第629話 大陸弾道弾の標的はワシントンとオタワ
薬を受け取りに来たカナダ軍を入れ、俺は屋上で気配感知を広げている。今は新たな試験体の気配も、怪しい飛行物体も空には飛んでいない。
すると、下から誰かが走って来る気配がする。
「ヒカル! 大変だ!」
タケルが慌てた顔で、屋上に飛び込んできた。
「どうした?」
「核ミサイル基地に動きが出た!」
「なに?」
「来てくれ!」
俺がタケルについて行くと、軍隊が通信を行っているところだった。
「はい。分かりました。はい」
その軍人が顔を上げて、俺達を見渡す。
「アメリカミサイル基地の、サイロが開いたようです」
クキとデルが、同時に叫ぶ。
「「なんだと!」」
デルが言う。
「スピーカーにしてくれ!」
通信が俺達にも聞こえてきて、指令部からの話が皆に伝わる。
クキが尋ねた。
「そして状況は?」
「熱線を感知! 恐らく……核ミサイルを発射するつもりです!」
「カナダ軍は?」
「緊急の為、中隊が突撃しましたが! 応答せず!」
俺達が顔を合わせ、全員が眉間にしわを寄せた。
「入れてしまったのか……」
向こう側から、カナダ首相が聞いて来る。
「どうするべきだろう?」
クキが答えた。
「空爆しかない。ノースダコタが爆発してしまうが、撃たれるよりいい!」
「出来ん! カナダ兵が大勢死ぬ!」
「突入部隊は諦めるべきだ! すぐに退避させろ!」
「仲間は……まだ生きている」
「いや。緊急事態だ! なんとしても阻止せねば!」
だが、次の瞬間だった。
「緊急事態! ミサイルが! ミサイルが発射されました!」
「くそ!」
ドン! とテーブルを叩いた。そして続けて、クキが聞いた。
「弾道の軌道は? どこに向かっている!」
「算出中です!」
クキとデル、そして軍人たちがざわめいた。
「どこだ? ロシアか? 中国か? どこだ?」
緊迫した状況の中で、通信気を囲み皆が息を飲んでいる。
「軌道から算出された、着弾の地域が判明しました!」
「どこだ!」
「ワシントンDCです!」
「な! ワシントンだと!! 着弾までの時間は!」
「約三十分!」
「さ……ん……」
全員が呆然とする。もはや、どうする事も出来ない状況だ。更に、クキが慌てながら言う。
「すぐにワシントンへ通信! こちらからも通信する!」
「はい!」
衛星通信機を使い、俺達もアメリカのワシントンへの通信を試みた。
「こちらカナダ! 緊急だ! ノースダコタから核弾頭が撃たれた!」
出たのは、向こうにいる軍人だった。
「なっ! なんだって!」
「急いで避難を! 着弾まで三十分も無い!」
すぐに、大統領に代った。
「ミスター九鬼! それは本当かね!」
「衛星からの映像と、こちらでの観測で明らかになりました! もうニ十分も無い! 通信をきります! 全員すぐに行動をしてください!」
「わかった!」
そうして、通信が切れた。
静かになった通信機の前で、誰もが静かになる。
ガガッ!
また通信が入った。すると、次にカナダ首相が言う。
「また! 違うサイロが動き出した!」
「なんだと……」
そこで、オオモリが言う。
「九鬼さん……さっきの通信、傍受されたっぽいです」
それを聞いて、慌ててクキがカナダ首相に言う。
「ミサイルの次の標的は、ここかもしれません!」
「なぜだ?」
「アメリカへの通信が、傍受されたようです」
「通信が……」
向こう側の、軍人の声が聞こえて来る。
「ミサイルが発射されました!」
「なに!」
すこし沈黙が続き、そして軍人が無線の先で叫んだ。
「着弾まで十三分!」
それを聞いて、ここにいる軍人たちが騒然となった。カナダの首相も叫ぶ。
「間に合わない! とにかく、地下に! 潜るより方法がない!」
だが、そこで俺が言った。
「ここに飛んでくるのなら、俺が防ぐ」
「はあ? 何をバカな事を言っているんだ!?」
「大丈夫だ!」
「だめだ! 部隊を撤退! とにかく! なんとかしてくれ!!」
軍人たちが、慌てて出て行ってしまった。外に出て、次々に車が走り去っていく。
そこで、オオモリが俺に告げた。
「ヒカルさん! 方角は南西です!」
「わかった。皆は、引き続き情報を」
皆が頷き、俺が再び工場の屋上に登った。そこから、一番高いビルを探して、身体強化で飛びついて、一瞬で屋上まで登りきる。
「超気配感知! 超思考加速! 魔気展開! レベル解放!」
ボウッ! と、魔気がふくれあがり、屋上のフェンスが吹き飛ぶ。
「来たか……」
オオモリの言った通り、南西からそれは飛んできた。
砂粒ほどの光が見えた時に、剣技を繰り出す。
「空接瞬斬! 次元断裂!!」
俺の意識にはっきりと伝わって見える、空中に開いた次元の裂け目に、核弾頭が吸い込まれて行った。次元の裂け目が閉じ、核弾頭は消え去ってしまう。残身で、次が無いか感知するが飛んでは来なかった。そのまま皆の下に戻ると、タケルが言って来る。
「だから軍人に言ったのになあ。逃げなくていいって」
そこで、デルが慌てて聞いて来る。
「な、なんで逃げなくていいんだ? 核が来るだろ!」
俺が冷静にデルに答える。
「核弾頭は俺が消した。だから引き続き薬を作れる」
「うそだろ」
デルの言葉を聞いて、クキが苦笑した。
「いや、いままでも何度も消して来たから、もう驚かんけどな。本当らしいんだ。ローマでもやった」
「は、はは……ははは……。エッ〇スメ〇、とか、スー〇ーマ〇、とか言う次元じゃないじゃないか」
それを、聞いてタケルが言った。
「あの映画をヒカルに見せたら、勝てるって言ってたな。それより強いのと戦って勝ったことあるって」
「ま、まて! そんな馬鹿な……。あれは、架空の話であってだな……」
「ま、俺は知らねえけど」
「いくらなんでも……」
そんな会話をしていると、ガガッ! と無線が鳴る。
カナダの首相だった。
「どういうことだ? 着弾しない」
クキが言う。
「ミサイルは処理した」
「な、何を言ってるんだ……」
「本当だ」
「なっ!」ガガッ!!
次の瞬間、一瞬通信が乱れる。
「どうしました?」
「ワシントンが……ワシントンDCに……核弾頭が落ちた」
「くそ!」
俺達は、言葉も無かった。
俺はただ……自分の無力に、心が冷え込んで来る。
「オリバー……」
俺のつぶやきに皆が静まり返り、無線の向こうから聞こえる騒がしい音だけが鳴り響くのだった。




