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31:名探偵

【前回までの赤羽ダンジョン】

・ヨフゥエリアでフェニックスウルフさがしのクエストを受注。

・チーム一丸となって強敵を退け、クエストクリア。千影、新アビリティゲット。

・激ウザユーチャンネラー・マコちゅんが何者かに襲われ、意識不明に。


 渋々ながら承諾してくれた彼らと一緒に、エレベーターに乗り、五階の真ん中の部屋まで廊下を進む。ドアには黄色の「立入禁止」のテープが貼られている。


「つーか、この子も?」

「はい。ときどき〝C〟の検挙も手伝ってもらってます。優秀な子ですよ。万が一犯行がプレイヤー能力によるものだとしたら、この子の知識は結構役に立ちます。口もかたいですし」


 お世辞というか方便も混ざっているのだろうが、明智から褒められると悪い気がしなくてキモ顔レベル2。歴戦の刑事二人をぎょっとさせる。


「まあ、ちょっと見せるだけだからな」

「現場検証は済んでるが、むやみに触ったりするなよ」


 中は意外と狭い。玄関のすぐ先に廊下が伸び、左側に一口電気コンロの小さなキッチン、右側に風呂場とトイレのドアが並んでいる。独立洗面所がないタイプだ。奥に部屋がある。

 玄関のところでビニールの手袋をつけ、中に入る。

 あまり料理はしなかったのか、キッチンに調味料はソースとケチャップとマヨネーズくらい。シンクの上の水切りに置かれている食器も一そろえずつ。コンロには年季の入ったやかんが載っていている。生活感はあるが、あまり女の子っぽくないと言ったら偏見だろうか。


「……意外だな」と明智。

「なにがですか?」と千影。

「女の子の部屋に入るのなんて初めてだろ? いつもみたいにキモくキョドったりするもんかと」

「なんだ少年、童貞なのか」と但馬。

「プレイヤーでも童貞なんだな、人間だもんな」と大森。


 心なしか二人の千影を見る目が少し柔らかくなる。

 部屋は六畳くらいだろうか。ベッドとテレビがあるとかなり狭く感じられる。折り畳みベッドだが、今は広げた状態になっている。こっちは黄色やピンク色の小物が多く、ゲームのポスターやぬいぐるみもある。キッチンよりも女の子感が強い。

 ああ、なるほど、と千影は思う。ここで動画を撮っていたからか。ある意味ここはスタジオなのだ。外の人に見せる用の飾りつけ。


 ふと、今になって実感が湧いてくる。空っぽの部屋を見て。主人のいなくなった部屋の中心に立って。

 彼女は――マコちゅんはここに帰ってこられるかどうか、わからない状況だ。

 あんなにぺらぺらとしゃべり、憎たらしい小細工や屁理屈を見せ、必死になりふり構わず自分にすがってきた彼女が。そんな目に。

 別に思い入れなんてない。はっきり言えば嫌いなタイプだ。話も価値観も合わないし、強引だし、めんどくさいし。

 けれど――なんか胸がむかむかして吐き気がする。目がチカチカして座りたくなる。頭に血が昇って感情を抑えられなくなる。


「……早川、だいじょぶか?」

「……はい、だいじょぶです」


 ズボンをぎゅうっと握りしめ、何度か深呼吸する。それでどうにか発作は鎮まってくれる。


「そういや、マコちゅんのお母さんは? なんか超仲悪いって言ってたけど……」

「一度会ったよ」と但馬。「まあ、親子もいろいろあるわな」

「入院費用とかの心配ばっかしてた的な?」

「……まあ、そんなとこか」


 千影も家族仲についてはひとのことを言えない。小さくため息をつきつつ、改めて部屋を見回す。


「誰かが侵入した形跡は?」と明智。

「出てこなかった」と但馬。「彼女と父親以外は、誰の痕跡も見つかっていない。指紋も髪の毛もな」

「ってことは、今のところ父親って線で?」

「まあ……そんなところだな」


 なんだか話しづらそうにしている。やはり部外者が一名いるのがまずいのではないか。というわけでここらで退散したい。


「だいじょぶですよ。こいつは口もかたいですし、なんなら厳重に口止めしておきますから」

「しゃべりません。だからなにもしないで。つーかおうち帰して」

「具体的に知りたいっつったのは君だろ?」

「言ったけどぉ……こんながっつり絡むつもりなかったしぃ……」

「被害者は紐状のもので後ろから首を絞められていた」


 但馬が口を開く。無理に話さなくてもいいのに、と千影は思う。


「抵抗した痕跡はなし。部屋が荒らされた様子もなし。そうなると怪しいのは必然的に第一発見者だ。父親の証言自体が嘘って可能性だな」

「あの……ちょっといいですか……?」


 一応挙手して窺う。三人の捜査官にギロッと睨まれるが、ストップはかからない。


「マコちゅんって、一応レベル1って聞いたんですけど。ああ見えてオリンピック選手並みの体力あるはずだから、さすがにまったく無抵抗のままやられちゃうってのも考えづらくて……それこそ相手も五輪級の柔道選手とかじゃないと……」

「……ああ、それはわかってるよ」と大森。「そんで父親は、プレイヤーでも柔道家でもない」

「もしかして――」と明智。「自殺幇助の方向で?」


 但馬と大森は曖昧にうなずく。「本筋ってわけでもないけどな」と付け加える。


「えっと……どういうことですか?」

「話に聞く限り、被害者は人生に行き詰まっていたみたいだ。自殺を望む娘の哀願に、父親はつい……って刑事さんたちはお考えのようだってことさ」

「それなら抵抗した跡がないのも説明がつくしな」

「え、でも……その父親が救急車呼んだんですよね?」

「我に返って怖くなったんだろう。犯行を否定する動機としては、今の家族と会社ってところかな」


 確かに、彼女は追いつめられていた。精神的にかなり参っていた。

 そうでなければあんな無茶苦茶な理屈でギンチョを利用しようなんて思わなかっただろうし、千影のようなボンクラに救いを求めるようなこともなかっただろう。

 タマゴよろしくね、と彼女は言っていた。本当に持ってくると期待していたかどうかはわからないが、それからたった数日で自分から死を選ぶだろうか。


 なんというか、ぴんとこない。


 彼女のことを知っているわけでもないけど、なんか釈然としない。

 あの人は、辛くても惨めでも泣きそうでも、自分から死のうなんて考えない気がする。最後までしぶとく、生き汚くもがくタイプな気がする。そういうところは自分と似ている、と勝手に思う。


「だけど……お二人はイマイチその線に納得できていない」


 明智の指摘に、二人は渋々といった風にうなずく。


「……まあな。あの父親がホシとは思えねえ」

「刑事の勘、なんつったらハズレフラグっぽいけどな」

「となると――やっぱり真犯人は別にいるってことですかね。痕跡を可能な限り残さず、レベル1の怪力娘を一切抵抗させずに殺そうとした。プレイヤーなら可能かもしれない」

「……まあ……本部は認めたがらないかもだけどな。捜査権がそっち行くから」


 明智がぐいっと千影のTシャツを引っ張る。伸びるからやめてほしい。


「というわけで……一緒に考えるよ、早川くん。犯人像や殺害の動機とか、そのへんは全部まるっと棚上げしといて……犯人がダンジョンプレイヤーなら、この完全犯罪を遂げることができるのか。完全犯罪に必要なアビリティやスキル、アイテムを考える。というわけで、ダンジョンヲタの知恵を貸しやがれ」

「やがれって」

「光栄に思いな。あたしら捜査課が正式に出張る前に犯人像を突き止められるかもしれない。めったにないよ、こんなチャンス」


 そんな無茶な。高校生探偵でもあるまいし。こちとら中卒なのに。


「行け! 名探偵頭がピカチュウ!」

「誰の頭がピカチュウだ。刑事さんこっち見んな」


 そんなのは捜査課でやったほうが早いだろうに。まあ、棚ぼたで現場に入れたのと、捜査官は基本的にみんな多忙というのもあるのだろうが。

 明智はこのダンジョンヲタの知識に期待しているようだ。まあ確かに、千影としてもあれこれ考えたり妄想したりするのは趣味ではある。ウィキを見て「このアビリティあったらこんな風に使えるのに」とか考えたりする。

 やれるだけやるしかないか。ここまで来たのだから。

 昨日までは獣を追って大自然を駆けずり回っていたというのに、今日は地上でプレイヤー犯罪推理大会。高低差が大きすぎて耳キーンってなるやつだ。

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