第634話 逃亡中のスパイを強襲して捕獲
逃げた連中を追って飛んだヘリコプターは、パンデミックが収束しつつあるトロント上空へ到着した。アビゲイルが作ったゾンビ破壊薬で、拡大を防ぎ軍隊が周辺を取り囲んでいるようだ。
諜報員が言う。
「各ルートに政府の人間が検問をはっているが、今のところ当該の人物が見つかっていない」
クロサキが答えた。
「下道を通って来るか、偽装しているか。まあ協力者がいると見て間違いないでしょうね」
「そうですね。既に、ファーマー社と接触している可能性が濃厚です」
そこで、衛星通信に繋いだパソコンを触っているオオモリが言う。
「これですね」
そこには、不鮮明な人間の顔が映っている。
「これは?」
「僕のAIでは、あの中の一人だと言ってますね。少し待ってください」
画像が、どんどん鮮明になっていく。
「欠損したデータを、僕のAIで修復してます」
そしてとうとう、その人間の顔が映った。
「間違いない。これは、何のデーターなんです?」
「町の監視カメラですね」
「なぜ、あなたがそんな物を見れるんですか?」
「えーと、すみません……あの、ハッキングみたいな……」
微妙な空気が流れるが、諜報部員の女が言った。
「まあ、不問でいいんじゃないですか? 国の存続がかかってる状況ですから」
「そうだな。それで、これはいまどこに?」
するとそれが拡大され、それが民間のトラックの荷台に乗り込んでいるところが見えた。そして次に、ナンバーが拡大されて、それを諜報部員に見せる。そして次に、位置情報が表示された。
「ルート115。真っすぐやって来るということか。本部に通報するか」
「止めた方が良いんじゃないですか? まだ、敵が潜伏している可能性がありますよね」
「なるほど」
オオモリが更にパチパチと端末を弾いて、そのトラックが通過していく映像を見せた。
「間違いなく真っすぐ向かってますよ」
「そのようだ。というか、君は……危険だな……」
「あ、いえ。緊急時ですから。仕方ないですよね……?」
諜報の女がまた言う。
「リーダー。緊急時ですから」
「わかった。ヘリコプターをそちらに向けろ!」
トロント上空からルートをさかのぼり、敵に気づかれないように高度をとった。そして、十数分後に、目標のトレーラーが見えて来る。
「高速は降りてますね」
「閉鎖しているから降りるしかなかったんだろう」
「なるほど、トロントがあの状況では閉鎖になるのは当然か」
見ている先で、トレーラーが全く違う方向に進みだした。
そこで諜報部員が言う。
「ヘリの音に反応したな」
俺が諜報部員に言う。
「逃げられる前に、あのトラックの上空に」
「下の追跡が無いから、下手をすると人間を、どこかで降ろすかもしれん」
「だから、早く」
「何かあるんだな? わかった! トラックを追え!」
ヘリコプターが真っすぐに、トラックの上空に来たので俺はハッチを開ける。
すると諜報が言う。
「な! なにを?」
「ちょっと、つかまえて来る」
「は? パラシュートが開いているうちに、逃げられるだろ」
「そんなもんいらん」
俺はハッチから下を見て、後ろを振り向いて言う。
「ヘリコプターが揺れるかもしれん」
そこでクキが、パイロットに言った。
「これから、乱気流に巻き込まれたように揺れる。右から衝撃が来るから、姿勢制御を頼む」
「は?」
「いう通りに」
「わかった」
俺は、ヘリコプターのハッチの縁に足をかけ、体をたわめてヘリコプターを蹴る。
ドン!
次の瞬間、雷のようにそのトラックの頭に突っ込んだ。屋根を突き破り、車体をひしゃげさせて地面に刺さると、そこを支点にしてトラックの尻が持ち上がり一回転した。
ドガガガガガガガ!
運転席と助手席の人間を殺してしまったが、後部のコンテナに人間が何人もいる。
「断鋼裂斬」
ジャキン!
剣技でトレーラーの前部分を斬ると、中には転がった人間がいた。トレーラーがひっくり返ったので、そのまま天井部分に叩きつけられたらしい。
「う、うう」
「ぐ……」
「つぅ……」
確かにあの映像に写っていた人間達。頭から血を流したり、腕が折れたりしているようだ。
「つかまえに来た。動くな……といっても動けないか」
だが次の瞬間、一人が銃を取り出して俺に向けた。
「撃ってみろ」
パン!
ギィン!
弾丸を落として、俺が言う。
「無駄だ」
そして俺が上を見ると、ヘリコプターが直ぐ上空までやってきた。タケルが飛び降りて来て、ニマリと笑っている。
「派手にやったな」
「とりあえず、逃げられる事はない」
遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。
「事故が通報されたな」
「まとめて連れて行こう」
「んじゃ、銃は取り上げた方が良いな」
俺とタケルが四人の首根っこを掴んで、トレーラーから引きづり出して走り始める。
「ヘリが下りれそうな場所があった。こっちだ!」
森林地帯を走る道を抜けると、広くなってる場所にヘリコプターが降りてきた。捕らえた人間たちを連れて行くと、諜報員たちがヘリコプターから出て来る。
「ど、どうなってる? なんで、あんたは生きていられる? そっちの君も、飛び降りて平気な高さじゃなかったと思うが」
「そんな事は大したことじゃない。それより、映像で見た人間がいたぞ」
草むらに転がすと、諜報員が頷いた。
「間違いない。このままヘリコプターに乗せよう」
四人を俺とタケルが、大型のヘリコプターに放り投げるように乗せた。俺達も乗り込んで、ロープで四人を縛り上げる。そのままヘリコプターが上昇し、俺達は現場から飛び去った。
そして諜報が言う。
「二人、死にそうになってるが……」
「ヒール!」
とりあえず出血を止めて、命の危険性を取り除いた。
「う、うう……なんだ……」
「ど、どうなってるの?」
意識のある者が、朦朧としながらも状況を確認しようとする。そこで、諜報員が言う。
「お前達には、じっくりと聞きたい事がある」
「旧世代の人間の……くせに」
「どうでもいい。俺達の質問に答えてもらおう」
「くそ!」
大型ヘリコプターの中で、尋問が始まった。急を要するので、聞きたい事は山ほどある。
「トロントの仲間に合流しようとしたらしいな」
「奴め……吐いたのか」
「そうだ。一体何を企んでる」
「お前達に言ったところで、分るわけがない」
「まあいい」
俺が前に出ようとすると、クキが俺に言う。
「ヒカルは、今はやめとけ。パイロットが失神したら墜落する」
「分かった」
そこで、タケルが何個かのスマートフォンを床に投げた。
「これ、役立つんじゃね?」
それを見て、縛られてる奴らが目を向く。
「いつの間に!」
「なんだてめえ。文句あんのか?」
タケルがギロリとにらみつけ、ブワっと殺気をぶつける。それだけで、びくりと息を潜めた。
諜報部員たちが冷や汗を垂らし、俺達に言う。
「まったく……あんたらはいったいなんなんだ。長官がびくつくのも無理はないな……」
クキが言う。
「いずれにせよ。こいつらの仲間が、トロントにまっているのは間違いない。カナダ軍では対応できない可能性もあるぞ」
「すでに、パンデミックは落ち着いているが?」
「あいつらの脅威はそれだけじゃない」
すると縛られている奴が、叫ぶように言う。
「なんでそれを!?」
「図星か」
諜報部員が青ざめる。
「オタワを襲った……あれか」
「急いだほうが良さそうだ。こいつらが消息を絶ったのがバレる前に」
「わかった」
トロントについて、軍隊がいるところにヘリコプターを着陸させた。軍人たちが駆け寄ってきて、ローターの風の中、俺達に聞いて来る。
「本部から聞いている。逃げたスパイを追っていると!」
「もう捕らえた。そいつらを連れてきたんだ」
「……さっき、連絡をもらったばかりだが?」
「それでも、つかまえたんだ」
「分かりました。ではすぐに、仮設本部まで案内します!」
「お願いします」
俺達は、軍人たちと共に、捕らえた四人を担いで仮設本部のビルへと入っていく。
アビゲイルが、軍人に尋ねる。
「破壊薬は作用しましたか?」
「はい。ゾンビがバタバタと倒れ、散布した地域にはゾンビが発生しません」
「良かったです。他に、バケモノは?」
「今のところ確認されておりません」
「わかりました。救出した市民には、可能な限りビスク製剤を投与してください」
「は!」
そして、諜報のリーダーが言う。
「こいつらは拘留する。すぐに尋問だ」
「怪我をしているようですが」
諜報員が俺を見るので、俺は黙ってうなずいた。
「大丈夫だ。そのまま尋問だ」
「は!」
そいつらを俺がヒールで治癒し、バラバラの部屋へ諜報部員と共に分かれて入っていくのだった。




