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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第71話 高級リムジンをゲット

 拠点に戻るとミナミはまだ俺のベッドで眠ったままだった。ミナミ以外の人間が集まったので、俺が葬った賊の事を伝える。


「で、どうするかだな」


 ヤマザキがそう言うとユリナがそれに答える。


「その集団って全部で何人くらいいるんだろうね? 支部で五十人もいるって事でしょ?」


「全体はもっといるという事だがな、どれくらいなのか…」


 するとそれを聞いていたマナが言う。


「結構深刻だよね。そう考えてみると、私達はすんでのところで助かったという事じゃない? 私達が皆と一緒に空港に居たままだったら、間違いなく全滅していたわ」


ミオが頷いて言う。


「私達が東京に行かなかったら、ヒカルとも出会わなかったしね」


 それを聞いてツバサが青い顔で言った。


「本当にヒカルのおかげね。あんな銃を持った奴らが集団でそんな事をしていたなんて、私と南は良く生き残れたわ」


 それでも俺はドウジマとトベという男を死なせてしまった。


「いや。俺はたまたま居合わせて出来る事をやっただけだ。もっとうまくやれたならドウジマもトベも死ぬことは無かった」

 

 するとヤマザキが首を振った。


「いきなり遭遇したんだ。むしろ上手くいった方だろう」


「あの時、銃を持つ集団に四方を囲まれていたら、俺は皆を助けられたかどうか分からない」


「運も味方したって事か…」


 するとタケルが話を仕切るように言う。


「済んだことはしかたねえよ。それよりも今後どうするかだな」


「確かにな。ヒカルが全てを消滅させたとはいえ、二部隊も帰ってこなかったとなると探しには来るかもしれない。遺体が無いから、ゾンビにでもやられたんだと勘違いしてくれると助かるんだがな」


 皆がヤマザキの言葉にうなずいているが、俺の意見は違った。


「むしろ俺は、そいつらを壊滅させた方が良いんじゃないかと思っている」


「「「「「「えっ」」」」」」


 ヤマザキ、ミオ、ユリナ、マナ、ユミ、ツバサが声をそろえた。


 だがタケルだけは頷いている。


「俺もヒカルの言うとおりだと思う。放っておけばこれからも被害者は出る。そいつらを野放しには出来ねえんじゃねえか?」


 だがヤマザキが深刻な顔で答えた。


「それは危険すぎやしないか?」


 それに俺が言う。


「俺が一人で行く」


 するとタケルが言った。


「何言ってんだよヒカル。幕張が何処にあんのか分かんのかよ」


「…知らん」


「助っ人がいるだろ?」


 なるほど。タケルの言う通り、確かに俺は地名を聞いたところでそこにたどり着けない。だが戦闘となると他の人間を連れて行くのは危険すぎる。


 慌ててユミが言う。


「いやいや! まってまって! 万が一ヒカルに何かあったら私達はどうするの? こんなところに置かれたまま、ヒカルが帰って来なければ私達が全滅するわ」


「まあ確かにそうか…」


 タケルも黙ってしまった。確かにユミの言う事も一理ある。だが今度はミオが言った。


「脱出できるようにしておけば良いんじゃない?」


「まって、美桜。どうやって?」


「頑丈な車を入手して、地下駐車場に入れておけばいいんじゃないかな? そうすれば車に乗ってそのまま脱出できるし」


 するとタケルが言った。


「美桜のいうとおりだ。つーか、今回の事を抜きにしても、そうしておいた方がよくねえか?」


 それに皆が頷いた。そして俺もそれには賛成だった。


「ならば頑丈な車を探しに行こう」


「ああ。そんでガソリン満タンにして置いときゃいい」


 そこでヤマザキがまとめた。


「なら一つは決まりだな。脱出用の車を入手しておこう」


「でもよ、頑丈な車なんて何処に売ってんだ? 俺は単車のことなら多少知ってるけど車はからっきし分からん。しかも高級車だろ?」


 するとそれにマナが答えた。


「あの…」


 だが口ごもる。何か言いたくない事があるらしい。そしてヤマザキが静かな声で尋ねた。


「何か知っているのか?」


「えっと、高級車の売ってる場所なら知ってる」


 それにタケルが笑いながら言う。


「なんで、マナが高級車の売っている所なんか知ってんだ? 親が金持ちとかか?」


「…う、うん…。まあそんなところかな」


「それならいいじゃん!」


「そうね」


 表情が曇るマナに俺が言う。


「行きたくないのか?」


「そうじゃないの。なんて言うか良い思い出がないだけ」


「なら決まりだ。車を回収して地下駐車場に入れておこう」


「わかった」


 話は決まった。


「ならマナはもう寝るんだ。今日の夜に出発する」


「ううん。すっごく近いからそんなに大変じゃないと思う」


「なら眠らなくても良い。休んでおけ」


「わかった」


 陽が沈み東京に夜が訪れた。


 ヤマザキが言う。


「ヒカル、連日すまないな」


「問題ない。というよりも、こんなにゆったりとして良いのかとすら思っている」


「ゆったり…」


「ああ」


 俺が魔王ダンジョン攻略に明け暮れていた頃は、毎日死ぬ思いで休息など取らずにただひたすら化物と戦っていた。それに比べれば遊びみたいなもんだ。


「とにかくマナを頼む」


「もちろんだ」


 それからしばらくするとマナが俺の部屋にやって来る。そのころにはミナミも起きて、俺達の部屋でスープを飲んでいた。マナがミナミに声をかけた。


「南! 元気になった?」


「うん。ごめんね、ちょっと参っちゃって」


「仕方ないよ。ひどい事があったんだし」


「今度は愛菜が行くんでしょ?」


「はは、ちょっと不安かな」


「それは大丈夫よ。ヒカルが側にいれば、多分ここより安全」


「わかった。ヒカルよろしくね」


「もちろんだ」


 そして俺とマナは早速出発する。ビルの外に出てから俺はマナに聞いた。


「ズボンは無かったのか?」


「あ、何も考えていなかった! 近いし良いかと思って」


 マナはヒラヒラのスカートを身に着けていた。出来れば肌は晒さない方が良いが、マナはそのあたりは無頓着な人だった。


「バイクに乗るんだが…」


「危ないって事だよね?」


「いや、絶対に転ぶ事はない。まあ安全運転で行くとしよう」


「うん」


 そして俺はマナを後ろに乗せて頑丈な車を探しに出るのだった。マナが方向を指示していく。しかし目的地には十分もかからずに到着した。


「ずいぶん近いな」


「うん。港区にはね、こういう店がたくさんあるの」


「そうなのか? 詳しいな」


 俺の言葉にマナの顔が少し曇った。


「あのね、ヒカル」


「なんだ?」


「私ね、港区で年配の男の人からお金をもらってデートとかしてたの」


「デート?」


「まあご飯を食べたり、彼女みたいな事をしたりね」


「それは仕事か?」


「違うんだけど、なんていうかお小遣い稼ぎみたいな? で、その時知り合った男の人から車屋さんに連れてこられたのよ」


「それで知っていたと言う事か?」


「うん。でも皆には言えなくて」


「言いたくないなら言う必要はない。それに何が悪いのかもわからん」


「はは、ヒカルならそう言うと思っていたけど」


「それより、周辺にゾンビがいる。すぐに車を運ぼう、運転は大丈夫だな?」


「もちろん」


 そして俺達はバイクを降りて、マナが言う車屋の中に侵入する。店の中にはゾンビはおらずに、車が数台置いてあった。


「随分平べったい車があるぞ」


「それはスポーツカーだね」


「馬の紋章が張ってある」


「そう言うブランドなの」


「こっちのヤツは牛だな。こう言うのが高級なのか?」


「まあ、そうなんだけどこれは逃走には使えないね」


「ああ、だがあの端に置いてある奴は良さそうだぞ」


 俺とマナがその車の隣りに行く。そこには分厚くて寸胴の長い車が置いてあった。タイヤも大きく、かなり丈夫そうであることが分かる。


「これがいいんじゃないかな?」


「良いと思う、とても頑丈そうだ。きっと控えの部屋に鍵があるはず」


「探そう」


 俺達が裏に入ると金庫があり、俺が短刀でその金庫の鍵を斬る。バールとは違い全く損傷無く金庫の扉を外す事が出来た。そこには鍵と紙切れがたくさん置いてあった。


「あった! すっごいお金もある」


「たくさんあるようだな」


「まあ、お金は使えないからいらないか…」


「そうだな。この世界では必要がなさそうだ」


 そしてマナは鍵が入った箱をひとつひとつ見ていく。


「えっと、たぶんこれ。リムジンって書いてあるもん」


「よし、やってみよう」


 箱から鍵を取り出して二人で寸胴の長い車の所に行く。マナが黒い小さな箱の鍵を押すと、キュキュッという音が鳴りドアが開いた。


「よかった、開いたみたい」


「エンジンはかかるか?」


「えーっと」


 マナが車内を見るが、どうやらどうやっていいのか分からないようだった。


「まって、全然わからない」


「とにかくいろいろ押してみろ」


「わかった」


 ポチポチ押していくとハザードが点いたりしたが、そのうち当たりを引いたらしくエンジンがかかった。


「かかった!」


「よし。運転できるか?」


「緊張するよー」


「ぶつけても動けば問題ない」


「わかった」


「俺がバイクで先行するからついてこい」


「うん」


 マナがドアをバタンと閉めた。俺はすぐさまガラス張りの壁の一角を斬る。すると大きなガラスが倒れて大きな音を立てて割れてしまう。だがそれは既に想定済み、音に反応して近寄ってきたゾンビを俺が一瞬で全て斬り捨てた。


「よし、こい!」


 マナが長い車を道路に出し、俺がバイクにまたがってマナに合図を送る。マナが親指を立てたので、そのままゆっくりと進み始めるのだった。散乱している車もゾンビも、全て俺の剣技『推撃』で薙ぎ払いつつ道を作っていく。拠点付近は俺があらかた片付けているのでゾンビは少なくなった。


「こっちだ」


 地下駐車場の入口から中へと入り地下三階まで到達した。地下三階には既にゾンビはおらず、無事に車を持ってくる事が出来たのだった。俺はマナを居住区に連れて行き皆に車の事を伝えた。


「リムジンかよ!」


 タケルがビックリして言う。そしてマナが照れ臭そうに言った。


「うん」


「何処のメーカーのリムジンだ?」


「わかんない。だいぶゴツイから良いかなって」


「見てえ!」


 タケルの一言で、皆で地下に降り車を見る事になった。


 皆が車をとりかこんで驚いている。


「おいおい! ハ〇ーのリムジンだってよ!」


 タケルがはしゃぐとユミが興味津々に言う。


「中が見てみたい!」


 後ろのドアを開けて皆がため息をついている。


「うわぁ…高級…」

「ラウンジみたい」

「お酒とか置く場所ある」


 それにヤマザキが答えた。


「恐らくショールームに飾る時に、イメージとして置いておいたんだろうな」


「だがよ! ハ〇ーならかなり頑丈だと思うぜ!」


「そうだな」


 その車内を見て俺もこの車を持って来て正解だと思った。長く乗るとしてもこれならゆったりと休むことが出来るだろう。東京まで乗って来たワゴンも狭くはなかったが、これなら下手をすると横になる事も出来るはずだ。


 ユリナがマナに言った。


「お手柄だね」


「えへへへ」


 マナは頬を染めて恥ずかしがっていた。するとタケルが言う。


「つーか、こんな車がおいてあるっつーことは、他にも高級車があったんじゃね?」


 それにマナが答えた。


「多分高い車あったよ」


 だがマナは車の事が詳しくないらしく、上手く伝える事が出来ないでいた。俺は見てきた特徴をタケルに伝えた。


「随分平べったい車だった。あれでは居住空間が狭いだろうな」


「なんか特徴は無かったのか?」


「あー、馬の紋章のやつと牛の紋章の奴があった」


「「!!」」


 タケルとヤマザキが息をのむ。


「どうかしたか?」


「ヒカル。そいつはめっちゃ高級車だよ! そりゃ馬力もあってめちゃくちゃ速えんだ!」


 逆にそれに俺が食いついてしまった。


「なに! めちゃくちゃ速いだと!」


「ああ。ヒカルの見たエンブレムがそれなら、相当凄い奴だ」


 それを聞いて俺はそわそわしてしまう。


「なんだよヒカル…もしかして」


「タケル! 取りに行こう!」


「やっぱそう来ると思った」


 そして、朝までに俺とタケルの二人で、その店から全ての車を運び出す事に成功したのだった。

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