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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第62話 安心感と眠れぬ夜

 俺達が拠点にしているビルに到着したのは、まだ夜明け前だった。恐らく皆が寝ているだろうと思いつつ、俺達は最上階に上がる。すると部屋の前でユミとミオとツバサが待っていた。小さい懐中電灯を床に置いて、三人で話をしながら待っていたらしい。


 俺達が近づいて行くと、ユミがタケルに言って来た。


「遅いよ! 大丈夫なの?」


「あ、ああ。問題ねえよ」


 そして女達が俺達をまじまじと見る。ユミがタケルの上から下まで眺めて言う。


「似合ってないよ」


「は? バー〇リーだぜ。着た事もねえけどよ。高いんだし良いだろ?」


「高けりゃいいってもんじゃないのよ。あんたヒカルが似合うからって自分も似合うと思った?」


「そうかな?」


「やっぱ、いつものジーンズとジャンパーが良いんじゃない?」


「ま、まあそうか? でよ、女物もあったんだぜ。詰められるだけ詰めて来たんだ」


 タケルが俺に目配せするので、タケルと俺の背負子とバックの中身を床に広げた。


「え? 凄い!」

「こんなに」

「いっぱいある」


 そして女達が服を拾い上げて見始めた。


「なによ。しわくちゃじゃない!」


 いきなりユミに怒られた。


「いや、特売のビニール袋詰め放題みたいにしてきたからな。とにかく詰め込むだけぎゅうぎゅうに詰めて来たんだ」


「アイロンとか無いのに!」


 怒っているユミにツバサが言った。


「まあまあ、いいじゃない。彼らも私達の事を思って取って来てくれたんだし、吊るしておけばしわも取れるんじゃないかな?」


「もー!」


 するとミオが言う。


「由美、心配してたのよ。ずいぶん時間がかかってるから何かあったんじゃないかって」


「わ、わりい。ちょっと表参道まで足を延ばしてたんだ 」


「うっそ、あんなあっちまで行ってたの? 信じらんない!」


 女達の機嫌が悪いようだ。俺達がかなり時間をかけてしまったので心配してくれていたらしい。


「すまん。今度は目安の時間を告げて行こう」


 俺が言うと、ツバサが答えた。


「まあ、何があるか分からないし、仕方ないとは思うけどさあ」


「すまん」


「私も心配したよ」


 そう言ってツバサが俺の袖の先をちょっとつまんだ。するとミオも俺の側にやってきて言った。


「ヒカルが強いからっていっても絶対はないと思う。だから気を付けてほしいな、ここは千葉や茨木とは違うんだから」


 めんどくさそうな表情を浮かべてタケルが言う。


「つーか、もういいだろ。部屋に入ろうぜ。きっと他は鍵がかかっているだろうから、ユミたちの部屋に入れてくれよ」


「わかった」


 そうしてようやく俺達は部屋に入る事を許された。部屋に入ると、ろうそくが何本も立てられていて室内がほんのりと照らされている。俺はふと前世の室内の光景を思い出す。


 俺がそれをじっと見ているとミオが言った。


「懐中電灯は外から目立つと思って、見つけた蝋燭に火をつけたの」


「ほとんどの物資は一階に置いてあったと思ったが? 」


「部屋にあったの。恐らく住人が使ってたみたい」


「なるほど」


 確かに懐中電灯が窓の外を向けば、ここに人がいる事が分かってしまう。ミオたちは考えてこうしたらしい。窓から奥の方に置いてあるのも工夫したのだろう。


「山崎のおっさんはどの部屋にいるんだ?」


 タケルが聞くとユミが答えた。


「下の部屋。隣りの部屋にユリナとマナとミナミが寝てる」


「おっさん、人が死んでた部屋に寝てるわけじゃねえよな?」


「まさか。その隣の部屋にいるよ」


「一人にしたのか?」


「えー、だっておじさんだし」


「今まで一緒にいただろ?」


「ていうか山崎さんもそれがいいって言ってたよ」


「そりゃ、お前達に気を使ったんだよ」


「そうか…」


 ユミとミオとツバサはばつが悪そうに、顔を見合わせている。そして俺が言った。


「鍵もかかるし、このビルはひとまず安全だ。ヤマザキも問題ないだろう」


「だけどよ、なんか怖えんじゃねえかなと思ってよ」


「えー、タケル怖いんだ?」


「こ、怖かねえよ」


「うそ。一人じゃ怖いんでしょ?」


「そんなことねえって」


「じゃあ、あの死んでた部屋で寝たら?」


「あそこは嫌だ」


「なんでよ?」


「掃除してからじゃねえと無理だ。つうか、三人ずつで良くねえか?」


「まあ確かにね」


 確かに三人ずつでも寝泊りは出来るだろうが、狭くはないだろうか? 各部屋にはベッドが二つずつしか置いていなかった。


「寝るのには一人余るが?」


「え、ソファーもあるから、交代で寝ればいいんじゃない?」


「いや。俺はそれでもいいが、今日俺とタケルは家具屋を見つけたんだ。せっかくだからそこの家具を回収して来ようと思っていたんだがな」


 すると女達が顔を合わせて言う。


「いらなくない? ていうか、それだと女の子が二人ずつってこと?」


「そうだ。広々と使えるんじゃないか?」


「でも…」


 今度はタケルがユミに言う。


「二人だと心細いんだろ? だって三人で集まって外で待ってたもんな」


 ‥‥‥‥‥


 図星のようだ。


「いいじゃない。怖いんだから」


「俺には言うくせにかよ」


「あなたと私達は違うの」


「へっ。まあいいや、ヒカルはどう思う?」


「俺は、せっかくだからあの部屋を綺麗にして、良い家具を大量に運び込みたいと思っている」


 するとタケルと女三人が顔を見合わせた。代表してタケルが言う。


「なんつーか、ヒカルって高級志向だよな?」


 それはその通りだ。俺は前世で、金は活動資金と武具のメンテナンスにしか使っていなかった。恐らく高級貴族の領主より金を持っていたのに、全く使わずにこっちの世界に来てしまったのだ。贅沢も良い暮らしもしないままに、魂を捧げて転生してしまったのだ。良い物に囲まれてみたいというのは贅沢なのだろうか?


「どうせ使うなら良い物の方がいい」


 俺は前世の禁欲生活では得られなかったものを、この世界で取り戻したいと思い始めていたのだ。タケルと東京を見て回り、その願望が更に強くなってしまった。


 ユミが少し面白そうに言った。


「なんか面白い。ヒーローとか英雄みたいな人って、ストイックなイメージが強いけど、ヒカルってそう言うの全然ないんだね」


 禁欲生活はもうこりごりだった。だから今度の人生はやりたいことをやりたい。


「もちろんたくさんの物を見たいし食ってみたいさ、そして良いものを知って楽しみたいと思っている」


 俺がそいうとタケルが賛同してくれた。


「いいね! ヒカル! それがいい! やっぱ欲がねえと生きる張り合いがねえもんな!」


 確かにタケルの言うとおりで、生きる張り合いにもなる。すると今度はミオが言う。


「私も! 私もいろんな物が欲しい!」


 ツバサもミオに同調する。


「私も! 私もいろいろ欲しいものがある!」


 するとユミが驚いたように言う。


「どうしたの? 二人とも、ヒカルに影響されちゃって」


「だってさ! こんなめちゃくちゃな世界になってまで我慢する必要はないんじゃない?」


「私もミオの言うとおりだと思うな」


 どうやらミオもツバサも生きる力が芽生えてきたようだ。欲があると言う事は、生きる楽しみがあると言う事だ。俺がその影響を与えられたのだとしたら、それはそれで嬉しかった。


 タケルが言う。


「な、ユミもそうしようぜ! なんたって欲望の町東京にいるんだ。何か欲しいものとかないのか?」


「あ、あるよ」


「なんだよ? 言ってみろよ」


「いわない! 内緒!」


「なんで教えてくんねえんだよ!」


「いわない!」


 二人が言い争っているのを、ミオとツバサがじっと見ている。その瞳には何か羨望の眼差しのような光が含まれているような気がした。確かにこの二人が言い争っているのは微笑ましい。恐らくは幸せの雰囲気を感じ取っているのかもしれない。


「とにかく。みな、そろそろ休んだ方が良い。早朝からずっと大変な思いをしてきたんだ。俺は一旦拠点づくりに励むから、明日はゆっくりすると良い」


 それにミオが答えた。


「そうだね。そろそろ寝ようか」


 ミオが言うとタケルが俺に言う。


「んじゃ、ヒカル! 俺達はリビングで寝るか!」


 それを聞いたツバサが、慌ててタケルに向かって言う。


「えっ。由美さんずっと待ってたのに?」


「は?」


 そう言われて俺とタケルがユミを見ると、ユミは少し顔を赤らめて俯いていた。今度はタケルが慌てて言った。


「いや、ヒカルとかミオ達にわりいしよ。女達は女達でゆっくりしたらいいだろ」


 それにミオが言う。


「うーん。私達に気を使わなくていいよ。由美ずっと寂しがっていたし」


 そう言われてユミが慌てて言い返す。


「ミオ! そんなことないよ! 私は大丈夫だよ!」


「だって、今の今まで、ずっとまってたじゃない。由美が待ってるって言うから、私と翼も付き合ったんだけど」


 それを聞いてタケルがユミに言う。


「そうなのか?」


「別に、いいじゃない」


 ツバサが二人を見て言った。


「だから。今日は恋人同士水入らずで。ね! 私達はあっちの部屋で休むから」


「は? 私とタケルでベッドルームを占領する? だめよ! ソファもリクライニングになるようだし、私達はソファでいいよ。三人でベッドルームを使って!」


「いいから、いいから!」


 ツバサが言うとミオが俺に向かって言う。


「ほら、ヒカルも気を利かせて行こ!」


 そう言って俺の手を引いてリビングの方へと向かった。出口を出る時にタケルが俺に言う。


「わりいな」


「問題ない」


 そして俺とミオとツバサがリビングに来た。いきなり追い出されたために、俺は少し戸惑ってしまう。


「あ、ならミオとツバサも休め。俺はあの人が死んでた部屋に行く」


 俺が出て行こうとすると、ミオが慌てて俺の腕を掴んで来た。


「まーって! あそこ臭いでしょ。とりあえず私達と一緒でいいじゃない」


「だが」


 今度はツバサが言った。


「いいじゃない。ここで雑魚寝すれば」


 それに対し俺が言う。


「なら二人はソファを使え。俺は床で寝る」


 するとミオが言う。


「なんか不公平だし、私も床で寝るよ」


 ツバサもそれに同意した。


「そうだよ。ヒカルは無理しすぎだし、私達も一緒に床で寝る。床にふかふかのカーペット敷いてあるし、全然平気」


「しかし」


 俺がそれをためらっていると、今度はミオが気を悪くしたように言う。


「なあに? ヒカルは私達と一緒の部屋で寝たくないの?」


「そう言うわけではないが」


「ならいいじゃない」


 ツバサもそれに追い打ちをかけるように言った。


「そうだよ。私達と寝るのが嫌ならどうぞ他で」


 そう言うわけではない。だが女と一緒に寝た事など無いのだ。


「俺は、いびきをかかないだろうか?」


 そう言うとミオとツバサが顔を見合わせる。次の瞬間笑い始めた。


「プッ! はははは」

「あはははははは」


「な、なんだ?」


「ヒカルってば、そんな事を気にしてるの?」


「女と同じ部屋で寝た事など無いからな」


 ダンジョンでレインやエルヴィンと一緒にならエリスと寝たことはあるが、宿屋では必ずエリスは別の部屋だった。


 するとミオとツバサが顔を見合わせる。今度は笑いはしなかったが、意外な顔で俺に言った。


「意外だわ。あんな強いヒカルが…」


「まったくね…」


 なんだ? 俺は不味い事を言ったのだろうか? 正直にありのままを話しただけだが、二人の雰囲気が変わる。


「じゃあさ、私達が怖いから一緒の部屋に寝てくれる?」


 なるほど。そう言う事だったのか。


「それならそうと最初から言ってくれればいい」


「う、うん。何て言うか意外だった」


「そうだね。でもそれも良いんじゃない?」


「だね」


 二人が何かを納得したので、俺は早速自分の寝床を確保する事にした。上着を脱いで、そのままその部屋の隅っこに横になる。


「は?」


「どうしたミオ」


「なんでそんな隅っこに寝るの?」


「俺が真ん中に寝たら邪魔だろう?」


「そんな事無いよ。ていうか、そこカーペット無いじゃない。せめてカーペットの上で寝ようよ」


「しかし…」


 俺がそう言うと、ミオとツバサが俺のところに来て俺を引っ張った。俺は仕方なくカーペットが敷いてある場所に横になる。


「そうそう、それでいいの」


 そう言ってミオが俺の隣りに横になった。すると反対側にツバサが横になる。


「お、おい!」


「だって、本当に怖いんだもん。帰って来なかったら由美と私と翼で眠るつもりだったし」


「そうなのか?」


 反対側のツバサが言う。


「そうだよ。本当に怖いの。だからそばに居て」


 二人とも真顔だった。俺は彼女らの気持ちも知らずに、自分勝手に部屋の壁際に寝るところだった。彼女らが安心して眠れるのなら、俺はこうするべきなのだろう。


「ありがとうねヒカル」


「問題ない」


「深く眠れそう…」


「それならよかった」


 そしてほどなく二人が寝息に変わった。よっぽど疲れていたのだろう。俺がいる事で安心できるのなら、俺は彼女らの側で眠ろう。


 だが…


 俺は全く眠くならなかった。女が二人俺の両脇に横たわっているのだ。どちらを向いても、俺の方を向いて安らかな寝息を立てている。俺が、なぜこんな気持ちになっているのか分からないが、俺の精神は高揚し時間が経つほど眼が冴えていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何となく読み続けてますが、女性人の能天気さというか、存在意義というか、オンナ様設定はなかなか慣れません。 足手まといな言動や行動以外はヒカルに凄い凄い言うだけですし、どうにも気に入らないで…
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