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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
1章:怪獣娘にかける言葉は決まっている
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3-7:変態ボクっ娘は実在した

「〝白狼〟……ってかいたのかよ……」

「全然気づかなかった……つか初めて見た……」


 こんな浅層ではなかなかお目にかかれない超有名人に、周囲がにわかにざわざわしはじめる。

 直江はその端正な顔を左右に向け、興味なさそうに鼻で息をして、今度は千影を見る。凝視というか、ぴたっと視線が静止する。ギンチョとともに座り込んだままの千影は、まったく状況を呑み込めずにいる。


 えっと……まさかギンチョ、この女とトラブったの? 一人で七層とか行っちゃう怪物と? やめてマジで勘弁して――。


 彼女が一歩二歩と近寄ってくる。一昨日、ポータルで初めて見かけたままの姿だ。ショートパンツとTシャツ、その下にぴっちりとしたスパッツ――おそらく高級なバトルスーツだろう。腰にはゴツい二本のバトルメイス。履いているのはこれまたゴツい安全靴だ。


 千影の目の前で立ち止まる。視線はぴたりと固定されたままだ。千影は陰嚢が梅干しの種サイズに縮むほどビビりながら、しかしエグいくらい美人だなとか脳みその端っこで思う。


 犬耳あざといくらい可愛いな。めちゃめちゃ華奢なのに乳でけえな。フォトショで修正しまくったコスプレイヤーをリアルに召喚したみたいな。透明感がハンパない。これでめちゃくちゃ強いって、もう完璧超人すぎる。世の中不公平すぎる――。


「……ごめん……」


 初めて聞く声は、ぼそっとつぶやく程度で聞きとりづらかったが、とりあえず凛としたその容姿とは裏腹に、女の子らしい可愛いものだった。え、ごめん? ごめんって言った?


「……ボクがその子……怖がらせちゃった……」


 ギンチョは相変わらずぐずってしがみついている。おかげで身動きがとれない。千影的には直江ミリヤのボクっ娘属性が判明して興奮を隠すのに必死だ。


「えっと……それで、なにが……なにを……?」


 相手は初対面、人間離れした美女、に加えてプレイヤーとしても遥か格上。いつもの千影からすれば口を利けただけで奇跡だ。

 直江は表情を変えないまま、すっと指を差す。ギンチョを。


「……トイレでちょっとお話してて……その子、髪の毛がふわっとしてたから……動くのに邪魔そうかなと思って……」


 赤羽随一のボンクラを自認せざるをえない千影なので、言われてようやく気づく。ギンチョの髪型が変わっている。長い銀髪がゴムで結われている。


「お姉さんに髪、結んでもらったの?」


 ギンチョは顔を上げずにうなずく。そうか……想像すると羨ましいというか妬ましいほどのシチュエーションだ。


 にしても、直江ミリヤは孤高のソロプレイヤーで、人間嫌いでめったに他のプレイヤーと交流しないとネットでも噂されている。あれは嘘? どういう経緯でそんなことに? ていうかさっきの悲鳴は?


 直江の表情がわずかに曇る。もじもじと手を動かし、なにか言いよどむように口をもごもごさせている。


「……それで……髪の毛を結んであげてたら……その子のうなじが露出して……」

「はあ……」

「……あんまりぷりぷりして……柔らかそうで……ていうかもう可愛すぎて……」

「はあ……」

「……それで……なんかおいしそうって思って……それで軽くはむっと……」

「はあ……」

「……つい出来心で……歯を立てないで軽く噛んだだけだったけど……すごいびっくりさせちゃって……ごめんね……?」


 はあ……と周囲でため息がもれる。集まっていた人たちがぱらぱらと解散していく。なぜ僕が申し訳なく思わないといけないのだろう、と千影は思う。


「……おねーさんは……わたしをたべるですか?」


 実際に暴力警報も鳴らなかったし、スキンシップのレベルだったのだろう。それでもギンチョが過敏に反応したのは、クリーチャーによるトラウマのせいか、それともなにか別の危険を感じとったとか。別のって?


 直江はギンチョの前にしゃがみこむ。その横顔は相変わらず表情に乏しいが、小さい子に対するような若干柔らかい雰囲気はある。


「……違う……それは誤解……ボクはこんな狼女だけど……人の肉をむしゃむしゃ食べたりしない……」

「でも……さっきおいしそうって……」

「……そうだね……でもそれは……食べる意味でのおいしそうというより……むしろ性的な意味でのおいしそうだから……」

「もっとダメだろ」


 思わずツッコむ千影。直江がぐりんと首だけ振り向く。柔和な顔も束の間、真顔に戻りすぎてむしろホラーだ。


「……貴様は……この子のメンター……?」

「あ、え……はい……(貴様て)」

「……そのオーラのなさ……日本に五十万人くらいいそうな顔……前にポータルで見かけた気がする……気がするだけで確証は一ミリもないけど、別にどうでもいい……」


 日本人の平均値という意味だ。平均なら御の字だ。なにも悪くない。


「……名前とレベルを言え……」

「早川千影……レベル4です」

「……ボクは直江ミリヤ……レベル7だ……」

「知ってます」

「……レベル4が一緒なら……まあ一層なら危険はないだろう……とはいえ、この子になにかあれば、ボクは貴様をむしゃむしゃ食らうと思う……たぶん嘔吐するけど……」


 嫌。嘔吐物になるのは嫌。


「……サムライ・アーマーのジャージはいいとして、頭にもなにか防具を着けさせろ……クリーチャーの投擲や飛び道具の危険性も考えろ……それから靴にももうちょっと気を遣え……頑丈で防水で歩きやすくて、靴ずれしないように中がふかふかのやつにしろ……それとちゃんとハンカチも持たせろ……貴様は女の子の身だしなみに対する気遣いがまるでなっていない……ドンキで売ってるプリキョアのやつでいい、ボクとおそろいだ……」

「アドバイスありがとうございます。けど最後」


 もう一度ぐりんとギンチョのほうに向き直る。びくっとギンチョの肩が跳ね上がるが、悪意がないのは伝わったのだろう、怖くてもどうにか堪えている。


「……ほんとにごめん……ボクは君と仲よくなりたかっただけなんだけど……やりかたを間違えたみたいだ……」


 まったくだ。


「……だから……お詫びに約束する……君が助けを必要とすることがあれば、ボクは必ず君の力になる……そのときこそ、ボクと友だちになってほしい……」


 真面目な話になっている。しかも悪くない展開。トップクラスのプレイヤーに貸しができた形。


「……だから……今度会うときは……次こそ君を食べたい……性的な意味で……」

「ぶち壊しかよ」

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