符でも攻撃を行うと言って聞かないんです。ただここまで接近したのであれば、F6F、SB2Cであっても攻撃後我々母艦ではなく、風向き次第ではミッドウェーに向かえばギリギリで不時着出来るかもしれない。一応潜水艦も居ますから、救助も行える可能性はわずかにあります。」
「だからと言っても、あまりにも無謀すぎないか?」
「わかっています。ですが女神は我々に微笑んだと思いませんか?今、ミッドウェーを空襲した部隊が撤退している頃でしょう?我々の部隊は恐らく現在ミッドウェー南を通過しようとしている頃合い、偶然でしかありませんが先導隊が敵航空隊を発見したという報告も先ほど入りました。であれば着艦作業中に奇襲を仕掛けられる可能性もあります。」
「・・・始まったことは仕方がない。だが失敗に終われば貴様は最悪の作戦を立案したと後世で語り継がれるぞ。」
南雲機動部隊の攻撃隊を発見したPBYによる報告は同時にフレッチャーにも届けられていた、即座にフレッチャーは撤退することになるだろうと伝えたが、パイロットらは片道でも攻撃することを望んでいた。
「勿論承知の上です。」
フレッチャーも最初は反対していたが、パイロットらの熱量と、新型機と言えど量産が始まった今、部隊が抱えている数を失っても数週間で穴埋めできることなどから結局は輸送していた機体を攻撃に充てることにしたのである。
結果としてスプルーアンスがインド洋で行ったときのように奇襲を仕掛けられるかもしれない、勿論一回限りの自殺行為ともいえる作戦であった。
「そうか・・・ならばもう何も言うまい。成功を祈ることしかできん。」
だが既に発進した部隊は日本軍の機動部隊へと向かってしまった、であればハルゼーはただその攻撃が成功することを祈ることしかできなかった。
ミッドウェー攻撃隊が帰還するまでおよそ2時間、そして僅かに少し遅れてフレッチャーが放った攻撃隊がほぼ同じタイミングで南雲機動部隊へと到達することとなる。
ご閲覧いただき誠にありがとうございます。
おかげさまで50話まで来ました。
現在の構想では凡そストーリー全体で見た場合半ばは既に過ぎています、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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