第628話 壊滅していくカナダのために出来る事
衛星からの映像には、まだマイノット空軍基地基地の映像が映っている。だが先ほどから動きはなく、不気味な静けさを漂わせていた。カナダ軍の専門家化らしき人間が、俺に聞いて来た。
「どうやって、バケモノを駆除したのですか?」
「剣で斬った」
「えっ? 都市の、あちこちに出たんですよ? 言っている意味が分かりません」
「そのままの意味だ。剣で斬った」
専門家たちがざわつくが、俺がそのまま続ける。
「だが、それで終わりじゃない。恐らくは、ほんの少し先延ばしにしただけだ。少しでも多くの人間を、救えるように何とかしてくれ」
「もちろん、そうしてはいます。それに、あの怪物は何なのですか?」
それには、アビゲイルが答えた。
「あれは、ファーマー社が人体実験を繰り返して生まれた、人間を使ったクリーチャーです」
「人間を?」
「人間に特殊な遺伝子を移植し増殖させて動物と融合させたり、あのようなバケモノを作り出してます」
「なぜ、死なないのです?」
「あの特殊な胴体の、あちこちに人間の頭が移植されてました。全ての頭を撃ち抜かねば、体が勝手に細胞分裂を起こして、増殖するようになっているようです」
「全部を焼けばいい?」
「それでも、おそらく無事な部分を切り離して逃げます」
「ナパームの直撃なら?」
「それならば、どうにかなるかもしれません」
だがそれを聞いていた、デルが聞き返す。
「ナパーム弾は、化学兵器禁止条約で禁止されている」
「参考までに聞いただけです」
「まあ、都市部では使えんだろうがな」
「火炎放射器では、逃げられる可能性が高いという事ですね?」
「そうだ」
「あの短時間で、あちこちに散らばったクリーチャーを仕留めた……やはり、理解が出来ません」
するとデルが腕組みをして言う。
「信じられんかもしれんが、この人らはエッ〇スメ〇だよ。スーパーヒーローの類だ」
「えっ? それを、信じろと?」
デルが、振り向いて俺達に言う。
「信じられんそうだ」
するとタケルが、スッと左手で近くのデスクに手をかけた。無造作に軽々と持ち上げると、テーブルの上の通信機やパソコンが床に落ちる。
「ひ、左手一本で!」
ドン! と下ろす。
そして、再びデルが言う。
「そう言う事だよ。彼らは、特殊なんだ」
軍人や専門家たちが、バケモノを見るような目で俺達を見ている。
カナダの首相が言った。
「彼らのおかげで、カナダはだいぶ救われている。早い判断が出来て、人も多く救われている」
だが、クキが首を振る。
「いや……アメリカでも最初は、こんな感じで始まったんです。だが、あっというまに感染は広がって、壊滅していった。今、カナダでやっているのは、感染者を救出しない事で感染を広げていないだけです。正直なところ、奴らがこのまま何もしない訳がない。アメリカを混沌に陥れたから、次に標的がカナダに向けられただけの事です」
「そうか……そうだろうね。この状況では、そう認めざるを得ない」
「既に、バンクーバーとトロントは壊滅状態。奴らは、絶対に手をゆるめません」
「分っている」
アメリカで俺が、フォートリバティ基地の周辺で救出したところで、結局は全土に広がってしまった。いくらオタワを一時的におさめたとしても、もうその牙はカナダに向けられた。
すると唐突に、あちこちの無線が繋がり出した。一気にセンターが、緊迫した状況になる。
「はい! えっ! そんな!」
「こちら本部! なんだと!」
「どうしました? 嘘……」
その状況に対して、俺達は顔を見合わせた。
「始まったか」
「そのようだ」
「ふぅ……」
デルが、俺達に言った。
「あんたらの、言ってた通りだな」
「恐らくは、アメリカでも同じことが起きていたんだろう。その時に、俺達は中枢部には居なかったが、恐らくは、こんな風になっていたに違いない」
するとオペレーターたちが、上官たちに指示を仰ぎだした。
「カルガリーで暴動です!」
「こちらはモントリオールで!」
「ビクトリアでも!」
カナダの首相が、青ざめた。
「そんな……」
すると、アメリカから一緒に来た医師たちが言った。
「もう、逃げ場所が……無くなってしまった」
そこで、ゾンビ化している工科大の研究員が言う。
「博士……もっと、ゾンビ破壊薬を作るべきです!」
そこで、クキが尋ねた。
「首相。その後、医療研究所はどうなってるだろうか?」
「まだ無事だ。軍が守っていたから」
「戻るべきか」
アビゲイルが言う。
「戻りましょう。あそこにはまだ、ビスク製剤も破壊薬もあるわ」
カナダの首相が頷いた。
「トロントと、バンクーバーは押さえられているようだ。薬が効いているらしい」
「では、戻ります」
そこで、カナダの首相が言う。
「危険では?」
「承知の上です」
だがそこで、アメリカから来た医師たちが難色を示す。
「いや、危険だろう。それに、こんな状況でどうなると言うのか?」
「何もしない訳にはいきません」
だが医療関係者たちが、首を振った。
「悪いが、私達はここに残らせてもらう」
カナダの大統領に振り向いて、医師が言った。
「お願いできますか?」
「かまわない」
そしてアビゲイルは、工科大学から来たゾンビ化した研究員に聞く。
「あなた達はどうする?」
「行きます」
「危険よ」
「承知の上です」
すると軍関係者が、機械を持ってきて言う。
「これは衛星通信機です。スマートフォンで繋がらない時はこちらを」
「ありがとうございます」
タケルがそれを背負いこみ、カナダの首相が俺達に言う。
「ここまでありがとう。私は軍を指揮するために、ここに残らねばならない」
「もちろんです」
そこで、カナダ首相がニッコリ笑う。
「妻と娘を救ってくれてありがとう。君達には感謝してもしきれない」
「はい。では、現地に付いたら、ゾンビ破壊薬を軍の人に渡しましょう」
「お願いします。モントリオール、ビクトリア、カルガリーに向け出発させるように派遣しておきます」
「お願いします」
「護衛をお付けしますか?」
「首相。ここの防衛に人を割いてください。我々だけで十分。来た時のように車を、お貸し頂きたい」
「当然です」
そして俺達は、研究員たちを連れて軍司令部を後にした。来た時は軍人の護衛もいたが、防衛にはいくら人がいても足りないだろう。
クキとタケルがそれぞれの車に別れ、二台の装甲車が出発した。俺が装甲車の上に立って、来た時と同じように警戒をする。どうやらあちこちに、死体が倒れているが、カナダ軍が倒したゾンビらしかった。
「だが、避難は出来たようだな……」
死んだ人間よりも、助かった人間に目を向けよう。上部ハッチから顔を出しているのはミオだった。
「生きてる人いないね?」
「逃げられたんだろう」
「私達のおかげで、少しは助かったのかな」
「少しじゃないはずだ。おれが、試験体をやっている時には、まだ大勢いた」
「よかった。それに、動く車がいないからスムーズ」
「だな。人がいなくなってしまったからな」
そして、来た時よりもだいぶ早く、医療研究所に到着した。軍人がその周りを護衛しているようだが、どうやら人は逃げ出した後らしい。
「お待ちしておりました!」
軍人が門を開き、俺達の装甲車が中に入っていく。
「手伝ってくれた人たちも、助かったかな?」
「早く気が付いたからな。どうにか、なったはずだ」
装甲車から降り、製造工場まで行くと、やりっぱなしの製造途中の薬品があった。
段ボールを見て、ツバサが言う。
「少しは残ってるけど、全然足りない」
アビゲイルが言った。
「じきに軍人さんがとりに来るでしょうから、急いで工場を再稼働させましょう。幸いなことに、電気はまだ来ているみたいです」
研究員と女達、オオモリ、クキ、タケル、デルまでが手伝い始めた。
そこで、クキが言う。
「悪いがヒカルは、屋上に登って周囲の警戒と、敵の撃退を頼めるか」
「もちろん、そのつもりだ」
俺は屋上に駆け上がり、思考加速と身体強化をかける。胡坐をかいて日本刀の杖を抱え、目をつぶる。
「超気配感知」
周囲十キロに気配感知をかけた。するとゾンビの気配が飛び込んで来る。思考して動いている集団は、軍関係者と警察関係者だろう。警戒して都市内に入り込まず、周囲から見張っているような状況らしい。
試験体がいないのが、まだ救いではあるか……。
そうして待っているとカナダ軍の車両が、次々にこちらに向かって来るのを感知するのだった。




