第3話 湖の街の賑わいを味わう
街の中央にあるギルド塔を降りて、大通りを歩く事十数分。
俺は先導するブリジッドから街の説明を受けていた。
「ここが湖の都市で最も栄えている通りになります。リゾートですけれど、日用品や生活に必要な物を売っている露店も多いので、昼夜問わず賑わっているんですよ」
彼女の言う通り、人通りは中々多い。
道の両端にある露店にもひっきりなしに客が入っているようだし。ただ、
「セインベルグよりも武装している人間は少ないんだな」
「ええ、基本的に観光客や巡礼者が多いですからね」
「巡礼者?」
「ええ、あそこに見える、伝説の武器の一つが眠る湖の神殿を目指して来る人達ですね」
ブリジッドは、目の前に見えてきた白い建物を指さしながら言った。
巨大な柱が目立つ古い、しかし堅牢そうな神殿だ。
それを見て、俺は思わずつぶやいていた。
「……神殿は街の中にあるんだな」
「え? あ、はい。そうですね。この街の防衛戦力の一つですから。昔は町から少し離れた場所にあったのですが、天魔王の襲来を経て、街を拡張することで神殿を街中に入れたのですよ」
「なるほど、な」
目の前の光景は、記憶の中にある知識と少しだけ違っていた。
なにせゲーム時代は、神殿と街は少しだけ離れて位置していたのだ。
だから記憶違いだったろうか、と思ったのだが、ブリジッドのセリフで得心がいった。
……施設が使いやすいように街も、時代に適応して変化しているってことか。
驚きはしたものの、こういう変化があるのは面白い。
なんて思いながら、俺はブリジッドの説明の続きを聞く。
「そんな訳で、この国でも大きな神殿ですから。巡礼に来る方も多いのです。だから、この通りに店を出すと意外と儲けられるんですよ。元々鍛冶も得意だった町ですから、質の良い装飾品も手に入りますし、神殿のご加護があるなどという話も付け加えられますし。ウチの商会でも、貴金属アクセサリの店を出して、利益をガンガン得ている位で」
「相変わらず商魂たくましいな……」
流石は商業ギルドのトップを張っているだけはある。
とはいえ、彼女の話を聞いていると、なんだかんだ金属用品も取り扱っているし、鍛冶の町っぽさは、残っているらしい。
……見た目は完全にリゾートなんだけれどもな。
変化していない部分もあるのなら、そこで俺の知識を利用できればいいだろう、などと思いながら周りを見ていると、
「ますたー。はい、これ」
先ほどまで俺の隣を歩いていたケイが、何やら紙袋を渡してきた。
持ってみると、ほのかに暖かい。
袋の中を見てみると、そこにはサンドイッチが入っていた。
「えっと、これは?」
「美味しそうだから買ってきた」
「買ってきたって支払いは?」
「お金は、レーヴァテインが払った」
「はいー。だから大丈夫ですよ、ラグナさん」
見ればケイの向こうから、俺が持っているのと同じ袋を手にして、レインが歩いてきていた。彼女の背後にある店から買ったのだろう。ただ、
「ああ、そうなのか。確かに美味しそうだけど、なんで俺に?」
彼女たちが食べたいものだろうに。どうして、俺に一番に渡すのだろう。そう思って二人に聞いたら、
「だって、ますたー。ご飯、食べてない」
「ええ、ラグナさん、朝食を食べられていなかったので。お腹が空いているかなあと思って、買って来たんです」
二人はそんな事を言ってきた。
「あー……ミストルテインの件で、すっかり忘れてたな」
ブリジッドから話を聞いて、直ぐに準備に入ったので、考えがそこまで至らなかった。
「ラグナさんは優しいですし、私たち武器の為に動いてくれるのはとっても嬉しいのですけれどね。でも、ラグナさん自身の健康も大事にしてほしいので」
「いえす。朝ご飯食べた方が元気出るよ、ますたー」
どうやら二人は俺を心配して買ってきてくれたらしい。
「……そうだったのか。ありがとうよ、ケイ。レイン」
「いえす。喜んでもらえてうれしい」
礼を言いながらケイの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「あ、ナデナデ羨ましいです。私もしてくださいー」
「はいはい。分かってるよ」
「えへへ……嬉しいです……!」
そんな感じでものほしそうな顔をしているレインを撫でた後、俺は二人からの差し入れを美味しく頂きながら大通りを歩いていく。
そうして、俺達は神殿の入り口までたどり着くのだった。




