第98話 新しい拠点に向かう
俺達がマンションを出て外のバスの所に行くと、タケルが驚いた顔で俺に聞いて来た。
「ヒカル! なんでだ? なんでだよ!」
タケルの視線が俺の新しいバイクにむいている。
「実はな。タケルと一緒に回収したあのバイク、銃撃を受けて爆発したんだ。その後、ここに向かう途中の店の中でこれを見つけてな」
「アプリ〇アRSV4、じゃねえか」
「凄いな! タケルは一発でこれが何か分かるのか」
俺は感心してしまう。
「まあバイクの事ならな」
「一番いいかと思ってこれにしたんだ」
「ヒカルは、ほんっとに見る目あるよな。こりゃ高いバイクなんだ。外車だし」
「ガイシャ?」
「日本のバイクじゃない」
「それで、これはタケルから見てどうなんだ?」
「聞くまでもねえよ。最高だろ、こんな高級車」
「高いのか」
「ああ」
今のタケルの言葉で俺は大満足だった。どうやらいい奴を選んだらしい。
するとユミが声をかけて来た。
「ほらほら! バイクは後でゆっくり見ればいいでしょ!」
「すまない。そうだな」
俺がバイクにまたがると、タケルも俺について来た。
「乗せてくれるんだろ?」
「もちろんだ」
そしてタケルが振り向いてヤマザキに言う。
「バイクのテールを追って来るといい!」
「了解だ」
そして俺達はバスを引き連れて、新宿の拠点に向かっていくのだった。相変わらず都心部にゾンビは多いが、俺がバイクで避けた後をバスが引きつぶしていく。ニ十分もすると拠点にしているホテルが見えて来た。ホテルの前にバスを乗り付けると、こちらに向かってゾンビが来たので全て飛空円斬で斬る。
「急ごう」
すると皆が大きくため息をついた。
「どうした?」
ユミが呟く。
「ここを登るのかあ…」
するとヤマザキが言った。
「若いんだから行けるだろう」
するとマナも言う。
「五十階あるんだよ。まあ生きる為だから仕方ないけど」
なるほど、ここを登るのは皆にとってはキツイらしい。俺は皆に言う。
「皆はここで待ってるか?」
するとミナミが手を振りながら慌てたように言う。
「無理無理無理無理! ここで待つくらいなら、一緒に登るよ! とにかく武器は回収しないと!」
「そうか」
するとアオイがひしっと俺にしがみついて来た。
「わたしも一緒に行く!」
それにつられたようにミオも言った。
「私も!」
結局、全員がついてくる事となった。バスの中に潜んでいればゾンビは気が付かないと思うが、皆はここで待つのが嫌らしい。正面の入り口から入り、皆が遅れないように進んで五十一階まで三十分近くかかった。
「太ももがぁ!」
「私も! パンパン!」
「しんど!」
「だるぅー!」
「息が…」
「もう無理」
女達が口々に弱音を吐いている。タケルは特に何も思っていないようだが、ヤマザキも自分の太ももをさすっていた。
俺が言う。
「少し休むとしよう」
ユリナが言った。
「良かったぁ…、このまま運んだら転びそう」
それに俺が答える。
「そもそも何か食べないといかんだろう」
「そうだね。お腹減った!」
皆も手を上げている。五十二階の居住区に上り、皆で食事の用意をすることにした。
するとマナが言う。
「あーあ。このスイートルームは快適だったなあ」
それにツバサが答えた。
「仕方がないよ。あんなヘリコプターが来たら危ないもん」
俺は窓辺に行って外を見る。もちろん暗いが、俺にははっきりと見て取れた。
「高いビルなら安全だと思ったんだがな」
「ゾンビ相手にはね」
「だな」
ゆっくりと食事をとり、俺が周りを見渡すと皆ウトウトし始めていた。朝に温泉に出かけて、夜まで緊張の連続だった。恐らくは疲労が蓄積しているのだろう。
体力自慢のタケルですらコクリコクリとし始めた。
「仕方がない」
俺は皆をそこに置いて武器の運搬の準備を始める。日本刀は漏らさず持って行った方が良いだろう。銃も次々に空いた米の袋に放り込んでいく。日本刀は丁寧に扱ったが、銃の扱い方法が良く分からない。
そして次に、米が入った袋をまとめ三日ほどの食材を一か所にまとめた。一時間ほど荷造り作業をして俺は皆がいる部屋に戻る。
するとミオがこちらに顔を向けて言った。
「ごめんヒカル! 寝ちゃってた」
「問題ない」
ミオの大きな声に皆が起きだす。そして口々に俺に謝って来た。
「いや。謝罪の必要はない、間もなく出ようと思うがどうかな?」
俺が聞くとミナミが言った。
「もちろん! ここは危ないもんね」
「まあ…夜の間に襲撃される可能性は少ないかもしれんが、既にヘリコプターを二機撃墜してしまったからな。明日の朝日が昇れば捜索隊が動くかもしれん」
タケルが大きな声を出して言った。
「よし! 皆、もうひと踏ん張りだ! 頑張ろう!」
すぐに俺が荷物をまとめた部屋に皆を連れて行く。そこで皆に告げた。
「皆は持てる分だけ持てばいい。階段を降りる事を想定して無理はするな、残りは全て俺が持って行く」
ユミが言った。
「え? 一回で持って行くの?」
「もちろんだ、時間をかければそれだけ皆を危険にさらす」
するとヤマザキが言った。
「皆も少しだけ頑張った方が良い。持てるだけ持ってみよ! だが無理してはダメだ」
皆は重い荷物を自分で持てるだけ持った。重い銃が入った袋はタケルとヤマザキが手分けして持つ。女達は食料を持ってくれた。
「よし」
俺は日本刀全部と米が入った袋を五袋を抱える。俺が皆の前に進むと、皆が後ろをついて来た。
ヤマザキが俺の隣りに来て言う。
「ゾンビが出たら銃でやるからヒカルは集中してくれ」
「わかった」
俺達が階段を下りて行くと、下層にわざと残していたゾンビ達がこちらに向かって来た。それをヤマザキが撃つ。
「上手くなってきたな」
俺が言うとヤマザキが笑った。そして一階にたどり着いた。
「よし! 皆荷物を降ろしていいぞ!」
「ふうっ」
「きっついね」
「息が切れる」
女達がしゃがみ込み肩で息をしている。するとタケルが言った。
「みんなちょっと運動不足だって。次の拠点行ったら鍛えた方が良い」
「「「「「はーい」」」」」」
俺はその場を皆に任せ、ホテルの玄関から外に出て動いているゾンビを全て消滅させた。気配探知で周囲を確認するが、近くにゾンビはいなくなった。
「よし! バスに積み込もう!」
皆が荷物を持ってバスに乗り込んでいく。銃や日本刀、米も全てバスに積み込んだ。
するとタケルが言う。
「ヒカル! 地下のリムジンはどうするんだ?」
「置いて行く」
「わかった」
俺達がそう話していると、ヤマザキが俺達に言って来た。
「ここから国会は近いんだ、ニ十分もかからん。ヒカルならいつでも取りに来れるさ」
するとタケルがそれに答えた。
「まあ、ヒカルに車は運転させねえほうが良いけどな」
「まあ、その時はタケルについて来てもらうさ」
場所が分かると言う事でミナミが俺の後ろに座った。俺達は再びバイクとバスに乗り込んで、目的地に向かって進んでいくのだった。十分ほど走っていると、以前ヤマザキと視察に来た赤坂御所が見えて来た。それを通り過ぎて先に進む。
「このあたりは前に来た」
俺が言うとミナミが答えた。
「ふふっ、ヒカルと国会図書館に行けるなんて嬉しい」
ミナミが俺の腰に回した腕にグッと力を入れた。そして間もなく俺達は目的の国会図書館にたどり着く。新宿とは違ってかなり見通しが良い。ここなら敵が来てもすぐに察知できそうだ。
「随分見通しが良い場所だな」
「ゾンビもいるね」
「それは問題ない」
バスが到着したので、俺はすぐさま視界に見えているゾンビを全て斬った。皆がバスを降りて来て、これからの俺達の拠点となる国立図書館を見上げるのだった。




