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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
2章:赤羽の英雄は主人公に向かない
53/222

3-2:しょくしゅのこりこりかん

 七月五日、水曜日。


 クリーチャーズハウスと呼ばれるアクシデントがある。


 主に迷宮や洞窟などの密閉空間で構成された階層で発生する。少々広めの部屋などに入り込んだ際、足元の仕掛けを踏むなどをきっかけに、その空間に大量のクリーチャーがいっぺんに出現する。ダンジョン探索ゲームでお馴染みのアレだ。


 ダンジョンに数あるトラップの中でも危険性は特に高く、プレイヤーの殉職原因のトップテンに入るという推定データもある。


 うっかり踏んでしまった際のリスクが高いぶん、切り抜けられたときのリターンも大きい。通常のクリーチャーにまぎれて、シリンジなどのレアアイテムをドロップする可能性の高いレアなクリーチャーも高確率で出現するからだ。


 とりわけ三層エリア15は〝獣の巣窟〟と呼ばれ、クリーチャーズハウスの出現率が高くて有名だ。中世の神殿を思わせる巨大な構造物の中には無数の部屋があり、犬も歩けばクリーチャーズハウスに当たる。そこに入り浸るCHハンターと呼ばれる命知らずなプレイヤーもいるらしい。


「あのときのここは、マジでクリーチャーズハウスみたいなもんだったよ。クリーチャーズハウス見たことないけど」


 昼食のために立ち寄った〝キャンプ・セブン〟の屋台で、たまたま中野奥山のコンビと再会する。千影とギンチョがエリア3で水さらいをしていたときに出会った、レベル1プレイヤーの二人組だ。


「どこからともなくクリーチャーが突然湧いてきてさ――」黒髪ロン毛の奥山が興奮気味に言う。「この平和な場所が一気に戦場になったんだ。あのときはビビ……血が騒いだね」

「俺ら、レベル1になってだいぶ経つしさ」金髪の中野が髪をかきあげながら言う。「バイトしながらだから、なかなかレベル上がんなくて。だから塔の一階で修行しようとここに来たわけよ。それなりに危険だってのは知ってたけど、冒険に危険(リスク)はつきものだろ?」

「はあ」

「このキャンプはクリーチャーの湧かない安全地帯だって聞いてたからさ、びっくりしたぜ。他のプレイヤーもパニックで逃げまどって、マジ阿鼻叫喚。テントは燃えるしクリーチャーは増えていくし、さすがの俺らもダメかと思ったね」

「それでも震える身体を叱咤して、俺らは武器を手に立ち向かった。お前さんにも見せてやりたかったぜ、あの難敵デスアルパカを仕留めた俺らの新奥義、その名も」


 あの日、千影たちは塔から〝キャンプ・セブン〟に上がる煙を見た。ここに戻ってきたときには、すでにクリーチャーはあらかた退治されていて、多くのプレイヤーが負傷者の手当てや消火活動などの後始末に追われてばたばたしていた。


 千影もそれに劣らず負傷・疲弊していたので、あいにくその手伝いには参加できず、なにがあったかをちらほら耳にした程度だった。


「そのクリーチャーって……どこから湧いて出たんですかね……?」

「いや、詳しいことは誰もわからねえんだ。気がついたらこの敷地内にクリーチャーがいて、しかもどんどん増えてったって話だ」

「塔の何階のやつらだったんですか?」

「五階とか六階って聞いたぜ。俺らの主なバトルフィールドは二・三階だったから、まだ見ぬクリーチャーの出現にビビ……武者震いしたもんだ」

「俺らは残念ながら戦ってねえんだけど、すげーでけーやつもいたな。トリケラトプスみたいな頭した二足歩行のやつ」


 五階のボスだ。千影たちが黒のエネヴォラと遭遇した広間の主。トリケラ親分、推定レベル3以上の強敵。


「なんかハエ叩きみたいな武器持っててさ、ぶんぶん振り回してプレイヤー吹っ飛ばしまくってたよ。なかなか歯ごたえのありそうな敵だったけど、みんなでよってたかってボコってさ、俺の【ナマハゲ】が火を噴く前に終わっちまったのは残念だったぜ」


 あのときの【ナマハゲ】は中野のものになったらしい。奥山は不満げに唇を曲げている。


「にしても、本来なら五階や六階で出てくる敵が、どうしていきなりこの場所にポップしたんだろうな。今までそんなこと一度もなかったらしいけど」

「ダンジョンのバグかなんかか? 勘弁してほしいぜ。そういう不意打ちされると信頼関係っていうかさ、ルールってなにかね? って感じになるよな」


 この場所にクリーチャーがポップしないというルールをサウロンが公言したわけでもないが、今まで一度も起こらなかったことがたまたまあの日起こった、という点は確かに気になる。


 あのとき、五階にはクリーチャーがいなかった。その階のクリーチャーがこのキャンプ地に現れた。中野の言うとおり、まるでポップする場所を間違えたかのように。


 公式発表によれば、ダンジョン庁がサウロンに確認したところ、「ダンジョン側のバグや不具合ではない」ということだ。

 ではなぜか、なにが、というと、サウロンは回答しなかった。というよりサウロン自身は知らないという。


「〝ダンジョンの意思〟なら把握してるだろうけど、バグなら僕のところに連絡が来るはずだから。ってことは、なにかしら他の理由があると考えたほうがいいかもねー」


 ということで、ネットでは「数年に一度のイレギュラー大量発生説」「クリーチャーを呼び寄せたり召喚したりする別のクリーチャー説」「もしくはアイテムやスキル説」が噂されている。


 でも、万が一後者だとしたら――あれは人為的な現象だったということになる。

 だとしたら――誰がそんなことを?


 ふと隣を見ると、ギンチョは話にはまったく耳を貸さず、味玉触手ラーメン大盛りを完食・完飲寸前まで進捗している。


「お前、話聞いてた?」

「はふ、はふ! のうこうなみそのふかみ、せあぶらのあまみ、しょくしゅのこりこりかん! ごはんのまえではおしゃべりよりごはんです」

「くそ、食レポ娘のくせに正論吐きやがって。いつかクリーチャーズハウスの怖さを思い知れ」


 一時間後、フラグは見事に回収される。

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