第646話 ITの帝王と正義の女帝の邂逅
目の前の白い煙に包まれるガラス張りの部屋を見て、仲間達が身構えている。俺の気配感知では、中にいた人間達が試験体の気配に変わっていくのが分かった。
「試験体に変わる」
それを聞いて、ツバサが言った。
「……呼吸の音が……無くなった……」
「どういうことだ? なんで、中の兵士達は動かなかった?」
デルの言葉に、研究員の黒人の女が答える。
「もしかすると……ナノマシンによって操られていた人達かもしれません」
「操られていた? 人間が?」
「その可能性があります」
次の瞬間、目の前のガラスに、ベチャア! と言う音を立てて、何かが張り付いた。
「これは……」
人間の頭が付いた触手が伸びて、べたりとガラスにくっついた。その目が、確実に俺達を捉えている。その顔の下に、機関銃が付いている。
「機銃ごと融合しやがったのか……」
天井のスピーカーから、またテッド・グローバーの声が聞こえて来る。
「どうだ! 最高傑作だろう? あんたらも、この薬を浴びたら化物になるんだぁ」
どうやら、これが敵の最大の罠だったらしい。しかし、仲間の一人も狼狽えない。
「はは、どうだ! これが絶望と言う奴だ! あんたらは自我を失い、化物に変わって人を食うんだよ! そこにいる、四人の研究員だけは例外だがなあ。まあ、そいつらも、ここで終わりだがな」
そこでようやく、クキがボソリと言う。
「なるほど。そこまでは知られていないらしいな」
アビゲイルが頷く。
「それはそうです。ミスターヒカルと、その影響を受けた人間の事は、誰も知りません」
「そうか……それに、デルは適合者だから変わらない」
どうやら、目の前の兵士達を化物に変えたのは、俺達を恐れさせるためだったらしい。
更にアビゲイルが言う。
「ビスク製剤が完成している事も、知らないようですね」
そこで、ミオが言う。
「でも、シャーリーンさんが」
だが、シャーリーンが首を振る。
「美桜さん。ここまで来る道中で、私も感染していたのですよ。だから、ミスターヒカルに施術を行ってもらっているんです」
「そうだったんだ……」
「ですから、ミスターヒカルは気兼ねなく戦えます」
また、テッド・グローバーが言った。
「さてさて。どうする? 目の前の怪物に殺されるか、そのまま怪物に変わるか。むしろ、八つ裂きにされてから怪物に変わるという手段もあるが」
タケルがみんなに言う。
「あー、みんな、あの監視カメラに中指たててやれ」
皆が中指を立てて、カメラに向かって臭い顔をした。
「なっ!」
「ベロも出せ。べーって」
「「「「べー」」」」
テッド・グローバーが笑う。
「あははははは! おかしくなったか! もう逃げられない」
「両手だ」
両手の中指を立てて挑発する。
「余裕な顔も、もう終わりだ! やれ!」
ガガガガガガ!
ガラスの中のバケモノが、機関銃を撃って皆が一瞬身を伏せようとする。だが、そのガラスはぽつぽつと傷が入ったくらいで、破れる事は無かった。
「防弾じゃねえかよ」
「な! うぐぐ!」
俺が、皆に行った。
「この先に、まだ人がいる。この試験体は処分しよう」
皆が頷いた。
俺は村雨丸を構える。
「屍人斬! 大龍深淵斬!」
ザシュ!
目の前の防弾ガラスを斬り、その中にいる試験体が真っ二つに切れた。その瞬間、全ての銃声が止む。
「重推撃! 錐揉龍閃!」
目の前の防弾ガラスを重推撃で吹き飛ばし、視界を確保するために、錐揉龍閃で穴を開け吹き飛ばす。すると、ベチャベチャになってしまった試験体の残骸が、はっきりと見えた。
「な、な・な・な・な! なんだ! 何があった!!!」
テッド・グローバーが狼狽えている。だが俺達はそのまま、壊れたガラスのあった場所から中に入る。
「ど、どうなってるんだぁ! なんだ、お前らは!」
俺はそれを無視して、歩きながら皆に言った。
「こっちだ。この奥に、人間とゾンビ化兵の気配がある」
その部屋を抜けると、重厚そうな鉄の扉がある。
それを見て、デルが言った。
「生態認証のロックだ。恐らく、限られた人間しか入れない場所だ。この鋼鉄の扉は、かなり分厚いぞ。プラスチック爆弾でも破れない……って、あんたらにゃ、取り越し苦労だなたぶん」
「ああ」
村雨丸を構えて、剣技を繰り出す。
「断鋼裂斬!」
バツ印に切り裂いたところで、分厚い鉄の扉が落ちる。俺達は、そこを通り過ぎておくの通路に進む。
「ば、ばかめ! そこは」
「虚空穿穴」
その通路の壁を一メートルほど広げるように、奥まで竜巻が抜けた。通路は壊れて、ボロボロになる。
「なにをしたんだ?」
デルが聞いて来たので、俺が答える。
「奴らはこの仕組みを、あちこちに作っているから分かる」
「この仕組み?」
クキが、俺に変わって言う。
「レーザーだろ? ヒカル」
「そうだ。それで足を止めるつもりだった」
通路を奥まで進むと、同じような扉が出て来て、俺は、同じように剣技で破壊する。分厚い扉は崩れ、更に数メートル先にも同じ様な扉が見える。
「その奥にいる」
「んじゃ、さっさとやろうぜヒカル」
「よし」
俺は最後の扉を破壊して、中に飛び込んだ。
「う、撃て撃て撃て!」
テッド・グローバーだった。
だが、俺は瞬間的に、全ての銃を持っている人間を切り捨てていた。
「撃て! 早く! おい!」
ドサ! ドサ! ドサ!
次々に倒れていく兵士達を見て、テッド・グローバーは信じられないような顔をした。ただ茫然とし、パネルに囲まれた場所に座り込んで動かない。眼鏡をかけた、少し目のぎょろりとした男だ。
オオモリが言う。
「いやはや。こんなところで、世界一のネットの天才にお会いできるとは思いませんでした」
「き、きさまは! なんだ! 貴様らはいったい!!」
「僕らは、あなた方がやってる事を、潰すためにやってきたホワイトナイトとでも言っておきましょう」
「く、くそ! なんだ! どうなってる!」
テッド・グローバーは、通信機をおして叫んだ。
「こい!」
すると、部屋の一部の扉が開く。するとそこから、気配の全くしない人間が数体出て来る。
「機械工学! AI工学の全てをぶち込んだ。軍用戦闘ロボットだ!」
「に、人間みたいだ!」
オオモリがキラキラした目で見ている。自分が目標としていた物が、現れて興奮しているらしい。
「ふはは! 人間がいくらあがいても倒せない! これは、セラミックとチタン合金の外殻を持つ……」
「絶鋼一閃!」
「やれ!」
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「はれ?」
「その、木偶人形に何をさせたいんだ?」
テッド・グローバーは、何が起きたのか分からず呆然としていた。だが声は別のところから出た。
「も、もったいない! 壊しちゃった!」
オオモリだった。
「なんだ、オオモリ。お前は、そんなおもちゃが欲しかったのか?」
「僕のAIを搭載してみたかったです」
するとテッド・グローバーが、ようやく、俺達の異様さに気が付いたようだ。
「お前……お前達か! 世界中の拠点を襲った連中は!」
ミオが無表情で言う。
「初めまして。テッド・グローバー」
「お前達は、一体なにものなんだ!」
「正義の女帝と、言ったら分かるかしら」
「まさか……本当にいたのか」
「あら、ご存知でした?」
「あの……国連での……」
「やっとです。ジェフ・ベイツからガブリエル・ソロモン。そして、ようやくあなたに辿り着きました。まさか、こんな所にお逃げになっているとはね。西海岸にいるのかと思っていました」
すると、テッド・グローバーがブルブルと震え出した。俺達は逃げ場を無くした、哀れな男に向かってミオが言った。
「聞きたい事が山ほどあるわ」
テッド・グローバーは、何とか立ち上がり逃げようとするが、俺が先回りして行き場を塞いだ。
「逃げ場はない」
「クソが! クソが! クソガァァァァ!」
そう言って、テッド・グローバーは床にうずくまり、頭を抱えるのだった。




