第647話 ジェネシス・プロトコル・オーダー
追い詰めたテッド・グローバーは俯き、肩を震わせている。ミオがその前に立ち、見下ろしていた。
「さて、聞かせてもらおうかしら。あなた達のやっている全貌を」
「……」
沈黙するテッド・グローバーに、デルがしびれを切らしたようだ。ホルスターから拳銃を取り出して、テッド・グローバーの髪の毛を掴んで起こす。
「答えろ」
「や、やめてくれ。死にたくない」
だがそれにミオが、怒りを滲ませつつ言う。
「大勢を殺しておいて、よくそんな台詞が言えるわね」
「あ、金ならあるぞ! あんたら全員が、一生かけても到底稼げないほどの金だ。な、あんたらもこんな仕事をするくらいなら、楽に贅沢したほうがいいだろ?」
「黙れ」
デルが、額にぐりぐりと銃を押し付ける。
「痛い! やめろ! やめてくださいぃ!」
「さてと、まずは、あなたの役割から聞こうかしら。あなたは何をしているの?」
「それは……」
ゴリリ!
「い、言う! 開発だ! 開発している」
「開発?」
「ナノだ! ナノを入れこんだ生物を、コントロールするためのシステムだ!」
タケルがそばに立っているクリスタルのような、光る線が張り巡らされている機器をポンポンと叩く。
「これもその一つか?」
「触るな! レーサー崩れが!」
「あー、わりいわりい。そんな、大事なもんか」
俺が、タケルに言う。
「その機器を壊せ。タケル」
「や、やめろ!」
だが、タケルがにやりと笑って言う。
「いやいや。ダチが壊せつったら、そりゃ壊すしかねえだろ?」
ブン! タケルがそれに蹴りを入れた。
バキャン!! バラバラバラ!
それは上側を吹き飛ばされて、光を発さなくなる。
「うああああ! 貴様! それは小さな国の国家予算くらい……」
だが、デルが拳銃を口に突っ込んだ。
「あんまり喋るんじゃない。すぐに、殺したくなる」
「ふがっふがお!」
ずぽ。
「や、やめてくださいぃぃ!」
イラついた俺が言う。
「俺の友達を侮辱すれば、もっとひどい目に合わせる」
「わ、わかりました!」
「回りくどい事はもういいから、話してもらうわ。そんな物を開発して、何をするつもりなのかしら?」
「い、生き残った選ばれし物たちの、その……しもべだ……」
「しもべ? どういう事か、はっきり話しなさい。隠さずに」
「わ、わかった! それは、ジェネシス・プロトコル・オーダー……」
「なにそれ?」
「新しい世界の人の在り方だ。我々が作った新世界の、創世記が訪れるんだ! その後の世界の規律は、すべて一つの命令によって管理される事になるのだ!」
「分かりやすく言いなさい」
「意志とは無関係で戦い、エゴも持たずに、感情なく肉体労働を文句も言わずにこなし、基盤を支える。そのうえで、選ばれた新人類がこの世界を動かしていくシステムだ」
「はあ? 人の自由を奪う? ロボットみたいに働かせるの?」
「使える人間になるという事だ! 世界の人口は増え過ぎたのだよ! 数年もすれば地球は枯渇する!」
皆が静かに話を聞いていた。どうやら、こいつらにはこいつらの信じるものがあるらしい。
パァン!!
だが、突然ミオが、テッド・グローバーをビンタする。
「人間を舐めるんじゃないわよ! だからって、滅ぼしていいわけが無いじゃない! 話し合いで……、環境破壊をしない為に、永続して生きるために! いろんな仕組みがあるんじゃないの!」
「ダメなんだ。もう、それでは……追いつかないんだ」
「で、大量に殺したといいたいの?」
「そうだ……リビングデッドは、公害をまき散らさない……」
「そんな……」
「そして、一度パンデミックを起こせば、あとは自然に淘汰されて行く」
「人類が、全滅しちゃうじゃない!」
「そうだ……」
「じゃあ、あなたたちだって終わりじゃない!」
「……この世には、リビングデッドの細胞を受け付けない人間がいる。彼らは、選ばれた人間だ」
数人が、チラリとデルを見る。すると、テッド・グローバーが気づいたようだった。
「あ、あんたが? 海兵のあんたが適合者か?」
「知らん」
「あ、あんたがか! 選ばれた人間なんだぞ! 次の世界の、選ばれた優秀な人類なんだぞ! なんで、こんな奴らと行動を共にしてるんだ!」
「……」
だがそれを聞いて、アビゲイルが首を振る。
「それは違います。まだ、あなた達は気が付いていない」
「な、なにがだ」
「やはり……分っていないのですね……」
「……」
アビゲイルは、デルに気を使いながらも話す。
「彼らはテロメアを消費して、多くのエネルギーを得ているだけです。急速に年を取ってしまうのです。寿命は人よりも、かなり短くなるのです」
「そんな……そうか……、あんた、アビゲイル……天才……アビゲイルか……」
「いいえ。罪人アビゲイルよ。こんな、ひどいことを起こしてしまった張本人」
「……寿命が短くなる……だと?」
「その状態で、新世界などどうやって作るというのですか?」
「そ、それは」
すると突然、パパパ! とパネルが付いて明るくなる。
「なに?」
そこに、顔が加工で隠された人が映った。ゆったりとした雰囲気で手を組み、じっと見ている。
「テッド。何をしているの?」
その声は加工されており、低くなっている。
「い、いや。それは!」
「そこにいる人達は誰かしら?」
「か、彼らは! そうです! 新世界のために役に立つ人材たちです」
だが、そこでミオが言う。
「役に立つ? ふざけないで、あなた達のやっている事を阻止しに来たのよ」
「だ、だまれ!」
ゴリッ! とデルに銃を突きつけられて黙る。
「残念だわテッド。一緒に、新たな世界を作れると思ったけど」
「ま、まって」
デルに、グッと喉の掴まれて声を詰まらせる。そこでミオが、デルに言う。
「話させましょう」
「ゴホッゴホッゴホッ!」
「無様ね。まあ、あなたは、置いて行くつもりだったけど」
「なっ。なんだと?」
「もう、必要ないわ」
「き、貴様!」
「用済みと言う事よ」
「ぶ、ブラッドリー!!!」
「あら名前を呼んだら、私が顔を隠している意味がないわね……」
「構うものか!」
「もう、あなたの上から目線の講釈も聞かなくていいと思うと、せいせいするわね」
「まて! 貴様ぁぁ!」
「処分させてもらうわ」
「な。どういうことだあ!」
俺は、上空に向かって違和感を覚えていた。何かが、ここを監視しているような気がした。
「では、みなさん。そいつは、好きにしてちょうだい」
「まて! 洗いざらい話すぞ! 全てを、白日の下に! ネットの力を使って!」
「お好きに」
ブン! と画面が黒くなる。
「くそが!」
そこで、ミオが言う。
「捨てられたようね」
「た、たのむ! 殺さないでくれ! 改心する! 何でも話すから!」
そして皆が、顔を合わせた。そこで、デルが言う。
「いや。もう殺っちまったほうが良いのでは」
しかし、クキが言う。
「いや、まだ、聞くべき事がある」
「それはそうだが」
「マーガレット・ブラッドリーの居場所は?」
「……分らん」
「隠し立てしても意味がないぞ」
「本当に知らない。国の重鎮の居場所など、知る方法がない。CIAでもない限り」
「本当に意味がないな」
「だ、だがまってくれ! 皆が集まった事がある場所がある。そこに行けば、何か分かるかもしれん!」
「どこだ?」
「あ、案内する! それは、住所の無い場所にある!」
皆が顔を合わせた。そこで、俺が言う。
「連れていって、案内してもらおう」
「わかった」
「その前に。みな、部屋の外に」
全員が出たところで、俺は剣技を振るう。
「重推撃!」
バグゥゥゥン! と部屋が壁ごと吹き飛び、外が見えた。
「行くぞ」
システムを吹き飛ばされ、テッド・グローバーはガクリと頭を落とした。俺がテッド・グローバーの首根っこを掴み、そのまま階段で一階まで降りて建物の外に出る。だが、外の敷地を歩いている時だった。
「ん?」
急な違和感に襲われて、俺が咄嗟にテッド・グローバーから離れた瞬間だった。
バシュゥゥゥ!
光の柱がテッド・グローバーに落ちて、一瞬にして体が蒸発してしまった。
「なんだ?」
デルが叫ぶ。
「これは、レーザー衛星だ!」
それを聞いてクキが叫ぶ。
「みんな! 建物に入れ!」
皆は一斉に、屋根の下に潜るが俺だけは、そのまま空を見上げていたのだった。




