5-6:ジャンケン娘がやって来る!
八月八日、火曜日。
昨晩「早い者勝ちー!」とテルコに寝袋を奪われ、ついにこの家で最もザコな存在と成り果てた家主として迎える朝。
ほぼなにごともなく平穏無事にすぎる。試しにギンチョにスクラッチくじを一万円ぶん買わせてみたところ、千二百円になって帰ってきた。それくらいだ。
八月十日、木曜日。
修繕に出していたギンチョのジャージと、注文したテルコ用の防具セットを受けとる。新しいヘッドギア、それに新しい膝当てと肘当て。
頂点捕食者の外殻が大量に出回り、それを加工した防具が主に初級・中級者向けとして流通を始めているらしく、そのあおりを受けた既成品がセール価格で出ていた。テルコがIMODに借りたやつはだいぶボロボロになっていたのでその代わりだ。
「いいのか、タイショー?」
「まあ、セットで三万円くらいだし(痛いけど)。IMODに借りたやつは黒コウモリ戦でだいぶ消耗しちゃったしね」
「サンキューな、ちゃんと働いて返すからよ」
「あとは明日、ダンジョンでなにか思い出せればいいんだけど」
ギンチョが詩織にジャンケン勝負を挑んでいる。やつは一昨日からことあるごとにジャンケンをしたがる。そのうちジャンケンに勝ったら相手の魂を吸いとる能力でも身につく気がする。
詩織との勝負は十勝七敗だったらしく、ギンチョはなんか間違った自信をつけてむふーと鼻息が荒い。
「ギンチョ、ジャンケン――」
「はわっ」
「ポン(千影パー)」
「ポン(ギンチョグー)」
ギンチョが「びゃー!」と泣きさけびながら千影のTシャツの裾を引っ張る。テルコが「チビっこを泣かすな!」と千影の尻を蹴る。
お気に入りのTシャツだけど、尻痛いけど、間違った自信でダンジョンで無茶されるほうがよっぽど困る。つーか、【ザシキワラシ】ってなんなの?
明日は数日ぶりのダンジョンになるので、早めに就寝することにする。例によってテルコに寝袋をとられ、しかたなく座布団を枕にタオルケット一枚で雑魚寝する。ザコだけに。
寝る前にいろいろと考える。あの黒コウモリとの戦闘について思い出す。
ぶっちゃけぎりぎりだった。三人の一挙手一投足が奇跡的にうまく転んだ結果だった。
つまり、運がよかっただけだ。もう一度やり合っても勝てる保証はない。
相手はレベル6以上相当、確実に格上だった。しかたない――では済まない。
チームだから。二人の命を預かっていたわけだから。隠しステージに入ること自体をもっと慎重に検討すべきだった。
「……はあ、ちょっと重いわ……」
責任ってやつが。
一人のときは気楽だった。生きるも死ぬも自分だけの責任で済んだ。
だけど今は、仲間のぶんまで責任を持って決断しなければいけない。
器じゃないのに。誰かを先導するとか。誰かと一緒にいることすら慣れてないんだから。
「…あー、違う…」
自虐ばっかり思いつく。明日の冒険を無事に乗りきるために、どうしたらいいか考えないと無意味だ。凡人なんだから、考えすぎくらいがちょうどいい。
とにかくあれだ、危険はダメ絶対。ビビリなくらいでちょうどいい。ギンチョもビビリだけど基本は能天気で、テルコはそのまんまオラオラだから、自分が手綱を引かなきゃいけない。器じゃないけど、やるしかない。
にしても――【ムゲン】がなくなって、ほんとドチャきつだわ。
いやいや、持ったまま生き残る道はなかったけど。
やっぱり【イグニス】は自分には合わない気がする。贅沢な悩みかもだけど。
チャージ方式のスキルは、【ムゲン】などのクールタイム方式と違って、使用には待ち時間ではなくパワーの溜めが必要になる。その最中だけは動きを止めないといけない。
【イグニス】は撃つのに最低でも五秒の溜めが必要になる。それだけだと威力も最小限だし、それなら下位のクールタイム方式の【ブレイズ】と変わらない、というかそれより落ちる。
つまり、たくさんチャージしたときの火力は魅力的な反面、前衛のアタッカーとしてはどうしてもバランスが悪い。
まあ、直江のようにチャージ方式のスキルを持っている前衛タイプもいるけど。彼女の場合は基礎能力が高すぎて参考にならない。
新しいスキルをさがすしかないか。とはいえ、使えそうなのを拾うまでに何カ月かかるか。未だにスキルを持っていないプレイヤーのほうが多いらしいし。
あのくそつよばあさんこと芦田よしきのことが思い出される。
――スキルがすべてじゃない。これからやれることをまた積み上げていけばいい。
そりゃそうだけどさ。実際焦るって。
リーダーになっちゃったんだから。二人の命、預かっちゃってんだから。
強くなりたい。要領よくなりたい。ああ、凡人らしい夢。
今よりちょびっとでいいから。せめて二人を守れる程度でいい、二人が危ない目に遭わない程度でいいから――。
「――タイショー、起きてるか?」
押し殺した声が聞こえる。テルコだ。独り言を聞かれたかもしれなくてクソ恥ずかしい。
「……起きてるよ」
ごそごそと衣擦れの音がする。寝袋を脱いでいるのだろうか。そしてみしみしと忍ばせた足音が近づいてくる。千影の足元で止まる。
「……見えるか? オレの身体」
つぶっていた目を開ける。「ファッ!?」とさけびそうになる。
薄暗い中で、テルコの姿はうっすらとしか見えないが――裸だ。
第5部楽しみです。
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