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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第75話 盗賊から身を隠す場所

ビル群周辺のゾンビを討伐しながら一つのビルに目を付け、すぐにヤマザキを連れてそのビルへと進入する。俺達が今いる拠点とは違い、そのビルにはゾンビが多く居て、俺達が入って行くと喜び勇んで襲い掛かって来た。


 まあゾンビに喜ぶなどの感情は無いだろうが。


 円斬で周囲のゾンビの首を刎ね飛ばしながら、その建物の奥へと進んでいく。


「いい感じにゾンビが多いな」


 俺が言うとヤマザキが答える。


「ここはやめた方が良いんじゃないか?」


「いや、ここは理想かもしれん」


「盗賊対策にって事か?」


「そうだ」


「最初に東京に来た時は、ホテルは敬遠していたと思うが?」


「状況が変わった」


 俺の言葉にヤマザキが黙る。そして階段を見つけて、俺達はひたすら上を目指してそこを登っていくのだった。時おり階段の踊り場にゾンビが居たが瞬殺で討伐していく。だが上層に来るにつれてヤマザキが肩で息をし始めた。


「ふうふう」


「やはりキツイか?」


「恐怖なのだろうな。普通に階段を上がるよりキツイ」


「ゾンビは問題ないから安心してくれていいのだが」


「頭では分かっている」


 そんな会話を交わしながら進んでいくと、とうとうヤマザキが音を上げた。


「すまんが休ませてくれ」


「わかった」


 数えて三十八階層ほど上がって来たが、まだ上があるようだ。ヤマザキが足を揉みながら言う。


「最上階まで行くのか?」


「そのつもりだ」


 ヤマザキがいなければとっくに到着していたが、彼の歩みが遅いので進みは遅かった。そこで俺から提案をする。


「俺の背に乗れ」


「いや、俺がついて来ると言って来たんだ。そんなわがままは言えん」


「問題ない。おぶされ」


 効率を考え、俺はヤマザキに遠慮をしないように言った。


「す、すまん」


 俺はヤマザキを背にして、一気に最上階まで走り抜ける。


「疲れないのか?」


「特別、凄い事はしていない。身体強化もいらん」


「そうか…」


 俺は気配感知でビル内の気配を探る。


「ヤマザキ、朗報だ」


 俺がヤマザキに言うと、俺の背中でヤマザキが言った。


「悪いが降ろしてくれ」


 ヤマザキが俺の背中から降りる。


「で、何が朗報だ?」


「九階から三十七階までは比較的ゾンビが少なかった。そこから上には程よくゾンビがいてくれた。おそらく部屋にいるのかほとんど徘徊していない、それにこの階にはゾンビの気配はない」


「そうなのか?」


「そしてこの高さと広さがあれば攻めにくいと思うぞ」


「そう言う事か」


「ここは五十二階だからな」


「ヒカルが言っていたゾンビが少ない階層の、九階から三十七階は恐らくオフィスゾーンだ。そしてその上がホテルになっているんだ」


「それは好都合だ。既に防御の為の設計案は出来ている」


 下層のゾンビはあえて残し上層の居住空間にいる数階のゾンビを片付け、数か所にバリケードを作るのだ。そうする事で自然の防御柵が出来上がる。ゾンビが上がってこないようにすればいいだろう。


「部屋を見るぞ」


 俺達は更に先に進み一つの部屋の前に立った。そして扉の鍵穴を見るが何処にも鍵穴が見当たらない。


「鍵穴が無いぞ」


「こういうホテルはカードで開けるんだ。部屋ごとの電池式なら開くかもしれんが、電気が通らないと開かないぞ」


 となると、鍵を壊した後の対応を考えねばなるまい。


「鍵を破壊した後、内部に鍵をつける事は可能だろうか?」


「まあ日曜大工程度のものなら可能だろうが、堅牢な鍵は作れないだろうな」


 俺はとりあえずその扉に手を伸ばして手前に引いてみた。すると普通にその扉が開く。


「空いたぞ」


「なるほど。恐らく緊急時の停電には開錠される仕様なのかもしれん」


 そして俺達は部屋の中に入る。中には普通に鍵のひねりが付いていて、俺がそれを回すと普通に鍵がかかった。これならば出かけるとき以外の安全は確保できるだろう。


「内部からはかけられるようだな」


「そのようだ」


 俺はそのまま部屋の中に入って行く。真っ暗で外の月明かりしかないが、俺にははっきりと見て取れた。だがヤマザキには暗くて何も見えないらしい。


「ヒカル。懐中電灯をつけていいか?」


「下に向けて点けてくれ。くれぐれも窓には向けないようにな」


 ヤマザキが懐中電灯をつけて周りを見る。


「うおっ、こりゃすごい」


 その部屋は広く、いくつもの部屋に分かれているようだった。見て回ると重厚なソファやベッドが置いてあり、滞在するには申し分無さそうだ。


「随分豪華な部屋だな」


「こりゃスイートルームだ。ほら、グランドピアノまである」


 ヤマザキが言う。そこには黒くて大きな台のような物が置いてあった。


「これはなんだ?」


「楽器さ」


「楽器?」


 そしてヤマザキがその台の蓋をあけ、白と黒の並びを指で押した。


 ポーン!


 音が鳴る。


「いい音色だ」


「そうだな」


「だが音を立てる事は出来ん。下の階層からゾンビを呼び寄せてしまうかもしれん」


「そ、そうだな」


 だが鍵もかかるしそれ以外の問題は無さそうだった。俺がヤマザキに告げる。


「よし、ここに決めた」


「ただ、上り下りがきついな」


「ずっと住むとは思っていない」


「そうなのか!?」


「もちろんだ。盗賊を討伐し終えたらもっと過ごしやすいところに移るつもりだ」


「なんだ。そう言う事か? 俺はてっきりずっと住むのかと思っていた」


「盗賊などさっさと片付けてしまうに限る」


「わかった」


 俺はその場所に目星をつけて戻る事にする。


「じゃ、皆の所に戻ろう」


「だな…ふうっ」


「なんだ?」


「また降りるのかと思ってな」


「なんだ、そんな事か? 俺も急ぎたいからな、ヤマザキを背負って行く事にする」


「ははは…いつもすまないねえ」


「問題ない」


 俺はヤマザキを背負い一気にビルを駆けおりた。既にバイク周辺にもゾンビは居たが、飛空円斬で全て斬り捨てバイクにまたがる。


「行くぞ」


「ああ」


 俺は再び暗闇の東京を走り、拠点に戻って皆にその事を伝えた。


「ホテル!」

「凄い!」


 ユミとマナが喜んでいる。他の女性達は少し微妙な反応だったが、それはゾンビがいる場所に行く恐怖の為だ。


 そしてユミが続けた。


「パー〇ハイ〇ット東京って言ったら一流ホテルよ! 一流!」


 そしてマナもそれに重ねて言った。


「そんなところに住めるなんて夢みたい!」


 だがそれにユリナが水を差す。


「二人はそんな事言うけどね。すっごいゾンビの数だって言うじゃない。気楽なもんでもないわよ」


「そこはぁ! ヒカルが何とかしてくれるんでしょ?」


 ユミの言葉になぜかタケルが気まずそうだ。


「いや、由美。ヒカルが大変なんだぞ!」


 だが俺は大変だとは思っていない。それで皆の安全が確保できるのなら安いものだ。


「俺は問題ない。すぐにバリケードなどの拠点化を進める。あとは盗賊を討伐してから考えよう」


「わかったよ。だけど相手はでっかい組織かも知れねえんだぞ」


「俺一人なら銃は問題にならん。それよりも護衛対象がいる方が戦い辛くなるんだ」


「まあ、足手まといにはなりたくはねえけどな」


「足手まといだとは思っていない。適材適所と言ってくれ」


「へいへい」


 あとタケルは何も言わなかった。なぜか俺にだけ働かせる事に抵抗があるらしい。そして俺はすぐに皆に伝える。


「あのホテルを拠点化したら、すぐに移動するから準備をしていてくれ」


「「「「「「はーい」」」」」」


 女達が返事をし、タケルが肩をすくめる。そしてヤマザキが言った。


「食料は全て移すのか?」


「いや。この部屋に米を保管していく。あのホテルが拠点として機能しなくなったらすぐに戻れるようにな」


「必要な分だけという事だな?」


「そう言う事だ」


 これで盗賊討伐の準備は終わる。敵の規模や正体がわからない以上、これだけ慎重にやってもやり足りないくらいだ。俺が不在の間はゾンビに皆を守ってもらう。


 そして移住当日、皆は緊張気味で地下の駐車場に居た。俺はリムジンにバイクを並べ運転席のヤマザキに話しかける。


「行くぞ」


「わかった」


 俺のバイク一台とリムジンと一台のワゴン車が連なってビルの駐車場を出た。道は俺が既に覚えているので、俺が先頭を走る事になった。ちゃっかりタケルが俺の後の席に座っている。


「わりいな! ヒカル。特等席をもらっちまってよ!」


「走るならタケルが後ろに居た方が楽しい」


「おっ! そうか? とにかくシュッパーツ!」


 俺はバイクに乗りながらも、進行の妨げになるゾンビを斬り捨てていった。そして目当てのホテル近辺に着くと、やはりゾンビの数は増えていた。


「よし! いい感じだ!」


 俺が言うとタケルが聞いて来る。


「なにが、いい感じ。なんだよ?」


「こいつらが盗賊からお前達を守る」


「兵隊って事ね」


「そう言う事だ」


 そして俺達の車列は、次の拠点である高層ホテルの駐車場に潜っていくのだった。既にゾンビを片付けて鍵を閉めていたので、地下駐車場にゾンビは居なかった。後ろのリムジンとワゴン車がライトをつけてついて来る。そして地下五階まで到達した。


「よし。とりあえず到着だ」


 俺とタケルがバイクを止めて降りると、皆も車を降りて来た。


「ゾンビ凄かったよね…」


 ユリナが青い顔で言う。


「アイツらが皆を守るから、まずは我慢してくれ。皆の居住区にはゾンビが上がらないようにしてある」


「分かった。それで居住区は何階?」


「五十二階だ」


 するとタケルが言った。


「よっしゃ! 皆! 気合い入れて登るぞ!」


 すると皆が力なく答える。そしてマナが言った。


「五十二階かあ…」


 それにタケルが言う。


「おいおい! 若いんだからそんなに嫌な顔すんなって!」


「若いとか関係ないから! なんでタケルには分かんないかな? 無駄に元気だよね!」


「ヒカルが頑張ってくれてんだ。俺達は迷惑をかけないようにするだけだろ?」


 その言葉で皆がちょっと微妙な表情をする。


「そう言うなタケル、お前が普通じゃないんだ」


「へっ? おりゃヒカルのフォローしたつもりだぜ?」


「それはありがたいが、皆の気持ちも考えるんだ」


 するとユミが言った。


「そうそう! ヒカルの言う通りよ! 私達はヒカルの足を引っ張るつもりなんてないんだから。ただね、人にはそれぞれ体力に差があるのよ。皆があんたみたいに体力があるわけじゃないの!」


「わーったよ! とにかく行こうぜ!」


 そして俺達はそれぞれに食料と衣料品の入ったリュックを背負い、五十二階目指してホテルの階段を上がり始めるのだった。この街のゾンビとビルの高さ、そしてたくさん建っているビル群達が俺の仲間を守ってくれる。


 これで心置きなく、盗賊の討伐に集中できる。


 そう思うのだった。

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