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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
2章:赤羽の英雄は主人公に向かない
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エピローグー6

 あの頃から自分は変わっただろうか。成長しただろうか。


 自分ではよくわからないけど、今でも「プレイヤーに向いていないんじゃないか」と自問することは結構ある。レベル4にまでなった今でも。


「……僕さ、ぎゅんっていうスキル、もう使えなくなったんだ」

「ほえ?」

「他のスキルで上書きしたんだ。前にも言ったと思うけど、スキルは一人につき一つしか習得できない。あのとき、エネヴォラ――黒の怪獣兄さんにぶおーんってやっただろ? あれを覚えるために、ぎゅんっのほうを捨てなきゃいけなかった」

「ぎゅんっにーさんから、ぶおーんにーさんになったんですね」

「なんかお笑い芸人みたいだな」


 【イグニス】はじゅうぶん強スキルだ。瞬間火力的には【ムゲン】よりも上だし、相性的にポルトガルマンモスももっと安全に倒せたかもしれない。というか、大事なのはどんなスキルでも使いようだ。そう思いたいけど――。


「まあ……ぎゅんっは黒怪獣を倒したら捨てるつもりだったから、それは別にいいんだけど。ていうか、いいと思ってたんだけど……」


 それを捨てたという選択を後悔してもしかたないし、実際捨てなければこうしていられなかった。それは事実だが、実際問題、あのスキルに頼っていたところがかなりあった。


 あるいは唯一のアイデンティティーというかプレイヤーとしての個性というか、今の自分にそういうものがほとんど残っていないように思えるのも事実だった。自分でも意外なことに、そういうのにしがみついている部分が思ったよりも大きかった。


 ありていに言えば、これから先【ムゲン】なしでプレイヤーとしてやっていけるか、不安になったわけだ。


 これ以上先に進むことができるのだろうか。〝ヘンジンセイ〟や直江のような、その身一つで未知に突き進むような本物のプレイヤーになれるだろうか。

 それともこの先もずっと、浅層でせこせこ稼ぐ〝職業プレイヤー〟としてやっていくのだろうか。


「僕はさ、どこまで行ってもヘタレで凡人で、本物の冒険? ってのがなかなかできなくて。黒が死んで、急いで強くなる動機もなくなって、ぎゅんっもなくなったから、なおさら深いところなんて怖くて行けないと思う。だから、このまま一人でプレイヤーを続けていけるのかなって」


 幼いギンチョにこんな話をしても難しいかもしれない。それでもちゃんと伝えなければいけないし、少しでも伝わればいいと思う。


「だけど、さっきギンチョが言ったよね。僕はどうしたいのかって。なにができるのかじゃなくて、なにがしたいのか。それを考えるとさ……僕はプレイヤーを続けたいって思ってるみたいなんだ」


 この一年半、何度も死ぬ思いをした。辛かったし痛かったし、悔しさでもんどり打つようなこともあった。それでもこんなにも「生きている」と思える、そんな職業が他にあるだろうか。


 自分のような地味なプレイヤーはカッコ悪いのかもしれない。この生きかたはきっと変えられない。

 それでも、それでいいんじゃないかと思う。誰になにを言われようと、自分がそうしたいと思うのなら。


「まあ、他になにができるかってのもわかんないし、他にとりえもないし、せっかくレベル4まで来たんだしって、言い訳はいろいろ考えられるけど。とりあえずもう少し、僕はプレイヤーを続けようって思ってる」


 とはいえ、この先はどうしても一人では限界がある。


 自分には織田や直江のような才能はない。【ムゲン】がなくなったことで、ここ一番の対応力が不足するし、もっとレベルを上げようにも中層、深層で粘れるだけの自信もない。


 先に進むなら、誰かとチームを組むしかなさそうだ。一人では限界があるのなら、相互に補えるチームをつくるしかない。まあ、自分のコミュニケーション能力でそれができるかどうかは別として。


「ギンチョ……ぶっちゃけ言うとさ……お前と一緒にいて、大変なことも多かったけど、むしろほとんどそうだったけど……でも楽しいって思えたのも事実だし、お前がたくさんがんばってるのも見てきたし……だから、その……僕も一緒に……いたいっていうか……」


 だからこれは――そのための一歩目だ。

 これ以上ないほどヘタレな口説き文句だけど、早川千影にとっては大きな一歩だ。


「ギンチョ……ポーターとして、もう一度チームを組んでほしい。また一緒にダンジョンに行ってほしい。僕が守るから……ていうか一緒にもっと強くなって、一緒にもうちょっとマシなプレイヤーにっていうか……えっと、どうかな……?」


 正直、この先どうなるのか想像もつかない。だから今は、考えるよりは先に進んでみよう。そういう考えかたは僕らしくないかもしれないけど。


 だけど。僕を信じてくれた、僕の背中を見ていてくれた、こんな僕を好きだと言ってくれたこの子と、まずは始めてみよう。


「おにーさん……あの……」


 じっとうつむいていたギンチョが顔を上げる。その頬がほんのり染まっている。


「なに?」

「……ズボンが、おまたのところ、やぶれてます……」


 あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ!!


 股下のところが一直線に裂けて、パンツがこんにちはしている。さっきの明智の【ピースメーカー】がかすめていたのか。


 ていうか、ていうか。このお股おっぴろげの状態で自分語りとか口説き文句とか言っていたわけか。なにが「一緒にダンジョンに行ってほしい(キリッ)」だ。なんて締まらない、なんて間抜けな早川千影的展開。黒歴史だ。末代までの恥だ。このまま病院のベッドでひっそりと余生をすごしたい。


 ギンチョはにゅふっと笑い、ずびっと鼻を鳴らす。千影の手を握り、それを自分の額に持っていく。


「ずっといっしょにいてくれるって、いいました」

「そ、そうだね(言ってない)」

「いっしょうせきにんとってくれるって、いいました」

「それは言ってないね(言ってない)」

「ちーさんってよんでいいですか? おにーさんだと、もしかしたらおよめにいけないです」

「さっきからなにを言ってるのかな?」


 千影の抗議を聞いているのかいないのか、あるいはこの子なりのジョークのつもりなのか。ギンチョはにひっと白い歯を見せて笑う。


「はう! あしをひっぱらないように、がんばります。よろしくおねがいします、ちーさん!」


 千影はギンチョの手を握り返す。その小さな手に、自分のすべてを懸けてこの子を守ろうという誓いを立てようとして、お股の開放感を思い出して今はやめておく。


次で2章は完結です。

よろしくお願いします。


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