4-1:開戦
4章プロローグとつながってます。
開始三十分前で今さらながら、集まったメンバーの能力構成などを共有し合う。
千影(レベル4)
レベル:4
アビリティ:【アザゼル】、【ロキ】、【ケイロン】、【ヤタガラス】
スキル:【イグニス】
武器:〝相蝙蝠〟(小太刀二刀流)
ギンチョ(レベル1)
アビリティ:【グール】、【ザシキワラシ】
スキル:なし
武器:〝ながれぼし〟(投擲アイテム)
テルコ(レベル3)
アビリティ:【レギオン】、【キメラ】
スキル:【グリンガム】
武器:〝無明一文字〟(短槍)
中野と奥山(レベル2)
アビリティ:【ナマハゲ】
スキル:なし
武器:〝ナカノカリバー〟、〝ブレイブオブオクヤマ〟(ともに剣鉈)
芦田よしき(レベル5)
アビリティ:【サキュバス】、【バロール】、【ラクシャサ】、【イエティ】
スキル:【エンゲツリン】
武器:大小二振り(無銘)
よしきのアビリティは視力強化の【バロール】以外、独特だ。
腕用アビリティは触れた相手の精気? を吸いとるという【サキュバス】、足の甲から硬質な刃を出す【ラクシャサ】、寒さに耐性を得る【イエティ】。
レベルと実力からすると数は少ないが、どれも結構レアでなかなかクセが強い。
スキル【エンゲツリン】はダンジョン光子のチャクラムを具現化する。チャージ方式だったと思うが、動画でもリアルでも実物を見たことはない。てっきり【マンジカブラ】とか刀系のスキル持ちかと思ったが「新かg――新善流はなんでもありじゃ」とのこと。さすがパクリ流派。
そして肝心の直江(レベル7)はというと、【フェンリル】以外のアビリティ八つを共有することを拒否。ソロプレイヤーらしい情報管理の徹底ぶりだが、今はそれだと困る。
「……貴様の指示でアビリティを使うことはない、なので教える必要もない……ボクはボクの意思と判断でボクの力を使う……それが貴様らにとってもベターだからな……」
言わんとしていることはわかる。能力も経験も知識もなにもかも彼女がこの場で一番なのだから。
「……だいじょぶだ、ボクがいれば問題ない……必ず守りぬいてやる……」
「はい」
「……ギンチョだけは……」
「はい(知ってた)」
そのギンチョを使って聞き出そうとしたところ、「……うちで二人っきりで教えてあげる……テトリアシトリ……」と斜め上からマジレスされたのでこれ以上の追及は無駄だとみんな悟る。
そしていよいよ、イベント開始の時刻を迎える。
どこからかチャイムの音が響く。空が暗色に変わり、二つの太陽が雲に覆われていく。
おたけびをあげ、バリケードの出入り口に殺到するプレイヤーたち。
慌てないで、押さないで、タマゴはまだありますから、と必死に呼びかけ続ける公式の拡声器。
遠くのほうから駆けてくる無数の黒い影。小さくすばしっこいもの、のしのしと歩く巨大なもの、空を飛ぶもの。
「えっと……じゃあ、僕らも行きましょう。準備とか、だいじょぶですか……?」
「おいおい! なんだよリーダー、そんなんじゃしまらねえぞ!」と中野。
「リーダーなんだからよ、もっとびしっと言っちゃえよ!」と
「ほれ! タイショー!」
テルコに背中をどつかれる。千影は咳払いし、一度深く呼吸し、覚悟を決める。
「僕らの目標は……〝ヨフゥのタマゴ〟です。だけど、さっきも言ったけど、みんなの安全が最優先で。じゃあ……行こう!」
声の裏返ったみっともないエールだが、「「「「「おー!」」」」」と直江以外の五人が応じてくれる。ギンチョが彼女を窺うと、嫌々ながら「……おー……」と追従する。
さて、とは言うものの、まずはどうしたらいいいのか。どこに行ったらいいのか。
「うげっ、ラプトル来たぞ! つーかめっちゃいる!」
「よよよよっしゃ! 背後は任せろ!」
平原にはかなりの数の黒い影が走っている。頂点捕食者の数は普段の三倍(公式情報)。こちらに狙いを定めたPラプトルが二体、猛然と突進してくる。
千影がなにか指示を出そうとするが、先によしきがすっと前に出る。
「リーダーのチカゲ、略してリハゲ、挨拶代わりじゃがいいかの?」
「はい、リカゲです」
よしきが滑らかな動作で刀を抜く。銀色の刀身が鈍く光っている。よだれを撒き散らして突進してくる黒ラプトルたちに対し、ぴたっと正眼に構える。
するするっと前に歩いたかと思うと、黒ラプトルたちの間を通り抜ける。黒ラプトルは二・三歩進んだところで首から血を噴き出し、ずずん……と横倒しになる。
どうにか目で追うことができた。二体とも一刀で首を斬った。まるではたきかなにかで軽く撫でたかのような、優しくて軽い太刀筋だった。外殻で覆われていない急所へ、最小限の動きで最小限の切り口を与え、やつらの命を断った。さすがとしか言いようがない。
「……すげええええ……」
「……全然見えねええええ……」
中野奥山は目玉が飛び出そうになっている。テルコもあんぐり口を開け、ギンチョはなにが起こったのかわからずきょろきょろとみんなを見回し、直江は思案顔でよしきを睨んでいる。
「こんな感じじゃがの、お眼鏡には叶ったかの?」
「お、おす。叶いすぎです」
こらすげえわ。ひと目でわかる、ものが違いすぎる。
これに直江もいるとか、負ける気しないわ。勝つるわマジで。
とかいう楽観はすぐに腹の奥に封印する。落ち着け、いつもどおり、慎重にビビりながらでちょうどいい。なにが起こるかわからないんだから。
「えっと……じんk、陣形を組みましょう」噛んだ。「さっき決めた感じで……僕が先頭、よしきさんと直江さんがその斜め後ろ、テルコが中衛、その後ろにギンチョ、殿は中野さん奥山さんで……」
「……やっぱ嫌だ……」と直江。「……貴様の汚い尻を見ながら歩くなんて……虫唾が走って地球一周……ボクはギンチョの隣にいる……誰にも邪魔させない……」
「あ……はい、もうそれでいいです」
「タイショーの尻は綺麗な尻だぜ? そんな毛嫌いするほどのもんじゃないぜ?」
テルコの一言で現場にざわっとした雰囲気が流れる。見せたことないはずだけど、誤解を生んでいるけど、「そんなことないです、僕の尻は汚いです」と否定するのもアレなので、このまま緊張感を持って進むことにする。
最初の仕事はタマゴさがしだ。なるべく早くさがさなければいけない。
タマゴ入手後は頂点捕食者たちに狙われやすくなる――確かそんな話だった。八時間という長丁場で早々にタマゴを手にしてしまうことはリスクも伴う。
とはいえ、参加者が七千人くらいとして、タマゴは四十七個。全員がタマゴをめざしているわけではなくても、それでも足りないかもしれない。当然プレイヤー間での競争になる。
加えて、ここはあと二・三時間もすれば夜になる。二つの太陽が沈むと、星帯と呼ばれる天の川の親玉みたいなものが空に現れ、夜でもかなり明るい。とはいえ昼よりは視界も悪くなるし、今の空を覆っている雲が晴れなければ真っ暗になってしまう可能性もある。そうなればタマゴさがしどころではなくなる。
「できるだけ早く見つけたいけど……ってまた来たわ……」
大口を開けたPラプトル二体とPダチョウが三体、左前方から狂ったような勢いで突進してくる。「キャ・キャ・キャ!」、いつもより声が興奮気味だ。
千影は左腰に帯びた二刀を抜く。よしきとテルコに目配せする。よしきはするりと刀を抜き、テルコも槍のカバーを外す。
Pダチョウ一体が千影の前で足を止め、「キヒャアアアアッ!」と威嚇の声を発する。自分から逸って仕掛けるようなことはしない。残り四体をよしきとテルコが牽制し、その後ろを直江たちが警戒してくれている。
いつもと一緒だ、慎重に、確実に、怪我をしないように。
じりじりと距離をつぶすと、耐えきれなくなったダチョウが弾丸のような勢いで首を伸ばし、嘴を振り下ろしてくる。
二振りの小太刀の、左でそれをはじき、右で横から首筋を撫でる――それだけで敵の首は胴体から離れ、ぼすんっと倒れる。
「グッジャブ、じゃな」
三体のラプトルを苦もなく斬り伏せたよしきが、節くれだった親指を立てている。軽く息をついてうなずいてみせるが、脳内は「〝相蝙蝠〟やっぱええわー」とホクホクしている。外殻がケーキみたいにすぱっといったわ。
「武器のおかげだけじゃないじゃよ。基本じゃが、刀は当てて引く、それで斬れるじゃ日頃から。きちんと素振りしてきたんがわかるじゃ。鍛錬が血肉になっとるじゃ」
その後ろでは最後の一体のダチョウの頭をテルコの槍が貫いている。「うほー、いいなこれ!」。〝無明一文字〟、テルコもその手応えに満足げだ。
周りでも襲われているプレイヤーが多い。と、他人事でもいられない。後方からまたしてもPラプトル。それに四足歩行のPラット、Pコヨーテ。中野奥山が「うわー来ちゃったー!」などとわめきながら剣鉈を抜いて応戦を始める。
「タイショー、前からも来るぞ!」
前方からやってくる中型のPバッファロー二体に身体を向ける。息つく暇もない。進むどころでもない。まだ拠点から何百メートルも離れていない。
これって結構やばいイベントなんじゃね? と今さら思う。
頂点捕食者は平常時よりも明らかに獰猛で凶暴になっている。目についたプレイヤーにはレベル差など関係なく襲いかかってくる。まるでサウロンの語ったサイドストーリーのまま、ここにいる生命を喰らい尽くすという意志を果たそうとするかのように。
「――ああっ!」
悲鳴が聞こえて振り返る。仲間の誰かではなく、近くにいた別のプレイヤーだ。
Pワイバーン――トカゲの頭を持つ鳥型頂点捕食者が、その足で女性プレイヤーの両腕を掴み、羽ばたいて吊り上げている。
仲間と思われる男二人が女性の名前をさけんでいる。外国人のようだ。
武器を振り回して挑発している。遠距離系のスキル持ちではないらしい。
ワイバーンは彼女の頭めがけて首を伸ばし、歯をガチガチさせる。彼女は頭を振ったり身をよじったりして必死に抵抗している。このままでは時間の問題だ。
どうする? 【イグニス】で助ける?
いや、こっちも結構忙しくて五秒チャージもきついし。
顔見知りとかってわけじゃないし、こういうのって自己責任だと思うし。
でも見捨てたら後味悪いし。つっても他にもやられてる人結構いるし、じゃあみんな助けなきゃなのってなるし――。
なんてことを言語にならない思考で数秒逡巡している間に、隣のテルコがぐぐっと身を屈める。太ももがぱんぱんにこわばり、ビキビキと筋張っていく。
「ヤッ!」
短い発声とともに【レギオン】で跳躍。Pワイバーンの頭上で身体を目一杯よじり、槍の突き下ろしで的確に頭を貫く。拘束されていた女性が落ち、仲間がキャッチする。テルコ自身はしゅたっと華麗に着地する。
彼らが口々にお礼の言葉をさけんでいるが、テルコは気にするそぶりもなく、周りの敵にとりかかっていく。うちの子イケメンすぎる。
なんて思っていると、ゴツッと後頭部を殴られる。慌てて武器を構えて振り返るが、そこにいるのは直江だ。バトルメイスで小突かれたらしい。ヘッドギア越しとはいえ結構痛いし目がくらむ。
「……助けるにしろ見捨てるにしろ、迷うな……時間の無駄だ……」
「あ、はい、すいません」
正論すぎて反省なのと、どうでもいいとか言いながら結構見てくれてんじゃんとか思うのと。なんて間にもクリーチャーは大口開けて迫ってくるので、無駄な思考はやめて刀を握りしめる。
ザコ敵を数十匹撃退したところでようやく一息つける。開始からすでにニ十分。拠点付近の掃除に手を貸した形になった。
あたりは合戦を終えたあとのようなありさまになっている。
そこかしこに頂点捕食者の死骸が転がっている。
手足を食いちぎられてもだえている人がいる。
血まみれで倒れたまま動かない人がいる。
肩を貸し合って拠点のほうに戻っていく人もいる。
「……えげつねえな……」
テルコが槍についた血を拭いながらつぶやく。
大半がラプトルやダチョウなどのザコ敵だったとはいえ、レベル2相当の軍勢の波状攻撃。これでどれくらいの人がリタイアすることだろう。
覚悟はしていたし、想定もしていた。とはいえ、実際に目の当たりにして初めて実感できるものもある。
まさに命がけだ。イベントなんて楽しげな響きでも、これはゲームじゃない。本物のサバイバルだ。
「タイショー、これからどうする?」
仲間たちに損害はない。中野と奥山が多少引っかかれたりどつかれたりしたのと、千影の後頭部が若干じんじん痛む程度だ。いったん拠点に戻る、という必要はないだろう。
「ぜえ……さっさとタマゴ見つけて……ぜえ……陣地に引きこもろうぜ……」と中野。
「ぜひ……まだ余裕だけどな……ぜひ……プールならあと三周泳げるけどな……」と奥山。
「にしてもよ、タマゴってどこにあるんだろうな? 他のやつら、どこ行ってんだろう?」
「動画でもノーヒントだったし、それっぽい場所をさがすしかないと思う」
スマホで地図を表示する。事前の協議で、どのへんに行くかの目星は一応つけてある。
「最初の予定どおり、北側の大密林か、北々東の岩場の洞窟に行こう。そこで空振りなら次は西側の森とか湖とか、もしくはちょっと危ないかもだけどPアナグマの巣窟とか……」
「あなぐま? くまさんですか?」
「熊は熊だけど? いや、あれ、アナグマって熊だっけ? つかクリーチャーだし……」
「みたいです」
「……この子が興味を持った……ボクらが足を運ぶにはじゅうぶんすぎる動機だ……」
直江の追従はギンチョ贔屓か、それとも【ザシキワラシ】を信じてのことか。両方か。
というわけで、予定変更。最初の探索先が決まる。西のPアナグマの巣窟へ。
決まり手は「うちの子がアナグマを見たいから」。
芦田よしき(76歳)の名前について。
3章序盤登場後、ずっと音信不通だった最強ババア。
プロット時点でなぜか名前が二転三転していて、
「徳川やすい」→「芦田よしの」→「芦田よしき」と変遷していきました。
そのため、作中で「やすい」だったり「よしの」だったりする部分がありました。訂正してお詫びします。正しくは「芦田よしき」です。ごめんねおばあちゃん。
ちなみに由来は室町時代の剣豪将軍様です。




