第71話 高級リムジンをゲット
拠点に戻るとミナミはまだ俺のベッドで眠ったままだった。ミナミ以外の人間が集まったので、俺が葬った賊の事を伝える。
「で、どうするかだな」
ヤマザキがそう言うとユリナがそれに答える。
「その集団って全部で何人くらいいるんだろうね? 支部で五十人もいるって事でしょ?」
「全体はもっといるという事だがな、どれくらいなのか…」
するとそれを聞いていたマナが言う。
「結構深刻だよね。そう考えてみると、私達はすんでのところで助かったという事じゃない? 私達が皆と一緒に空港に居たままだったら、間違いなく全滅していたわ」
ミオが頷いて言う。
「私達が東京に行かなかったら、ヒカルとも出会わなかったしね」
それを聞いてツバサが青い顔で言った。
「本当にヒカルのおかげね。あんな銃を持った奴らが集団でそんな事をしていたなんて、私と南は良く生き残れたわ」
それでも俺はドウジマとトベという男を死なせてしまった。
「いや。俺はたまたま居合わせて出来る事をやっただけだ。もっとうまくやれたならドウジマもトベも死ぬことは無かった」
するとヤマザキが首を振った。
「いきなり遭遇したんだ。むしろ上手くいった方だろう」
「あの時、銃を持つ集団に四方を囲まれていたら、俺は皆を助けられたかどうか分からない」
「運も味方したって事か…」
するとタケルが話を仕切るように言う。
「済んだことはしかたねえよ。それよりも今後どうするかだな」
「確かにな。ヒカルが全てを消滅させたとはいえ、二部隊も帰ってこなかったとなると探しには来るかもしれない。遺体が無いから、ゾンビにでもやられたんだと勘違いしてくれると助かるんだがな」
皆がヤマザキの言葉にうなずいているが、俺の意見は違った。
「むしろ俺は、そいつらを壊滅させた方が良いんじゃないかと思っている」
「「「「「「えっ」」」」」」
ヤマザキ、ミオ、ユリナ、マナ、ユミ、ツバサが声をそろえた。
だがタケルだけは頷いている。
「俺もヒカルの言うとおりだと思う。放っておけばこれからも被害者は出る。そいつらを野放しには出来ねえんじゃねえか?」
だがヤマザキが深刻な顔で答えた。
「それは危険すぎやしないか?」
それに俺が言う。
「俺が一人で行く」
するとタケルが言った。
「何言ってんだよヒカル。幕張が何処にあんのか分かんのかよ」
「…知らん」
「助っ人がいるだろ?」
なるほど。タケルの言う通り、確かに俺は地名を聞いたところでそこにたどり着けない。だが戦闘となると他の人間を連れて行くのは危険すぎる。
慌ててユミが言う。
「いやいや! まってまって! 万が一ヒカルに何かあったら私達はどうするの? こんなところに置かれたまま、ヒカルが帰って来なければ私達が全滅するわ」
「まあ確かにそうか…」
タケルも黙ってしまった。確かにユミの言う事も一理ある。だが今度はミオが言った。
「脱出できるようにしておけば良いんじゃない?」
「まって、美桜。どうやって?」
「頑丈な車を入手して、地下駐車場に入れておけばいいんじゃないかな? そうすれば車に乗ってそのまま脱出できるし」
するとタケルが言った。
「美桜のいうとおりだ。つーか、今回の事を抜きにしても、そうしておいた方がよくねえか?」
それに皆が頷いた。そして俺もそれには賛成だった。
「ならば頑丈な車を探しに行こう」
「ああ。そんでガソリン満タンにして置いときゃいい」
そこでヤマザキがまとめた。
「なら一つは決まりだな。脱出用の車を入手しておこう」
「でもよ、頑丈な車なんて何処に売ってんだ? 俺は単車のことなら多少知ってるけど車はからっきし分からん。しかも高級車だろ?」
するとそれにマナが答えた。
「あの…」
だが口ごもる。何か言いたくない事があるらしい。そしてヤマザキが静かな声で尋ねた。
「何か知っているのか?」
「えっと、高級車の売ってる場所なら知ってる」
それにタケルが笑いながら言う。
「なんで、マナが高級車の売っている所なんか知ってんだ? 親が金持ちとかか?」
「…う、うん…。まあそんなところかな」
「それならいいじゃん!」
「そうね」
表情が曇るマナに俺が言う。
「行きたくないのか?」
「そうじゃないの。なんて言うか良い思い出がないだけ」
「なら決まりだ。車を回収して地下駐車場に入れておこう」
「わかった」
話は決まった。
「ならマナはもう寝るんだ。今日の夜に出発する」
「ううん。すっごく近いからそんなに大変じゃないと思う」
「なら眠らなくても良い。休んでおけ」
「わかった」
陽が沈み東京に夜が訪れた。
ヤマザキが言う。
「ヒカル、連日すまないな」
「問題ない。というよりも、こんなにゆったりとして良いのかとすら思っている」
「ゆったり…」
「ああ」
俺が魔王ダンジョン攻略に明け暮れていた頃は、毎日死ぬ思いで休息など取らずにただひたすら化物と戦っていた。それに比べれば遊びみたいなもんだ。
「とにかくマナを頼む」
「もちろんだ」
それからしばらくするとマナが俺の部屋にやって来る。そのころにはミナミも起きて、俺達の部屋でスープを飲んでいた。マナがミナミに声をかけた。
「南! 元気になった?」
「うん。ごめんね、ちょっと参っちゃって」
「仕方ないよ。ひどい事があったんだし」
「今度は愛菜が行くんでしょ?」
「はは、ちょっと不安かな」
「それは大丈夫よ。ヒカルが側にいれば、多分ここより安全」
「わかった。ヒカルよろしくね」
「もちろんだ」
そして俺とマナは早速出発する。ビルの外に出てから俺はマナに聞いた。
「ズボンは無かったのか?」
「あ、何も考えていなかった! 近いし良いかと思って」
マナはヒラヒラのスカートを身に着けていた。出来れば肌は晒さない方が良いが、マナはそのあたりは無頓着な人だった。
「バイクに乗るんだが…」
「危ないって事だよね?」
「いや、絶対に転ぶ事はない。まあ安全運転で行くとしよう」
「うん」
そして俺はマナを後ろに乗せて頑丈な車を探しに出るのだった。マナが方向を指示していく。しかし目的地には十分もかからずに到着した。
「ずいぶん近いな」
「うん。港区にはね、こういう店がたくさんあるの」
「そうなのか? 詳しいな」
俺の言葉にマナの顔が少し曇った。
「あのね、ヒカル」
「なんだ?」
「私ね、港区で年配の男の人からお金をもらってデートとかしてたの」
「デート?」
「まあご飯を食べたり、彼女みたいな事をしたりね」
「それは仕事か?」
「違うんだけど、なんていうかお小遣い稼ぎみたいな? で、その時知り合った男の人から車屋さんに連れてこられたのよ」
「それで知っていたと言う事か?」
「うん。でも皆には言えなくて」
「言いたくないなら言う必要はない。それに何が悪いのかもわからん」
「はは、ヒカルならそう言うと思っていたけど」
「それより、周辺にゾンビがいる。すぐに車を運ぼう、運転は大丈夫だな?」
「もちろん」
そして俺達はバイクを降りて、マナが言う車屋の中に侵入する。店の中にはゾンビはおらずに、車が数台置いてあった。
「随分平べったい車があるぞ」
「それはスポーツカーだね」
「馬の紋章が張ってある」
「そう言うブランドなの」
「こっちのヤツは牛だな。こう言うのが高級なのか?」
「まあ、そうなんだけどこれは逃走には使えないね」
「ああ、だがあの端に置いてある奴は良さそうだぞ」
俺とマナがその車の隣りに行く。そこには分厚くて寸胴の長い車が置いてあった。タイヤも大きく、かなり丈夫そうであることが分かる。
「これがいいんじゃないかな?」
「良いと思う、とても頑丈そうだ。きっと控えの部屋に鍵があるはず」
「探そう」
俺達が裏に入ると金庫があり、俺が短刀でその金庫の鍵を斬る。バールとは違い全く損傷無く金庫の扉を外す事が出来た。そこには鍵と紙切れがたくさん置いてあった。
「あった! すっごいお金もある」
「たくさんあるようだな」
「まあ、お金は使えないからいらないか…」
「そうだな。この世界では必要がなさそうだ」
そしてマナは鍵が入った箱をひとつひとつ見ていく。
「えっと、たぶんこれ。リムジンって書いてあるもん」
「よし、やってみよう」
箱から鍵を取り出して二人で寸胴の長い車の所に行く。マナが黒い小さな箱の鍵を押すと、キュキュッという音が鳴りドアが開いた。
「よかった、開いたみたい」
「エンジンはかかるか?」
「えーっと」
マナが車内を見るが、どうやらどうやっていいのか分からないようだった。
「まって、全然わからない」
「とにかくいろいろ押してみろ」
「わかった」
ポチポチ押していくとハザードが点いたりしたが、そのうち当たりを引いたらしくエンジンがかかった。
「かかった!」
「よし。運転できるか?」
「緊張するよー」
「ぶつけても動けば問題ない」
「わかった」
「俺がバイクで先行するからついてこい」
「うん」
マナがドアをバタンと閉めた。俺はすぐさまガラス張りの壁の一角を斬る。すると大きなガラスが倒れて大きな音を立てて割れてしまう。だがそれは既に想定済み、音に反応して近寄ってきたゾンビを俺が一瞬で全て斬り捨てた。
「よし、こい!」
マナが長い車を道路に出し、俺がバイクにまたがってマナに合図を送る。マナが親指を立てたので、そのままゆっくりと進み始めるのだった。散乱している車もゾンビも、全て俺の剣技『推撃』で薙ぎ払いつつ道を作っていく。拠点付近は俺があらかた片付けているのでゾンビは少なくなった。
「こっちだ」
地下駐車場の入口から中へと入り地下三階まで到達した。地下三階には既にゾンビはおらず、無事に車を持ってくる事が出来たのだった。俺はマナを居住区に連れて行き皆に車の事を伝えた。
「リムジンかよ!」
タケルがビックリして言う。そしてマナが照れ臭そうに言った。
「うん」
「何処のメーカーのリムジンだ?」
「わかんない。だいぶゴツイから良いかなって」
「見てえ!」
タケルの一言で、皆で地下に降り車を見る事になった。
皆が車をとりかこんで驚いている。
「おいおい! ハ〇ーのリムジンだってよ!」
タケルがはしゃぐとユミが興味津々に言う。
「中が見てみたい!」
後ろのドアを開けて皆がため息をついている。
「うわぁ…高級…」
「ラウンジみたい」
「お酒とか置く場所ある」
それにヤマザキが答えた。
「恐らくショールームに飾る時に、イメージとして置いておいたんだろうな」
「だがよ! ハ〇ーならかなり頑丈だと思うぜ!」
「そうだな」
その車内を見て俺もこの車を持って来て正解だと思った。長く乗るとしてもこれならゆったりと休むことが出来るだろう。東京まで乗って来たワゴンも狭くはなかったが、これなら下手をすると横になる事も出来るはずだ。
ユリナがマナに言った。
「お手柄だね」
「えへへへ」
マナは頬を染めて恥ずかしがっていた。するとタケルが言う。
「つーか、こんな車がおいてあるっつーことは、他にも高級車があったんじゃね?」
それにマナが答えた。
「多分高い車あったよ」
だがマナは車の事が詳しくないらしく、上手く伝える事が出来ないでいた。俺は見てきた特徴をタケルに伝えた。
「随分平べったい車だった。あれでは居住空間が狭いだろうな」
「なんか特徴は無かったのか?」
「あー、馬の紋章のやつと牛の紋章の奴があった」
「「!!」」
タケルとヤマザキが息をのむ。
「どうかしたか?」
「ヒカル。そいつはめっちゃ高級車だよ! そりゃ馬力もあってめちゃくちゃ速えんだ!」
逆にそれに俺が食いついてしまった。
「なに! めちゃくちゃ速いだと!」
「ああ。ヒカルの見たエンブレムがそれなら、相当凄い奴だ」
それを聞いて俺はそわそわしてしまう。
「なんだよヒカル…もしかして」
「タケル! 取りに行こう!」
「やっぱそう来ると思った」
そして、朝までに俺とタケルの二人で、その店から全ての車を運び出す事に成功したのだった。




