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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第74話 新たな拠点候補

 俺がアカサカゴショに視察に行くのが決まると、ヤマザキが周辺の地理を説明すると言ってついて来た。ヤマザキが一緒に出るのは珍しく、今は暗闇を走るバイクの後ろで冷や汗をかいている。


 ヤマザキが俺に尋ねた。


「ヒカルは、本当に見えているのか?」


「はっきりとな。道路を這う鼠も見えるぞ」


「信じられん…。いや信頼はしているが、暗闇をこのスピードで進むのは恐怖だな。南も愛菜も良く耐えたものだ」


「しがみついては居たがな、しがみついても良いぞ」


「いや…遠慮しておくよ」


「ならタケルみたいに手を上げて叫ぶか? ひゃっほー! とか?」


「それも遠慮しておく」


 今はヤマザキの判断で首都高速を走っていた。標識が出て来たので俺がライトをつけると、ヤマザキの指示が出る。


「まもなく降り口だ」


「わかった」


 バイクを進めて行くと、道が左にそれていき高速を降りる事が出来た。


「ヒカル! そのまま道なりに走ると左に入る道がある。そこを行け!」


 俺はヤマザキの指示通りに左に曲がる。するとすぐにヤマザキが言う。


「ここが赤坂御所だぞ」


「なに!」


 俺はバイクを止める。その道にはゾンビはおらず車もさほど散乱していない。


「その左の木々がある奥だ」


「本当か?」


「ああ」


 その道を少し走っただけで、すぐに中に入る小道が出て来た。俺がそこから中に入って行く。


「タケルと来た時より早く感じるな」


「タケルとの時は新宿を通って来たからだろう? 今回は首都高を直通で来たからな」


「そう言う事か」


 バイクを進めると、そこには多少ゾンビがいるものの静かだった。俺はバイクを止めてヤマザキと共に林の中へと歩いて入って行く。林の中にも二体ほどゾンビが居たが問題無く仕留める。ヤマザキはかなり緊張して息遣いが荒い。俺がヤマザキに聞く。


「なんだ? こちら側はゾンビがいないぞ?」


「ここは一般人が入らない所だったからな、元より人間が居ないというのもあるのかもしれん」


「それはまずいな」


「なにがだ? ゾンビが居ないなら住むには安全だろう?」


 確かにゾンビに対してはここは申し分ない場所かもしれない。以前タケルと来た時には、新宿を通ってきたためにゾンビが大量にいた。だがこちら側にはゾンビが居ないのだ。


「俺はてっきり、周辺はゾンビで埋め尽くされているもんだと思っていたんだ」


「そう言われてみると少ないな」


「それともう一つ」


「なんだ?」


「ここは首都高の降り口から近すぎる。これでは難なく盗賊たちが侵入して来るだろう」


 ヤマザキが少し考えて答える。


「まあ、確かにそうだが、ヒカルは都心部に賊が入ってこないと推測したのだろう?」


「もちろんそうだが、これでは侵入しやすすぎる」


「そう言われたらそうか」


「実際の所、俺達も首都高を通って都心部に入った。その上にこんなにゾンビが少ないんじゃ、容易に人間が侵入して来れるだろう?」


「…まあ、そうだな」


「均衡が取れていない。ゾンビには良いが、盗賊からの守りには適していない」


「いや…でも、盗賊が赤坂御所に来るかは疑問だがな?」


「そうだろうか?」


 ヤマザキが分からないような顔をするので付け加えて説明をする。


「王の棲んでいた場所なのだろう?」


「まあそうだ」


「何かめぼしいものがあるかもしれない、とは考えないだろうか?」


 またヤマザキが考えてから言う。


「それは無いとは言えない。むしろ平和な生活の時には入らなかった場所だから、普通の人間は抵抗があっても、盗賊にそんな倫理観があるとは思えん」


 建物が見えてきたがゾンビは居なかった。それだけに天然の兵隊が少ないという事だ。雑木林で隠されてはいるが、盗賊達にとっては何の障害にもならない。


「王達は何処へ逃げたのだろうな?」


「わからん。安全な場所があるのかないのか? それすらも謎だからな。恐らくは皇居にすら居ないだろうな」


「コウキョ? それは何だ?」


「まあ、ここが住み家なら皇居は城だな」


「どこにある」


「それもすぐそばだよ」


「なるほどな」


 話しながらもヤマザキを掴んで飛びあがり、柵を越えて敷地内に入った。


「ヒカル。俺を掴んで飛ぶときは先に言ってくれ」


「わかった」


 すると大きな屋敷が見えてくる。そこは暗くひっそりとたたずんでいた。


「で、どうだ?」


「内部にゾンビは居ない。そして住むには良い場所だろうが、盗賊が攻めてきた場合はビルより悪いかもしれない」


「そうか…」


 俺が建物に向かって剣を向ける。


「推撃」


 ガシャガシャン!


「な、なんだ! どうした!」


「ビルより脆い」


「そうか…、やるならやると言ってくれ」


 俺はヤマザキの言葉をやり過ごして言う。


「壁が低い事とゾンビが居ない事、そして高速の降り口からすぐ過ぎる」


「悪い事ばかりって事か?」


「平和な世なら、ここはすみやすい場所なのだろうな」


「まあそうだな」


「行くぞ」


「中を見なくていいのか?」


「ああ」


 俺はヤマザキを連れてバイクに戻る。恐らく盗賊が居ない世界なら、ここは避難所としては最高だったろう。


「すまなかったなヤマザキ、無駄骨だった」


「そんなことはないさ。トライアンドエラーを繰り返すのは当たり前だ。失敗の積み重ねの上に成功がある」


 とてもいい言葉だと思った。


「なるほど、いい言葉だな。トライアンドエラーか、タケルじゃ聞けない話だ」


「まあ…そうだろうな…」


 バイクのエンジンをかけて来た道を戻ろうとした時、ヤマザキが俺に言う。


「ヒカル。それならば新宿の高層ビル群はどうだろう? そこならゾンビがいるかもしれん」


「それはどこにある?」


「ならバイクを出してくれ」


 俺がヤマザキの指示の通りに進むと、どんどんゾンビの数が増えて来た。それらをすべて避けて車の残骸を躱して進む。するとヤマザキが俺に言った。


「懐中電灯を照らしてもいいか?」


「問題はないが…」


 するとヤマザキがとんでもない声を出した。


「うっぎゃぁぁぁぁ!」


「どうした!」


「あ、あわわ。あの、あれ」


「あれじゃわからん」


「こんな中を走っていたのか!」


「こんな中とは?」


「こんな大量のゾンビの群れの中を!」


「まあ指示通り走ってきたつもりだがな?」


「も、戻ろう」


 せっかく視察しに来たのに、ヤマザキが目的も果たさず帰ろうと言ってきた。さっきトライアンドエラー、といういい言葉を教えてくれた男とは思えん。


「ヤマザキが言ったんだぞ?」


「しかし!」

 

 俺はヤマザキの言う事を聞かなかった。


「ここは悪くない」


「なにがだ?」


「拠点にだ」


「いやいや! ヒカルはこのゾンビが見えないのか?」


「いや、むしろゾンビがいるからだが?」


「そりゃ盗賊には邪魔になるが、住むとなるとゾンビが脅威にならないか?」


「ゾンビは俺が何とかする。だがこれは良い! ビルがビルを囲んでいるからな、遠くから見て隠れるビルがあるじゃないか!」


「まあ、俺もそう思ったんだがな、まさかこんなにゾンビがいるとは」


「いや、今はゾンビより盗賊だ」


「…わかった」


 そしてヤマザキは他の女達のように、俺にがっちりと抱き着いて来た。さっきは遠慮しておくと言っておきながら、今度は震えてしがみついている。やはりタケルとは大違いだ。俺はビルの間を縫うように走り、ここが守りに適している可能性を見出していた。俺達が今いる拠点より遥かに高層ビルが多く、盗賊が俺達の住み家を一点集中で攻めて来る可能性は低い。ビルの入り口を堅牢に固めてしまえば、ゾンビは入っては来ないだろう。


「ヤマザキ!」


「な、なんだ?」


「このあたりのビルを確認したい! バイクを止めるぞ」


「えっ! 止める? いや! それは!」


 俺はヤマザキの声を無視してバイクを停め、ヤマザキを振り払って降りる。


「うおっ、ちょちょっ!」


「飛空円斬」


 ピシュッ! 広範囲のゾンビを切り倒し、俺は反対側のゾンビも切り倒す。


「これで文句はないだろう?」


 見える限りは立って歩くゾンビは居なくなっている。


「な、何が、どうなって…」


「斬った」


 通りの先までゾンビが居なくなっており、ヤマザキは呆けたような表情をしている。ヤマザキは常に冷静な判断が出来る男だが、突発的な出来事には対応できないらしい。意外な一面を知る事が出来たかもしれない。


 それはさておき、俺は周辺のビルを見渡して言う。


「ヤマザキ! あそこに登ってみよう!」


「い、行くのか?」


「もちろん、ここで待ってろとは言わない」


「もちろんだ! 死んじまう!」


「よし、なら俺から離れるな」


「わかった!」


 そして俺は、ゾンビの気配がある程度残っているビルを目指して歩いて行くのだった。

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