2-3:正解
10/21:イベントクエストのタマゴの数を「十七個 → 四十七個」と変更したため、それに合わせて千影のセリフなどを修正しました。
説明なげえ。
と思いきや、その成功報酬にくらくらっと射幸心を煽られる。
マジか。実質参加賞がシリンジ一本って。
「レベル5以上だけのチームでも百組以上いるって聞いたことあるし、十二個なら守られる可能性として高いんじゃないかな」
他人任せな言いかただが、それなら参加するだけでシリンジ一本は破格だ。自分はタマゴさがしをせずに、せこせこと逃げ回ったりザコだけ減らしておけばいい。
いや――そんなにうまくいくだろうか。報酬が破格なら、危険度も破格だと考えるべきではないか。報酬ほしさにのこのこ参加したら、クリーチャーのおやつになるだけかもしれない。
自分のレベルならどうだろうか? レベル3以上を推奨――レベル4とレベル1なら?
「オレも一緒に行く」とテルコ。「そんで、タマゴをさがしだして、守りきる」
テルコはさっきまであのマンションにいた。タブレットで〝さうろんちゃんねる〟を見て、一緒に部屋にいた女性職員の制止を振り切って逃げてきたらしい。
ダンジョンに行きたい、このイベントに参加したい。玄関先でそう告げた彼女は、そのまま千影たちの部屋に押し入り、夕食のカレーも綺麗に平らげた。そして今、三人で改めて動画とD庁公式サイトを見終わったところだ。
ちなみにギンチョには内容的にちょっと情報過多だったらしく、表情を見るにあまりぴんときていない。あとで説明してやる必要がありそうだ。
「……テルコは……ノブテルを、生き返らせたいの?」
テルコはうなずく。髪はぼさぼさ、Tシャツもよれよれなのに、その目に宿る光は強い。昨日の別れ際のような儚さは消えている。
「オレはどうなってもいい。タイホされようとダンジョンで死のうと、なんだって構わない。だから、最後にノブを……」
「でも……ノブはテルコの中で……」
二人で一緒になったのなら、ノブはテルコの中で生きているってことじゃないの?
それでも生き返らせたいの? それって……?
「わかってる……でも……」
テルコも言いよどむ。千影の言わんとしていることは伝わっているようだ。
「あ、あと、ここの報酬のとこだけどさ……」
――なお、プレイヤーは「初めてエレベーターに乗り、ダンジョンに入った時点」の肉体および記憶の状態で再生される。
彼は三年以上前にプレイヤーになった。当然、テルコ――ケイトに出会うより前のことだ。つまり、彼女に関する記憶を一切持たない状態で生き返るということだ。
「これでも……テルコはそうしたいの?」
言いたくはないけど――もはやそれは――。
「……生き返ったノブは、オレのことは忘れちゃってるってことだろ。それでもいい……ちょっと若返っちゃうかもだけど、ノブはノブなんだ」
「だけど……」
「家族には返してやれるじゃん」
あー……そういうことか。
「確かに、ノブはオレの中にいる。オレと一緒にいてくれてる。だけど、ノブの家族は……あいつ、家族のことカミ大事にしてたんだよ。家族もきっと、今もノブの帰りを待ってる……だから、ノブを家族に返してやりたいんだ。ちょっと若返ってさ、記憶も飛んじゃってるけど、そこはダンジョンウイルスのせいとか言っとけばいい。帰ってこないよりはずっといい」
確かに、事情を知らない人からすれば、彼本人には違いないだろう。あとは千影たちが嘘をつきとおせばいい。いや、たとえバレたとしても、家族はきっと受け入れるだろう。
だけど……ほんとにそれでいいんだろうか?
テルコ自身も迷っているのか、それとも迷いを振り払おうとしているのか、しばらくうつむいて唇を噛んでいる。顔を上げ、まっすぐに千影を見る。もう一度、強い光を宿した目で。
「……ぶっちゃけ、オレにもそれが正しいのかどうかわかんねえ。だけど、このタイミングでこんなイベントがあるなんて、偶然じゃねえと思うんだ。このままなにもしなかったら……きっと死ぬまで後悔する。だから頼む、協力してくれ、タイショー。金でも身体でも、オレがやれるものならなんだってやるから……」
呼び鈴が鳴らされ、こちらの応答も待たずに中川が入ってくる(鍵を閉めるの忘れてた)。髪の毛ぼさぼさで汗だくで、濡れたシャツからタンクトップが透けている。まだ仕事中だったのか。公務員って大変。
「テルコさん。あなたの身柄は今、非公式ながらD庁預かりになっています。あなたを拘束しているつもりはありませんが、逃げ出したとなると看過できません。一歩外に出れば、あなたは諸々の条約違反、法令違反に問われるおそれがあります。ましてやダンジョンに行くなんて、僕らが許すと思いますか? エリア16で襲撃されたことをお忘れですか?」
ギンチョがぎゅっとテルコにしがみついている。仔コアラが親コアラにそうするように、もう二度と離れないと言わんばかりに。かたく閉ざされていたひきこもりの岩戸を開けたのもテルコだった。
さすがの中川もたじろぎ、しばらく逡巡し、やれやれといった感じに首を振る。
「……明日の夜、また迎えに来ます。外出は控えて、ここにいてください。それまでにどうか、もう一度、よく考えておいてください」
中川が帰ると、テルコは申し訳なさそうに苦笑する。
「ヘビィには迷惑かけっぱなしだな。ワンチャン、身体で払うって迫ったら許してもらえるかな?」
「たぶん激ギレされると思うよ」
その夜はギンチョがテルコと一緒に寝ると言って聞かず、二人でベッドで寝ることになる。千影は寝袋を奪われずに済んだものの、やっぱりなかなか寝つけない。
千影はまだ踏ん切りがついていない。テルコの願いを聞き入れるかどうか。
難易度的なことを言うなら、レベル4と3と1のデコボコトリオでやりとおせるほど、イベントクエストが甘いとは思えない。サウロンの言葉どおり、命がけのハイリスクを覚悟しなければいけないだろう。
四十七個というタマゴの数もそうだ。多いようで少ない。自分たちよりもレベルの高いプレイヤーはいくらでもいるし、それならせめてうちにもあと一人か二人、レベル5以上の助っ人が必要になる。
それに、モチベーション的なことを言うなら……テルコの頼みとはいえ、テルコの願いとはいえ……。
スマホでツブヤイターを覗いてみる。スペシャルイベントはさっそくトレンド入りしていて、その成功報酬「死者の再生」について激論が交わされている。文字どおり、賛否両論、真っ二つだ。
「死人を生き返らせるなんて命への冒涜だろ」
「つか、死者にとっても生者にとっても冒涜でしかない」
「自分の大事な人が生き返るなら、尊厳とか倫理とか綺麗事どうでもいいわ」
「いくらなんでも人の命をアイテムとかシリンジとかと同列に語るのは許せない」
「生き返らせられるのはプレイヤーだけなのか……娘を生き返らせられるなら、なにがなんでもタマゴを手に入れてやったのに」
「ダンジョン侵入時点の記憶って、それ以後のことは忘れてるってことだろ?」
「なんかスマホのバックアップかって思ってムカついたわ。人間なめんな」
「それでも遺伝子も記憶もその人のものなら、その人が生き返るってのと同じことじゃん」
「クソダンジョン、人間の命をなんだと思ってやがんだ」
「クリーチャーを大量生産してる時点で、人間の命だけどうのこうの言うのはナンセンス」
「生き返ったやつって法的にどうなんの? ゾンビ扱い?」
「記憶の点を除けば、社会的には個人の連続性が保たれるわけだから、本人と認定してあげないとかわいそすぎる」
「つーかダンジョンにそんな機能があるなら、誰かが全クリしたら死のない世界とかができたりして」
「今後こういうイベントをしょっちゅうやるようなら、もはや人間社会の常識とかルールとかぶっ壊れるな」
「まさに私たちの価値観が問われてると思う。命ってものについて」
その中の一つが千影の胸に引っかかる。同じことを思ったから。
「でもさ、生き返るって言っても、死体がなけりゃ本人が生き返るわけじゃないだろ? 要は3Dコピーと一緒じゃん」
千影はスマホを枕元に置き、仰向けになって天井を見上げる。
だけど――本人とまったく同じコピーだとしても、それでも偽物なんだろうか。
本物かどうかなんて、誰がそれを決めるんだろう?
こんなにもあふれる意見や考えの中で、正解はどこにあるんだろう?
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