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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第66話 暗闇の東京

 ミナミは俺にしっかり捕まって振り落とされないようにしていた。バイクは高速で曲がる際に車体を倒さねばならず、ミナミは俺の体に密着させるように自分の体を固定していたのだ。そして走り出してから一切、言葉を発する事が無くなった。


「ミナミ、どうした?」


「う、ううん。あ、あの…うえっぷ」


 ミナミの異変に俺はバイクのスピードを落とす。


「大丈夫か?」


「えっと、ごめん吐きそうかも」


 俺は少しずつスピードを落としバイクを止めた。気配感知をしても一番近いゾンビで八十メートルほど、近寄ってきたら始末すればいい。とにかく俺はミナミを降ろして、道路の端に連れて行く。するとミナミは嘔吐してしまい、俺は慌ててミナミに回復魔法をかけた。


「どうだ?」


「少し楽になった」


「具合が悪いのか?」


「バイクに酔っちゃったみたい」


 ミナミが申し訳なさそうに言う。タケルはどんなにバイクを振り回しても、スピードを上げても『ひゃっほぅ!』とか言いながら喜んでいた。しかしミナミはバイクの動作についていけていないようだった。


「すまない。タケルの時はそうはならなかったから」


「タケルはバイク好きだし、慣れているんだと思う。レースもしたことあるっていってたしね、でも私はそんな経験ないし…ごめんね。足引っ張っちゃって」


「あやまるな。俺のミスだ」


「真っ暗で振られるから怖くて」


「だが、灯りをつければ危険性が上がる」


「わかってるよ。でも真っ暗な中を、物凄いスピードで走ってる恐怖感と激しく振られるので気持ち悪くなっちゃって」


 そう言う事だったのか。バイクはエンジンを付けると勝手にライトが付くので、俺はそのライトを破壊して光を無くした。そのためライトをつけずに全速力で走っていたのだが、ミナミからすればそれは極限の恐怖だったと言う事だ。俺はそれに気が付かずに走り続けていた。


「落ち着いたら言え」


「大丈夫。ヒカルが何かしてくれたでしょ?」


「治癒魔法だ」


「凄いね…魔法なんてハ〇ー〇ッターみたい」


 それはDVDで見た。だがあれとは根本的に何かが違うような気はしている。だがミナミからすれば、俺のそれと映画の魔法は似ているのだろう。皆は俺の事を映画で例える事が多かった。


「生まれつき備わっていたものを、極限まで鍛え上げて強くなった。だけど俺と一緒に冒険していたヤツラの魔力は、俺の比ではなかったんだ」


「そうなんだね」


「もし俺がそれを使えたなら、タケルの腕も戻す事が出来たんだ」


「そうなの?」


「腕の欠損くらいなら治す奴がいたからな」


「腕を生やす?」


「戻す、と言った方がいいかもしれん」


「ぜんっぜん理解できないけど凄いよ」


 話をしているうちに三十メートル付近までゾンビが寄ってきていた。


「ゾンビが寄ってきている。行くぞ」


「う、うん」


 俺は再びミナミを乗せてバイクを発進させた。今度はゆっくりと進むようにする。バイクがゾンビに追いつかれる事は無いはずだ。


「これでどうだ?」


「だいぶいい」


 そして俺は、行先確認の為にやらねばならない事があった。走っている間に標識を見つけた時だけ、バイクを止め懐中電灯をつけてミナミに確認させる作業だ。しばらく走っていると、青に地域名が記載されている標識が見えて来る。


「標識だ」


「うん」


 俺がバイクを止めて懐中電灯をつけた。


「ひっ!」


 前方に数体のゾンビが浮かび上がりミナミが小さな叫び声をあげた。俺にとってはずっと変わらぬ光景だったが、ミナミは暗闇では見えないため、懐中電灯をつけるたびに身をすくませている。ゾンビ達はバイクに気づいてこっちに向かい始めた。


「どっちだ?」


「まだ真っすぐだよ」


 そして俺は懐中電灯を消して、再びバイクのアクセルを回した。


「ヒカルには見えてるんだよね?」


「はっきりとな」


「こうして暗闇を走っているけど、周辺にゾンビはいるのね?」


「まあそうだ。ウロウロしている」


「ゾンビと放置車を避けながら走ってるの?」


「そういう事になる」


「こうして速度を落としてくれたとしても凄いのに、さっきの猛スピードで避け続けてたんだ」


「ああ」


「ふぅ」


 ミナミはため息をついた。自分がゾンビだらけの場所を走っている事に恐怖を覚えているのだ。


「車は装甲があって守られるからな」


「うん。でも進みは遅くなるよね?」


「ああ、車をどかさなければならない時もあるし、通れない道もあるからな」


「そうだよね」


「俺と一緒ならゾンビは絶対に近寄らせない。むしろ車より安全だ」


「言ってる意味は分かるけど、体がすくむの」


 俺はミナミを勇気づける為に、何かを話そうとして大量に見たDVDの事を思い出す。DVDというのは凄くいいものもあるのだが、ある話を思い出してミナミに言う。


「ミナミ」


「えっ?」


「心を燃やせ」


「‥‥‥」


 ミナミが逆に黙ってしまった。車の中で女達はそんな話をいっぱいしていたと思ったが、俺が言うと何かが違うのだろうか?


 だが


「ぷっ! アニメの台詞だね」


 ミナミは笑ってくれた。


「そうだ。あれは良い」


「そうだね! 良いよね! 私は好き」


「俺も良いと思った」


「そういえば、ヒカルが時おり出す技の一つがあれに似てるよね?」


「あれはフレイムソードという技だ」


「そうなんだ? あれがアニメそっくりでカッコイイ」


 なんだ? ミナミの今の言葉で俺の心が熱くなる。


「カッコいいか?」


「うん。あれをリアルでやる人がいるなら見てみたいと思ってた」


「そうか」


 するとミナミは楽しそうに話し出した。バイクの風を気にしなくなったようだ。


「私ね、歴女なのよ。特に日本史が好きでね、だから刀とか大好きなんだ」


「レキジョというのは?」


「歴史が好きな、歴史オタク。武将とか刀とかが好きで、それの漫画とか好きでさ」


「好きなものがあるというのは良い事だ」


「うれしいこと言ってくれちゃって」


「本当だ」


「うん」


「だからミナミは歴史を学んだのか?」


「そう。こんな世界になって、そう言うの見れなくなっちゃったのが残念だったの」


「ならば、これから見にいく刀は楽しみだな」


「うん」


 ミナミは既に気持ち悪さを忘れて話しに没頭しているようだった。本当は話を断ち切りたくはないのだが、青い標識が見えて来た。仕方なく俺はバイクを止めて懐中電灯をつける。


「ひっ」


 やはりミナミはゾンビの群れには慣れないようだ。せっかく話で紛れさせていたのだが、こればかりは仕方のない事だった。


「三百メートル先を左だって」


「わかった」


 そして再び懐中電灯を消して、暗闇を走り出し交差点を左に曲がった。そしてしばらく進むと、また標識が出て来たので懐中電灯をつける。


「あ、次を右」


「ああ」


 何度もそう続けている間に、ミナミは相当量の汗をかいてしまっている。恐怖と必死にしがみついている事で、体の調節が上手く行かないのだろう。


「ちょっといいか」


 俺は真っ暗闇の中でバイクを止め、またがったまま後ろを向く。


「えっ、どうしたの?」


 そして俺はミナミに体を傾ける。


「えっ、えっ!」


 ミナミが背に背負っているリュックのチャックを開けて、中から水を取り出した。それをミナミに渡してやる。


「飲め」


「あ…、はい」


 ミナミはペットボトルの蓋を開けてコクコクと飲み始めた。


「ふう」


「よし、行くか」


「ヒカルは?」


「おれはいい」


「一応飲んだら?」


 そう言って、ミナミは自分の飲んでいたペットボトルを俺に渡した。


「すまない」


 俺はそれを持って一気に飲み干す。ミナミが俺に聞いて来た。


「喉乾いてた?」


「少しな」


「ならよかった」


 そして俺は再び前を向いてバイクを進めた。俺達のバイクの前方に巨大な建物が見えて来る。


「巨大な建物がある」


「それ国技館だ。ならそこを左に」


「わかった」


 俺はバイクのエンジンを切った。このまま行けばバイクの音にゾンビ達が群がってくるかもしれないからだ。


「そのまま、またがっていろ」


「うん」


 俺は降りてミナミを乗せたままバイクを引いて行く。すると殺風景な岩で作られたような建物が見えて来て、周辺に多少のゾンビの気配を感じる。俺は道向かいにバイクを置いて行く事にした。


「ここにバイクを停めていく」


「わかった」


ミナミがバイクを降りた。


「ほら」


 俺が手を差し伸べると、ミナミが俺の手を握る。


「うん」


「行くぞ」


「わかった」


 そして俺達はその建物にそっと忍び寄っていく。


「飛ぶぞ」


「うん」


 俺はミナミを抱きしめて、その建物の屋上まで跳躍した。屋上にゾンビは居なかったので、そこでミナミを一息つかせることが出来そうだった。


「懐中電灯を渡す」


 俺はミナミに懐中電灯を渡した。


「うん」


「外には向けるな」


「わかった」


 ミナミが懐中電灯をぱちりとつけると、そこにゾンビがいない事が分かる。


「見たか? ここにゾンビは居ない。ひとやすみしろ」


「ありがとう」


 そして俺はミナミと一緒にそこに腰かけ壁に背を預ける。ミナミは恐怖で震えているようだ。


「大丈夫だ」


「うん」


 それでも震えが止まらない。俺はミナミの手をぎゅっと握りしめて言う。


「大丈夫だ」


「うん」


 少しずつミナミが落ち着き震えは止まった。ミナミの状態を見て、すぐに動くのは危険だと判断した俺は、そのままその場所でミナミの手を握り続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 車種的にライト着いてないやつだと思います。 馬力的にサーキット専用のものなので
[気になる点] 最近のバイクは常時点灯式だから、走っている間はライトは消せないはずだけど。
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