第94話 ヘリコプターに接触する
俺はバイクの周辺にいるゾンビを蹴り飛ばし、アクセルを握って街道を走り出した。目指すはどこかに飛び去っていったヘリコプター。あれが盗賊なのかどうかを確認する必要がある。だが俺がバイクで街の中を縦横無尽に走り続けるが、ヘリコプターの音は聞こえなかった。
「どこに行った? この街は諦めたのか?」
俺はバイクを停めて、すぐに近くのマンションのベランダから登り屋上にたどり着いた。もし見つけたとしても空を飛ぶヘリコプターに対して、どう攻略すべきかが分からない。
そして俺は精神統一をし、微かな音を拾い始める。
風の音、鳥のさえずり…
いた。
ヘリコプターの音がかすかに聞こえている。距離にすればだいぶ遠くまで飛んで行ったようだが、いつ戻って来るかは分からない。
「一機とは限らないか…」
そして微かな音からヘリコプターが飛び去った方角を見定める。すぐさま屋上から飛び降り、バイクに飛び乗って音が聞こえる方へと爆走し始めた。アクセルを目いっぱい握り迫りくる車やゾンビを避けながら最短距離を進んだ。
すると次第にヘリコプターの音が大きくなってきた。
「こっちか」
十字路を曲がり更に先に進むと、ヘリコプターの音がはっきり聞こえて来た。どうやらヘリコプターは先ほどと同じように、東京上空を行ったり来たりして何かを探しているようだった。
ならばやる事は一つだ。皆が避難したマンションから出来るだけ離れて、あのヘリコプターをどうにかする。
キュキュキュ! バイクを急停車させ、近くの車のドアを開けて探る。
「あった」
俺は車に備え付けてあった発煙筒を取る。そして出来るだけ皆の居る場所から離れるように、郊外へ向けて走り出すのだった。
「よし」
しばらく走った俺は発煙筒をこすり付けて火をつけた。そのまま左手に持って、バイクを走らせていく。しばらくしてキュキュキュ! とバイクを急停車させてヘリコプターの音を聞いた。まだ変化はなく、俺は発煙筒を捨てて近くに置いてある車のガラスを殴って割る。そして再び新たな発煙筒を取り出して、バイクに戻り走り始めた。
「火が小さいのか…」
そして俺が再び走り始めると高速道路の乗り口が見えて来る。俺は高速に入ってバイクを猛スピードで走らせた。そして乗り捨てられた車を発見し。発煙筒を付けてその車の中に放りこむ。すると火が座席に燃え移り車が燃え上がって来た。たちまち火は燃え広がり、車は黒い煙を黙々と上げ始める。すぐ近くに高速の降り口があったので、俺はバイクを走らせて高速を降りた。
「来た」
どうやら黒い煙を見つけたらしく、ヘリコプターがこちらに近づいて来た。俺は下の道を進み燃やした車のあたりに戻ってバイクを降りて身を隠す。音はどんどん大きさを増していきヘリコプターの機影が見えて来た。
ヘリコプターは上空に来て旋回を始める。だがその時だった。
「何だ?」
俺が耳を澄ましていると、もう一機の音が聞こえ始めた。なんともう一機のヘリコプターが来て上空を飛び回り始める。するとそのヘリコプターの音に惹かれ、ゾンビが次々に這い出して来て向かって行った。
俺はすぐさま、近くの集合住宅に飛び込み上の階を目指す。狭い階段にはゾンビが居たが、それを斬り捨てながら速やかに屋上についた。屋上からはヘリコプターがはっきりと見えるようになる。
ヘリコプターは上空をぐるぐると回るだけで、下りてくる気配はない。
「どっちだ?」
俺はそれが盗賊なのかそれ以外なのかを見極める事が出来ない。しばらくすると二機のヘリコプターは先に飛んで行ってしまった。恐らく着陸する事が出来ずに飛び去って行ってしまったのだろう。俺はすぐさま集合住宅を飛び降りて、バイクに飛び乗りヘリコプターが飛び去っていた方向に向かった。機影は見えているが、ヘリコプターはどうやらバイクよりも進むのが早いようだ。だが俺は見失う事はない、五感の全てを使ってヘリを捉え続ける。
「下りたか?」
どうやらヘリは降下して何処かに着陸したらしい。俺がそのまま進むと、大きな橋がかかった川が見えて来る。どうやらヘリコプターは河川敷の広い場所に降りたようだ。俺はバイクのエンジン音を聞かれるのを避ける為、エンジンを切って見晴らしのいい場所に進む。
「いた」
俺が見下ろす河川敷の広い場所に、二基のヘリコプターが着陸していた。そしてぞろぞろと人がおり出して来る。そいつらは銃を持っているが、ヤマザキは自衛隊や米軍なら銃を持っている可能性があると言っていた。盗賊であるという確証は取れなかった。
「ならばこちらから出向くしかあるまい」
俺はバイクのエンジンをかけてわざとアクセルをふかした。そして橋を渡りヘリコプターが着陸したほうへ向かって走り出すのだった。橋から見下ろすとヘリコプター二機がプロペラを回し飛びあがった。恐らくバイクの音が聞こえたのだろう。
俺はタケルに教えてもらった、アクセルコールというやつをしてみる事にする。クラッチをきってアクセルをブンブンブブブンとふかすあれだ。するとヘリコプターがこちらに向かって飛んで来た。俺はヘリコプターに向かって両手を大きく振る。するとヘリコプターは高度を落として来た。
「さて、どうする?」
橋の途中でバイクを停めて、歩道に立ちヘリコプターに手を振り続ける。一機のヘリコプターが橋の横に降りて来た。すると二人がこちらに銃口を向けて構えていたのだった。
「どっちだ?」
ヤマザキが言うには、自衛隊なら銃を撃っては来ない。盗賊なら問答無用で銃を撃ってくるだろう。
そして、答えは後者だった。
俺が咄嗟にバイクに戻ろうとした時、銃の弾がバイクに命中しボン! と爆発炎上してしまった。俺は一気に橋を陸に向かって走り出す。するとヘリコプターがそれを追うようについて来て、俺を銃で撃ち続けるのだった。
俺は走りながらめちゃくちゃ怒り狂っていた。
「俺のバイク! 俺のバイク! 俺のバイク―!!」
許すまじ。
俺は燃える闘志をみなぎらせて、ひたすら岸に向かって走るのだった。俺が岸にたどり着いてもヘリコプターは執拗に追いかけて来る。ようやく岸にたどり着いたので、俺は手すりから身を躍らせて下に飛びおりた。そしてその橋の下へと潜り隠れるのだった。
だがもう一機が橋の反対側から現れて、俺に向けて銃を撃ち始めた。俺はすぐさま橋の支柱に向けて走り出し、飛び込むように隠れる。するとヘリコプターは銃を撃つのを止めて滞空を始めた。
するとヘリコプターから呼びかけがあった。
「お前は袋の鼠だ。そこは両側を川で挟まれている。もう逃げ場はないぞ」
やたらデカい声だ。恐らくは拡声器という物を使っているのだろう。だが袋の鼠だからどうだというのだろう? 俺はむざむざやられに出るわけが無い。
脱兎のごとく走り出すとヘリコプターが再び俺を撃ち始める。だが俺は河に飛び込んで水中に身を潜めた。既に身体強化を施しているので、丸一日は水の中に潜っていられるだろう。だがそんな事をしていたら、ヘリコプターを逃してしまう。
「どうするか?」
そのまま水中を泳いで対岸に行ってもいいが、狙い撃ちされるのがオチだ。俺は上流に向かって高速で泳ぎだす。すると川は本流と支流に分かれていた。俺は支流に向かって泳ぎ陸地に上がる。
俺が振り向くとヘリコプターは、まだ俺が水に飛び込んだあたりを探しているようだった。時おり水中に向けて銃を撃っているので、完全に俺を見失ってしまったのだろう。
土手を上がって急いで渡りきり、反対側の畑に向かって体を飛び込ませた。そして草むらからヘリコプターの方向を見る。だが俺には気が付かなかったようで、いまだに橋の周辺を飛び回っているようだ。俺はヘリコプターから目を離して辺りを見回した。
「あれは。鉄塔か…」
ユリナ達と話した時に聞いた、電気を伝わせる為の鉄塔が見える。だがそこまではだたっぴろい畑を進まねばならない。少し先に建物が見えたので、俺は全速力でそこに向かって走り出すのだった。




