第654話 追い詰められた、マーガレット・ブラッドリー
俺は隣の潜水艦にも飛び乗り、ミサイル射出口を推撃で潰す。そしてハッチも同様に、推撃で潰した。これで、中の奴らは出て来れないだろう。
「これでよし」
潜水艦に敵を閉じ込めた俺は、最初の潜水艦に飛び乗り、ハッチに手をかけて、思いっきり引き抜く。中にゾンビ化した兵士の気配がするが、俺は無造作にそこに飛び込んでいった。
「さてと」
閉鎖空間に、ゾンビ化した兵士が待ち構えていた。すぐに縮地で消え、ゾンビ化兵の真ん中に立つ。
「悪いが、掃除させてもらう。屍人斬! 鴉影縫!」
あちこちの暗がりから、俺の陰が飛び出して影の剣を振るう。影という影からつぎつぎに剣が生まれ、ゾンビ化兵を斬り裂いていった。
「うがああ」
「ぎゃあああ」
「ぐあ!」
人間の思考があり逃げようとするが、潜水艦の中は影だらけで逃げ場はない。次々バラバラになって、人間の戻り死んでいく。そこら中に兵士の死体が転がり、気配感知を手繰りながら館内を全て掃除した。
「ここにはいないか……」
全ての船員を切り裂いて、俺は潜水艦を出た。もう一隻の潜水艦に飛び移ると、どうやらハッチの下にゾンビ化兵が集まっているようだった。
「待ち伏せか」
俺はすぐに足元の甲板を丸く切り裂き、ストンとそのまま中に入る。
「隠形、認識阻害」
気配のする方に向かって歩き、音もなく最初の扉を開ける。なるほど、もうこの船を捨てるつもりで、全員がハッチのところに集まっているらしい。
いた。
俺は、ハッチを見あげている奴らの後ろに忍び込み、話しかけてみる。
「どうだ?」
「ハッチがまだ開かない。外から、何かされたんだ」
「そうか。ブラッドリーは無事か?」
「どうだろうな。長官は、一番艦にのっているからな」
「分らないか」
「なぜ、船が制御不能になったかが分らん」
俺が声をかけていた奴が、なにかに気が付き、こちらを振り向いた。
「……おまえ……誰だ? なんでパンツ一丁なんだ?」
「ああ。泳ぐときに服が濡れるからな」
「侵入者!」
全員が、こちらを向いて唖然としている。
「どこから?」
「いつ進入したんだ?」
「ああ、今、入って来たばかりだからな」
「つ、捕まえろ!」
一斉に飛びかかって来るが、俺は既にそこには居なかった。マーガレット・ブラッドリーがいない事が分かった段階で、この船はもう用済みだった。
「屍人斬! 鴉影縫!」
無数の影の剣が、全てのゾンビ化兵をまとめて切り裂いた。俺はその上のハッチを破壊して外に出る。米軍艦隊の方に手を振ると、ゆっくりと近づいてくる。俺が船に飛び乗ったところに、艦長が出てくる。
「ラッキーボーイ! どうなった?」
「二隻とも、中のゾンビは倒した」
「今の短い時間で?」
「そうだ。この二隻の潜水艦は頼む。俺は、もう一隻の方に行く」
「あの、鏡で囲まれた……?」
「そうだ。逃げ場を塞いでいる」
「君は……いったいなんなのだ……」
「じゃあ、行く」
そう言って、村雨丸の仕込み杖を口にくわえ飛び込んだ。あっという間に、最後の一隻が見えて来て、俺は水鏡絶海を消し去った。鏡が水に変わって、ジャバーっと海に帰る。
「少し上にいるな」
すぐ潜水艦の甲板に登ると、兵士が突然現れた俺に驚く。
「な、なんだ!」
シュパン! ボトボトボト。
誰かが叫ぶが、俺は飛空円斬で全てを斬った。死体が甲板の上に転がり、血が広がっていく。
「まだ、ゾンビ化していないようだな」
キィン!
ハッチの上から狙撃され、村雨丸で斬り落とした。
「なっ!」
パンパンパン!
連射して来るが、それを全てかわし、すぐにハッチの上に立ってそいつを引きずり出す。
「この船に用がある」
そいつの首根っこを持ってぶら下げていると、ミサイルの射出口が開きかけた。
「推撃」
射出功を片手で潰し、捕まえている奴に聞く。
「マーガレット・ブラッドリーはここにいるな?」
「貴様! マザー・レギオンを狙って来たのか!」
「マザー・レギオン?」
「新世界の母だ! 新しい秩序だ!」
狂信者……と言う奴か。こうなってしまっては、もはや助けようがない。そのまま、そいつを片手で空中へと放り投げた。
「乱波斬!」
そいつは空中でバラバラになり、海にばら撒かれた。気が付けば、甲板で斬った奴らの血を嗅ぎつけ、周りに大量のサメのヒレが動き回っている。今、水中に堕ちた肉片を、サメたちが食い荒らし始めた。
「掃除を手伝ってくれるのか」
俺は甲板に飛び、次々に蹴り飛ばして死体を海に放り込んでいった。すると次々にサメがやってきて、落ちた人間達を食い散らかし始める。
「ゾンビじゃないから、いくらでも食っていいぞ」
すぐにハッチに飛びつくと、下から登って来た奴と目が合う。
「なっ!」
俺はそいつの顔に飛び降りて、そいつごと下に落ちた。
ドン。
「し、侵入者!」
すると慌てた奴が、いきなり銃を撃った。だがその銃弾は、中を跳弾し一人のこめかみにめり込む。
「う、撃つな! 仲間にあたる!」
俺は、そいつらに聞いた。
「もし、マーガレット・ブラッドリーを差し出すならば、お前達は見逃してやらんでもない」
「捕まえろ!」
聞いてないようだ。
「鴉影縫!」
ジャキ!
瞬間で兵士達が斬り落とされ、俺は人の気配が多い方に向かって歩き出す。この艦は、まだ全員が人間のまま。ゾンビ化兵に変わる事は無さそうだ。すると突然、館内放送で声をかけられる。
「止まりなさい!」
俺は、無視して進む。今の声は、間違いなくマーガレット・ブラッドリーのものだ。やはりこの船に乗っていたらしい。監視カメラもあるが、俺は壊す事も無く進む。
シュッ! と横の入り口にいた奴が、ナイフを突き入れて来た。俺は瞬間でそのナイフを取り上げて、そのままそいつの心臓に差し込んだ。
「なっ」
「鋭い、いい突きだったが、相手が悪かったな」
ブシュゥゥゥ! 血を拭いて倒れた。
「特殊部隊がやられた! ただ者ではないぞ!」
その部屋の、奥にいた奴が叫ぶ。その部屋を覗くが、マーガレット・ブラッドレーはいなかった。
「真空乱斬」
部屋を血まみれにして、俺はすぐに先に進む。
「だ、だれか! その裸の男を止めなさい!」
次々に部屋から飛び出して来ては、兵士が俺に飛びかかって来るが、首を折り、蹴り飛ばして潰した。そして重厚な扉の前に立つ。中には、まだ十人ほどがいるようだ。
扉に手をかけるが、鍵がかかっていて開かない。
「なるほど」
俺はそのまま、分厚い鉄の扉に手を当てて、奥へと押し込んでいく。分厚い鉄の扉はひしゃげ、そのまま折れ曲がって内側に倒れる。
ガガン!
そこに、三人の兵士が飛びかかって来たので、今まで同様に敵の武器を避けて蹴り殺す。
「な、なにをしてるの! 早く殺すのよ!」
その中央に、マーガレット・ブラッドリーを見つけた。数人の兵士に囲まれ、青ざめた顔をしている。俺は、ようやく敵の幹部に、巡り合えたのだった。




