第631話 裏切者が潜むカナダ政府へ
軍司令部の周りには、多くの戦闘車両が停められている。その周りには軍人が銃を持って立っており、再びゾンビに襲撃されるのを警戒していた。俺達はそこに、手を上げて静かに近づいて行く。
「止まれ!」
兵隊が言い、クキが手を上げてさらに近づいた。
「すまない。撃たないでくれ」
すると、そこにいたのは俺達を護衛していた兵士の一人だった。
「なんだ、あんたらか。徒歩で来たのか?」
「ああ、車が調子悪くてな」
「車が? 故障だろうか……?」
「わからん」
「で、どうしたんだ?」
「ゾンビパンデミックに対する、非常に重要な情報を持ってきた」
「わかった。ちょっと待ってくれ」
兵士が通信をして、了承を得たようだ。
「入っていいぞ」
「すまない」
その兵士に連れられて指令部に入っていくと、建物の中は少し落ち着きを取り戻していたようだった。周りをバリケードで囲まれ、事務官らも仕事をし始めている。
兵士が言う。
「本当は、みんな気が気じゃないんだ」
「……家族か……」
「そうだ。皆も、家族がいる。それがいま、どういう状態になっているのかが心配なんだ。そのなかで、この事態を治めようと皆が必死になっている」
「何とかしなくては」
「ああ」
俺達はぞろぞろと、エレベーターに乗り込み登った。俺達は、待合室のような場所へと通される。
「まっててくれ」
「わかった」
しばらくすると、カナダの首相と補佐官がやって来る。
テーブルに着いたところで、クキが早々に言う。
「ちょっと、見てもらいたいものがあるんです」
「なにかね?」
ミオがスッと立ち上がり、大統領のところに行って小さな紙を渡す。
「……」
俺達は静かに、その反応を待った。
「なるほど……」
それに対し、ミオが言う。
「はい。緊急の対応が必要かと思います」
「そうだな……だが、なかなかに難しい問題だ」
「はい」
カナダの首相の緊張が伝わってきたところで、補佐官が首相に尋ねた。
「何があったのですか?」
「リビングデッド関連の、重要情報だ」
「どんな?」
カナダ首相は、その補佐官に目を向けた。
「現在、アメリカが窮地に立たされている。そして、このカナダも同様にな。北米大陸はこのままだと、全滅してしまう恐れがある。それを防ぐための情報、と言ったところだ」
「具体的には?」
「世界の存続にかかわる事だよ」
「……ですからなにを」
カナダ首相は、体を横に向けて補佐官に言う。
「アメリカの核ミサイル、そして対ゾンビの薬品を運ぶヘリコプターが撃墜されそうになったのだがね、なぜここにその拠点がある事が分かったんだろうね?」
「そ、それは、アメリカ内の問題では?」
「君が渡した、あの通信機なんだが……」
すると補佐官が、スッと懐に手を忍ばせて銃を取り出し、カナダ大統領に突き付けた。
「クソ! 動くな!」
その行動を見て、クキが冷静に言う。
「そんな事をしても、意味は無いんだがな。首相を人質に取るつもりか?」
だが既にそいつは興奮状態になり、話を聞いていなかった。
「立て!」
首相に銃を突き付けて、肩を掴んで立たせる。首相はただ補佐官を睨み、立ち上がった。
「動くなよ! 首相が死ぬぞ」
首相が言う。
「信用していたのだがな」
「うるさい! お前達、世界の首脳たちが世界を腐らせたんだ! これは、浄化だ!」
「何が浄化だ! 世界を滅ぼして、いったい何になるというのだ」
「こい!」
カナダ首相を引きずりながら、行こうとしたところで俺が聞いた。
「殺すか、捕えるか」
カナダ首相が言う。
「捕える」
次の瞬間、俺は補佐官の銃を持った手を握り完全に羽交い絞めにした。ゼロ秒で行われたその行動に、補佐官があっけにとられた表情をしている。
「な、なん……」
カナダ首相が言う。
「残念だ。まさか、内部に裏切者がいたとはね」
「き、きさま!」
俺はグッと首を絞めて、話させないようにした。
「うぐ」
「首相が話していいと言ったら、話して良い。あとはだめだ」
すると首相が言う。
「話をさせてやってくれ」
緩めると、はあはあと、息をついて言う。
「……この世界は、狂っている。だからリセットするのだ」
「それを、信じているのか?」
「そうだ。私は選ばれた」
「お前も、核で焼かれるところだったのにか?」
「新しい世界になるのだ! 犠牲はやむを得ない!」
「仲間はどれだけいる?」
「世界中にいる。私だけではない」
それを聞いて、カナダ首相は口を閉ざす。
俺が、トン! と補佐官の意識を狩り、そのまま椅子に座らせた。
カナダ首相が言う。
「すまなかった。まさか内部にいるとは」
それを聞いて、クキが首を振る。
「いえ。アメリカでも同じでした。奴らは、どこにでも潜り込んでいます」
「恐ろしいな」
「奴らは、人間をコントロールしようとしているんです」
「これも、その一環なのだろうか?」
「調べて見なければわかりませんが、その可能性はあります」
「うむ」
「獅子身中の虫を、あぶりだしている暇はないでしょう。そんな事をしている間にも、奴らは次々に攻撃を仕掛けて来るでしょうから」
「わかった」
そして首相は、すぐに電話を取り誰かを呼びつける。するとそこに、憲兵がやってきた。
「裏切り者だ」
「裏切り者ですか?」
「連れていけ」
そこで、クキが言う。
「油断はしない方が良い。念のため、縛って連れて行った方が良いだろう」
「そうしよう。拘束具を」
少し待つと、滑車が付いた人型の枠が持って来られる。すると補佐官は、ぐるぐるに縛られ口に何かを噛まされた。
「首相の、ご家族は?」
「別室に」
「すぐに、保護を」
「わかった」
そして俺達は、カナダ首相の家族のいる部屋に行った。するとそこに、二人の護衛が付いていた。
「ご苦労」
「はい!」
「入るよ」
護衛が扉から放れ、中に入ると母子がそこにいた。
「あなた? どうしました?」
「ここも、安全とは言えなくなった」
「そんな」
クキが、首相に聞く。
「それで、マイノット基地はどうなってます?」
「騒ぎが無い所を見ると、落ち着いているのだろうがな。指令室に行こう」
「オタワが燃えていない事を、不思議に思っている事でしょう」
「空中で核が消えたのは、本当に君らの仕業なのか?」
「はい」
「国民を助けてくれてありがとう」
「いえ」
そう言ってクキが、俺をチラリと見る。俺がやったことは、誰にも言わないつもりなのだろう。そして母子を連れ出し、俺達は司令部へと向かうのだった。




