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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
3章:異世界を望む少女はダンジョンに生きた
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2-5:オトモギンチョとけがないちーさん

 なんとなく気まずい雰囲気を引きずったまま、二人は荷物を拾って丘に登る。


 大きな岩がいくつも転がっている、緑のまばらな場所だ。それほど高地でもないが、見晴らしはいい。森が見える。川が流れている。向こうの山はここよりもずっと高い。


 他のプレイヤーたちもやってくる。登山みたく「こんにちはー」と声をかけられ、「……どうもー……」と目を合わせずに会釈する。


 背中に背負った三脚の機器を見るに、彼らはいわゆる測量プレイヤーだ。ダンジョン内の地図をつくることに心血を注いでいる。公式依頼のクエストで動く人もいれば、それを趣味や生きがいにしている奇特なプレイヤーもいるらしい。彼らがどちらなのかはわからない。

 ダンジョン暦九年現在、完成版の公式地図は六層まで公開されている。そう遠くないうちにこのフロアの地図もネットに上がることだろう。彼らのおかげだ。ありがたい。


「……あそこ、やっぱり窪地になってるな……」

「……自然にできたにしては綺麗すぎる円形だ、クレーターみたいだな……」


 双眼鏡片手にそんなことを話している。千影も目を凝らしてみる。確かに草原のど真ん中に、剥き出しになった円形の地面が見える。


「……周りに飛行系のクリーチャーはいないな。よし、ドローンを飛ばしてみよう……」


 高そうな機器をかちゃかちゃとやりだす。せっかくだからもう少し見ていたいが、ギンチョが心なしか手持ち無沙汰にしているので、「あっちのほう、行ってみようか」、指さした森のほうまで行ってみることにする。



 道中、二メートル前後の頂点捕食者と追いかけっこしているプレイヤーたちを見かける。ダチョウっぽかったりトカゲっぽかったり。ああいうやつらがいわゆる量産的なザコクリーチャーのようだ。


 複数人で追いかけている人たちもいれば、複数体に追われている人たちもいる。プレイヤーが多いので、こそこそしていればクリーチャーに絡まれずに済む。なるべく危険を避け、なけなしの存在感を消して目的地まで進んでいく。


 森の木々は黒だったり焦茶色だったり深緑だったり、暗い色が重なり合っている。ぎゃーぎゃーと鳥類を思わせる甲高い声がそこかしこから聞こえる。茂みが深く、歩くのは結構しんどい。ギンチョはなおさらだ。


 さっきからすれ違うプレイヤーたちにガン見されている。千影――というよりその後ろのギンチョが。


「……ちくしょう……悔しい……」

「……ずりい……あんな可愛いチビっこ連れて……」


 ギンチョの魅了スキルがこんな風に男性陣に作用するのは珍しい。


「俺も猫耳のオトモ連れて、ひと狩り行きたい!」

「誰か、猫耳つけた【ブラウニー】連れてこい! 【ネコマタ】でもいい!」


 そういうことか。別にオトモでもないんだけど。


 無駄に注目を浴びた上、森の中はぶっちゃけ割に合わなさそうな気がしている。

 さっき見かけたのと同じ、二足歩行のトカゲがうようよしている。それを狩ろうとするプレイヤーもうようよしている。


 ギンチョをその場に待機させ、試しに一体狩ってみようと思う。前方でちょっかいを出すプレイヤーを物色している一体に狙いを定め、足音を殺して後ろに回る。するとやつの頭がぴくっと動き、ぐるんとこちらを向く。気づかれた、意外に鋭い。


 トカゲが「ギャギャッ!」と警戒心を込めた声をあげる。逃げない、牙を剥いて低くうなっている。


 千影はベルトの右腰に下げた三本の筒のうち、一番手前を手にとる。左腰の暗水鋼――形状記憶液体金属で満たされたポーチに接続し、ずずっと引き抜く。筒の先には藍色の刃が生じている。ポーチ収納型武器〝えうれか〟、その新バージョンだ。


 一番手前は丈の短い鈍器だったが、ダンジョンでの使用頻度が他のとくらべて低すぎるので、村正製作所にメンテナンスに出したついでに形状を変えてもらった。刃渡り二十五センチ、肉厚のコンバットナイフだ。


 芦田よしきとの稽古以降、お土産屋の木刀を振り込んできた。その成果を試してみたいところだが、これだけ木々の密集した森では短い得物のほうが具合がいい。新武器を試す機会だ。


 ナイフを手に、やつに向けて一歩踏み出す。あれだ、小型恐竜のなんとかラプトル、あれに似てる。黒ラプトルと仮称しておく。


「キャ・キャ・キャ!」


 黒ラプトルが威嚇してくる。その血走った目が絶えず千影を見据えている。


 千影はじりじりと距離を詰める。やっぱり正面切っての戦闘は、いつになっても緊張する。動きを見る限り、大して強そうでもないけど。


 実際そのとおりになる。牙と爪は鋭くすばやいものの、それらを慎重にかいくぐり、顎の下にナイフを突き刺す。


「らあっ!」


 怯んだところに後ろから組みつき、外殻の隙間から後頭部にねじこむ。「ギィッ……」と短い断末魔とともに、黒ラプトルはあっけなく倒れて動かなくなる。


 千影は残心を解いて、手の甲で額の汗を拭う。

 ああ、緊張した。久々のガチンコ、久々の勝利。汗で背中までびっちょり。


 初めてのイベントクリーチャー討伐。だけど、特になにも起こらない。レアドロップの兆候――細胞自殺(アポトーシス)による死体融解も起こらない。レベルも上がりはしない。黒い恐竜もどきの死体と千影だけがぽつんと残される。


 まあ、わかってたけどね。

 おそらくこいつは、頂点捕食者の中でも一番ザコだ。森は大型のやつがのさばるほどのスペースもないし、こういう小型のザコがメインだと思われる。どちらかと言えば初級者向けの狩り場ということだ。


 まあいいか。怪我もしなかったし、ジャージが返り血でちょっと汚れた程度だ。コンバットナイフも試せたし。


 金になりそうなのは――爪や牙もそうだけど、特徴的なこの黒い外殻か。せっかくだから少し持って帰ろうか。


「ギンチョ、終わったよ。外殻を剥ぐから手伝って」


 木陰に隠れていたギンチョのところに戻る。彼女はまたしても落ち込んだ様子で木の幹をほじくっている。


「……おつかれさまでした……けがなくてよかったです……」

「ありがとう(怪我がないだよね?)」

「……ちーさんひとりでも……だいじょぶでしたね……」

「……終わったら、森出よっか」


 太陽の一つが北西の山脈の稜線近くまで迫っている。午後五時。他の場所を回っていると日が暮れるかもしれない。帰りのエレベーターも混みそうだ。


「……今日はもう帰ろっか」


 千影とギンチョチームの初冒険の成果まとめ。

 収穫は黒ラプトル(ザコ)の外殻が少し。損耗一万円。よくてプラマイゼロくらいか。

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