第638話 恐怖のアイスクリームショップを突き止める
調査の為に回線をつないだオオモリが、アビゲイルの母親が最初に保護された場所を完全に特定した。そのエリアは既に市民が避難しており、軍人もいないようだった
オオモリが画面を確認しながら、指をさす
「あそこですね」
「どうするか?」
「周辺の建物でネットにつながってない、監視カメラを片っ端から洗いましょう」
「よし」
俺達は監視カメラの位置を確認しながら、建物に侵入し映像を確認した。数件建物を確認したところ、クロサキが怪しい映像を見つける。スマートフォンで呼ばれ、俺達がクロサキのいる場所に集まった。
「これです」
そのテレビに映された映像には、パンデミック前の状況が映っていた。まだ車や人が行き来しており、人々が平和な暮らしをしているのが映っている。
「ここです」
「巻き戻して、スローで」
車がゆっくり到着し、二人の人間がアビゲイルの母親をロープに繋いで引いて連れている。
タケルが呆れたように言う。
「ファーマー社じゃねえのかよ」
クロサキが頷いて言う。
「偽装ですね」
そして、ミオが憤慨した。
「これって……アイスクリーム屋さんだよね。何食わぬ顔で、アイスを売ってる」
画面の中では、アビゲイルの母親を下ろした車が、アイスクリームを売っていた。子供達が立ち寄り、家族連れが買って行く様子が映し出されている。
それを見ていた研究員の一人が言った。
「まさか……」
だが俺達は、もうわかっていた。
「これが……感染源だろう」
クキが言い、俺達が頷く。このお菓子屋が、関与している可能性が高い。するとアビゲイルが言った。
「ここに、行きましょう。何か手がかりがあるかもしれない」
「よし」
オオモリがスマホで経路を見る。
「三区画ほど向こうですね。軍人に合うかもしれません」
「問題ない」
俺が言うと、皆が頷いた。そして、デルが言う。
「まあ、敵ではないからな。だが見つかれば、また戻らなくちゃなるかもしれん」
「どうでもいい」
俺はすぐにでも動きたかった。アビゲイルに、あんな思いをさせた奴らを許せなかった。
その思いを分かったのか、クキが強く言う。
「すぐ行くぞ」
建物を出て、オオモリが見つけてくれたアイスクリーム屋へと向かった。もうどこにも市民はおらず、軍人の車が通り過ぎて行くだけだった。
「いまだ」
俺達は走って、目的のアイスクリームの店に来る。鍵がかかっていたが、タケルが入り口に手をかけ、ゆっくりと鍵を引きちぎる。
「よし」
この状況だが店は荒れておらず、平和だった時の様子のまま。
「裏の倉庫に回ってみるか」
「ああ」
オオモリとマナが言う。
「レジを確認してみます」
「なにかあるかも」
クロサキとシャーリーンが、その辺りにある書類を探し始める。奥にすすんで、倉庫を開けるとそこはもぬけの殻だった。
「何もない」
それを見てクキが言う。
「何もないのはむしろ不自然だ。こうなる事を予想して、全ての証拠を消したことになる」
「なるほど」
俺達が倉庫から戻ると、クロサキとシャーリーンも首を振って言う。
「証拠になるようなものはないですね」
「そうみたいです。不自然なほどに書類が無い」
デルが言う。
「あるはずのものが無いか」
次にオオモリが来て言う。
「レジが……壊されてます」
「手詰まりか……」
「いや、クキ。微かに異臭がする。薬品のような腐ったような臭いが」
皆が俺を見た。そして俺は嗅覚を頼りに、その場所を突き止める。
「ここだ」
大きな冷蔵庫のショーケースを蹴り飛ばしてずらすと、小さなくぼみがあった。ツバサがしゃがんで、それをコンコンと叩く。
「空洞になってるわ」
タケルが、その床を力まかせに引きはがす。
「ハシゴだ」
「行こう」
俺とタケルとミナミが、無造作にそこに飛び込んでいく。落下して着地すると、そこに通路があった。ハシゴを伝って全員が下りて来る。
そこを見て、エイブラハムが言った。
「随分と不自然じゃのう。こんな、近代的な通路が地下にあるとは」
「確かにな」
「まあ、見当はつくがのう」
「行くぞ」
俺を先頭にしつつ仲間達が後ろをついて、殿はタケルとミナミが務める。そしてその奥には扉があり、俺の日本刀でそれを斬った。俺達がそこに入っていくと、そこは薬品製造工場のようになっていた。
「ビンゴなんだろうな」
「こんな都市のど真ん中に、秘密の工場か……」
「もぬけの殻か?」
「手がかりを探すぞ」
各自が分かれ工場内を探すと、次々に新たな情報が見つかった。オオモリが端末を点け画面を確認すると、アビゲイルがそれを見て言う。
「新型のゾンビ因子の新しい型式かもしれません。データのバックアップを」
「わかりました」
そこで、クロサキが言う。
「博士。こちらに冷凍倉庫がありました。中身の確認をお願いします」
アビゲイルがそれを調べた結果、そこには様々な化学物質があり、それらはゾンビ因子進化の為の原料になりえるという。今度はシャーリーンが資料を見つけてきた。
「やはり想像通りです。奴らは、食料品に混ぜてパンデミックを起こさせました。外部の流入では無く、内部からゾンビになりやすくしていたようです」
「一般市民に、新型のゾンビ薬を食わせたか……」
ミオが悔しそうに言う。
「子供達にまで……」
そこに、タケルが走ってきて言う。
「おい、抜け道があるぜ!」
「よし」
俺達がそこに行って見ると、通路があった。奥に歩いて行くと、下に続く階段がある。
「データを回収次第、進もう」
回収作業を行い、集まって来たところで下の階に進んでみる。下には車が走れるような道路があった。
「脱出経路を用意していたか」
「行こう」
俺達は、その道路を進み始めた。すると俺の気配感知に、何かが見えて来る。
「そう時間は経ってない。逃げたのは、今日だ」
「アビゲイル博士の母親を連れてから、数日が経ってるがな」
「恐らく、仲間を待ってたんだろう」
「そういうことか」
俺達はひたすら、地下道路を進んでいった。十キロほどを二時間で歩くと、終点に車が置いてある。
「ここから逃げたか」
「上がるぞ」
俺達が道路から上がり、通路を抜けて階段を上がる。そこで俺は、皆の足を止めた。
「上に気配だ」
「まだ、逃げてなかったのか?」
そこで、デルが言う。
「何かを確認したかったんじゃないのか?」
そう言われて、全員がアビゲイルを見た。おそらくアビゲイルが死んだかどうかを、確認するために残ったのだろう。
俺は無表情で告げた。
「始末する」
「だな。落とし前をつけてやんねえと、一匹でも多くあの世行だ」
ミオも、怖い表情で言った。
「誰を敵に回したか、思い知らせる必要があるわ。一人も逃しちゃダメ」
皆がミオを見る。いつものミオらしい優しさが消えていた。俺は静かに階段を上がり、扉の前に立つ。この先に気配は三人、どれも人間の反応だ。
俺はタケルに扉を開けるように目配せする。タケルが頷き、扉を開けた。
三人の男らは談笑していた。こんな状況で、談笑とはいい度胸だ。
認識阻害と隠形を施して、一人の男の背後による。そして俺は、背中から心臓を刺す。
「しかしよ。まさか、あのアイスクリームでゾンビになるなんて思わないよな」
「これも、本部の思惑通り。新型の薬品を試すのに、こんな分かりづらい隠れ蓑はないだろう。なあ?」
「……」
もちろん、死んでいるので返事はしない。
「どうした?」
だが、俺がさした心臓から血が溢れ、口から血があふれ出て来る。
「な!」
「か、感染か?」
ドシュ!
次の瞬間、一人の男の首に赤い線が入る。ミナミが後ろから、瞬間的に斬ったのだ。
「なっ! なん!」
グチャ!
そいつの頭はトマトのように潰れた。タケルがモーニングスターで、てっぺんから振り下ろしたのだ。
そレを見て、ミオが冷淡に言う。
「いっちょ前に、赤い血なんか流してるのね。脳みそもあるなんて、許せないわ」
ミオはアビゲイルに、母親と会いに行くようにと優しく声をかけていた。それだけに、その怒りを押さえられないのだろう。
「先にもいる」
「お願い。全部始末して」
俺達はミオの声に頷いて、その先の扉の前に立つのだった。




