第4話 同行者の安心感
神殿の入り口までたどり着くなり、ブリジッドは周辺をキョロキョロと見まわし始めた。
「さて、前もって連絡をしたら案内の神官を出すと言っていましたが……ああ、いましたね」
そして神官服を着こみ、腰にメイスを装備している一人の女性に目を付けると、彼女の方に歩いていく。
すると、その動きに向こうも気づいたらしい。
「あっ、ブリジッド様ですね。ようこそ、お越しくださいました」
メイスを装備した背の高い女性は、ブリジッドに声を掛けてきた。そして、
「初めまして。今回湖の神殿の案内をさせて頂きます、神官のエルザと申します」
自己紹介をしてきた。
どうやら彼女が案内の神官とやららしい。物騒なモノを付けているが、
……確か、設定的には、この世界の神官は荒事も担当する役目も持つんだったな。
騎士団や僧兵に近いので、武器を持っているのが当然だ。体つきも女性的だが、神官服の上からでも分かるくらいには引き締まっているし。
なんて思っているとブリジッドが神官女性に返事をしていた。
「はじめまして。セインベルグのギルド統括、ブリジッドです。お話は聞かされていますか?」
「勿論でございます! 向こうで神官長がお待ちしております! どうぞお入りください!」
神官はの案内を受けて、ブリジッドは神殿の中に入ろうとする。それに続いて俺たちも行こうと思ったのだが、
「――っと、少々お待ちください、ブリジッド様。そちらのお三方はブリジッド様のお連れでしょうか?」
神官はブリジッドと俺たちの間に立ちながら、そんな事を尋ねていた。
「この神殿にはご存知の通り、ミストルテイン様が眠りについているので。この神殿の警備を預かる者として、見知らぬ方をお通し出来ないのですが……」
俺達を見る視線は、やや警戒気味だ。
まあ、伝説の武器が眠るという大事な場所なのだから、警備状態も厳しいのだろう。ゲーム時代には、神殿に入るのにこんな事態は発生しなかったけれども
……自分が育てた子が丁重に扱われているというのは、有り難い事だな。
なんて思っていると、ブリジッドは頬を掻きつつ神官に答えていた。
「ええと? 先ほど、三名をお連れすると連絡したはずですが。先日のセインベルグ防衛戦で、あらゆる天魔を跳ね除けたお方を、と」
そんなブリジッドの言葉に、神官は目を見開いた。
「……は、はい!? こ、この方たちが本当に、天魔を倒したと仰られていた戦士……なのですか!? ……ど、どう見ても歴戦の戦士の様なお姿には見えませんが……」
それはまあ、鍛冶師と炎系魔術士と幼女だし。戦士には見えないだろうなあ、と思っている間にブリジッドの説明は続いていて、
「ええ、セインベルグの者はもちろん、私がしっかりその偉業を見ていますから。こちらのラグナ様に至っては、天魔だけではなく、天魔王まで倒されていますしね」
「天魔、王を……?」
この言葉には更なる衝撃を受けたらしく、神官はふらふらと頭を揺らして、俺達を見る目線すらも揺らしていた。
「この、方たちが。本当に、あの異形の王を……」
「ええ。私の言葉がそれを証明します。信用できないというのであれば、他にも質問をして下さって構いませんよ?」
「え、いや、ギルド会長であり、セインベルグの運営である貴方が嘘をついている筈がない……のですが、あまりに……いきなりすぎて、飲み込むのが大変というか、も、問題はありません」
「そうですか。それはよかった」
ブリジッドは、俺にウインクをしながらそう告げた。この辺りは任せろ、と言わんばかりの様子だ。
……ああ、こういう所で保証を買って出てくれるのは助かるな
と感謝の会釈をしていると、
「あ、あの、その、そ、その……し、失礼しました!」
俺の目の前にいたエルザが勢いよく、俺以上に頭を下げてきた。
「うん? いきなりどうした」
「い、いえ! 偉業を為した方を見抜けず、無礼をなしてしまうとは! 伝説の武器に使える神官としては申し訳なさでいっぱいになるというか……取り返しがつかない事を!」
エルザはぷるぷると震えながら顔を上げ、絞り出すように言ってくる。その表情には申し訳なさにプラスして、焦りからか物凄い量の汗が浮かんでいた。明らかに慌てている。なので、
「あ、いや、良いってエルザ。君がやっているのは、そういう仕事なんだから」
「そうですよ。特に私たちに被害が出たわけでもないですからね」
「いえす。問題なし」
ただ職務を果たしている人に悪く思うことはない。それは俺たちの総意だ。そう伝えると、エルザの表情が少しだけ落ち着いた。
「あ、ありがとうございます! 私の至らぬ点を許して頂けるとは……。感謝します、お三方……」
そうして深々と礼をしたエルザは、二度三度と深呼吸をした後で半身になり、
「……で、では、こちらからお入りくださいませ。改めまして、私、神官のエルザが皆さまを、湖の神殿の神官長の元までご案内させて頂きますので!」
神殿の中に誘うような手振りをした。
こうして、俺達は無事にストロムの中心にある神殿へ入る事に成功したのだった。
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