第626話 人が密集する大都市に試験体現る
首相家族と政府関係者がかなり深刻な表情で、俺達に聞いて来た。
「君達は、特殊部隊というわけじゃなさそうだな。軍人とはいえ、あれほどの事は出来ない。というか、人間であるかどうかも疑わしいところだが」
「俺達は人間だ。ただ、ゾンビと戦っているうちに、力を付けたんだ」
そうクキが言うが、カナダの首相が力のない笑いで言う。
「そんな問題じゃないだろう」
「本当なんだがな」
そんな時だった。ドン! と音がする。
「なんだ?」
グッと急ブレーキが踏まれて、タケルが言った。
「この先で爆発だ!」
ハッチを開けて外に出ると、俺達が向かう先で煙が立ち込めていた。
「軍事務局のほうだ」
政府の人間が、外に出て先を見る。周りの車の人達も、車から降りて先の煙を見ていた。
そしてツバサが言う。
「ヒカル。ジェット機の音がするよ」
次の瞬間。
ドズン! と、また大きな爆発が起きる。
すると、車から降りた人らが呆然と立ち尽くす。ザワザワと恐怖の表情で、皆がそちらを見ていた。
「ん?」
俺の気配感知に、居てはならないものが探知される。
「逃げろ! 逃げろ!」
俺が言うが、周りの人間達は呆然として動かない。政府の人間が、俺に聞いて来る。
「あの爆発は何だ?」
「来るぞ! 早く市民を逃がせ!」
そして、その時は来た。俺達が見ている何区画か先の車が、ドカンと空中に舞ったのである。
「なんだ!」
次々に車が吹き飛び、こちらに向かって来る。一斉に人々が車から降りて逃げ出して行った。
カナダの首相が言う。
「あれは?」
俺は、それを無視してタケルに言う。
「バックだ!」
「おうよ!」
だが次の瞬間、上から大きな何かが降ってきた。それが装甲車の後ろの道に落ちて、逃げ惑う人々を潰してしまう。下敷きになった車もぺしゃんこになり、クレーターの中心には、大きな金属の箱があった。
「さっきの爆発は、この音だ!」
今度は、市民達が逆流して逃げて来た。
「あれは……なんだ……」
「試験体だ!」
バシュゥ! 蓋が開いて、中から巨大ミミズの集合体のようなものが出てきた。それぞれの触手には、人の顔がくっついている不気味なものだった。
「縮地」
ドン! と、その前に行き、剣技を繰り出す。
「魔気! 次元断裂!」
それを異空間に飛ばして、分散させないように消し去った。もう一体が、前から車を吹き飛ばしつつ、こちらに近づいて来る。逃げ惑う人間が、次々に跳ね飛ばされて、車の下敷きになったりしている。
「縮地!」
そいつが、仲間達の装甲車に差し掛かる前に、剣技を繰り出した。
「次元断裂!」
バグン!
完全に、異次元に飛ばす。周りの被害を最小限にするには、それしかない。だが次元断裂の裂目には、車や道路の一部も飲まれていき、亀裂のような跡が残る。
「なんでいきなり試験体が!?」
ミオが叫ぶ。
「上からだ」
落下の衝撃で周りのビルの壁が抉れ、ガラスが飛び散っていた。
「上から……」
「いた」
それは、雲の上にいた。
皆の耳にも届いたようだった。大型のジェット機が、高高度からこれを落として来たのだ。
ドン! ドン! ドン!
あちこちから爆発音が聞こえ、更に試験体を落としていったようだ。
「空接瞬斬」
はるか上空で、大型のジェット機が真っ二つに裂ける。それは、そのまま落下していった。
「気配感知」
空から落とされたのは、四体。
「始末する!」
だが、その時、銃撃やロケットランチャーの音がしてきた。
「いかん!」
通常攻撃では、飛び散って分裂する。市民がいる場所で、あれが分裂すれば増殖してしまうだろう。
「タケル! 一旦離脱する!」
「おう!」
このままでは、仲間達もカナダの首相も餌食になる可能性が高かった。
「推撃!」
市民はあちこちに逃げ惑い、俺達の装甲車も、スピードを上げる事が出来ないでいた。
「うわぁぁぁ!」
「ばけものぉ!」
「ぎゃああ!」
目の前の十字路の右から左へ、次々に人間が流れるように走って行く。その後ろから、分裂したであろうデカいミミズの試験体が、蛇のように数体走って来た。
「!!」
剣技を繰り出せば、一般市民も巻き添えになる。俺は咄嗟に試験体の前に立ちはだかり、足止めの剣技を繰り出した。
「氷結斬 三連!」
ビキィィ! と三体の試験体が凍り付く。その間に、市民達が逃げて行った。
「次元断裂」
バグン! 三体と空間ごと、違う次元へと飛ばしてやる。
ブシャァァァァァ!
すると突然、勢いよく地面の底から水が噴き出してくる。あたりに水が降り注ぎ、次元断裂で出来た窪みに水が溜まり出した。どうやら、水道管を斬ってしまったようだった。
「こい!」
そのまま車を先導して進むが、逃げ遅れた人たちが多く、思うようには進めなかった。するとそこに、試験体に触れられて、ゾンビになってしまった数体が走って来る。
タケルが、俺に言う。
「くそ! これじゃあ! 拡大しちまう!」
「軍か警察が、あれを攻撃しているんだ」
「ヤバいのか?」
「分裂するタイプだ。もう、市内に広がってきていると見ていい」
「攻撃をしねえで、逃げるしかねえのか?」
「そう言う事だ」
近寄ってきたゾンビを、全て斬り落としていると、カナダの首相が言う。
「まさか、この都市にまで……」
クキが首相に叫ぶ。
「これでは、アメリカの二の舞になる。奴らは、感染拡大を目的にしているんだ!」
「軍の! 本部へ行けないか!」
「奴らの中に、飛び込むことになるが?」
「とにかく、軍にこの事を伝えねば!」
「わかった! 行こう!」
俺が道の車を、推撃でとばしつつ軍本部へと向かった。
「あの建物だ!」
そのビルの壁には、試験体がへばりついていた。中から銃撃が行われているようで、見る先から次々に分裂をしている。距離がある為、ここから次元断裂を使えば、軍の事務局ビルごと違う次元に飛ばしてしまうだろう。
「屍人斬! 閃光孔鱗突! 十連!」
空中でばらついた試験体を殺していく。だが、それを察知したのか、自らちぎれて逃れる奴がいた。
シャーリーンが言う。
「船底で見たものと同じですね……」
「そのようだ。あれは恐らく、都市壊滅用に開発されたやつだ」
カナダ首相が嘆く。
「そんなものを、都市で使うとは! なんと非道なやつらだ!」
「そう言うやつらです! とにかく、事態を収束しないと、オタワが壊滅する」
クキが言い、もはや政府の事務官も震えるばかりで声も出ない。
だが一人が、震える声で言う。
「首相、ここはひとまず逃げるしかないのでは?」
「市民が殺されるのを、黙ってみている訳にはいかん!」
俺がまた推撃で車を飛ばして道を開け、ようやく軍の事務局へとたどり着いた。だがその周りでは試験体にゾンビにされた人間が、市民達を追いかけて襲っているところだった。
「思考加速! 刺突閃! 二十連!」
見えている限りのゾンビの頭に穴をあけ、襲われていた人らのところに駆けつける。
「ゾンビ因子除去!」
ぱあああああ! と光り輝いて、噛まれた人らのゾンビ因子を取り除いた。そこに装甲車が到着する。
クキが下りて、カナダ首相に行った。
「さあ! 早く!」
「ああ! お前達も来るんだ」
奥さんと子供と家政婦に言う。
「はい」
「うん」
そして俺達が護衛をし、入り口から中に入り込む。気配感知では、先ほど試験体がへばりついていた、階層の一部の人間がゾンビと化しているようだ。
「首相!」
カウンターの奥から、黒人の女性と白人女性の二人が現れる。
「君は?」
「職員です」
「どうなってる?」
「分かりません! 爆発音があって、外で暴動が起きたようです」
「わかった。とにかく上の階に」
「わかりました」
二人の女性について、首相がエレベーターに向かった。だが俺が、それを制止する。
「まて」
「な、なにかね?」
「エレベーターの前に立つな」
チン! と開くと、ゾンビ数体が人を食っているところだった。
「うわ!」
剣技で全てを倒し、噛まれていた奴らに除去施術をかけるが、首を噛まれている奴が死にかけている。
「ヒール!」
パアアアア!
傷が塞がり、どうにか出血が止まった。
「き、君は……」
「とにかく全員乗れ!」
皆が乗り込み、エレベーターが上の階に上がっていく。扉が開くと、銃声が聞こえてきた。どうやらゾンビと人間が戦っているようだ。
「タケル。ミナミ。クキ。皆を頼む」
「おうよ」
俺は次の瞬間、ゾンビを全て斬り落とした。そこから、先で銃を撃っている奴らに叫ぶ。
「撃つな! 首相を連れてきた!」
銃撃が止まり、そこに首相がやって来た。
「首相!」
「緊急で、全軍に回線を繋げてくれ!」
「イエッサー!」
俺達は、ようやく軍の事務局へと到着したのだった。




