第633話 スパイだった元補佐官への徹底尋問
俺達の前には、捕らえた補佐官が縛られたまま座っている。その顔に嵌められたマスクが外されると、すぐに罵詈雑言が始まった。
「俺を開放しろ。害虫であっても、お前達は新しい世界で生き延びれるようにしてやる。生きのびても、何の利益も無いだろうがな」
諜報部の男が言った。
「だまってろ。まあ望みは薄いだろうが、一応聞いておく。仲間達はどこに行った?」
「クックックッ、無能が。自分らで調べてみたらいい」
「そんな答えだろうと思った」
と、冷静に答えながらも、諜報部の男は補佐官の腹に拳をのめり込ませた。
「ぐえ!」
「痛めつけて吐かせようなんて思ってない。ただ、カナダ市民の代わりの一発だ」
今度は諜報部員が、懐から銃を抜いた。
カチリ。
「さて、死にたいか?」
補佐官だった男は睨むだけだった。引鉄に指がかかり、ゆっくり絞られたが恐らく白状する事はない。
俺が言う。
「まて」
カチャ。
「どうした?」
「こちらに任せてもらえないだろうか?」
「ん? 無理だとは思うがな」
「まず、やってみよう」
俺は、縛られたそいつの前に立つ。
「何だ……優男。お前のような奴に脅されても、何もしゃべらんぞ」
「しゃべらなくていい。だがお前が、耐えられなくなったら喋るといい」
するとタケルが言った。
「しーらねっと」
俺は女の諜報員の胸ポケットに刺さっている、ボールペンをスッと抜く。本人が気付いていないので、俺は念のため女に聞いた。
「このボールペンに思い入れはあるか? 形見とか」
「あれ? い、いえ。事務局にあったペンよ」
「ならもらっていいか?」
「構わないわ」
俺はそのペンを、無造作に目の前の男の肩に突き立てた。
「うがぁ!」
「大したこと無いだろう? これぐらい」
それを引き抜いて、次は反対側の肩に突き刺す。
「ぐ、あああああ」
また引き抜いて、今度は頬に突き立てる。
「ふっしゅぅぅ」
また引き抜いて太ももに突き刺し、抜いては反対の太ももに突き刺した。
「や、やめろ! やめろ!」
俺は黙って引き抜いて、両腕、腹、腕に突き刺す。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
すると、諜報員が言う。
「し、死ぬぞ」
「死なん。急所は外している」
「そうなのか?」
そう言いながら、俺は無造作に胸に突き刺す。
「ゴボォ!」
肺に貫通した音がした。
「そ、それはさすがに」
諜報が焦った時、俺はすぐに魔法をかける。
「ヒール」
しゅうしゅうしゅう。とすべての傷が治った。
「はあはあはあ……」
「どうだ? 話す気になったか?」
「な、なんで治ってる……」
「治したからだ」
「おまえ、なんだ……」
「で、仲間はどこに言った」
「い、言うはずがないだろう」
ドス! また肩に刺す。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「同じ場所を、一通り刺して行く。言いたくなったら言え」
一周して肺に刺したころ、男は白目をむきかけていた。
「ヒール」
すると、また傷が全て治る。
「うう……ううう……」
「どうだ?」
「う、うるさい」
「大したもんだ」
つぎに俺は男の眉間にボールペンを突き付けて、ゆっくりと押し込んでいく。皮膚が破れ血が流れて、そのままゆっくりと頭蓋に到達しそれでも押し込む。
ベギン! と頭蓋の割れる音がしたところで辞めた。
「あたまが! 頭が! 痛てぇぇぇ!」
今度は、頭の横にボールペンを突き立てて反対側を押さえ、ゆっくりと突き入れていく。
ベギン!
「ぐああああ」
「ヒール」
元補佐官は、抜け殻のようになり、うつろな目で床に目を下ろしている。
「そろそろか……?」
諜報部員が言う。
「な、これ以上は……」
すると、タケルが諜報部員に言った。
「あー、あんたら離れた方がいいぜ」
「な、なんで?」
タケルや仲間達が後退り、それにつられて諜報員も下がる。
「闘気、魔力、解放」
ごお! と俺からオーラが上がり、物理的に風が巻き起こる。そして俺は元補佐官の目を見開かせて、殺気を解き放った。もちろん本気の殺気を放ったら、普通に死ぬのでギリギリを見計らった。
「吐け」
「あ、あう、あ、ああ」
恐らく恐怖で、この世のものでは無い物が見えているだろう。弱り切った精神に、闘気と魔力を殺気に乗せて放ったのだ。間違いなく、もう精神が持たない。
「やめて……やめて……やめて……」
「言え」
「トロント……トロントに仲間がいる。そこに行った、もう……おね……がい……しま……」
ガクッ! 意識を失った。辛うじて死んではいないが、精神がどうなったかは分からない。
俺が振り向くと、諜報員全員、研究員全員が倒れ、デルが座り込んで頭を抱えていた。
「しまった……」
それに対して、ミオが言う。
「ヒカル……私達も、きつかったわ」
だが、ミナミが言う。
「そう? セーブしたわよね? ヒカル?」
それに対して俺が言う。
「タケルとミナミとクキは、レベルが高いからな。だが、全員ほとんど影響を受けていないじゃないか。みなも、レベルは上がってるんだな」
「まあ、そうね……」
皆で倒れている人らを起こすと、全員が床に座り込んだ。そして俺が諜報部員の方に向かっていくと、恐怖の眼差しを向けて来る。
「あー、すまん。あんたらに敵意は無い」
「わ、わかってる。いまのは、一体……」
「別に何でもない。脅しただけだ」
「脅した……?」
「まあ、コイツの精神がどうなったかは分からんが、スパイの行先は分かった。パンデミックを起こしたトロントに向かったらしい」
「トロントか……わかった。ではすぐに」
「そうしよう」
そして諜報員と、憲兵が入れ替わり、気絶している元補佐官を受け渡す。
そこで、ミオが言う。
「あの、皆も行きます」
研究員と仲間達のことだ。
「全員で行くのか?」
「当然。みんなはヒカルとは離れたくないからです」
諜報員が俺に目を向けて、深く頷いた。
「わかった」
軍司令部から離れた所に、大型ヘリコプターが用意されていた。俺達は全員でそれに乗り込む。
「トロントまでは、ヘリで一時間かかりません。車では四時間半、先回りしてつかまえます」
「わかった」
大型のヘリコプターから見下ろせば、都市に人がいないのが分かる。
「みんないない」
マナが言うと、女の諜報員が答える。
「核の標的になる可能性がありますから、市民はすでに都市の外へと避難させてます」
「綺麗な街が、焼かれる事の無いように祈るわ」
「ええ……」
他の諜報の男が言う。
「軍用ですが、ジャケットを着てください。少し冷えてきました」
俺にも差し出してくるが、俺は首を振る。
「これが気に入っている」
「高級ブランドのスーツで、日本刀を振り回すなんて、まるでハリウッド映画みたいです」
「そうだろうか?」
すると脇にいた、諜報部の女が言う。
「ええ。とってもスタイリッシュで、そして……素敵な人です」
仲間の女達が俺に言った。
「ヒカル! こっちに座って!」
「あ、ああ」
なんか微妙な雰囲気になっているが、何故か女達はあまりいい顔をしていなかった。多分、ここまでの強行軍で疲れているのだろう。静かな機内には、ローターの音だけが響いていた。




