第641話 地上ゼロメートルの核爆発と救う一閃
ワシントンDCを核で焼かれたアメリカは、警戒管制システムが働いておらず、俺のヘリコプターは、容易に基地の射程に侵入する事が出来た。本来なら戦闘機が飛んできて警告を受けるのが普通らしいが、既にアメリカは国として機能していなかった。
それを知って、クキが言う。
「やつら、アメリカ全土を自分らの拠点にするつもりなのかもしれんな」
デルが床を殴る。
「くそ! 俺たちの国は奴らに乗っ取られたってことか」
「そう言う事になる……」
それを聞いた、工科大学の研究員たちが言う。
「自分らの故郷はどうなってるのでしょう」
「私は、イギリスからの留学生だったのですが」
「私はインドです」
それにも、クキが答えた。
「インドは行って来た。やはり、奴らの脅威は潜んでいて、ゾンビ化人間を開発している場所もあった」
「そうですか……」
「イギリスは行ってない。日本と同じ島国だが、入ってなければ助かる見込みも大いにあるだろう」
「はい……」
どれも気休めだった。世界の情報が入らないようになっており、今どうなっているかが不明な状態だ。
そこで、ミオが言う。
「とにかく! 終わらせるしかないの! 終わらせてしまえば、必ず帰れるわ!」
「「「「分かりました……」」」」
そうしているうちに、ヘリコプターからマイノット航空基地が見えてきた。
デルが言う。
「カナダ軍の車両や、飛行機の残骸が散乱してるな」
「全滅……したのか……」
「らしいな」
ガッ! と通信が入る。
「よし! 誘導に従い、ヘリを降ろせ!」
「了解」
ヘリコプターが、基地の滑走路上空へと差し掛かる。誘導員やファーマー社の私兵たちが銃を構えて、こちらを見上げていた。
俺は立ち上がり、独り言をつぶやいた。
「お前達が作った可愛い試験体だ。思う存分可愛がってもらえ。断剛裂斬」
ジャキンッ! と鎖が切れて、コンテナがゆっくりと落下していく。剣技で亀裂の入ったコンテナは、地上に落下して粉々になった。すると中から、背中から大量の触手を生やした猿と亀の混合体が現れる。
ガガガガガガガ!
地上で銃声が鳴り響くが、試験体はものともせず、敵兵らに向かって飛びかかり、触手を差し込んだ。一人の体を口にくわえており、バグンと閉じると真っ二つになる。
「クキ。高度をとれ」
ヘリコプターが上昇し、試験体と兵士達の戦いに巻き込まれないようにする。
それを見ながら、ミオがアビゲイルに言った。
「博士。また大量に被験者のデータがとれそうです」
「そのようですね。ミスターヒカルはこれを狙っていたのですか?」
「いや。俺は、軍隊で試験体を止める事が出来るかの様子が見たかった」
「まあ……試験のようなものですね」
試験体は次々に兵士を殺して行き、基地から出てきた奴らに向かって走って行った。しばらくすると、触手で貫かれた奴らが次々に、筋肉を爆発的に膨らませ始める。
「試験体に変わるまで、五十七秒」
オオモリが言うと、アビゲイルが答えた。
「全く別物ですね」
すると、黒人の女の研究員が言う。
「あの」
「ええ」
「恐らく……私達が開発した……ナノ技術が使われているかもしれません」
「あなた達が開発した……」
「はい。生物的に、あの感染の早さは考えられますか?」
「まあ……無いでしょう」
「私達が開発した中に、ゾンビ細胞を速やかに運ぶ、ナノマシン技術も含まれているのです」
「なるほど。DNAの強制改変……」
下を見ていたオオモリが言う。
「生まれた試験体が、人を襲い始めました! 次々に基地へと向かって行きます」
クキが俺に言う。
「そう言う事かよヒカル。奴らに、被害者と同じ目に合わせたいという事か?」
「ああ。あれは、アビゲイルの母親からの土産だ」
試験体は次々に、基地の内部に侵入していった。銃声が鳴り響き、内部は地獄と化しているだろう。だがその時、基地内部に変化が起きる。俺がクキに言う。
「基地内部に、何か動きがある。気配感知に慌ただしい動きが」
そしてすぐに、クキが言う。
「核ミサイルの発射口が開いた!」
「なに?」
「奴ら、最後に核をぶっ放すつもりだ。六カ所も開いてるぞ!」
すると、オオモリが言った。
「敵システムのハッキングに成功しました。九鬼さん! とにかくここから大至急離脱してください!」
「了解だ」
ヘリコプターは急いで、その空域を離脱し始めた。
タケルがオオモリに言う。
「どうするつもりだよ。おまえ」
「だまってて!」
オオモリは端末を凄いスピードで弾き、最後にターン! とエンターボタンを押した。
「とにかく離れてください!」
「もう全速だ!」
タケルがもう一度聞く。
「どうしたんだよ」
「起爆点の書き換えを行いました。地上ゼロメートルに達した瞬間に爆発します」
「ってことは?」
「早く逃げろって事です! 六発ですよ!」
ヘリコプターが急いで遠ざかる中で、オオモリが言う。
「五秒前! 四、三、二、一」
ゴゴゴゴゴゴゴ!
物凄い地鳴りと共に、基地の地面が大きく沈下した。その次の瞬間、とてつもないエネルギーがマイノット基地に炸裂し、まばゆい光が発せられた。
そこで、クキが叫ぶ。
「距離が足らん! みんな掴まれ!! 墜落する!!」
デルも言う。
「この距離じゃ、焼けるぞ!!!!」
物凄いエネルギーの反応と共に、マイノット基地の光が膨らんでいく。
「「「「きゃあああああああ」」」」
数人の女達が、恐怖の表情でヘリコプターにしがみついた。
タケルがオオモリに言う。
「お、おいおい! どうすんだよ!」
「ま、まさか、こんなになるとは……」
何故か、皆が慌てている。そこで俺が冷静に言った。
「クキよ。慌てる必要はない。オオモリはよくやった」
「は?」
「へ?」
そして俺はハッチを開け、一気に空中へと飛び出した。そして、物凄い爆発をしている方角に向けて、村雨丸を構えて剣技を放つ。
「究極奥義、神威零域」
ゴゴゴ……パシュン!
次の瞬間、核爆発は跡形も無く消え去った。一度東京で核爆発を見ているため、その処理の方法は既に学習済みだったのだ。神威零域は膨大なエネルギーを、一瞬で無の領域に吸い込ませる剣技だ。
俺はそのまま落下し、平原に着地する。すぐ、クキのヘリコプターがやってきて俺の側に着陸した。
皆が下りて来て、俺の下に走り込んできた。
「ヒカル! 大丈夫?」
「ああ。膨大な魔力は消費したが、それでも四分の一ほどだ」
「良かった……」
するとデルが言う。
「爆発しても……まるで、息を吹きかけるみたいに消せるのか?」
「あのくらいの威力なら四回が限度かもしれん。魔力が尽きてしまう」
「六発だぞ! 三千キロトンもの威力だぞ!」
「そう言う単位なのか?」
「知らんでやってるのか?」
「だいたいでみている。もっと効率よく魔力を練ればよかった。そうすれば、今回消費した魔力の十分の一で出来たかもしれん。俺も……まだまだ、修行が足らんと言う事だ」
「はへ?」
デルが変な声を出す。それに対し、クキが言った。
「いや。デルよ、だから驚いてちゃだめなんだって」
そこでタケルも言う。
「そうそう。スー〇ーマソより強いのと戦って、勝った事があるつーんだから。屁でもねえ」
「……それは、たとえ話じゃないのか?」
それに俺が答えた。
「実話だ」
アニメ好きの研究員が、目を輝かせて言った。
「魔王とか?」
魔王……それは居なかった。最後に相対したのは、世界の核。だがその質問にはこう答える事にした。
「魔王の下に四人の配下がいて、その四天王の一人の副官だった。って言えばわかるだろうか」
「わかりません! でも、凄いです!」
デルが、不思議そうな顔で言う。
「その話を、受け入れてるのか?」
ミオが答えた。
「じゃあ、私達の力をどうやって理解します? タケルは自動販売機を持てるし、ミナミは瞬間的に何人も斬り殺せるんですよ。もともと、ただの女子大生だったのにです」
「そうだったな。バケモノぞろいの中にいて、俺は幸せだ。化物に変えられた事を自覚しなくてすむ」
「だと思いますよー!」
そうして俺達は、核の危機を脱する事が出来た。
そこでクキが言う。
「しかし、大森よ。やつらは、六発もの核をどこに撃とうとしていたんだ?」
それに、オオモリが答える。
「ロシア、中国、インド、オーストラリア、イギリス、フランスですね」
「世界大戦を起こそうとしていたわけか……」
「そのようです」
タケルが言う。
「怖すぎだろ……」
ミナミが言った。
「止められてよかったわ。本当に、間一髪だったのね」
そして俺がオオモリに言う。
「いい判断だった。俺を信用してくれてありがとう」
「ヒカルさんは、何とでもしてくれますから」
「ああ。次は、前もって言ってくれ」
「わ……わかりました」
そうして俺達全員が、消えてしまったマイノット基地の方を眺め、敵が何をしようとしているのかを、改めて再確認する事になったのだった。




