29話 武器の質の差
セインベルグ北部では、天魔と自警団の戦いが繰り広げられていた。
相手はつい数時間前と同じ下級天魔だ。
ただし、その数は明らかに異なり、三十体に増えていた。
だが、異なっているのは天魔の数だけではない。
戦況もまた異なっていた。
「よっしゃあ、天魔一体撃波!」
「こっちもだ。……この剣、すげえぞ! これなら天魔の防護を切り裂ける!」
百余人ほどで構成された自警団側が押していたのだ。
彼らは光を放つ鉄の剣を手に、下級天魔を切り伏せていた。
「さっきは数十人で囲んでようやく一体を足止めするのがやっとだったのに、やっぱりスゲエ武器を使うとちげえな!」
「ああ、しかもこの剣、やばいレベルの凄腕鍛冶師の作品らしいぜ。なんでも百人分、あっという間に用意してくれたらしくてよ」
「マジか! そりゃとびきりの加護が掛かってそうだな。道理で剣を持つだけで力が湧いてくるわけ――だ! よっしゃあ、もう一体撃破ァ!」
自警団の面々は、襲いくる天魔を相手に、一歩も引かずに戦い続けていた。
けが人はいるが、未だに死人はゼロだ。
自分たちが持っている武器の強さに余裕の会話すら出てくるほどだった。
このままいけば、被害少なく下級天魔達を押し返せるかもしれない。
そんな事は熟練冒険者や勇者クラスにしかできないような偉業だ。
そう思った彼らの士気はどんどん上がっていく。
「ああ、このまま行けるぜ。俺達は……!」
そして、天魔を倒そうと誰もが意気揚々と武器を振るおうとしていた。その時だった。
「――何をしている、下級天魔ども」
空から一振りの刀を持った、大きな体躯の天魔が降ってきたのは。
「人間どもを裁いて餌にせよと言ったのに、チマチマと倒されおって。恥を知れ。そして――調子が良いようだが、ここまでだな人間ども」
大きな天魔はニヤニヤと笑みを浮かべながら、自警団の姿を見降ろしてくる。
その光景に、思わず自警団の面々は後ずさった。
「なんだ……この威圧感……」
「やべえ。この感覚、中級天魔でもありえねえ。……もしかして上級天魔か……!」
震えるような自警団の声に、大きな天魔は顔をしかめた。
「上級天魔? そこまでしか感じ取れないのか? これだから人間の弱さは嫌になるが、まあ教えてやろう。私は、上級天魔長ベイラだ。しっかり覚えたな? だから、私たちの餌になれよ、人間――」
「――誰が餌になるかよ!」
ベイラの話が終わるよりも早く、自警団の面々は彼に斬りかかった。
素早い動きで、三方向から一気に斬りかかる。だが――
「はは、……調子に乗るな。私は、我が主から武器を賜りし者だぞ」
ベイラが刀を引き抜いた。
瞬間、その姿が、ぶれた。そして、
「ぐおお……!?」
ベイラに攻撃をくわえていた者は、体を切り裂かれ、吹き飛ばされていた。
更には、ベイラの近くにいた自警団すらも巻き込んで、きりもみしながら地面に倒れ伏す。
「な、んだ、今の。見えなかった……ぞ……」
「刀が光ったと思ったら、いきなり後ろに居やがった……。あいつ、どんな早さをしてるんだ……!」
倒れ込んだ自警団の面々は血をこぼしながら、ベイラを見上げた。
彼は、愉快なものを見る目で倒れた人間たちを見ていた。
「はは、我が主から賜った武器の味はどうだ。死んだか? ……いや、まだ生きているな。ああ、有り難い。我が主から頂いたこの武器を試すにはいい機会なのだから」
ベイラは心底楽しそうに笑い声をあげる。
「はは、私は、この力を持って、私は神に近づく! そして、神の僕でありながら、自我をもち、反旗を翻した伝説の武器を回収し、すりつぶし、さらなる力の糧とする! というわけで人間ども。その目的の前に貴様らは邪魔だ。さっさと裁いて、神の元に送ってやろう」
そうして刀を振りかぶった。
攻撃が来る。
だが、自警団には避ける動作をする力どころか、起き上がる体力すら残っていなかった。
「やべえ、死ぬ……」
ここまでか、と誰もが諦めを浮かべた、その時だった。
「聞き捨てならない事をぺらぺらとしゃべるな、アンタ」
光の剣が、巨大な刀の動きを止めたのは
「ぬ?」
「……え?」
そして自警団の面々はそれを見た。
光の剣と、赤の剣と、黄色い杖を従えた少女たちがやってきたのを。
……なんだ、あの光に包まれた人達は……。
その姿を見たのを最後に、自警団は気を失った。




