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5-1:合流、帰陣、再会

 気づけばタコ野郎の身体が融解して、レアドロップが生じている。融けた胴体から現れたのは小さな宝箱だ。シリンジ以外ではこういう箱型のものがクリーチャーから直接ドロップされるのは珍しい。

 ギンチョたちと合流してから開けようか。いや箱を持ち歩くのは不便だし、中身が【フェニックス】ならすぐにでも使いたい。なのでさっそく開けることになる。というかプレイヤーの性として開けずにはいられない。ごめんね、銀色ガエル。


「……なんだこりゃ?」


 ふわっとした中敷きの上に載っているのは、金属板だ。ちょうどてのひらにすっぽり収まるくらいの、長方形の平たい鉛色の板。それが四枚。


「あんちゃん、これなにかわかる?」

「いや、初めて見ます……」


 ダンジョンでは地球上に存在しない組成のレアメタルやそれを含んだ鉱物資源を拾うことができるし、今回のようにクリーチャーがそれをドロップすることもある。これはその金属塊(インゴット)のようだが、こんな風に宝箱としてもったいぶった登場をするケースは初めてだ。


「まあ……基本的にはレアメタルは売るか道具の素材にするかですけど……」


 D庁なりダン科研なりに鑑定してもらわないとわからないが、あれだけ激強だったタコ野郎のドロップだから、希少価値も利用価値も高いと信じたい。

 ちょうど四枚入りなので、一人一枚ということになる。中野奥山は「売ったら車買えんじゃね!?」「ものすげー武器とかになるんじゃね!?」と大はしゃぎ。千影も顔には出さないがホクホクウハウハだ。


 またしてもほったらかしになった銀色カエルは、みんなが静かになるまでふわふわ浮いたまま頬杖をついて寝そべっている。そして水平方向にくるくる回っている。だからごめんって。


 部屋を出る準備が整うと、カエルものそっとうつ伏せの姿勢に戻る。すいすいと部屋の奥へと泳いでいき、突然スピードを上げ、光の残像を描いて奥の滝壺へと飛び込んでいく。水の音はしない、水面も揺れない。

 それを合図に部屋がかすかに揺れ、滝が二つに割れる。その奥にぽっかりと通路の入り口が開いている。出口のようだ。

 カエルが飛び込んだところに奇妙なものがぷかぷかと浮いている。藁で編まれた野球ボールくらいの球体だ。隙間からちらちらと光がこぼれている。


 それがなんなのか薄々わかってはいる。それでも藁を掻き分ける手は震えている。鼓動が速くなっている。


「……タマゴだ」


 ニワトリのそれと同じくらいの大きさと形、表面はつやつやと光沢のある白銀色。ようやくお目見えした〝ヨフゥのタマゴ〟は、まぶしいほどに煌めいて応えてくれる。




 奥の通路の先は緩やかな上り坂になっている。弧を描いているので出口の先は見えない。

 千影がテルコに肩を貸し(レベルが上がっても傷が治るわけではない)、その前後を中野と奥山が歩く。数歩置きに【ロキ】による索敵は続けているが、今のところ追ってくるクリーチャーはいないようだ。


 歩いているうちに頭が冷えてきて、それまでの興奮の反動から思考が溢れんばかりに回りはじめる。


 つーかさ、レベルアップしちゃったわ。

 大変なことになっちゃったわ。どうすんのこれ?


 もちろん嬉しくないはずがない。これまでの命がけが認められた証だし、自信にもなる。活動の幅も広がるし、それだけ収入に直結する。個人としてもチームとしても悪いことは一つもない。ないんだけど――。


 ダンジョンウィキの統計では、レベル4→5の平均所要期間は一年半前後とあった。もちろんダンジョン暦初期の情報も道具も乏しかった頃の人たちのデータも含まれるため、現在はもっと短くなっているだろう。優秀な人なら一年とかからないかもしれない。

 とはいえ、「レベル4到達から四カ月でレベル5へ」という区間速度はちょっとありえない。なにかの間違いじゃないかと思いたくなるくらい。


 原因を考えるとすると、まず黒のエネヴォラ戦が大きいだろう。それにさっきのタコ野郎戦も。黒コウモリもカミ強かった。ヘルファイアだってほぼ一人で狩ったし、大量のゴリラもバッサバッサやってきたしetc……。考えてみると一介のレベル4には身に余るナイトメア展開ばかりで、むしろよく生きてこれたなと我が身の波乱万丈を気の毒に思う。


 管理課の丹羽が、千影のレベル4到達スピードは公式でトップ百に入ると言っていた。ひょっとしたら今回の飛躍で、トップ百どころかトップ五十や三十以内に入ってしまうかもしれない。


「……なんかなあ……」


 やったぜ僕すげえ! 脱凡人! 未来のトッププレイヤー間違いなし!

 ――という思考にはならないのが早川千影たる所以。


 確かに謙遜抜きで「自分は結構すごいことをやったんだ」と正直に思うし、それは多少自信になる。

 だって、織田や福島や直江といった()()()()()とは明らかに器が違う。ああいう人間のネジがぶっ飛んだ化け物たちと同じものさしで測られても困る。こちとら人間だもの。徹頭徹尾。

 4までは【ムゲン】のおかげだし、5に至る過程も運や仲間に大いに助けられた。少なくとも自分の実力だけを反映した結果では断じてない。


 だけど、そんなのはお構いなしにちょっと騒がれるかもしれない。丹羽は大いにはしゃぐだろうし、悪魔(明智)も「けけけ、そんな飛ぶ鳥落とす昇り龍サマにぴったりのお仕事が……」とかぶっこんでくるかもしれない。むしろそれはまだいいとしても――。


「……タイショー、どうした?」

「へ?」

「干からびたカエルの肛門みてえなツラしやがって」

「尻系好きだね」

「せっかく念願のタマゴ手に入って、レベルまでアップしたんだぜ? 景気の悪いツラしてんなよ……いてて……」

「まあ、そうだけどね」


 まったくもって余計なことまで思考が広がってしまっていた。テルコのおかげで目が覚めた、反省。

 周囲の評価とか反応とか、そんなことはイベント終了後にでもゆっくり考えればいい。実害さえなければどうでもいいし。


 そうだ。考えるべきはむしろ今だ。

 イベントはまだ終わっていない。手に入れたタマゴを守りきるまでは終わらない。むしろここからが本番だ。


 *


 やがて通路の先が薄明るくなり、ようやく地上に出られる。中野奥山が人目もはばからずえぐえぐ言っている。わかりみ。


 午後七時二十分。太陽は沈み、空はとっぷりと暮れている。垂れ込めていた雲が晴れ、現れた星帯――ヨフゥフロア版天の川――のおかげで周囲の状況を確認できるほどには明るい。

 深い森の中だ。出てきたところは岩壁の麓。ここがギンチョたちと別れた場所の近くなのか、それとも別のエリアなのか、見ただけでは判別がつかない。


 ギンチョには千影とペアの小型無線機を持たせている。ケータイもGPSも使えないダンジョン内では基本かつ貴重な遠距離通信手段だ。中古品でそこまで距離が出るものでもないが。

 こんな起伏に富んだ障害物の多い場所で、果たしてつながるかどうか。ボタンを押して話しかけてみる。


「ギンチョ、聞こえる? えっと、どーぞ?」


 彼女には使いかたも応答のやりとりも共有済みだ。聞こえれば返事をしてくれるはず。十数秒後、ザザッと向こうの音が拾われる。


『ちーさん!』


 こちらの四人は顔を見合わせる。テルコが涙ぐんでいる。


「ギンチョ! よかった! 今どこだ?」


 返事に時間がかかる。


「ぢーさーん!」

「誰がじーさんだ。今どこ? 直江さんに代わる?」

「ぢぃぃーーーーさぁぁーーーーん!」


 いや、おかしい。無線機は反応していないのに声が聞こえる。


「ぢぃぃーーーーさぁぁーーーーん!」


 みんなそろって見上げる。

 岩壁の上のほうに巨大なかたつむりがひっついている。

 いや、リュックを背負ったギンチョだ。その上の崖には直江とよしきが立っていて、はらはらとギンチョを心配そうに見守っている。


「ぎゃわーーーーー! たすけてーーーーー!」


 元々すぐ上にいて、千影の声が直に聞こえてきて、それで慌てて降りようとして降りられなくなった。というところだろうか。ネコか。

 結局直江に救助され、無気力に抱えられたまま下まで降りてくる。一緒によしきもするすると降りてくる。元気なばあさんだ。


 お互い涙ぐしょぐしょで熱い抱擁を交わすギンチョとテルコ。その間に千影は後ろからリュックを漁り、応急手当キットをとり出す。

 負傷箇所から【フェニックス】を投与されたテルコは、これまでの苦しげな様子から一変、元気になってバンザイする。一緒にギンチョもバンザイする。おにーさんのほうはまだズタボロなので手当してほしい。

 直江に【フェニックス】を一本譲ってもらい(もちろんあとで返す約束で)、タコ野郎に【アザゼル】ごとえぐられた左腕を治療する。他の傷は接着ポーションや絆創膏や湿布の出番だ。手当をギンチョとテルコに任せ、直江たちとこれまでの経緯を共有し合う。


「……ふふん、ボクらは手に入れたぞ……タマゴ……」

 そう言って眉をかすかに吊り上げるだけの小さなドヤ顔を披露した直江の手には、虹色のタマゴが載っている。




 千影たちが隠しステージの穴に落ちたあと、直江たちさらに苛烈な勢いで襲いくるゴリラたちをことごとく返り討ちにし、さらにシルバーバックとの激闘を制し(というわりに直江もよしきもほぼ無傷だ)、あの虹色馬のあとについて台地の奥へと進んだ。


 馬の案内で足を踏み入れた黒い植物の密生する森林は、いわゆる「正しい道のりを進まないと元の位置に戻る系」の迷路空間になっていた。

 幹につけた傷やマーカーはたちどころに消えてしまう。ならばと木を薙ぎ倒して進んでもまたスタート地点に戻ってしまう。木をよじ登ると水平線の向こうまで森が続いているので上からの攻略も不可能――。

 元来た道を戻れば森の外には出られるが、その先のゴールに目的のものがあることは直江たちも薄々感づいていた。とはいえ、直江やよしきの強さの及ばないその試練に苦戦は必至かと思われた。


 その状況をあっさりと打開したのは、なんとギンチョだった。


 彼女は木の幹の色や根の張りかたの微妙な違いを逐一記憶し、元に戻ってしまう間違った道を一つずつ把握し、時間をかけて正解の道筋へと一行を導いた。

 ギンチョがタマゴさがしの鍵だという直江の推測は、その豪運のみならず頭脳という誰も予想しえない角度から現実のものとなった。「なんと賢い子じゃろうのう。孫娘の妹にしたいじゃのう」とよしきは頭を撫でて秘蔵のべっこう飴を与え、直江は感動のあまりイキかけたという(冗談かどうかは不明)。


 そうしてたどり着いた迷路の最奥には、四畳半くらいの妖精の輪――いわゆるキノコサークルがあり、虹色馬が偉そうに待ち受けていた。「タマゴを守れと意思表示するくせに無駄に迷わせやがって」と直江はその馬面にビンタをかましたが、馬はすり抜けて光の粒になり、その輪の中に消えていった。


 そこからの流れは千影たちと同じだった。輪の中心に藁で編まれたボールがあり、その中にタマゴが入っていた。

 そうしてタマゴを手に入れた三世代ガールズトリオは、千影たちがどこからか出てくることを期待して、あたりを見渡せる台地の崖際で待つことにした。それがちょうどこの岩壁の上で、偶然にもギンチョに呼びかける千影の声が聞こえてきて、合流に至ったというわけだ。




 こうして話している間も、ゴリラやらラプトルやらワイバーンやらがやってくる。持っているだけでクリーチャーを呼び寄せるという〝ヨフゥのタマゴ〟。それが二つもここにあることが原因のようだ。元気になったテルコとよしきが危なげなく対処してくれる。中野奥山はそれを温かく見守っている。


「はう、これがちーさんのタマゴですか」

「僕が産んだわけじゃないけど、僕らが手に入れたタマゴだ」


 ギンチョは銀色タマゴをてのひらに載せ、いろんな角度から眺める。ここからはイベント終了までこれを守ることがミッションになる。ギンチョは自分の役目だと言い張るが、持っているだけで頂点捕食者の的になる危険な役目だ、千影が持つのが妥当だろう。


「あの、ちなみに直江さん……レベル4から5って、何カ月かかりました?」

「……うーんと……確か八カ月だった気がする……だからなんだ……?」

「いや、あの……レベル上がっちゃいまして……四カ月しか経ってないんですけど」


 別にドヤったつもりはないが、なんだか癪に障ったのか、「……おめでとう……」と祝福の喉輪を食らい、口の中にエナジーポーションを注ぎ込まれる。ちょうど栄養補給したかったがぼぼぼぼ。


 *


 何度も襲撃に遭い、ちょろっと道に迷い、ようやく最初の拠点が見えてくる。午後八時すぎ、開始から四時間以上経っている。時間的にも内容的にもようやく折り返し地点だ。


「……人工の明かりってさ、こんなに泣けるもんなんだな……」

「……これからはタコもゴリラもさんづけで呼ぶことにするよ……」


 中野奥山の言葉がしみる。


 道中は千影とテルコがメインで身体を張り続けてきた。レベルアップした肉体の慣らし運転が必要だったからだ。


 レベルが一つ上がるごとに、筋力の各機能の数値はおよそ一・二倍から一・五倍ほど上昇する。上に行くほどその上昇率は下がるというが、その時点で元の数値がとんでもないので恩恵の大きさは変わらないだろう。

 すぐさまその力を自在に振るえる、というわけでもない。これまでの肉体のパワーやスピードと同じ意識でいると、どうしてもイメージとのギャップが生まれてしまう。それはここぞのところで動作の精密性を奪い、ミスやピンチにつながることもある。千影のような「考えながら動く」タイプはなおさらだ。


 なので、そのギャップを埋めていく作業が必要になる。慣らし運転だ。少しずつアクセルを踏み、イメージとすり合わせていく。このくらいの加減で、と意識したらこのくらいの馬力になる、そういう感覚を頭と身体にしみ込ませていき、徐々に踏み込みを強くしていく。

 本来なら数日かけてじっくりやりたいところだが、あいにく現在進行形で大冒険中だ。無茶は承知ながら、ザコ敵相手に自分の力を自分のものにしたい。このあとの厳しい戦いを乗り切れるように。


「うひょー! やっぱレベル上がるとちげーな!」


 イリウスも認めた天才のテルコ。千影と違って感覚派だからか、違和感はあまりないようだ。こういうときは羨ましい。脳筋なだけかもしれないが。


 そんな感じでいつもと違う集中力を消耗してきたので、拠点に着く頃には千影もくたくたになっている。布団に入ったら秒もかからず寝れる。

 さすがのよしきも「持病の腰痛が」と動きが鈍りだしている。殿で涙目になりながら剣鉈を振り続けた中野奥山もかわいそうなほどに疲弊している。残りの三人は比較的元気だ。


「とりあえず……中で少し休ませてもらって……」


 そのあとのことはそのあとで考えよう。千影の言葉は最後まで続かないものの、休みというフレーズに首肯しない者はいない。

 堀に沿って歩き、出入り口のところから入ろうとして、そこにいる職員に呼びとめられる。


「すみません、タマゴはお持ちじゃないですよね?」


 先頭にいた千影がそう尋ねられる。不意打ちすぎて慌てる。


「あ、え、えっと……〝ヨフゥのタマゴ〟ですよね? えー、は、はい、持ってます」


 近くにいた職員やプレイヤーたちの目が千影たちに集まる。あたりがざわっとする。


「大変申し訳ないんですが……タマゴを持ったままの立ち入りはご遠慮いただきたく……」

「は?」

「南東側の拠点にタマゴを持ったプレイヤーが数人避難していたところ、大量のクリーチャーが押し寄せてきて、バリケードが破られて多数の負傷者が出ました。他の方やスタッフの安全の確保のためにも……ここに入られるなら、タマゴを手放していただく必要が……」


 一同が顔を見合わせる。そう言われるとしかたがない。「嘘でーす、タマゴなんて持ってませーん」なんて言って無理やり中に入ってしまっても、それで他のプレイヤーや職員に被害が出たりしたら責任なんてとれない。


「じゃあ……タマゴを外に出しておいて、中に入るのは?」

「それなら問題ありませんが……そのタマゴがクリーチャーに奪われてしまっても、こちらとしては責任を負いかねますので……」


 ギンチョはぽかんとしている。直江はギンチョの頬をぷにぷにしている。よしきはしかめっ面、テルコは不安顔だ。中野奥山は「それな」「知ってた」と白目を剥いている。


 北東のほうの拠点はタマゴ持ちの人たち向けに開放されているらしく、サポート人員もいて、他のタマゴ持ちの人たちもそこでがんばっているという。とりあえず次の目的地はそこにしようという話でまとまる。


「よしきさんと中野さん奥山さん、ここでエナジーポーションを調達してもらってきていいですか? 僕らは外で待ってるんで。少し休んでもらって、先になにか食べててもらってもいいんで」


 よしきは「うんじゃ」とうなずく。中野奥山は「え、いいの?」と最高級の缶詰を前に許しをもらった柴犬のような顔をする。よしきはともかく二人はそのまま戻ってこないかもしれない。


 三人といったん別れたあと、バリケード越しに中を覗いてみる。負傷したプレイヤーが何十人も寝かされている。医療スタッフが慌ただしく走り回っている。敷かれた布が人型に盛り上がっているものもある。


 これが現実か。まるで戦場だ。

 積極的にタマゴを狙っていたとはいえ、これほど厳しい戦いになるとは思っていなかった。今回のイベントで、どれくらいの死傷者が出るのだろう。


 あと半分、四時間弱。

 長丁場だ。そしてこれからが正念場だ。


「ギンチョ、お腹すいた?」

「ぐー」

「腹の音で返事するな。弁当出して。僕らもなにか食べておこう」


 バリケードから離れ、見晴らしのいいところで腰を下ろす。地面に尻をつけたとたん、足から力が抜け、背骨がふにゃっとする。疲れが一気に出た。座るってなんて幸福なの?


 周りから近づいてくる者がないか、四人で背中を合わせながら、その背中で弁当とサンドイッチを囲むようにして座る。

 おにぎりうめえ。おらこんなうめえ米食ったの初めてだ。泣きそうになる。


「テルコさ、もしかしてノブのアビリティも引き継いでたりするの?」

「いや、どうかな……ノブは【ロキ】とか【ニーズヘッグ】とか持ってたけど。ちょっと試してみたんだけど、オレは使える気しねえかも」


 混ざったのはスキルだけなのか、それとももっとノブみが出てくれば使えるようになるのか。今は判断のしようもないが、とにかくあのスキルだけでもじゅうぶん心強い。


「はむはむ! パンはのみもの! からあげはおにく! おにぎりはおかず! じゃあごはんはどこ?」


 ギンチョはおにぎりとタマゴサンドをしゅぱっしゅぱっと次々にとっていく。レタスやキュウリ入り(地雷)は正確に回避するのがギンチョスタイル。


「ギンチョ」

「もぐもぐ?」

「咀嚼音で以下略。あのさ、僕の手、思いっきり握ってみて」


 差し出した千影の手を、ギンチョは言われたとおり「んにに……」と力の限り握りしめる。千影もつぶされないように最低限の力をこめておく。出会った頃よりも力強い気もするが――やっぱりわからない。


「もういいよ、ありがと」

「なんですか?」

「いや、お前ももしかしたらレベル上がってないかなって思って……」


 ギンチョはほとんど直接戦闘には参加していない。それでもポーターも時間はかかるもののレベルアップの事例が確認されていることから、わずかながらでも経験値は獲得できているものと考えられている。

 それでなくてもギンチョは、あの黒コウモリにとどめを刺す大役を果たしている。それだけで一発レベルアップしてもおかしくはない功績だったはずだ――ギンチョが普通のプレイヤーと同じだったら。


 ギンチョはエネヴォラクローンで、【ベリアル】を投与していない。その身体能力にプレイヤーと同じレベルアップという概念があるのかすら判明していない。

 今回千影たちがレベルアップしたように、ギンチョも気づかないうちに成長していないかなと思ったが――まあ、握力だけでわかるものでもないか。


「やっぱりコッパーちゃん使うべきかな……」


 そうしたらギンチョの能力についても多少わかることもあるかもしれないが、代わりにギンチョのデータが管理課に流れることになる。明智に相談してからにしよう。


「……おい……」


 直江がおにぎりを持つ手を止め、立ち上がる。


「……来るぞ……でかいのが……」


 同時に千影とテルコも立ち上がる。直江の視線の先、緩やかな傾斜の下から、それは悠然とこちらに向かって歩いてくる。言葉どおりかなりでかい。そして、人だ。


「よお、うまそうなもん食ってんな」


 〝最強の右腕〟こと福島正美が、三メートルの巨体から四人を見下ろし、その強面をくしゃっと緩ませる。


「弁当忘れちまってさ、俺にもちっと恵んでくれね? 一緒に死にかけた仲だろ?」

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