第657話 敵の真相解明と糸口をつかむ勇者
皆がついて来ようとしたが、俺は一人で連れて行く事を告げた。みんなには、待っているように言う。女達が嫌がったが、俺は一人で行くと告げる。海辺に着いたところで、マーガレット・ブラッドリーに、ヒールをかけ海に放り込んでやった。水中から顔を出して、ただ呆けた顔で俺を見ている。
「あれだけ、気持ち悪かったのに……頭も痛くなくなったわ……なにかしら?」
ヒールの効果で、酒気が消えたのだが、まあ初めての事だろう。
「見ろ。この海を」
俺に言われ、、まーあガレットは水平線に目を向けた。
「……」
「お前は、この美しい海をどう思う?」
「……海洋汚染。資源の枯渇……」
やはりな。
「それを、人間たちがやっている。だから、滅ぼしたいという事か?」
「それもあるわ……」
だが、マーガレットは嘘をついているように感じた。そこで俺は、違う聞き方をする。
「俺は、貴様個人の考えを聞いている。死にそうになるまで酒を飲む胆力がある、貴様に」
「……」
「なぜ、こんなことになった?」
海の水に冷やされて、正気になって来たマーガレットが言う。
「最初は、私からじゃないわ」
「だろうとは思ってる」
「えっ?」
「お前が考えたんじゃないだろうと、俺は感じている」
「そうなの……?」
「話して見ろ」
穏やかな波が打ち寄せる浜辺で、水に浸りながらマーガレットがまた水平線を見ていう。
「最初に声をかけて来たのは、ファーマー社のモーガン・ウイリアムよ」
「そうか」
「彼が、私に大金を差し出して来たわ。これで、アメリカ軍を買収し、各部署の要人を買収してくれと。そしたら、倍の金を差し出すと言われた」
「それに乗ったのか……」
振り向いたマーガレット・ブラッドリーは、微かにほほ笑んだように見えた。
「私はね……大統領になりたかったのよ」
「大統領に?」
「そう。でもね、いろんなしがらみ、あとは選挙での負け、なれなかったわ」
「なって、どうするつもりだった?」
「強いアメリカを取り戻して、世界の乱れを正したいと思っていた。おこがましいかもしれないけど」
「だが、ダメだったと」
「ええ」
日差しの下で、力なく答える、首謀者の一人。だが、俺の見立てでは、嘘は言っていない。
「それで、滅ぼしてしまったのか」
「……ここまでなるとは思ってなかったのよ。だけど、もう手遅れ。私の手は汚れきった」
「そうだな。人がたくさん死んだ」
マーガレットは、俺の方に向き直って話し始める。
「今度は、私が殺されるでしょう」
「軍に守ってもらえばいい」
「甘いわ。奴らはどこにでも忍び込んでいる」
「奴ら?」
「そうよ」
「奴らとは?」
マーガレットは一瞬だけ口をつぐんだが、俺の目を見据えてはっきりと言った。
「アークパンドラ」
「なんだそれは?」
「世界を牛耳る、影の組織とでも言ったら分かりやすいかしらね? ファーマー社の、CEOモーガンも、その組織の一員だわ」
「アークパンドラ……」
新たな情報だった。これまで、一切この名前が出て来た事はない。
「あなた、どこかの諜報員とかじゃないの? アークパンドラを聞いた事はない? 都市伝説でも」
「俺は詳しくない」
「そう……まあミラー少将か、誰かに聞けばわかるわ」
「わかった」
「それらが、ジェネシス・プロトコル・オーダーと言う理念を考えたのよ」
「それは聞いた」
「そして、私は、アメリカを従わせれば、それの一員に加えてもらえるはずだった」
「なるほど」
どうやら、この女は、大統領になれなかった悔しさと、自分の理念に基づいて動いたらしい。
「でも、私はもう終わりのようね」
「さてな。俺にはどうする事も出来ん」
「それはそうよ。アークパンドラは、この世界の半分以上を所持しているような巨大な組織」
「それほどか?」
「ええ」
そこで俺は、質問を変える。
「なぜ、テッド・グローバーを殺した」
「命ぜられたから」
「命令は絶対か」
「命令は絶対よ」
少し風が吹き、波が高くなる。ちゃぷんちゃぷんと、マーガレット・ブラッドリーが波に揺れている。二人の間に沈黙が流れて、何故か空を見上げた。
「空は……青いわ」
「そうだな」
「なんか、私だけが終わるのが悔しくなってきたわ」
「どうする?」
「ファーマー社のモーガン・ウイリアムの居場所を教えてあげるわ。どうやって突き止めたらいいかも。私のスーツに端末が入っていたでしょ、あれを調べてごらんなさい」
「わかった」
マーガレット・ブラッドリーが立ち上がり、濡れネズミになって俺の方に来る。
「あなたの手で、殺して頂戴。どうせ、数億の人間を殺す片棒を担いだ事で、死刑にしかならないわ」
「……いや。お前を殺さない」
俺はそう言ってスーツを脱ぎ、下着のマーガレットにかけてやる。
「あら、優しいのね……」
「さてな」
「では、連れて行って」
そして俺はマーガレットと一緒に、元の酒場へと戻る。俺のスーツを肩にかけたマーガレットを見て、皆が驚いた顔をしていた。
「女に、服を用意してやってくれ」
ミラー少将が答える。
「もう用意している」
そこで俺が、ミナミとクロサキに言う。
「彼女の着替えを見張ってくれるか」
「わかった」
「わかりました」
そうして、マーガレットを連れて服を持った二人が奥に消えた。
そこで、俺がミラーに聞く。
「アークパンドラとはなんだ?」
「アークパンドラか、まあ……都市伝説だな。世界を裏から牛耳っている組織の事、あるかもわからん」
「それが、黒幕らしい」
すると、ミラーだけではなく、クキやシャーリーン、オオモリや、軍人らまでもがざわついた。
「なんだ? みんな知ってるのか?」
オオモリが目を輝かせて言う。
「都市伝説ですよ! 世界を支配する組織。富豪たちが参加していて、その資産は世界の半分以上とも言われているんです」
「それは、マーガレット・ブラッドリーにも聞いた」
「本当なのかわからないですけどね……」
「嘘は言っていなかった」
皆が難しい顔をしていて、ミラーがぽつりと言う。
「そうか……我々は……世界と戦っていたのか……」
「世界?」
「ああ」
「アメリカだけの話では、済まなくなったということだ」
アメリカ兵達も、その声に頷いた。だが、俺は笑う。
「ふふっ」
「なぜ笑う? ラッキーボーイ」
「もとより、世界を相手に戦っているつもりだったさ。俺達はな」
ミラーが仲間達を見ると、皆がにやりと笑った。
「そうなのか……たった、これだけの人数で……」
「俺は、世界と戦うのは慣れてる」
ミラーが笑って言う。
「鳥肌が立つよ。君は、本当に何者なんだ」
「勇者だ」
「……勇者」
着替え終わったマーガレットを連れ、クロサキとミナミが出てきた。服を着せられたマーガレットが、俺のところに来てスーツを返して来る。
「汚れてしまったわ」
「かまわん」
そして、軍人たちに手錠をかけられた。
「俺達はもう聞く事はない。ミラーに任せる」
「わかった。連れていけ」
兵士達に囲まれて、マーガレットが行こうとした時だった。彼女が俺に振り向いて、言う。
「あなたのような人と、最後にお酒を飲めてよかったわ。死ぬほど酔っぱらえたし」
「まあ……死ぬほどな……」
「どうなるかは分からないけど、最後に何かを思い出せた気がするわ」
「それはよかった」
「じゃあね。ナイスガイさん」
そうして、マーガレット・ブラッドリーが連行されて行く。
そこで、ミラー少将に聞かれる。
「君らは……これからどうするね。この基地の軍と、行動を共にするか?」
俺は首を振った。
「無駄に死ぬことはない。それに、大勢で行くと守る人数が増えて大変だ」
「ぷっ! あーっはっはっはっはっ! そうか、精鋭部隊が……足手まといか!」
「ああ。足手まといだ」
「分かったよ、ラッキーボーイ。幸運を祈る。我々は我々の戦い方をするとしよう」
「そうだな。世界が滅ばぬように、皆が精一杯やるしかない」
「うむ!」
話が落ち着いたところで、俺はエイブラハムに言う。
「さて、エイブラハム」
「何じゃ?」
「祝い酒だ。俺達にくれた、あの酒をくれ」
「わかったのじゃ!」
祝い酒用にもらった瓶を出して、俺が小さなコップを並べていく。するとタケルが言う。
「祝杯だな」
「そう言う事だ」
酒を注がれたグラスを持ち、全員が前に掲げる。そこで、タケルが俺に言う。
「何に捧げる?」
「世界を救うために戦う、世界の同志たちのために」
「「「「「「「同志たちのために!」」」」」」」
皆が、一気に飲み干して笑う。ミラー少将が、手を叩いた。皆も、つられて手を叩く。
「じゃあ、ミラー。世話になった。またどこかで会おう」
「そうだな。ラッキーボーイ! ささやかだが、キングスタリオンヘリを持っていけ。この戦いで破壊されたとでもしておく」
「わかった」
そうして俺達は、ミラー少将が用意してくれた、大型ヘリコプターのところへと向かった。既に軍人たちが準備をし始めていて、ゆっくりと機首を回しているところだった。
そこで、俺がミラーに言う。
「では、行く前に基地に周辺を掃除してきてやろう。食料などもつきかけているだろう?取りに行ける」
「そうか。すまん」
俺は一人で基地の外へと高速で向かい、柵を飛び越えてゾンビ狩りを始める。ニ十分もやっていると、半径五キロにはゾンビは居なくなった。すぐに戻って、ミラーにそれを伝える。
「五キロくらいは、ゾンビがいない。武装車で出ろ」
「えっ! もう!」
「そうだ。少しは身動きが楽になるはずだ」
「わ、わかった。では、幸運を祈る!」
「あんたらもな」
そして、俺達は大型ヘリコプターに乗り込み、サンディエゴ基地を飛び立つのだった。ミラーと軍人たちが俺達に向けて、敬礼をしているのが見えた。
俺が、操縦しているクキに言う。
「マーガレット・ブラッドリーの持っていた端末を出してくれ」
「ああ」
それを見て、クロサキが笑う。
「えっ。持ってきちゃったんですか!」
「そうだ」
「武さんじゃないのに! 九鬼隊長もやるんですね」
「今まで、散々見て来たからな。必要になるのも分かってる」
更に俺は、オオモリに向かって言った。
「そこに、ファーマー社のモーガン・ウイリアムにつながる情報がある」
「了解です! さっさと特定しちゃいますね!」
オオモリが鞄から、パソコンを取り出すと、クロサキがまた言う。
「えっ? 見た事無いパソコンですね」
「サンディエゴ基地から持ってきました」
「皆さん……さすがです!」
オオモリがパソコンに端末を繋いで、解析を始めた。最後の一人、モーガン・ウイリアム。ファーマー社のCEOの尻尾を掴むために。




