第651話 飲み比べ戦略会議
俺に次のテキーラが注がれると、目の前の大男もグラスを置いた。
「俺もだ!」
「「「おおーー、いいぞいいそ!」」」
すると、そこでタケルが笑いながら言った。
「ヒカル。もっと盛り上げろよ」
俺はニヤリと笑って、みんなに言う。
「ここにいる全員と順番に戦ってやろう。みんな、飲むのを抑えておけ」
ミラー少将が、にやりと笑って言う。
「ラッキーボーイよ。ジョンソン軍曹は、そんなにヤワじゃないが?」
なるほど、目の前の大男はジョンソンと言うらしい。
「じゃあ、まどろっこしいことはしない。女将、テキーラの瓶を二本用意してくれ」
「あいよ」
そして、テキーラが二本並んだ。
そこで、タケルが大声で言う。
「よし! 賭けようぜ。おりゃ、ヒカルに百ドルだ」
「ジョンソンに百ドル!」
「おれも! ジョンソンに百ドル」
「おれもだ。ジョンソンが、負けたのを見たことがねえ」
だがそこで、デルが煽る。
「ヒカルに百ドルだ!」
どんどん盛り上がり、テーブルの上に百ドルが並んでいく。女将がそれを集めて、枚数を数えていた。そこで俺が、ジョンソンに言う。
「これで勝負だ。ジョンソン、どうする?」
「……いいだろう。ラッキーボーイ、そんなに言うなら付き合ってやる」
ふたが開けられて、俺とジョンソンがテキーラの瓶を上に向けて、ごぽごぽと飲み干した。
「美味いな」
「ゲプッ! う、美味い」
「お代わりだ」
すると、皆が目を丸くして俺を見る。
「ジョンソン! 行け―! 負けるな!」
「ぷっはぁぁぁぁ! お、俺ももう一本!」
後ろの軍人が、ジョンソンにボソリと言う。
「大丈夫か?」
「まだまだ!」
二本目が出て来て、俺はそれをすぐに空にする。少し遅れて、ジョンソンが飲み干した。それを見て、俺がジョンソンに言う。
「やるじゃないか」
「うははは。そっちこそな」
「もっと強いのは無いのか、水みたいに飲みやすいのじゃなく」
「へ……テキーラを水って言ったのか?」
「美味い水のようなものだ」
すると、女将が言う。
「ラム、のロンリコがあるけど、七十五度もあるんだ。おすすめできないよ」
俺がにやりと笑って、女将に言った。
「それを、瓶でくれ」
「やめときなって」
「いや。それでいい。そして、ジョンソンはテキーラで良いぞ」
「い、いや! 俺もロンリコだ」
他の米兵が言う。
「やめとけって。流石にそれは」
「こんな優男に、ウィッ……負けて……うぃ……られっか」
俺達の前に、ロンリコが二本置かれた。
「わたしは知らないよ。少将」
「見ものじゃないか」
俺とジョンソンが瓶を持ち、口に入れ一気に傾けた。ごぽごぽと、中身が無くなり俺が先に飲み干す。
「美味い」
「惚れ惚れするねえ! それをラッパ飲みするなんざ、はじめて見たよ」
「もう一本だ」
「へっ?」
「こいつはまだ、一本を飲み干してない。待ってるのがまどろっこしい」
そして俺の前にロンリコの瓶がもう一本置かれ、俺はまた一気にそれを飲み干した。するとようやく、ジョンソンが飲み干して顔を真っ赤にして言う。
「ま、まいった! 降参だ!」
後ろから、椅子が差し出されてジョンソンが座った。
「よし! 次は誰だ?」
すると、ミラー少将が言う。
「バケモノめ。デル中尉、これを知ってたな?」
「ノーサー! ですが、ここまでの、ラッキーボーイの怪物ぶりは見てきました!」
そこで、女将が言う。
「んじゃ、勝者に配当だよ」
だが、タケルが言った。
「いや、女将さん。こんなうまい酒を出してくれたんだ。そりゃ、プレゼントだ」
「なんだい、あんた。随分ときっぷがいいねえ」
「ああ。少将からも、ちゃーんと代金をもらってくれ」
「あいよ」
「あっはははは!」
ミラー少将が豪快に笑い、兵士達がはやし立てる。
「凄い男がいたもんだ!」
そこで、クキが言う。
「いや、やめといてよかったですよ。放っておいたら、この店の酒を全部飲みますから」
「人間か?」
俺が答える。
「人間だ。生まれた時からな」
「あーーっははははは! 気に入った!」
「ふふ」
「束の間でも、こんなにみんなが笑ったのは久しぶりだ」
「それは、よかった」
「今ごろ、あの女狐は不思議がっている頃だろう。レーザー衛星も消え、核攻撃も効かないのだからな」
「敵の位置は確認できないか?」
「ミサイルを射出した場所は分かるが、ずっとそこにはいない。奴らも、移動するだろうからな」
「そうか」
「こちらも哨戒機を飛ばしたのだが、レーザー衛星に墜とされた。だが、その衛星が無くなったのなら、再び作戦を開始する事が出来る」
「間違いなく墜とした」
「よし。聞いたか! あの女狐を追い詰めるぞ! 作戦会議だ」
軍人たちがテーブルの上に地図が広げ、何かを置き始めた。それを見ながら、ミラー少将が言う。
「ここがサンディエゴ基地。そしてここが今回、ミサイルが発射された場所だ」
豪快な男だ。酒場でいきなり作戦会議を始めた。
「うむ」
「そしておそらく、奴らはここから北上するはずだ」
「なぜ、そう思う」
「ロシアだ。いざとなったら、ロシアに核兵器を打ち込んで報復目的を狙うはずだ。ラッキーボーイも、一気にアメリカ全土に来たら防げんのだろう?」
「そのとおりだ」
「ならば、今回の核ミサイルが消滅したことを受けて、ロシアを巻き込んでの動きになる」
それを聞いて、クキも頷いた。
「ヒカル。恐らく、その線が濃い」
俺が、もう一度聞き返す。
「相手がそう判断するのは、どのくらいだ?」
「今、調査しているころだろうな。もちろん、わかりゃしない。あれほど鮮やかに消されてしまっては、機器の故障を疑うのが先だ」
「そうか。ミサイルが、勝手に落ちたと考えるという事か?」
「そう言う事だ。恐らくその上で、もう一発撃って来る」
「なるほど、それは間違いないだろう。それは、俺がまた消してやる」
「すると、今度は故障でないことがはっきりする。なら、奴らは次の手を打つだろう」
ミラーの言う事は、間違いないと思えた。
「こちらは、通信が使えない。どうやって追い詰める?」
すると、ミラー少将が言う。
「勘だよ。勘」
それを聞いて、デルが言う。
「お言葉ですが少将。勘で戦うのでありますか?」
「ああ。ずっとそうやって来たが?」
「電子戦のこの時代に?」
「そうだ」
そこで、俺がデルに言う。
「デル。俺は、それが正しいと思う。そして、その勘とやらに、さらに俺がいるだろう?」
「……確かに。それはそうかもしれんが」
ミラーが、机に肘をついて敵のいるであろう位置に石を置いた。
「明日の、夜にはあいつらが動き出す。我々に見つかるのを警戒して、攪乱してくるはずだ」
「それも、読みか?」
「そうだよ。ラッキーボーイ。その上で、奴らは明日の十八時ごろ、このあたりにいるはず」
石が置かれた場所を見て、皆がただ頷いた。勘だから、それが確実であるという確証はないだろうが、このミラーと言う男の、底知れなさが間違いないのだと知らせて来る。
そして、クキが言う。
「なるほど。では、こちらも秘密裏に進める、と言う事で間違いないですね?」
「奴らに悟られぬようにね。九鬼君、そして、対潜水艦戦なら、自衛隊の右に出る物はいないだろう?」
「まあ、その通りですね」
ミラーがにやりと笑って言う。
「すまんが、君らも使わせてもらう。九鬼君にラッキーボーイ、力を貸してくれ。確実に追い詰めたい」
「わかりました。では、作戦に参加させていただきましょう」
「よろしく頼む」
ミラーが、全員に言う。
「さて、明日の作戦に支障のないようにな。まあ、あんな女狐は酔いどれでも余裕だろうが」
「「「「「あっはははは」」」」」
「ラッキーボーイ。君は、いくら飲んでも平気なのだろうが、うちの兵士をあまり虐めないでくれよ」
「虐めてなどいない。ただ、軽く飲んだだけだ」
「うわーっはっはっはっ!」
軍人たちは、今注がれた酒を一気に飲み干し、席を立ち出て行った。ジョンソンもしゃきっとして、一緒に出ていく。さっきまで、フラフラだったはずだ。
俺は、女将に言った。
「なあ、高い酒を一本貰えまいか」
「あいよ。もってきな」
俺に、琥珀色の瓶が渡される。
「店にある奴で一番いいブランデーだ。ちびりちびりやっておくれ。今度は、味わって」
「そうする」
瓶をもらい、基地に向かって歩いて行く。
俺は、エイブラハムに言う。
「この酒は、女狐をつかまえた後の祝い酒だ。持っていてくれ」
「わかったのじゃ」
兵士達がやってきて、俺達が休める場所を教えてくれた。
クキが言った。
「明日は、忙しくなりそうだ。皆も、今日はもう休んだ方がいいだろう」
「「「「「はい」」」」」
俺が、アメリカの兵士に言う。
「核が発射されたらすぐに分かるか?」
「内線を繋げ、伝令を走らせますので、漏れはありません」
「わかった。よろしく頼む」
そして俺は一度、サンディエゴ基地の兵舎に入り、呼び出されるのを待つことにするのだった。




