プロローグ 旅立ちは即断で
おかげさまで、書籍化が決まりました!
「――という訳で、故障したらしいミストルテインに会いに、ストロムに行くことになった」
ブリジッドとの面会を終えた俺はレインたちと共に借りている宿の一室で、ミストルテインと出会った件について話をしていた。
「す、ストロムというと、湖に接している街、ですよね。良質な防具が作られることで有名な」
「ああ、そうだな。そこにミストルテインが故障した状態で待っているらしい」
俺の数少ない記憶の中でも、ストロムに関する知識は結構残っていた。レインの言葉は正しい。あそこは、ゲームの序盤が終わって、周囲のモンスターに比べて自分の防具が心もとないなあ、と感じる時期に訪れる町だ。
ミストルテインが何故そこにいるのかはわからないが、レインのことを考えるに、おそらく天魔王の封印をその街で行っていたのだろう。
壊れている理由まではわからないが。
「な、なるほど……ミストルテインが故障したという事実はわかりました。状況が分かりませんが……とりあえず、大変な事態になっているようですね」
「ああ、色々な意味で大変だったよ。ブリジットも『やはり、ラグナ様だけで行かせるわけにはまいりません! 幾人か調査部隊をストロムに送ります!』ってゴリゴリ言ってきた位でな」
伝説の武器が故障するわ、消えちゃうかもしれない、なんていう宣言をしてくる異常事態に、ブリジッドもさすがに慌てていたようだった。
とはいえ、調査を待っているほど、悠長には構えていられない。
「俺としては自分の育てた武器が頼ってくるなら応えてやりたいと思っているから、……このあと、すぐに『ストロム』まで行くつもりなんだが――」
「――では、準備をしませんとね」
「うん。ケイとレーヴァテインは、ますたーがどこにいっても、付いて行くから」
言葉の途中で、ケイとレインはすでに動き始めていた。
手近にあったカバンに、衣服などを詰め始めている。
「良いのか? 天魔たちとの戦いで疲れているなら、少し休んでいてもいいんだぞ?」
「ふふ、あの程度の戦いでは、披露するほどやわではありませんよ、ラグナさん」
「そう。ケイたちはますたーに鍛えこまれているんだから、あのくらい、へっちゃら」
二人は微笑みながら告げてくる。もう、直ぐにも出立出来る、と言わんばかりの力が、二人の目からは感じ取れた。
「……そうか。ありがとうよ、二人とも。それじゃ、とりあえず、トラベルゲートの準備は昼までには終わるみたいだから、そのタイミングで出立しようか」
「はい!」
「りょーかいー」
●
旅用の荷物を鞄に詰め込み始めた両隣の少女を見ながら、俺はふと、今回助けを求めに来た少女の姿を思い出す。
……ミストルテインか。武器状態のあの子を鍛えるのは大変だった記憶はある、な。
それは自分がアームドエッダというゲーム内で活動していた時の記憶だ。
そして働いていた時の記憶でもある。
……俺の記憶は、少しずつではあるが、回復している……様な気はする。
アームドエッダのデバッグプレイヤーであったことや、そこでこなしていた業務についても思い出せているし。
……もちろん、不確かな事はまだまだあるから楽観視は出来ないけどな。
ただまあ、今、大事なのは俺の記憶ではなくて、ミストルテインの状態についてだろう。
故障していると言っていたし、緊急性があるのはそっちだ。
……俺の記憶については、今回の旅で、ゆっくりと考えていけばいい事だしな。
まずはミストルテインの状態確認を優先するために動いていこう。
そんな事を思いながら、俺は旅先で使いそうな道具を革袋に詰めていくのだった。
湖の都で何が待っているのか、緊張しつつも、少しだけワクワクしながら。
御待たせしました。
体調の方が戻ったため、第3章、湖の都とミストルテイン編、更新開始していこうかと思います!
また、第一章をかなり改良しまして、主人公が持っている情報量が変わっております。また、提示する情報も結構変えていたり。大筋は変わっておりませんが、気が向いた時にさらっと眺めて楽しんで頂けると幸いです。
そして――皆様の応援のお蔭で、書籍化が決定いたしました! 本当にありがとうございます!
レーベルはファミ通文庫様で12/29、今年の年末に発売となります。




