第89話 東京ゾンビ会
仲間にはここまでやるとは伝えていないが、俺はあえて大規模破壊をした。この崩壊した国には法が無く、恐怖の象徴とも言うべきギロチンも無い。ならば何をすべきか? それは簡単な事。相手にこれ以上ない恐怖を植え付ける事だ。
俺がビルを崩壊させてしばらくすると、先にゾンビを放った集団が戻って来た。そいつらは車を降り、崩壊したビルを見て呆然としている。
俺は隠れた場所で、おもちゃ屋で手に入れたゾンビのかぶり物を懐から取り出した。
「さて」
俺はそれをかぶって近くに倒れているゾンビから臓物を取り出し、かぶり物の表面にこすりつけた。遠目にはゾンビに見えるだろう。そしてヒタヒタと、盗賊達の死角になっているビルの壁際に立った。
俺は盗賊に叫んだ。
「おい!」
すると盗賊達はどこに向けるでもなく、振り返って銃を乱射し始める。ガラスが砕け壁が弾けるが、もちろん俺に当たる事はない。
男のうちの一人が叫んだ。
「撃つな! ゾンビを呼び寄せるぞ!」
その言葉で皆が撃つのを止め、じりじりと車に向かって後ずさっていく。
俺はもう一度声をかけた。
「次に撃てば全員を殺す! ビルは見ての通り仲間もろとも破壊した! 我々にはその用意がある!」
そう言って俺がビルの角から歩み出ると、やはり馬鹿というのはいるもんだ。一人が驚いて俺に銃を向けて撃った。弾は一発も当たらずに後ろに過ぎて行く。
「刺突閃」
居合で抜かれた俺の剣から放たれた剣撃が、撃った男の首を飛ばした。勢いよく飛んで転がる頭を皆が見ている。
ドサリ。
撃った男の首なし死体が倒れた。
「次に撃った奴の首が飛ぶ」
俺の言葉を無視して一人の男が叫んだ。
「ゾ! ゾンビだ!」
その言葉に男達がざわついた。
よし! 馬鹿がのってきた。
「そうだ! 我々はゾンビだ! 意思のあるゾンビ! しかもお前達を殺す能力を持っている! ビルを見ろ! お前の仲間達は皆潰れた!」
すると男達は振り返って崩壊したビルを見た。
「あれが我々の力だ!」
男達が、ざわつき始める。
「ゾンビが喋ってるぞ」
「意思があるのか…」
「すげえ力だぞ」
俺はトドメの一発を言う。
「我々は一度死んだゾンビだ! だが意志あるゾンビとなって蘇りチームを組んだ!」
「うそだろ…」
「その名も東京ゾンビ会!」
「と、東京ゾンビ会?」
「我々はここに宣言する! 東京ゾンビ会に仇なす物には死をくれてやると! それにも関わらず俺達を襲うヤツいるか!?」
男達がざわざわと話をしているが一人の馬鹿が言った。
「ゾンビはゾンビだ! 撃て撃て!」
すると、それにつられた男達数人が銃を撃ち始めた。もちろん結界と金剛により、銃が当たったところでどうという事はない。
「刺突閃四連!」
銃を撃つ四人の男の首が派手に飛ぶ。そしてその首が地面に転がると、ドサドサと首なしの死体が倒れていく。
「バ、バケモンだ!」
俺はダメ押しで言う。
「ゆめゆめ忘れるな! 東京には東京ゾンビ会がいる事を! そしてその命を捧げたくばやって来るがいい! お前達の血肉を我々が全て喰らってやる!」
「に、逃げろ!」
「にげろおぉぉぉ!」
「は、早く出せ!」
「待ってくれぇぇぇ!」
皆が車に飛び乗って次々に走り去っていくが、慌てた数人が取り残される。するとそこに本物のゾンビがワラワラと近寄って来るのだった。
「うわ! 撃て! うてぇぇぇ!」
ガガガガガガ! と男達が銃を撃ってゾンビを倒していく。だがその数に押されていき、とうとうゾンビの群れに覆い尽くされてしまう。
俺は踵を返してビルの中に入った。ここで夜になるのを待って、太陽が沈んでから車を動かす。もしかしたら敵がこちらを監視している可能性を考えての対策だ。
そしてそのまま夜になっても盗賊が来ることは無かった。逃げ帰った奴らが、幹部に対しどういう説明をするのかは知らんが、新種のゾンビが出現したことを敵に植え付けられたはずだ。
「いくか」
俺はゾンビのかぶり物を空中に投げ捨てフレイムソードで燃やす。すぐに車を隠した場所に向かい、ライトをつけず拠点に向かって走り出した。時おりゾンビがいるが、それを轢いて進む。念のため遠回りをして、目的の渋谷に到着したのはそれから一時間後だった。
拠点は静かだが、きちんと最上階には仲間達の気配があった。駐車場の一番最下層に車を乗り入れて、俺は一気に最上階の皆がいる場所まで走る。そして俺は一つの部屋をノックした。
中から返事が返って来る。
「はい」
「ヒカルだ」
ガチャと扉を開けて出てきたのはミオだった。ミオは突然俺に抱きついて来た。
「ヒカル!」
「ど、どうした?」
「無事だったのね!」
「もちろんだ。危険な事は何一つしていない」
すると後ろから皆が出て来て言う。
「ヒカル! 無事でよかった」
「本当に…良く戻って来てくれて」
「心配で心配で」
女達が不安な表情で俺に告げて来る。
今度は、ツバサとミナミが俺の両腕に腕を絡めて来た。
「心配したんだから!」
「本当よ! 怪我は?」
「ああ全く問題ない」
「お兄ちゃん!」
アオイも俺にしがみついて来た。俺は説明を求めるようにタケルの顔を見る。
「ヒカル。実は俺も心配したぜ」
「どう言う事だ?」
「すっげえ爆音が聞こえたんだよ。そして地響きもしたし、もしかしたら敵が爆弾を使ったんじゃねえかって話になってた。俺達がベランダに出て品川方面を見たら、黙々と煙が上がっているのが見えてよ」
それは…俺がやった事だな。皆にはそこまでする事は伝えていなかったから、敵がやったと思っていたらしい。
「大丈夫だ。全て想定内だった」
後ろからヤマザキが言う。
「詳しい話は後だ。とにかく疲れているだろう? ヒカル、飯を作るから待っててくれ」
「わかった」
だが俺はそれほど疲れてはいなかった。魔王ダンジョンの入り口の方がよっぽど大変だと思う。しかし皆が労ってくれるのを無下にするわけにいかないと思い、素直に好意を受ける事にして玄関を閉めるのだった。
中に入ると灯りは最小限で、蝋燭や小さな置物で照らしていた。
俺が皆に言う。
「もしかしたら明かりが灯せるようになるかもしれん」
皆が振り向き、マナが言った。
「どう言う事?」
「しばらくは様子を見なければならないが、盗賊はもう、おいそれと東京には来なくなるはずだ」
タケルが聞いて来る。
「盗賊を始末して来たからって事かい?」
「それだけじゃない。一応、脅しをかけて来たんだ」
「…盗賊に?」
「そうだ」
「プッ! ははははは! なんかよ! 心配するだけ無駄みてえだな」
すると女達もあきれ顔だ。ミオが言った。
「本当ね。でも心配は心配。一緒に行動出来たらいいんだけど」
そして俺が答えた。
「今までいろんなDVDを見せてもらって、参考になる事がいっぱいあったんだ。近いうちにまた、あの交差点のDVD屋に行って有益な情報を仕入れたいと思っている」
「でもよ、ヒカルが見るのって映画とかアニメだよな? それが役立つのか?」
「もちろんだ」
今回の罠の仕掛けもそうだが、この世界の映画やアニメにはとても有益な情報がいっぱいあった。俺が今回、盗賊に対してやった事もアニメで見た事を模倣した。特に台詞が良い。なんであんなに素晴らしい言い回しが出来るのか? と思える宝石のような格言がいっぱい聞けるのだ。
するとアオイが俺に言う。
「私もアニメ見たい」
「そうか! アオイはアニメが見たいのか! なら今度一緒に回収に行こう」
「うん!」
俺と約束したアオイはとてもうれしそうだ。少しでもアオイの元気が戻るのであれば、すぐにでも連れて行こうと思うのだった。




