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2-5:新武器

 夕方になり、少し涼しくなってきている。夏もだんだん終わりに近づいているのを実感する。


 千影はアパートの敷地前で立ち止まる。念のため、【ロキ】であたりの気配を窺う。周りに人がいるのはわかる。街中の喧騒のせいで、それが一般人なのか庁職員なのかイリウスの部下なのか、全然判別がつかない。


「おかえりなさいです」

「おう、おかえり」


 ギンチョとテルコが出迎えてくれる。二人とも特になにも変わったことはなさそうだ。


 二人してキッチンでなにかをつくっている。前にもこんなことがあった、あのときはボルシチだった。今日は――よくわからない。なんか紫色の液体がぐつぐつ煮込まれている。


「こないだのが評判だったからさ、アレンジしてみた」

「そういう冒険って必要ないと思うんだけど」

「おお、なんかごっつい荷物持ってんな。武器か?」

「あ、うん、二人にも見てほしいんだけど」


 三人で居間に行き、包みをちゃぶ台に置く。まず一つめの包装を解いていく。


「これは……タイショーの武器か?」


 黒の漆塗りの鞘に収まった二振りの小太刀と、それを腰に留める専用のベルト。鞘から抜いてみる。刃渡り六十センチ弱の真っ黒な刀身。覗き込んでも顔が映らず、かざしてみても光を反射しないマットな感じだ。


「あの黒コウモリの鉤爪を素材に、村正製作所で打ってもらった。銘は〝相蝙蝠(あいこうもり)〟」


 頂点捕食者の外殻は鉱物に似た性質を持ち、最近では〝プレデタイト〟と呼ばれているらしい。そのままでもプロテクターなどの素材に用いられているが、そこから抽出される〝プレデチウム〟という金属がプレデタイトよりも軽量で硬質で、今後のプレイヤーの装備に普及しそうだという。


 プレデチウムは頂点捕食者の種類? 強さ? によってその色や強度が違うそうだ。黒ラプトルなどのザコの外殻から抽出されたものはおおよそ灰色で、かたくなるにつれて色が濃くなっていく。


 あの超強敵の黒コウモリの鉤爪から抽出されたそれは、これでもかというくらい真っ黒だったらしい。この刀自体は他の金属との合金製だが、「少なくとも村正製作所で扱ったプレデチウム製品の中では最高品質」ということだ。


「これ……ちょっとすごそうだな……めちゃくちゃ高かったんじゃね……?」


 さすがのテルコもビビっている。ギンチョも「ほえー」と口をあんぐりしている。


「回収できた鉤爪は、両手両足の十二本。そのうち半分を譲って、残りの半分で武器をつくってもらった。実質無料」


 鍛造と加工にものすごくコストがかかったらしい。でも無料。


「で、そんでもう一つ、つくってもらったんだけど」


 もう一つの包みは、テルコの身長とほぼ同じ長さの棒――というか短槍だ。


「これって……ひょっとして……」

「うん、テルコのだよ。銘は〝無明一文字(むみょういちもんじ)〟。名前的にたぶんおんなじ担当者」


 素槍という両刃のオーソドックスな槍で、刺突と斬撃、両方に対応できるようになっている。革製のカバーを外すと、真っ黒な穂先が顔を覗かせる。千影の小太刀と同じ素材だ。柄の部分は柔軟で折れにくい別のダンジョン素材でできているとのこと(そのぶん結構重い)。


「なんで? なんでオレのぶんまで……?」


 今までで一番戸惑っている。あまりに予想外だったのだろう。


「なんでって……テルコがいたから倒せたし、だから餞別にって思って」


 発注したのはエリア16に行く前だった。渡した素材で刀と槍を打ってほしい、と。テルコとはそのあと別れることになったが、これだけはどうにかして渡そうと考えていた。こんな形になるとは思わなかったが、結果的にそれが叶ったわけだ。


 そのあとで小太刀二振りに変更してもらったことは、二人には内緒。あの教官――イリウスのナイフ二刀流に感化されたから、なんて言えない。


「ああ、あと、あの石なんだけど……イソギンチャクの……」


 あの洞窟で拾った黒っぽい石。すでに資源課での鑑定は終わり、千影の手元に戻ってきている。資源課とダン科研の分析によると「地球には存在しない組成の石であることに間違いはない」とのことだが、「その用途や効能などについては現時点ではわからない」らしい。もっとも、「アプデ以後、色違いの似たような石がこれまでに数個持ち込まれているため、関連性がないかも含めて調査中。なにかわかり次第連絡する」ということだ。


「謎のアイテムってか。まあ、売るにしても正体がわかってからでいいかもな」

「だね」

「かっこいいです……いいなー……」


 二人の武器を見つめたまま、ギンチョがものほしげにつぶやく。


「そこは……お前は【ザシキワラシ】もらったじゃん?」


 顔が納得していない。


「じゃあ、今度なんかつくってもらうから。最高級のピコピコハンマーとか」


 もう一声、と顔が言っている。


「……今度好きなもん食わせてやるから……」


 まあいいだろう、という風に渋々うなずく。いいのかギンチョ。


「タイショー……サンキューだよ。これで心置きなく、今度のイベントで大暴れできるぜ」

「いや、まだダンジョン行けるって決まってないから。それとこれとは別だから」


 大いに失望の眼差しを向けられる。

 せっかくの武器もそっ閉じされる。二人とも無言で台所に戻っていく。

 え、間違った? でも事実だし。言いかたの問題? タイミング? 


10/21:4章2-2、2-3、2-4のイベントルールについて若干の修正を行ないました(イベントのタマゴの数を17→47に変更、それに伴うセリフなどの変更)。詳細は各話の前書き、後書きをご覧ください。


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